- 1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[saga]:2014/12/27(土)15:36:45.79ID:MY/dACDu0
~TV局スタジオ~
スタッフ「はいオッケーでーす! お疲れ様でしたー!」
律子「本日はどうも、お疲れ様でした」ペコリ
ディレクター「竜宮小町ちゃんいいねー、勢いがあって。これからもよろしく頼むよ」
律子「はいっ、ありがとうございます!」
亜美「りっちゃーん、早く行こうよー!」フリフリ
律子「ごめーん、先に車で待っててー!」
あずさ「律子さんの言う通り、先に行ってましょう。えぇと、確か駐車場は……」テクテク
伊織「わーっ、あずさそっちじゃないわよ! こっち!」
あずさ「あら~?」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419662195
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- テクテク…
亜美「今日の収録めちゃ楽しかったよね→! いっぱい色んなゲームしたしさ!」
あずさ「うーん、私はああいうの苦手だったから、皆の足引っ張っちゃったわね~」
亜美「ううん、気にすることないっしょ!
あずさお姉ちゃん達が罰ゲームしてるの、他の人達喜んでたよん?」
あずさ「あら~、それは良かったわ~」
伊織「良くないわよ」
亜美「へっ?」
伊織「私達だってそれなりに売れてきてるはずだわ」
伊織「それなのに、何でいつまでもこんな芸人みたいな事させられなきゃいけないのよ!」
あずさ「い、伊織ちゃん?
何も私達だけじゃなくて、今日の収録にはすごく大物の方達だって一緒に…」
伊織「私達はアイドルなのよ!?
大物だろうと、芸人上がりの連中と一緒にして良い事じゃないわよあんなの!」 - 亜美「う、うーん……
てゆっても、いおりんが目隠しでおでん食べてるのチョ→おも…」
伊織「何、亜美?」ギロッ
亜美「うえっ!? い、いや別に……」
伊織「ふんっ! 次からは律子にちゃんと言っておかないとね」
伊織「このスーパーアイドル伊織ちゃんに相応しい仕事をちゃんと取ってきてって」
あずさ「あの……そ、そうねぇ」
伊織「何よ、あずさまで微妙な返事して…」スッ
バキューンッ!!
チュインッ!!
伊織「きゃああっ!?」ビクッ! ドテッ - 亜美「い、いおりん!!」
あずさ「伊織ちゃん、大丈夫!?」
伊織「あっ、あ……今の、ひょ、ひょっとして銃弾…」
ボウッ!! メラメラ……!
一同「!?」
亜美「く、車が……!」
あずさ「!! ……皆、車から離れてっ!!」
伊織「ひっ……!」バッ!
ドゴオオォォォォォォォオンッ!!!
ゴオォォォォ バチッ! メラメラメラ……!!
亜美「あ……わああぁ……」ガタガタ…
伊織「な、何なのよ……コレ……」 - ~冴羽商事~
ダンッ!
リョウ「ダメだ、断るっ!」
香「えー、何で? 美人からの依頼よ?」
リョウ「お前が素直に美人からの依頼を持ってきた事があるか!
何か裏があるに決まってる! ぜーったいに引き受けないもんね!」ツカツカ!
香「ふーん、信用無いんだアタシ。
せっかくあの765プロのアイドル達と仲良くできるチャンスだってのにねー」
ピタッ
リョウ「……アイドル?」クルッ
香「そっ。リョウ、アンタひょっとして765プロ知らないの?」
リョウ「名前くらいなら聞いた事はあるが……」 - 香「ほら。アーユレディー、アイムレイディー♪ ってヤツ」フリフリ
リョウ「ぐわぁー! やめろ、朝っぱらからおぞましい!」
香「だぁれがおぞましいってぇ!?」ゴゴゴ…
リョウ「いやぁ違うその! あ、アハハ……」
リョウ「う、ウホン! ……で、その765プロがどうしたんだ?」
香「アンタにボディーガードを頼みたいんだって」
香「でさっ! ほら、引き受けたらサインとかもらえたりするじゃない?」
リョウ「アイドルなんて、年端もいかない女の子ばかりだろう。
俺はガキのお守りなんてしたくないの」
香「女の子ばかりって、そんな事無いわよ。三浦あず……あっ!」
リョウ「むっ?」
香「ああぁいや、やっぱ何でもない! アハ、アハハ……」
リョウ「…………三浦、あずさ……」パラパラ…
リョウ「おお~っ!! もっこりバスト91、Fカップ!!」モッコリ!
香「いかん、猫にカツ節与えてしまったか……」 - ~765プロ事務所~
小鳥「コーヒーをどうぞ」カチャッ
リョウ「ほほー、さすがは芸能事務所。ひょっとしてあなたもアイドル?」
小鳥「ピヨッ!? い、いえ私はしがない事務員でして…」
リョウ「なぁんだそっかぁ。でも関係ないさ、今度ボクと一緒に恋のワルツでも…」
香「…………」ゲシッ!
リョウ「ぎゃあああっ!! ……と失礼、美しいものには目が無いものでつい」
小鳥「いえぇ!? あの、し、失礼しますーっ!」
ガチャッ バタン!
リョウ「人前でいきなり足を踏むヤツがあるか!」
香「そっくりそのまま返してやるわい! 会って5秒でいきなりナンパすんじゃねー!」
高木「あ、あの……お取込み中すみませんが、よろしいかな?」
リョウ・香「あっ…………あ、アハハ、ハハ……」 - 高木「わざわざお呼び立てして申し訳ありません。
当事務所の代表をしております、高木と申します」
香「あ、あのぉ……ボディーガードというのは、具体的にどんな連中から?」
高木「偶然かどうかは分かりません。だが……
ここ最近、アイドルが事故に遭うケースが増えているのです」
リョウ「事故に見せかけて命を狙っている輩がいるかも、ってことか?」
高木「はい……先日も、ウチの車が突然炎に包まれまして……」
香「炎!? 爆発したってこと!?」
高木「その前にも、スタジオの照明がいきなり落ちてきたり、
ステージの奈落が突然開いて、アイドルが落ちそうになることも……」
香「うわぁ、あっぶな~」
リョウ「偶然にしちゃ出来過ぎている。何か心当たりは無いのか?」
高木「それが……何も無いのです。
この事務所には、業界関係者から反感を買うようなアイドルなどいない」
香「そうよねぇ。テレビで見てても、ホント良い子達ばかりよねぇ」
高木「警察にも相談したのですが、ロクに取り合ってもらえません。
挙句、メディアも何故かこれらの件について一切触れない始末」
高木「幸い、これまでケガ人は出てきていないのだが……
いつ、彼女達に取り返しのつかない事が起きたらと思うと……!」 - リョウ「安心しな、社長さん。
たとえ何が起ころうと、俺がそばにいるウチは彼女達の安全は保障するぜ」
高木「おぉ、ありがたい。
こういう事は、裏社会でもその名が知られた貴方に頼むべきだと思ったのです」
リョウ「その代わり、報酬の話だが……」
高木「お、お金ですか……」ゴクリ…
リョウ「あとで三浦あずさちゃん紹介してねー、だははっ!」
ドガアァァンッ!!! 【100t】
香「報酬に関するお話なら私がお聞きしますから」
高木「は、はぁ……」
リョウ「アヘ、アヘヘ……」ピクピク… - P「という訳で、今日から皆の護衛を務めていただける方を紹介するぞ」
リョウ「冴羽獠という者だ。こっちは相棒の槇村香」
香「どうもー、よろしくお願いしまーす! わーすごい、本物のアイドルだ」
春香「ど、どうも……えへへ、何だか緊張するね」
千早「そうね。護衛が付いてしまうくらい大事になってしまったんだ、って……」
リョウ「なぁに心配する事は無い。君達はいつも通りにしてもらえればいいのさ」
香「そうそう、私達の事なんて気にしないで。
あっ、やよいちゃんだ! お料理さしすせそ見てるの、ねぇねぇ握手して!」ギュッ!
やよい「はわっ!? あ、嬉しいですー!」
響「ボディーガードって言っても、結構ミーハーなんだな」
貴音「それだけ、私達を好いてくれているという事。
とても有り難い事ではないでしょうか」
リョウ「ん? おおっ、これは何とも立派なもっこりヒップ!!」モッコリ!
貴音「? もっこり、とは?」
響「に、逃げよう貴音! 何だかあの人、目がヘンタイだぞ!」 - 真美「ねーねーおじちゃん、もっこりってなーに?」
リョウ「おじ……!! んーとね、お兄さんって言ってごらん?」
亜美「おじちゃん、もっこりってなーにー?」
美希「何だかエッチなカンジなのー」
リョウ「フッ……そんなに知りたいのなら、教えてあげよう。
もっこりとは、男と女が避けては通れぬ自然の摂…」
香「言わんでよろしいっ!!」ドズウゥン!!! 【100t】
リョウ「ふぎゅっ!!」
律子「……話には聞いていましたが、本当にこういう人だったんですね」
香「まぁね。とにかく、この男を年長のアイドルさん達には近づけないでください。
特に、三浦あずささんにはね」
あずさ「あ、あら~……」
雪歩「あずささん、私達の中で一番、その、女性らしいですし……」
真「そうだよね。それに引き換えボクと来たら、また雑誌で王子様特集だなんて!」プンスカ!
香「わ、分かるわ、真ちゃんのその気持ち」
香(実はあの特集、アレはアレで結構楽しみにしてんだけど……) - 伊織「………………」
リョウ「えぇと、君が如月千早ちゃんで、君が萩原雪歩ちゃん。ふむふむ……」
リョウ「ん? ……君は?」
伊織「私を知らないの?」
香「水瀬伊織ちゃんよ。竜宮小町のリーダー」
リョウ「リュウグウコマチ?」
香「今売れに売れてる765プロきっての稼ぎ頭よ! ちょっとは予習してきなさい!」
リョウ「へぇ~ん……」
伊織「まったく。今のご時世、私を知らない男がいたなんてね」
リョウ「麗しいレディーはいつでも大歓迎だが、あいにく俺にロリコン趣味は無いんでね」
伊織「ろ、ロリコ……!?」 - 伊織「あんたねぇ! 何よ、私が麗しいレディーじゃないとでも言いたいわけ!?」
リョウ「さぁて、どうかな。
ん? ちょっと待て香、竜宮小町ってひょっとして……」
香「? どうかしたの?」
リョウ「マネージャーさん、竜宮小町のメンバーを教えてくれないか?」
P「ぷ、プロデューサーです」
律子「伊織がリーダー、それと亜美とあずささんの三人ユニットです。
私がプロデュ…」
リョウ「やぁっぱりそうだ!! 運命の人をお探しなんだってねあずささん!?」ガバッ!
あずさ「え、えぇっ!?」ドキッ!
ササッ
リョウ「あずささん……いや、あずさ。
君の旅は今、終わりを告げたよ。探し人は目の前にいる」 - あずさ「えっ? さ、冴羽さんが、運命の…」
リョウ「そう、俺は君の前に現れるために今日まで生きてきた。まさに運命…」
ドガアァァン!!! 【100t】
香「そんな汚れた運命があってたまるか!!」
リョウ「どひぇぇ~! ……香ちょっと飛ばし過ぎじゃなぁい?」
あずさ「あ、あの~……絆創膏、持ってきますね?」
律子「ハァ……何だか先行きが不安だわ」
亜美「そっかなぁ? すっごく楽しそーじゃん!
ねー真美?」
真美「うんうん! もっこり!」
亜美「もっこり!」
律子「こ、こらっ! 二人とも何言ってるの、止めなさい!!」
美希「もっこりなの!」
雪歩「み、美希ちゃんまで!」オロオロ…
伊織(……何でこんな男が来たのよ) - P「今日は『生っすかサンデー』という番組の収録日なんです」
香「えっ? あ、そっか、今日日曜日ですもんね」
律子「ウチのアイドル達が総出演する、生放送の番組です。
オンエアーは15時からですが、そろそろスタジオに行かないと」
リョウ「あぁ、そういや香が良く見てるんだっけ。本当に生放送なんだアレ」
香「リョウ! 失礼な事言わないの!」
P「ウチのアイドル達皆の事を良く知ってもらえる良い機会だと思いますが、
護衛の方も、どうか一つよろしくお願いします」
香「色々コーナーがあって、それぞれアイドル達が分かれてコーナーを進めていくの。
あみまみちゃんが好きなんだー私」
リョウ「よしっ、なら俺はあずささんが参加するコーナーの現場に張り付こう!」
香「そうねぇ、アハハハ」
香(ふふん、そうは行くかこのエロ河童め)キラン! - ~TV局スタジオ~
春香「日曜午後の新発見!」
春香「神出鬼没の生中継!!」
春香「生っすかぁ~~…!?」
『サンデーーッ!!!』
香「ふむふむ、舞台袖から見る生放送ってのもなかなかオツねぇ~」
律子「ライブやフェスにも共通して言えますが、独特の緊張感はありますね」
香「うんうん!」
ピロリロリロ!… ピロリロリロ!…
香「うおっと、携帯が」
律子「香さん、本番中はマナーモードにしていただかないと…」
香「ご、ごめんなさい! ちょっと失礼」コソコソ…
ピッ!
香「リョウ? どうしたのよこんな時に」
『どうしたもこうしたもあるかっ!!』 - ~幼稚園~
ワー! ワー!
リョウ「なぁんで俺がこんなガキ共の相手をしなくちゃならないんだ!!」
『仕方ないでしょう? やよいちゃんのスマイル体操の現場なんだもの。
あんたの希望を聞いてあげたじゃない』
リョウ「あのな! 俺はあずささんがこのコーナーに出るってお前が言ったから…!」
『ごめーん、あずささん“急遽”菊地真ちゃんのコーナーと入れ替わりだったみたい。
萩原雪歩ちゃんと』
リョウ「きっさっまぁ~!! 俺をハメやがったなぁ!?」ワナワナ…!
『あっ、ごめん、今良い所! 何も無いなら切るわね!』ピッ!
リョウ「あっ! おい香っ! もしもし、もしもぉしっ!!」
やよい「はぁ~い! 今私達は、きのこ幼稚園に来ていまーす!」
リョウ「げっ!? まずい、中継が始まりやがった!」
園児「おじちゃーん、もっとあそんでー」「たかいたかいしてー」ワラワラ
リョウ「アハ、アハハハ……(離れろこんにゃろぉー!!)」ニコニコ - スタッフ「あ、あの、マネージャーさん。そろそろはけてもらわないと…」
リョウ「分からいでか! ほ、ほら君達、あっちへお行き」
ワーワー! タタタ…
やよい「今日は伊織ちゃんと、特別に雪歩さんにも来ていただいてますー!」
伊織「はぁーい! 皆のスーパーアイドル、伊織ちゃんよ! にひひっ♪」
雪歩「え、えぇと……今日はちょっと、あずささんと交代で、その…」
園児「わぁー!」「わぁー!」グイグイッ
雪歩「うえぇぇっ!? ちょっ、服引っ張らないでぇ!!」アタフタ…
リョウ「ふぅ~……やれやれ、どうにか進行できたか」
リョウ「それにしても香のヤロー……アイツ後で覚えてろ、ったく!」プンスカ!
カチャッ…
リョウ「…………ッ!」ピクッ! - リョウ(確かに今、撃鉄を上げる音がした……)
リョウ(音の響きからして、リボルバーか?)
リョウ(こんなご時世に、俺以外に持っているヤツがいるとは思えんが……)
やよい「それじゃあみんなー!」
やよい「スマイル体操、はっじめるよー!!」
~~♪
スッ…
リョウ「………………」グッ
ガチャッ
リョウ「………………」
リョウ「……………………」ザッ
タタタ… - タタタ…
リョウ「…………」ザッ
リョウ「………………」
リョウ(気配が消えた……か)
リョウ(いや、人の気配が無さすぎる……不自然なほどに、気配が消されている)
リョウ(どうやらやっこさん、かなりの凄腕だ。しかもリボルバーを持っていやがる)
リョウ(まさか、お前じゃないだろうな……) - やよい「ぜっえたいっ! はあぴぃ!」フリフリ
やよい「ぜっんたいっ! はあぴぃ!」フリフリ
一同「まったねーー!!」フリフリ!
ワアァァァァァァァッ!!!
スタッフ「はいっ、中継終わりましたー!」
やよい「お疲れ様でしたー!」ガルーン
雪歩「ふぅ……久しぶりにこの曲踊ったけど、やっぱり元気になれるね」
やよい「そうですよー! 雪歩さんもこれからは毎週踊りましょー!」
雪歩「ま、毎週!? えぇと……でも、それもいいかも。えへへ」
園児「いおりちゃん、あそんでー」「でこちゃーん」ベタベタ
伊織「あーもう! 誰がでこちゃんよ、こらっ、離れなさいってば」
伊織「あら? ねぇ、ウチのボディーガー……じゃなくて、マネージャーは?」
スタッフ「あぁ、その人ならさっきどこかへ行きましたけど」
伊織「何ですってぇ? まったく、これじゃ何のために雇ったんだか…」 - テクテク…
リョウ「おっ? もう終わってたのか、悪い悪い」
やよい「あっ、冴羽さん!」
雪歩「ひっ!? 冴羽さん、あの、その手に持ってるのは……」
リョウ「ん? あぁ、コレはね、おもちゃのエアガン。俺好きなんだ」ササッ
雪歩「そ、それにしては随分本物にそっくりだったような…」
リョウ「ギクッ……ひょっとして雪歩ちゃん、本物のコルトパイソン見た事あるの?」
伊織「冴羽って言ったわね?
次に勝手な事したら、社長に言ってクビにさせるわよ」
リョウ「お、おいおい。体操を見てなかったのがそんなに不満かい?」
伊織「それもあるけど、護衛ならちゃんと現場に張り付いていなさいよ!」
伊織「これじゃあ、ウチの警備員を手配した方がよっぽどマシだわ」
リョウ「ウチの警備員?」 - やよい「あっ、伊織ちゃんの家はすっごくお金持ちで…」
伊織「やよい、余計な事言わなくていいの」
やよい「あぅ……ごめんなさい、伊織ちゃん」シュン…
リョウ(……なるほど、あの水瀬財閥のお嬢様だったのか。どうりで高飛車だと思った)
スタッフ「765プロさん、そろそろお天気のお時間でーす!」
やよい「あっ、はーい! 今行きます―!」
雪歩「それじゃあ、冴羽さん。次のコーナーがあるので……」ペコリ
リョウ「あれ? さっきので終わりじゃないの?」
伊織「やよいが天気予報をするコーナーがあるのよ。本当に何も知らないのね、ったく」
リョウ「へぇー」
伊織「あと、私もそろそろ出るわ。
律子達から聞いたと思うけど、もう次の仕事先に行かなきゃいけないのよ」
リョウ「あぁ、それは聞いてる。お車はあちらですよ、お嬢様」スッ
伊織「ふんっ。取ってつけたようなエスコートなんて求めてないわよ」スタスタ…
リョウ「……やれやれ、どうにも嫌われてるな」 - テクテク…
伊織「これがあんたの車?」
リョウ「そっ、ミニクーパー。なかなかシャレてるだろ?」
伊織「私の趣味じゃないけどね」
リョウ「ところで、俺が君を送るのはいいが、残ったやよいちゃんと雪歩ちゃんは?」
伊織「そろそろプロデューサーが迎えに来るから心配無いわよ」
リョウ「あっ、そう。それならそれで…」スッ
リョウ「!」
伊織「? どうしたの、さっさと車…」
リョウ「車から離れるんだ。それと、どこかその辺にロープはあるか?」
伊織「えっ? く、車から離れろ、って……ロープは、さっきの現場に行けばあるけど…」
リョウ「ちょっと借りてくる。くれぐれも車には近づくんじゃないぞ」ダッ
伊織「あっ、ねぇ!」
タタタ…
伊織「……何よ、いきなり」 - タタタ…
リョウ「お待たせ。もっと車から離れておいてくれ」
伊織「ねぇ、どうかしたの?」
リョウ「車のドアノブに付けていたセロテープが、剥がされていたんだ」
伊織「えっ……?」
ギュッ
リョウ「よぉし。さぁ下がって下がってー、危ないよー」
伊織「ちょ、ちょっと、一体どうしたっていうのよ!」
リョウ「見てりゃ分かる。やれやれ、また車を買い直さなくちゃな」グイッ!
ガチャッ
ドゴオオォォォォォォォオンッ!!!
伊織「キャッ!?」ビクッ!
ゴォォォォォ…!! メラメラ…!
リョウ「ドアノブを開けたら、爆発物が起爆する仕組みになってる。良くある手口さ」
伊織「」ボーゼン… - ~765プロ事務所~
高木「……すると今回は、乗る時に爆発するよう仕組まれたものであったと?」
リョウ「警察は、俺が爆発させたんじゃないかって最後まで疑ってたけどな。
ったく冗談じゃないぜ」
律子「しかし、こんな事が何度も続けて起こるなんて……」
香「律子さん。本当に、何も心当たり無いの?」
律子「え、えぇ……スタッフもファンの皆さんも、好意的に接してくれますし……」
リョウ「一度、全容を把握する必要があるな。
プロデューサーさん、これまでの事故の詳細について教えてくれないか?」
P「は、はい。えぇっと……」パラパラ…
P「まず、最初はステージの奈落が突然開いた件ですね。
あれは、竜宮小町のライブのリハーサルをやっていた時でして……」
律子「あと一歩間違っていたら、伊織が奈落に落ちていたところだったんです」
律子「関係者に聞いてみても、誰もその時は操作盤に近づいていなかったので、
目撃者がいなかったみたいで……」
香「ふぅーん、何か怪しいわねぇ」 - P「次は、伊織と雪歩、貴音が出演するミュージカルの、同じくリハーサルでの事でした」
P「本番前の最終調整を、ステージで通しで行っていた時に……
突然、雪歩の頭上から照明が落ちてきて……」
香「…………」ゴクリ
P「幸い、誰もケガは無かったのですが……
雪歩が精神的にショックを受けてしまい、公演を延期せざるを得なくなりまして……」
リョウ「臆病そうな子だったからなぁ」
P「後は、春香と伊織、響がタクシーで移動中、後ろの車が追突する事故があったり……」
律子「後ろの車は、突然タイヤがパンクして制御がきかなかったとか」
P「それと、えぇと……やよいと伊織の料理番組で、収録後にセットが爆発したり……」
P「つい先日起きた、竜宮小町を乗せようとした車の爆発事故……」
律子「あと、伊織と亜美、真美が電車で移動中、座席の窓ガラスが割れた事もありました」
香「えぇっ、電車の時も!?」
律子「そうなんです。
この間は、フェスの会場の機材が急に倒れてきたり……」
リョウ「それに今日起きた、俺の車の爆発事故、か……」
P「メディアもそれらを一切取り上げないという事は、
よほど力のある誰かが情報を押さえ込んでいると考えるべきでしょうか」 - リョウ「その、機材が倒れてきたっていうフェスには、誰が出場する予定だったんだ?」
P「えぇと、あれは確か……」
律子「千早と伊織……それにあずささんと美希ですね」
律子「……あっ」
リョウ「気がついたか?」
香「へっ、何が?」
高木「……水瀬君がいる時にのみ、事故が起きている」
P「うわっ、本当だ!」
リョウ「まぁ、関連性は高いと見て間違いないだろう」
律子「し、しかし、仮に事件性があるとして、何で伊織が狙われるのでしょう?」
香「確かさっきの話だと、伊織ちゃんはあの水瀬財閥のお嬢様なのよね?
例えば、他にお金持ちの子とかはいない?」
高木「詳しくは言えんが、萩原君の親御さんが相当な有力者ではありますな。
亜美君と真美君も、父上が医者をされているので、裕福なお宅ではあるが……」
律子「多国籍企業を多く取りまとめる財閥の資産と比べれば、まぁ、常識的な範疇ですね」
P「ま、まさか、水瀬財閥が持つ資産を狙った犯行っていうんじゃ…」 - リョウ「いや、それは無い」
P「えっ?」
リョウ「起きている事故のいずれも、一歩間違えれば命を落としかねないものばかりだ」
リョウ「誘拐ならともかく、金目当てでお嬢様を殺そうとするとは思えない」
香「た、確かに……ウムム?」
リョウ「もちろん、金目当ての殺し屋が雇われている可能性もあるんだろうけど……」
リョウ「雇い主がどうしても殺したい理由が、果たしてあるのかねぇ。伊織ちゃんに?」
律子「…………強いて言うなれば、なんですけど……」
香「ん?」
律子「あぁいえ! そんな大した事ではなくって、えぇと……」
リョウ「……まぁ、伊織ちゃんは生意気そうな子だもんな」
香「な、何言ってんのよ! リョウ、アンタちょっとは口を慎みなさ…!」
律子「いえ、あの……」
律子「冴羽さんの、言う通りです。
あの子、実際のところ……スタッフさん達から、陰で色々言われてるみたいで……」 - P「えっ、本当か?」
律子「扱いづらいって……プライドも高いし、態度も高圧的で、気を遣うみたいです」
香「そ、そうなんだ……」
リョウ「………………」
律子「で、でも! だからと言って、まさかあの子を殺そうとする人なんているはずが…!」
ガチャッ
伊織「……あぁ、そう。ふーん」
律子「!! い、伊織……聞いていたの?」
伊織「私の事だもの。聞いて悪い?」
P「い、伊織……あのな、心配しなくたって大丈夫だぞ?
別にスタッフさん達だって、きっと本気でそう思ってるわけじゃな…」
伊織「思ってるんじゃない? わざわざ陰でそう言ってるって事は」
P「うぐっ……」 - 伊織「私に恨みを持って殺そうとする人がいるとしたら、
そういうスタッフの人達になるのかしら?」
伊織「それならまだ分かるけど、そこの男が言ってた通り、
水瀬財閥のお金を目当てに私を殺そうとする輩がいるなんて事は考えられないわ」
伊織「……いいえ。お金だけじゃなく、たとえ水瀬家への私怨が理由だとしてもね」
リョウ「私怨?(そこの男呼ばわりかよ……)」
伊織「私のお父様は、私に何の感情も抱いてないのよ」
伊織「あの人にとって、私は出来損ないで、水瀬家の恥なんだから」
香「は、恥って……」
伊織「だから、たとえ私がどうなろうと、あの人にとっては関係無いの。
そういう冷血な人間だって事も、水瀬家に関わった人なら誰でも知ってるわ」
P「い、伊織……」
グッ…
伊織「……だから私は、何が何でもトップアイドルになってやるのよ」
伊織「キラキラに眩しく輝いて、お父様を……水瀬家を見返してやるために」 - リョウ「………………」
伊織「……話が逸れたわね。
どうでもいいけど、私の身に何かあったらただじゃおかないから」クルッ
香「あっ、ねぇちょっと!」
バタンッ
高木「……いやはや、どうもすみません。ああいう子でして……」
香「いえいえ! お元気なお子さんで、アハハ」
リョウ「ヘッ、おべっか使っちゃって。近所のババアかよ」
ドグシャアァッ!!! 【100t】
リョウ「あぴゆっ!!」
香「それじゃあ、これからは伊織ちゃんの護衛に重点を置く、ってことで」
律子「犯人の目的が分からないので、確証は持てないのですが……とにかくお任せします。
それでいいですよね、社長、プロデューサー?」
P「あぁ。よろしくお願いします」
高木「ウゥム……結局、謎は深まるばかりか」 - リョウ「貸してくれるっていう車はコレか?」
P「す、すみません。
ウチも首が回らなくて、期間付きの安物レンタカーでしか対応できず……」
香「ううんいいのいいの! そんな大したモンじゃなくたって乗れりゃあさ!」
リョウ「ちぇっ、色気の無い車……」
香「リョウ~?」ギロッ
リョウ「うわあぁぁウソウソ! ボクこの車種だーいすきっ!」
伊織「……新堂、あの連中はいいからさっさと出して」バタン
ブロロロロロ…
香「あーあ。ったく信じられないヤツがいたもんよねぇー。アイドルを殺そうだなんてさ!」
リョウ「…………」スッ
香「大体やり口がインケンなのよ!
何ていうかこう、正々堂々じゃないっていうかさ。あんな女の子を相手に情けな…」
リョウ「…………」スッ
リョウ「………………」チラッ
香「…………リョウ?」 - 香「どうしたの? さっきからメモ帳をチラチラ見て」
リョウ「ぐひひ、あずささんの水着のお仕事は三日後かぁ~」デレデレ
香「やる気あんのかコラァッ!!」スパァンッ!!
リョウ「あだぁっ!!」
香「人が殺されようとしているのよ!? ちょっとは身を入れて仕事しろってんだ!」
リョウ「……本当にそうか?」
香「あん?」
リョウ「本当に、あの子が殺されようとしていると思うのか?」
香「えっ、な……どういう意味よ」
リョウ「変だと思わないか?」
リョウ「あれだけの事が何度も起きていながら、どれも間一髪の所で皆助かっている」
リョウ「本当に殺す気があるのなら、一度失敗した場合、
次はもっと確実な方法で殺しに来るはずだ」
香「……犯人がものすごくドジとか、はさすがに考えにくいか」 - リョウ「今日、車が爆発した時の現場なんだが……」
リョウ「爆発する前に、リボルバーの撃鉄が上がる音が聞こえた」
香「えっ!?」
リョウ「気のせいかとも思ったが、こっちもお返しに、パイソンの撃鉄を上げてみたんだ」
リョウ「すると、気配が忽然と消えた……
目ぼしい所を探したが、どこも不自然なまでに気配が消されていた」
香「リョウが撃鉄を上げる音に、向こうも気づいて逃げたってこと?」
リョウ「おそらくな」
リョウ「もしそいつが絡んでいるんだとしたら、いつでも彼女を殺せているはずだ」
香「すんでの所で助かるように、わざと仕向けている、か……
でも、そうする理由がどのみち分からないわね」
リョウ「……まっ、これ以上は考えてたって仕方ない。
あまり気は進まないが、大人しくワガママなお嬢様の護衛に就くとするか!」
香「そうね! ってワガママは余計よ!」 - ~水瀬邸~
ブロロロロロ… キキィッ
リョウ「ほぉ~~……」
香「こりゃあすんごいゴリッパなお家……塀の角っこが見えないわ」
『お客様は、どちら様でしょうか?』
リョウ「おぉっと、ビックリした。
伊織お嬢さんのボディーガードを頼まれた、冴羽という者だが」
『申し訳ございませんが、どうかお引取りをお願い致します』
リョウ「なぬぁっ!?」 - 『お嬢様は、あくまで外出先での護衛を依頼した次第であり、
ご在宅中の警護についてはその適用外であるとのことです』
リョウ「危険はいつどこから迫ってくるか分からないんだ。
悠長な事を言っていないでとにかく俺を中に…」
ザッ… ゾロゾロ…
黒服達「伊織お嬢様のご意向にそぐえない、と?」
香「ひぇ~……揃いも揃ってコワモテばかり」
リョウ「うわぁ、何て逞しい人達。ボクちんの出番無いみたいだからかーえろっと」ササーッ
香「し、失礼しましたー」サーッ
ブロロロロロ…
リョウ「……わざわざ俺を雇わなくても、あの子が言っていた通り、
連中に四六時中守ってもらった方が良いんじゃないか?」
香「う、うーん……」 - ~伊織の部屋~
伊織「……あいつらは行った? 新堂」
新堂「はい、伊織お嬢様」
伊織「はぁ、まったく……何で社長はあんな連中に護衛を依頼したのかしら」
伊織「ねぇ、新堂。もし時間があったら、あの男の詳細について調べてもらえる?」
新堂「そう言われるかと思いましたので、資料をこちらに」スッ
伊織「さすがね、新堂」
パラパラ…
伊織「冴羽獠……本名不明、国籍不明、生年月日不明?」
伊織「何よこのふざけたプロフィール……
冴羽商事代表取締役社長。マンション管理業……へぇ、不動産屋?」
伊織「どうしてそんな輩がボディーガードなんてやってるのかしらね」
新堂「お嬢様、その肩書きは表向きのものでございます」
伊織「表向き?」 - 新堂「あまりこういう事をお嬢様にお教えするのは憚られるのですが……
スイーパー、という言葉をご存知でしょうか?」
伊織「“sweeper”……掃除機がどうかしたの?」
新堂「ここでいうスイーパーとは、始末屋という意味です」
新堂「風の噂を頼りに、もっと端的に申し上げますれば、殺し屋とほぼ同義とも」
伊織「こ、殺し……!?」
新堂「訳ありの、主に女性からの依頼を受け、法では裁けない悪を始末する……
近年においては、悪漢から依頼人を守るボディーガードを行う事が増えたとか」
伊織「し、始末って……具体的に、どうやって?」
新堂「ピストルによるもの、とのことでございます」
伊織「拳銃!?」 - 新堂「かの方が、裏の世界のNo.1とまで噂される所以……
それは大きく、射撃の腕にございます」
新堂「それを裏付ける、かの方の代名詞とも呼べる特技が、
“ワンホールショット”というものだそうです」
伊織「ワンホールショット?」
新堂「初撃により撃ち抜いた孔を目掛けて、二発目、三発目を撃ち込む……
複数回の射撃にも関わらず、弾痕が一つしか残らない、高度な射撃技術の事です」
伊織「……野暮な事を聞くけれど、それ至近距離から撃つ訳じゃないわよね?」
新堂「拳銃の種類にもよりますが、50mもの距離でもこなせるようです」
伊織「ごっ、50m!?」
新堂「ライフルによる狙撃で、1km先の人間が着ているYシャツのボタンを外したとも」
伊織「……人間じゃないわよ、そんなの」
新堂「射撃の腕だけでなく、常人離れした強靭な筋力、運動神経に加え、
政治や裏社会に精通しており、国内のみならず世界的にもNo.1の凄腕と呼ばれます」
新堂「その実力を象徴する言葉が、“シティーハンター”というかの方の通称でございます」
伊織「シティーハンター……」
伊織(裏世界の、No.1…………それが、あの男が得ている評価……) - ………………………
………………
――水瀬家は常に帝王たれ。
――何事にも、いついかなる時も、他者より先へ、前へ踏み出さねばならない。
――それが出来ない者に、水瀬を名乗る資格は無い。
――分かるな、伊織。
「ま、待って、お父様! 私だって、こんなに頑張って…!」
――頑張って、お前は水瀬家に何をもたらした?
――高木に頼んでアイドルをやらせてはいるが、所詮お前の行いはお遊戯にすぎん。
――結果も出せない分際で、過程に評価を求めるなど、やはりまだまだ子供だな。
「違う!! 私は子供じゃないわ! 自分でやっていける、何でも!」
「お願いお父様、こっちを向いて! 行かないで!!」 - 伊織「はっ!!」ガバッ!
チュンチュン… ピヨッ
伊織「はぁ、はぁ、はぁ……!」
伊織(……何て酷い夢)
コンコン
伊織「どうぞ」
ガチャッ
新堂「おはようございます、伊織お嬢様。朝食をお持ち致しました」カラカラ…
伊織「ありがとう」
伊織「ねぇ、新堂……今日は、お父様は?」
新堂「早くにお出になられました。本日から3日間、ブルネイへご出張されております」
伊織「……そう」 - 伊織「それじゃあ、行ってくるわ」
メイド「行ってらっしゃいませ、伊織お嬢様」
ガチャッ バタン
ギィィィィィィ…
ブロロロロロ…
伊織「……?」
新堂「冴羽様のお車が、私共の後ろに付いておられますな」
伊織「……一応、仕事は果たすってわけね」
ブロロロロロ…
香「律子さんの話だと、今日は午前中が春香ちゃんとバラエティ番組の収録、
お昼過ぎ頃から765プロ皆でレッスンだって」
リョウ「ふわあぁ~あ、眠い」ゴシゴシ…
香「ほらっ、シャンとする!」ギリィッ!
リョウ「いっだあぁっ!! 耳っ! 耳を引っ張るな!」 - ~テレビ局スタジオ~
春香「おはようございまーす! 今日はよろしくお願いします!」ペコリ
ディレクター「あぁ、765プロの春香ちゃん。今日も元気だね」
春香「えへへ、元気だけが取り柄ですから」
春香「あっ、スタッフさん、大丈夫ですか? 私手伝いますね」
スタッフ「あぁ、春香さん。椅子出しは私達の仕事ですから、そんな…」
春香「いえいえ、ちょっとでもスタジオの雰囲気を味わっておきたいなーって。
コレ、こっちですよね、ってきゃあああっ!?」ズルッ
どんがらがっしゃーん!
スタッフ「あぁ、やっぱり! 大丈夫ですか!?」
春香「あいたたた……へ、平気です」
リョウ「結構、ドジなんだな」
香「アハハ、まぁ、それがあの子の魅力っていうか……ほら、良い子じゃない!」
リョウ「まぁ、それはそうだが……」
伊織「ねぇ、ちょっと!」 - スタッフ「は、はいっ!? どうされましたか?」
伊織「どうされましたかじゃないわよ。ここにいた私のシャルルは?」
スタッフ「はっ? あ、あのうさぎのぬいぐるみ…」
伊織「シャルルって言ってるでしょ!」
伊織「何でさっきまでいた私のシャルルがいなくなるのよ!」
伊織「誰かが意図的に動かさない限り、ここにいたシャルルがいなくなるはず無いわ」
スタッフ「す、すみません。あの、その、私に聞かれましても……」オロオロ…
伊織「じゃあ誰なら分かるって言うのよ!」
香「あ、あの~……伊織ちゃん?」
伊織「えっ、何? 香だったかしら?」ギロッ
香「そ、そうそう! でね、そのうさちゃんなんだけど……ほら」スッ
伊織「あっ……」
香「ちょっと設営が慌しくなってたから、ここに置いてあると邪魔かなーって思って、
私がどかしておいたの」 - 伊織「気安く触らないで!」バシッ!
香「うわっ!?」
伊織「勝手な真似しないでくれるかしら。どれだけ心配になったと思ってるのよ」
リョウ「おいおい、そんな言い方は無いだろう」
伊織「! 冴羽、リョウ……」
リョウ「香の行いはともかく、まず疑ったスタッフさんに謝るべきなんじゃないのか?」
香(何かシャクゼンとしない)ムッ
伊織「………………」
スタッフ「あ、いえ、私は別に……」
伊織「私は謝らないわ。疑われるような仕事に就いてる方が悪いのよ」
スタッフ「え、えぇ!?」
香「ちょ、ちょっと伊織ちゃん。それはさすがに…」
伊織「そろそろ本番ね。春香、いつまで手いたずらしてるの、配置に着くわよ」ツカツカ…
春香「て、手いたずらって、伊織ったらひどいなぁもう」
タタタ… - 香「あ、あぁ~……えぇと、すみませんねスタッフさん。悪い子じゃないんだけど…」
スタッフ「………………」スッ
スタスタ…
香「あ、ちょっと……行っちゃった」
香「あれ? そういえばリョウは?」
リョウ「うわぁ! さっきいた女優さんのセクシー水着ポスター!!」モッコリ!
リョウ「マネージャーさん。この応援ポスター、俺にも一つ恵んでくれないか」キリッ
マネージャー「まぁ、素敵な方……」ポッ
香「なぁにしとんじゃコラアァァァッ!!」グアァッ!
ドカアァァン!!! 【100t】
リョウ「あーれー!!」ヒューン
ドシャアァッ…!
マネージャー「廊下の方まで飛んでっちゃった……」
香「ウーム、甘かったか。もっと思いっきりぶっ飛ばせば良かった」 - パラパラ…
リョウ「あっつつつ……香のヤロー、豪快にふっ飛ばしやがって……」
リョウ「ん?」
【来夏新作水着 モデル選考会 楽屋→】
リョウ「楽屋……すなわち、楽しい部屋」
リョウ「一度お邪魔しなくては」
テクテウ…
リョウ「むふ、んむふふふっ!」
リョウ「あー香ってば本当にありがたいヤツだなー!
ボクちんをこーんな良いお部屋へ導いてくれるだなんて!」ルンルン♪
リョウ「もっこりビキニちゃん達、待っててねー! 今行くから…」
「もうやってらんねぇよあの子」
リョウ「むっ?」ピタッ - サササッ
リョウ「………………」ソォーッ…
スタッフA「竜宮小町がどれだけ偉いか知らねぇけど、あんな態度アリかよ」
スタッフB「あぁ、そんな事あったのか。俺も伊織ちゃんは駄目だわ、苦手」
スタッフA「苦手ってレベルじゃねぇよあんなの」
スタッフA「この業界、偉ぶってる人間は多いけど、あの子は群を抜いて態度でけぇし」
スタッフB「他の現場だと、差し入れのオレンジジュースを断ったらしいな」
スタッフA「えぇ、マジかよ何で?」
スタッフB「果汁100%のものしか飲まないんだと」
スタッフA「かぁーっ! どこまでタカビーなら気が済むんだよ、ひでぇなそれ」
リョウ「………………」
リョウ「……っとこうしてはいられない。早くもっこり水着の園に行かねば」
香「待て」
リョウ「ッ……出たな背後霊め」
香「誰が背後霊じゃい!」 - 司会「ハハハ、それじゃあ765プロではいつも響ちゃんがいじられ役なんだ」
春香「何となくそうなっちゃうみたいですねー。
亜美や真美なんかは特に喜んでイタズラばっかりしてて…」
伊織「あらっ? そういう春香だって、この間響のクッキーにタバスコかけてたじゃない」
春香「そ、それは私じゃないよぅ! たまたま真っ赤になってるのを響ちゃんが勝手に…」
芸人「いや何でたまたまクッキーが真っ赤になんねん!」
ワハハハハハハ…!
春香「ほ、本当なんですって! 私が知らない間に一個タバスコ漬けのクッキーが…!」
リョウ(爆発物の類は無し。機材の不調も特に見当たらない)
リョウ(これまでのケースを考えると、犯人が直接襲いにくる事は無いはずだが……)チラッ
スタッフA「あぁしてステージにいる間は本当に“良い子”なんだよな」
スタッフB「ネコ被りやがって……それに引き換え、やっぱかわいいなぁ春香ちゃん」
スタッフA「俺らにもすげぇ気を遣ってくれるしなぁ」
リョウ(まっ、せいぜいああして陰口言われるくらいなら心配無さそうだな) - 司会「それでは来週もまたお楽しみにー!」フリフリ
パチパチパチパチ…!
スタッフ「はい、オッケーでーす! お疲れ様でしたー!」
春香「どうもお疲れ様でしたー!」
香「お疲れ様! はい、春香ちゃんお水。
伊織ちゃんは、えぇと……はい、果汁100%のオレンジジュースね」スッ
春香「あっ、ありがとうございます! ずっと喋ってたから喉渇いちゃって」
伊織「気が利くわね。新堂に聞いたの?」
リョウ「ん? まぁ、な」
春香「ずっと護衛してるのって、大変じゃないですか?
何だか、すみません。あまり面白くない事をさせてしまってて」
伊織「こっちが依頼して向こうが引き受けてるんだから、いまさら言う事じゃないわよ」
春香「そ、そりゃそうだけど! でも、私達のせいで危険な目に遭うかも知れないし……」 - リョウ「最初に言っただろ?
俺達の事は気にせず、君達は普段通りにしてもらえれば良いんだ」
リョウ「それに、これまで請け負ってきた仕事を思えば、
悪漢から君達を守る事くらい、危険の内に入らないよ」
伊織「…………!」ピクッ
春香「いつも、どんな依頼を引き受ける事があるんですか?」
香「えぇっと、そうねぇ……まぁ、ボディーガードが多いかな、やっぱり。
皆みたいな女の子以外にも、女優さんとか、資産家とかもいたっけ」
香「危ない目に遭う事には慣れてるの、アタシ達。
まっ、これ以上は企業秘密って事で、あんまり深く追求するのはナシでね?」
春香「へ、へぇー……専門家さんなんですね、ボディーガードの」
リョウ「まぁな。むっ……!」ピクッ
春香「? 冴羽さん、どうしたんですか?」
リョウ「皆、今すぐ体を屈めて、耳をしっかり塞ぐんだ」
伊織「へっ?」
春香「えっ、ちょっ……こ、こうですか?」スッ
リョウ「それでいい。危険だから、その体勢のまま目を閉じて。
香、お前もだ」
香「わ、私も!?」 - 伊織「どうしたのよ、もう」スッ
リョウ「すごく重要な事だ。何も言わず、俺のことを信じてくれ」
春香「は、はいっ!」ギュッ
香「相棒のアタシにくらい、ちゃんと説明してくれたっていいじゃない」
リョウ「いいから」
香「もう! 分かったわよ」ギュッ
リョウ「しばらくそのままでいてくれ。俺が良いと言うまで、ここを動くんじゃないぞ」
香「ねー、リョウー? まだー?」
春香「何だか、気配を感じないですね」
伊織「どこかに行ったのかしら」
香(! ひょっとして、既に現れた犯人と直接対峙しているんじゃ……)
香(この子達だけじゃなく、アタシまで危険に晒さないよう、何も言わずに……!)パチッ
香「りょ、リョウ……!」ガバッ!
リョウ「あっ」 つ カメラ
セクシー女優「あぁん、撮るなら早く撮ってぇ。焦らしちゃイヤよ」クネクネ - 春香「わ、わぁ……」
リョウ「か、香っ? 待て、早まるな、誤解だ!」
香「なぁにが誤解なのかしら。アタシ達を騙した理由を詳しく説明してくれる?」ズイッ
リョウ「と、とぉんでもない、騙すだなんて!
俺はこの女優さんの胸元に危険物が仕込まれてやしないかと踏んだんだ」
リョウ「そして俺の読み通り、確かに俺のもっこりセンサーが爆発した!
あと一歩遅かったらどうなっていたことか…」
香「ワケの分からん言い訳すなぁっ!!」 ズガアァァン!!! 【100t】
リョウ「ぎゃあーっ!!」
香「あと一歩遅かったらどうなってたか、って言いたいのはこっちの方よ!
まったくアンタって人はどういう神経を…!」ガミガミ…!
セクシー女優「あら~、随分と逞しいお相手がいらっしゃるのねぇ」
春香「あ、あはは……こういうのを、お盛んって言うのかな?」
伊織「そんな事、私に聞かないでもらえるかしら」ジトーッ - 香「ふぅ……さて、お昼過ぎからレッスンよね? どこかご飯でも食べに行こっか」
春香「あっ、はーい! この近くに、美味しいスパゲッティ屋さんがあるんですよ」
香「へぇ、そうなの?」
春香「はいっ! かわいいデザートも付いてくるし、お店も綺麗なんです。
あと、店員さんの気配りも良いし、皆美人さんで…」
リョウ「美人な店員さんだって?」ムクッ
香「げっ、もう起きてきやがった」
春香「良かったら、そこに行きませんか? 伊織も一緒に行こう、ねっ?」
伊織「まぁ、仕方ないわね」
伊織「それなら、春香はその変態の車に乗ってお店まで誘導して。
私は自分の車で後ろから付いて行くから。それじゃ」クルッ
春香「えっ? あっ、ちょっと伊織…」
スタスタ…
リョウ「へ、ヘンタイ? 今、あの子、俺の事を変態って言ったのか!?」
香「他に誰がいんのよ」
リョウ「天下のプレイボーイたる俺を捕まえて、言うに事欠いて変態とは…!!」ワナワナ…
春香「そ、それはえぇと、まぁ……く、口癖ですよ、口癖! そう、伊織の口癖!」
香「春香ちゃん、無理にフォローしなくていいのよ?」 - ブロロロロロ…
伊織「白昼堂々、人のいる前であんな事をするヤツがいるだなんて……!」
伊織「それも私のボディーガードを勤めている最中によ!? 信じられないわ!」
伊織「何がシティーハンターよ、ただの変態じゃない!」
新堂「冴羽様は優れたスイーパーであると同時に、比類無きほどの好色家でもあるとか」
新堂「かの方の依頼人が主に美女というのも、それが理由の一つなのでしょうな」
伊織「知らないわよ、そんな事!」
伊織「もうっ……馬鹿みたい!」ドカッ
伊織「……ねぇ。それだと、私はあの変態大人のお眼鏡に適っていないって事?」
新堂「私には分かりかねます。なぜ、そのような事をお思いになられたのでしょう?」
伊織「アイツが私に言ったのよ。俺にロリ……の趣味は無いって」
伊織「誰かれ構わず声を掛けるナンパな男にさえ見向きもされない私は、
よほどレディーとしての魅力が無いって事なのかしら」
新堂「伊織お嬢様には、大勢のファンがいらっしゃいます。気に病む事などございません」
伊織「それもそうだけど…………」
伊織(……まぁいいわ。別にあんなヤツに振り向いてもらいたくもないし) - ~スパゲッティ屋~
店員「メニューをどうぞ。お決まりになられましたら、お声をお掛けください」
ペコリ スタスタ…
リョウ「ぐひひひ、頭を下げた時にチラッと見えるもっこり谷間…」
香「まぁだ天誅が足りないようねぇ」ズラァ…
リョウ「ウォッホン! さて、エレガントな私はこのトメィトゥのヤツをいただこうかな」
春香「あっ、トマトと茄子の、美味しそう! 私もコレにしようっと」
伊織「…………」ハァ…
香「伊織ちゃんは、どれにする? どれも美味しそうよ?」
伊織「適当に頼んで。あとオレンジジュース」
春香「あ、う、うん。すみませーん」
ハーイ
リョウ「疲れたのか?」
伊織「誰かさんのおかげでね」
リョウ「?」 - 香「午後からのレッスンっていうのは、765プロ皆で集まってやるんだったわよね?」
春香「そうなんです! 近々、フェスが開かれるから、それに向けての練習なんですよ」
リョウ「フェス?」
春香「ライブ対決、って言えば良いのかな。
複数の事務所が、同じ会場でステージを分けて同時にライブをするんです」
春香「今度開かれるのは、961プロっていう私達765プロのライバル事務所とのフェスで、
絶対に負けられないから、皆張り切っちゃって」
香「へぇー、フェスって対決だったんだ。
普通に楽しんで見てた事あるけど、アイドルにも直接対決ってあるのねぇ」
春香「伊織がセンターとして皆を引っ張って、真と響ちゃんはダンスを教えてるんです。
千早ちゃんは、私に発声方法とか教えてくれたり。あぁ早く行きたいなぁ」ウズウズ
リョウ「仲良いんだな」
伊織「………………」
伊織(仲が良い、か……傍から見ればそう見えるのね)
伊織(少なくとも私は、961プロだけじゃなく、765プロの皆だってライバルだと思ってる)
伊織(特に今回のフェスは、私がセンターを務める重要なライブ……!)
伊織(竜宮小町だけじゃない……名実ともに765プロの看板として、のし上がってやるわ!) - 伊織「………………」グッ…!
春香「……伊織? ねぇ、伊織ってば」
伊織「へっ?」
春香「何だか今日、様子が変だよ? 具合が悪いなら、無理しない方が…」
伊織「ば、馬鹿な事言わないで。この伊織ちゃんがレッスンをキャンセルするわけ…」トン
グラァ…!
香「あっ、ぐ、グラスが……!」
伊織「えっ?」
パシッ! バシャア…
リョウ「っと。危ない危ない、落ちる所だったぜ」
香「リョウ、グラスは良いけど、水が伊織ちゃんの靴とうさちゃんに……」
リョウ「あぁっ! す、すまない。もうちょっと早くキャッチできれば良かったんだが…」
伊織「大丈夫、シャルル!?」
リョウ「あら?」
伊織「冷たかったわよね。こぼしちゃってごめんなさい、本当にごめん」フキフキ… - リョウ「あ、あの……すまなかった。靴にかかってしまったな」
伊織「私の靴なんてどうだって良いわ。それより、シャルルに謝って」
リョウ「えぇ? いや、シャルルちゃんに水がかかったのは俺のせいじゃ…」
伊織「謝ってって言ってるのよ」
リョウ「……どーもすみませんでした。とにかく、靴を拭いて…」スッ
リョウ「!!」
リョウ「…………香」
香「何、ふきんでももらう?」
リョウ「今すぐ二人を連れてここを出ろ」
香「えっ? ……はは~ん、このアタシがそんな手に二度も…」
リョウ「出ろ。今度はマジだ」
香「! 伊織ちゃん、春香ちゃん、出ましょう」ガタッ
春香「えっ? ど、どうしたんですか?」
伊織「ちょっと待ちなさいよ、まだオレンジジュースだって来てな…」
香「後でバケツで飲ませてあげる!」グイッ!
伊織「きゃっ!?」 - 香「レッスンスタジオで会いましょう。約束よ」
リョウ「あぁ」
タタタ…
リョウ「………………」スッ
【 0:02’43” 】 チッ… チッ… チッ…
リョウ(俺達のテーブルの下に、こんな物騒なモンを仕掛けやがって)
リョウ(いや、これだけじゃない……もしかして、他のテーブルにも爆弾が?)
リョウ(小型で威力は小さい代物だが、他の客が気づけばパニックになっちまうな……)
リョウ「………………」キョロキョロ
リョウ「…………!」
【ヤキニクマン ヒーローショー 会場はこちら!
絶賛公演中!】
リョウ「……これだっ!」ダッ! - ~ヒーローショー会場~
悪役「グワハハハハ!!
この暴飲暴食怪人オーバーイーター様が、お前達の分を食ってやるぅ~!!」
ヒロイン役「あぁ、そんなぁ! 私達のカルビまで食べないでぇ!!」
悪役「知った事かぁ! ビールも旨いぜ、いっぱい飲むぞぉグワハハハハハ!!」
ヒロイン役「皆、一緒にヤキニクマンを呼んで! せぇ~のっ!!」
観客達「ヤキニクマァーーン!!!」
ヒーロー役「とーうっ!!」バッ!
悪役「な、貴様はヤキニクマン!!」
ヒーロー役「忘年会シーズンに、宴の場を荒らすような輩はこの私が許さん!」
ヒーロー役「ウェルダン・パァンチ!!!」ゴァッ!
悪役「グワアァァァァッ!!」ドサァッ!
ヒロイン役「ありがとう、ヤキニクマン!」
ヒーロー役「暴飲暴食は生活習慣病の元だ! キミ達も気をつけてくれたまえ!」
ヒロイン役「観客の皆も、食べすぎ飲みすぎには気をつけてねー」フリフリ
パチパチパチパチ…! - ???「ワァーッハッハッハッ!! ヤキメシマンよ、ここにも敵がいるぞ!!」
ヒーロー役「えっ!?」
悪役2「ハンサム星人もっこり仮面だー!!」ババーン!
ヒーロー役「も、もっこり仮面!? 星人!?」
ヒーロー役(あんなのいたっけ? 聞いてないぞ!?)オドオド…
ダダッ!
悪役2「ふんっ」ガシッ!
ヒーロー役「へっ!?」
悪役2「どおりゃあっ!!」ブンッ!
ヒーロー役「うおわあぁぁぁぁっ!?」ヒューン!
ヒロイン役「あぁ! クシダさ……や、ヤキニクマン!!」 - ヒューン…! ガシャアアアアンッ!!
客「きゃああぁぁっ!?」ガタッ!
ヒーロー役「あいたたた……何だここは。す、スパゲッティ屋!?」ガラッ…
ザッ…
悪役2「このスパゲッティ屋がお前の墓場だぁ! ヤキメシマン!!」
ヒーロー役「ヤキニクマンです!! ちょっと待て、何だか展開がおかし…!」
悪役2「お客さん達も、ケガをしたくなけりゃ逃げるんだなぁっ!!」ガチャッ!
ガァァァンッ!!
客「きゃああぁっ!!」「じゅ、銃声!?」「何だ、逃げろぉ!!」
ダダダダ…!
悪役2「ムンッ! とーうっ!!」ガシッ! ポーイッ ポーイッ!
ヒーロー役「うわあぁぁっ!? て、テーブルを投げないでぇ!!」ササッ ヒョイッ
悪役2(……よしっ、他のテーブルには爆弾は仕掛けられていない) - 悪役2「ふっふっふ、身のこなしはさすがだな、ヤキメシ……違った、ヤキニクマン」
悪役2「だが、これはかわせるかな?」ガシッ!
ヒーロー役「!? ま、またテーブルを……!?」
悪役2「必殺! もっこり打ち上げ花火!!」ブォンッ!
ヒーロー役「なっ、う、上に!? えぇっ!?」
悪役2「伏せろぉっ!!」スチャッ!
ガァァァンッ!!
ドゴオオォォォォォォォンッ!!!
ヒーロー役「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」
パラパラ…
悪役2「…………」
ヒーロー役「あ、あわわわ……!」ガタガタ…
ヒーロー役(何なんだコイツ! マジじゃねぇか、こ、殺される……!!)
ザッ…
ヒーロー役「ひっ! く、来るな! 来ないでぇっ!!」 - 悪役2(もう大丈夫だ。適当に俺を殴って芝居を終わらせてくれ)ボソボソ…
ヒーロー役「へっ?」
悪役2「ワハハハ、なかなかしぶといヤツ! だがここまでだヤキニクマーン!!」グワッ!
ヒーロー役「ひ、ひぃぃぃっ!!」サッ!
ぺちっ
悪役2「ぐわぁー! やーらーれーたー!」ピョーン
ヒーロー役「あ、あれっ……?」
スタコラサッサー
ヒーロー役「…………何なの」ボーゼン
ヒロイン役(と、とにかく決め台詞を、クシダさん!)コソコソ
ヒーロー役「あっ!? お、オホン!」
ヒーロー役「楽しく食事をしたいなら! 皆で守ろう行儀作法!」
ヒーロー役「モラルを守って、健康的な食事をしてくれよな!!」グッ!
観客「最近のヒーローショーはリアルだなぁ」「すごい演出だった」パチパチ… - タタタ…
悪役2「……この辺で良いか」
ガバッ
リョウ「ふぅ~~……少し騒がせちまったが、まぁ結果オーライだろう」
リョウ「しかし、あんなヒーローが最近の子供には人気なのかねぇ」
ザッ…
リョウ「ん?」
リョウ「…………ほう。やはりお前の仕業だったって事か」
海坊主「……貴様の腕も落ちたものだな」
海坊主「あの程度の爆弾一つ処理するのに、大勢の一般人を巻き添えにするとは」
リョウ「るせー。設置した本人が言う事かよ」
海坊主「ふん」 - リョウ「それで、俺に何か用か?」
海坊主「お前に用は無い」
海坊主「水瀬伊織を乗せた車を追っていたら、たまたまお前が道中にいただけだ」
海坊主「じゃあな」ザッ…
リョウ「そうまでして961プロは今度のフェスに勝ちたいのか?」
海坊主「俺の知るところではない」のっしのっし…
リョウ「ふぅん。やっぱお前の依頼主は961プロだったのか」
海坊主「……!」ピタッ
リョウ「これまでの伊織ちゃんへの妨害行為も、全て961プロの仕業だったと」
リョウ「ぬっふっふ、海坊主クンも随分とお喋りになっちゃいましたなぁ」ウリウリ
海坊主「貴様……! チッ……」 - リョウ「しかし、伊織ちゃんを精神的に追い詰めようとしてこんなマネを繰り返すのなら、
アテが外れてるぜ」
リョウ「あの子、子供のくせして相当に強いハングリー精神を持っている。
上昇志向が強いんだ。金持ちのお嬢様なのにな」
リョウ「嫌がらせや脅しなんかに屈するようなタマじゃない」
海坊主「この俺が、嫌がらせや脅しなどというつまらん事をしているとでも?」
リョウ「現にしているじゃないか。殺すつもりは無いんだろう?」
リョウ「さっきの爆弾だって、もし本気で殺すつもりなら、
時限式ではなくリモコン式でも使えば、もっと簡単に仕留められるはずだ」
海坊主「………………」
リョウ「お前の狙いは何だ?
脅し目的じゃないというのなら、961プロは何を企んでいる」
海坊主「……ふん。敵に自分の情報を教える馬鹿がどこにいる」ザッ…
のっしのっし…
リョウ「……それもそうね」
リョウ(しっかしまぁ、とんでもないヤツを敵に回したもんだぜ。やれやれ……) - ~水瀬家の送迎車~
ブロロロロロ…
香「キレイな車ねー。ごめんなさい、私達まで乗せてもらっちゃって」
春香「れ、冷蔵庫がある……ほえぇ、すごいなぁ」
新堂「伊織お嬢様のご友人をお乗せできるとあっては、この新堂、
水瀬家の執事冥利に尽きるというものです」
春香「そ、そんな! そうまで言ってもらわなくても、アハハ……」テレテレ
伊織「新堂、どこかこの辺りで美味しいランチを食べられる所は?」
新堂「イタリアンをご所望であれば、ここから10分ほどの所にございますが」
伊織「じゃあそこにして」
新堂「かしこまりました」
香「へぇ~……優秀な執事さんねぇ」
伊織「で、そろそろ教えてもらえるかしら? 私達を店から無理矢理連れ出した理由」
香「あっ、理由? あぁ、うん、そうね……」
香「えーと……私にも、実は良く分からないの。リョウがマジだって言ったから」 - 春香・伊織「えっ?」「はぁ?」
香「あぁ、ゴメンゴメン! えぇと、何て言ったらいいのかなぁ」
伊織「だって、私達を騙して女とイチャイチャするような変態よ?
そんなヤツの言うことを真に受けるなんて…」
香「ううん、違うわ。うまく説明できないけど、あの時のリョウの眼は違ったの」
春香「眼?」
香「アイツの事は、アイツのパートナーであるアタシが一番良く分かってるつもり」
香「だから、大抵の事はアイコンタクトでそれなりに伝わるものなのよ」
香「具体的な事は分からないけれど、危険が迫っている、逃げろって事くらいはね」
春香「信頼しているんですね」
香「ん? うーん、まぁね。こういう仕事だし」
伊織「その割には、ハンマーが手放せないみたいじゃない。にひひっ♪」
香「それとこれとは話が別!」
春香「あははははは」
ブロロロロロ…
不審な車「………………」 - ブロロロロロ…
新堂「ム……」
伊織「……新堂、どうかしたの?」
新堂「不審な車が、先ほどから私達を追ってきているようです」
春香「えっ!?」
香「! あっ、あの趣味の悪いキャデラックね!」
ブロロロロロ…
不審な車「………………」ズラァ…
伊織「!? ね、ねぇ、後ろの車……!」
春香「ま、窓から……ひょっとしてあれ、銃……!!」
新堂「皆様、しっかりお捕まりになってください」ガチャ ガチャッ!
香「えっ? うわっ!」グオッ!
ブロロオオォォォォォォォォッ!!
不審な車「………………」グオオッ! - ブロロォォォッ!!
新堂「…………」グンッ! ガチャッ!
ギャギャギャギャッ!!
伊織「し、新堂! もう少し優しく運転…!」
新堂「申し訳ございません、お嬢様。今しばらくご辛抱を」ガガッ! ガッ!
ゴオォォォォッ!!
春香「ひえぇぇっ!!」
香「な、何ちゅードライビングテクニック……!」
不審な車「………………」グオォンッ!!
伊織「ダメだわ、まだ追ってきてる!」
新堂「フゥム、やるものですな」ガッ! グイィッ!
不審な車「………………」ジャキッ
バキューンッ!! - ビシィッ!!
新堂「ムゥ?」ガクン
ガタガタガタッ!!
春香「きゃあああああっ!!」
香「タイヤを撃たれたわ! 皆、伏せて!!」
伊織「いやあぁっ!! もうっ、何なのよぉ!!」
ガガガガァァァァァッ!!! ドシンッ!!
プシュウゥゥゥゥゥ…!
ブロロロロロ…
不審な車「………………」キキィッ
ガチャッ ザッ…
不審な男達「…………へっへっへ」 - 男A「おい、そこの車の運転手」
男A「水瀬伊織を俺達に引き渡してもらおうか。乗っているのは分かってるんだ」
男B「さっさとしねぇと、今度は車のエンジンにコイツをぶち込んでやろうか」ジャキッ
春香(ど、どど、どっ、どうしよう~……!)グスッ…
伊織(わ、私のせいなの……? 何で、何で私……)
香(アタシに任せて)スッ
春香(あっ、ちょ、香さんっ!)
ガチャッ
香「………………」バタン
男A「ほう……女か」
男B「運転手ではないが、まぁいい。水瀬伊織を出せ」
香「それはできないわ」
男A「ふん。どうなるか覚悟の上なんだろうな」ジャキッ - 男B「おいおい、殺しはナシだって言われてるだろ?」
男A「分かってるよ。死なない程度に片腕と片足を使えなくしてやるだけさ」
男A「それでも引かねぇのなら、もっとひでぇ目に遭ってもらうまでよ。くくく……」
香「………………」
男A「どうした? 怖くて声も出せねぇか」
香「そうね……笑いを堪えるのに必死よ」
男B「あぁん?」
香「大の男が二人も揃って、銃を片手に女の子を追い掛け回すなんてね」
香「これまでに出会ったどんな悪党より、アンタ達が一番小物で情けないわ」
香「そんなヤツらが、女を前に粋がって勝った気でいるなんて、とんだお笑い草よ」
男A「貴様……黙って聞いてりゃ言いたい事をずけずけと!!」
男B「ボスからは殺すなと言われたが、もう知らねぇ!
そんなに死にたきゃこの場で蜂の巣にしてやるぜ!!」ジャキッ!
香(来る……ッ!)バッ!
ヒュンッ!! - ビシィッ!!
男A「ぐあっ!!」
カシャン! カラカラ…
香「!?」
男B「な、投げナイフ!? どこだ、何モンだっ!!」クルッ
冴子「……本部が言っていた現場は、ここでは無さそうね」
冴子「でも、ついでだからあなた達も逮捕してあげる」
香「さ、冴子さんっ!」
男B「な、女だとぉっ!? くそっ、どいつもこいつも俺達を舐めやがっ…!」
ヒュンッ!!
男B「ぐわあぁっ!!」ビシィッ!!
男B「あっ、ぐぐっ……」
冴子「あら? 手を掠めただけなのに、大げさな人達ね」
香「お、お見事」パチパチ - 冴子「連行して」
警察官「はっ」
バタン ブロロロロロ…
冴子「危ないところだったわね、香さん」
香「ううん、実はホントに危なかったの! 良かったぁ、来てくれて」
春香「うわぁ、キレイな人~!」
伊織(悔しいけれど、これは美人ね……)
冴子「あら? 彼女達、ひょっとしてアイドルの…」
香「あっ、そうそう! 765プロの水瀬伊織ちゃんと、天海春香ちゃん!
ちょっと事情があって、ボディーガードを頼まれてるの」
冴子「そうだったの。初めまして、警視庁の野上冴子です」スッ
春香「天海春香ですっ! 助けてくれて、ありがとうございました!」ペコリ
冴子「こちらこそ、765プロのアイドルさんの命を守れたのなら、皆に自慢できるわ」ニコッ - 冴子「ところで、ボディーガードを頼まれたって言うけど、リョウはどこに?」
香「あぁ、ちょっとね。この前の場所で危険が迫ったから、私達だけ先に逃げてきて……」
冴子「そう」
伊織「でも……香、さん」
香「香でいいわよ」
伊織「この人が来てくれなかったら、今頃どうなっていたか知れないわ」
伊織「それとも、偶然警察が通り掛かってくれるのを期待する事が、
あんたの作戦だったってわけ?」
香「ううん、とんでもない!
実は、アタシの服のボタンには、ほら、盗聴器兼発信機が付いてて……」チラッ
ブロロロロロ…
リョウ「おぉ、いたいた」キキィッ
春香「あっ、冴羽さん!」
香「コイツが来てくれるまでの時間稼ぎをするつもりだったんだけど、
偶然冴子さんが先に来てくれたってわけ」
伊織「なるほどね」 - ガチャッ バタン
リョウ「冴子? ……あーっ、お前なぜここに!?」
冴子「奇遇ね、リョウ」ニコッ
リョウ「奇遇ね、じゃあない!
貴様、ここで会ったが百年目、大人しく借りを返してもらおうか!」
冴子「あら、何の話だったかしら?」
リョウ「とぼけても無駄だ、冴子!
お前には俺のもっこり3発分、確かに約束したのにお前はのらりくらりと…!!」
冴子「そんな話をして大丈夫?」
リョウ「何ぃっ!? ……はっ!!」
香「女の子達の前でなぁにを大声で話しとんじゃおのれはぁっ!!」グアァッ!
ドスウウゥゥンッ!!! 【100t】
リョウ「ひぎゃあ、ごめんなさぁいっ!!」
冴子「変わり無いようで安心したわ」ニコッ
伊織「完全に良いようにあしらわれてるわね……」
春香「三人共、何ていうか、仲良いんだろうなぁ」 - 香「でも、本当に冴子さん、どうしてここに?」
伊織「現場がどうとか言ってたわよね。どこかへ行く用があったの?」
冴子「えぇ。ここから数キロ離れたところで爆破騒ぎがあったそうなの」
春香「ば、爆破っ! またですか!?」
リョウ「ギクッ」
冴子「幸い、ケガ人は出なかったそうだけど、
ヒーローショーにしては過激な演出で、関係の無い店にも被害が出たとか……」
リョウ「………………」ダラダラ…
冴子「あなたって本当に正直ね、リョウ」
春香「えぇっ? ひょっとして、冴羽さんがその騒ぎを…」
香「ちょっとリョウ、アンタ一体…」
リョウ「ちがぁう! 誰にもケガをさせないためにはああするしか無かったんだ!」
冴子「まったく……久しぶりの爆破騒ぎかと思ったらこれだもの。
まぁ、私に免じて大目に見てあげるから、もっこりの話は帳消しね」
リョウ「トホホ……」
リョウ「ん? ……ちょっと待て、冴子お前今何て言った?」 - 冴子「えっ? ちょっと、女にそんな事を何度も言わせ…」
リョウ「違う、その一つ前だ」
冴子「? ……久しぶりの爆破騒ぎ、って件?」
リョウ「ここ最近で、この伊織ちゃんを乗せようとした車の爆破事故が2件も起きてる」
リョウ「そのうちの1件は俺の車だが、今はそんな事はどうでもいい」
リョウ「その事について、お前は知らないのか?」
冴子「初めて聞いたわ。少なくとも、これまで私の耳には入ってきていないわね」
伊織「えっ……!?」
春香「そんな、私達にとっては大きな事件だったのに!」
冴子「事件が起きた時、外回り中の署員が近くにいれば、彼らが現場へ急行するの」
冴子「今回は、たまたま私が近くにいたから、こうして向かっているのだけれど……」
冴子「車の爆破事故があったという報告は、署内に回っていないはずよ」
香「どういう事? 冴子さんが情報を見落とすなんて事も考えられない」
伊織「メディアの報道と同じ、警察の内部で誰かが揉み消してるってこと……?」 - リョウ「それもこれも、961グループの仕業って事か」
香「えっ?」
春香「961プロが、どうして?」
リョウ「スパゲッティ屋の近くで、海坊主に会った。961プロに雇われているらしい」
リョウ「さっきの爆破騒ぎだって、アイツが仕掛けた爆弾によるものだ」
香「海坊主ぅ!? 961プロって、今度フェスで対決するっていう、あの961プロ?」
伊織「誰よ、その海坊主って」
香「リョウと同じくらいの実力を持つ、凄腕の元傭兵よ」
春香「よ、傭兵……」ゴクリ…
冴子「961プロに雇われたスイーパーが水瀬伊織ちゃんを狙い、
かつその騒ぎを961が警察や報道機関に圧力を掛けて隠蔽している、と」
冴子「961グループの社長……黒井祟男なら、それほどの力があってもおかしくは無いわね」
香「すると、目的は今度のフェスで765側のセンターを務める伊織ちゃんへの嫌がらせ?」
リョウ「アイツはそうじゃないと言っていたがな。
つまらん嘘をつくヤツじゃないんだが、それ以外の理由が分からん」
春香「伊織だけを狙うっていうのも、良く分からないですね。
フェスには伊織だけじゃなくて、他の皆も出るのに」 - 伊織「どっちにしろ、私を狙う輩がいるって事がハッキリしただけでも十分よ」
香「い、伊織ちゃん……」
伊織「その海坊主ってのが冴羽リョウの知り合いなら、向こうの手口も分かるんでしょ?
見えない敵と戦うよりは、よっぽどマシだわ」
リョウ「なかなか良い事を言うな。アイツが相手だと、言うほど簡単ではないがね」
伊織「雇った以上はしっかり働いてもらうわよ。新堂、車の状態は?」
新堂「既にタイヤは交換致しました。
ボディは多少傷が付いてしまいましたが、走行に支障はございません」フキフキ…
春香「頑丈過ぎませんか、車!?」
リョウ「やれやれ、本当に大したタマだぜ」
冴子「あの子、水瀬財閥の…?」
リョウ「そっ、お嬢様。
家を見返すためにアイドルやってるそうだが、じゃじゃ馬も良いトコでもー大変」
香「もう十分立派なアイドルだと思うんだけど、そこで慢心しないってのが偉いわね~」
伊織「シャルル、ケガは無い? 怖い思いをさせてしまったわね」ギュッ…
リョウ「………………」 - ~レッスンスタジオ~
ガチャッ
真「あっ、春香、伊織! やっと来た!」
春香「皆、お疲れ様ー!」
やよい「春香さーん! 伊織ちゃんも、ケガしなくて良かったですー!」ダキッ!
伊織「や、やよい!? 皆、昼間の事もう知ってるの?」
律子「香さんから連絡をもらったのよ。
大変だったそうだけど、香さん達のおかげで無事に済んだようで何よりだわ」
香「私は別に何もできなかったんだけどね、アハハ」
真美「おじちゃん! サイバーのおじちゃんだー!」タタタ
リョウ「だぁから俺はおじちゃんじゃないの!」
亜美「サイバーおじちゃん、もっこり!」
真美「もっこり!」
美希「もっこりなのー!」
貴音「冴羽殿、もっこり」キリッ - リョウ「うむ、よろしい。さっ、雪歩ちゃんもボクに挨拶してごらん?」
雪歩「あ、うっ……も、もっ、も……!」カァッ…
香「リョウー!! お前この子達に何を吹き込んだぁっ!!」ガァンッ!!
リョウ「あぎゃっ!!」
香「なぁにが挨拶だ! 本当にアンタはいつの間にこんな…!!」ガミガミ…!
響「それで、もっこりって一体何なんだろ?」
千早「きっと、ロクでもない言葉である事は間違い無さそうね」
あずさ「あら~、もっこりっていうのはぁ~…」
P「ストォーップ!! あずささん、それ以上はダメです!」
P「あー、オホン!
とにかく、春香と伊織は、準備体操が終わったらすぐにグループ練に合流してくれ」
P「俺は他の皆の全体練を進めているから、
律子も、大体17時頃を目処にこっちに合流してくれるか?」
律子「了解です、プロデューサー」 - 香「あれっ? 伊織ちゃん達だけ分かれて練習するの?」
律子「えぇ。今度のフェスはクインテット、つまり5人組みのユニットで挑みます」
律子「そして、961プロとのライブ対決に勝った際のアンコール用として、
全員で披露するステージを練習中なんです」
テクテク…
リョウ「随分な自信だな。もしその対決に負けたら、当然アンコールも無いんだろう?」
律子「私達は勝ちます」
律子「確かに961プロのジュピターは強敵ですが、
765プロアイドル全員でのステージは、私達皆の夢だったんです」
香「確かに、この間の感謝祭ライブの時は、竜宮小町が台風で遅れちゃったんだっけ」
グッ…
律子「だから……絶対に勝ちます」
リョウ「……そうか」
香「それで、その5人のユニットって、誰と誰?」
律子「あぁ、それなら……」ガチャッ - 真・雪歩・亜美「お疲れ様でーす!」
律子「この3人と、春香、伊織の5人です」
香「ほほぉ~、なかなか個性的なメンバーを揃えたのねぇ」
真「個性的って、香さんも何だか失礼な事を言うなぁ」
亜美「大体、ウチに個性が無い人なんて、はるるん以外にいないっしょ→」
伊織「それもそうね。にひひっ♪」
春香「あ、亜美! 伊織も、ひどいなぁ皆して、もう!」プンスカ!
雪歩「は、春香ちゃん。まずは落ち着いて、お茶でも飲む?」
律子「さぁさぁ、無駄話はその辺にして、レッスン始めるわよ! 配置に着いて!」
一同「はぁーい!」
香「へぇー、レッスンってこんな雰囲気でやるんだぁ」
リョウ「うぅ、三浦あずさちゃんのもっこりバストが見たかった……」ジャラ…
香「言っとくけど、抜け駆けは許さないわよ」グイッ ジャラ
リョウ「グスン……」シュン… - ~~♪ パン! パン! パン! パン!
律子「はい、1、2、3、4、5、6、7、8! 1、2、3、4、5……」パン! パン!
律子「ほぉら、ストップ!」パンパン!
律子「春香! 真達とすれ違う所を意識しすぎて雑になりすぎ!」
律子「雪歩もよ! 後半辛いのは分かるけどもっと指先まで神経使って!」
春香「はいっ!」
雪歩「はぁ、はぁ……うっ、はい……!」
律子「亜美は勝手に走りすぎ! もっと他の子達の動きを見ながら動きなさい!」
亜美「うえぇっ!?」ギクッ!
律子「真! Bパートの5拍目辺りから位置がズレてるわ、軸足に気を使って!」
真「うわぁ、まだ直ってなかったかぁ」ポリポリ…
律子「伊織は前に出すぎてる! あと振りが全体的に遅れ気味よ!」
伊織「お、遅れてないわよ!」
律子「遅れてるから言ってるの!」
伊織「ぐっ……!」 - 香「うひゃあ、き、キビシー……」
リョウ「香よりも怖い女がいるとは……」ゴクリ…
香「どういう意味よ」
律子「とにかくもう一回! 頭から通しで行くわよ!」
一同「うえぇぇ……!」
律子「返事はっ!?」
一同「はいっ!!」
~~♪
律子「1、2、3、4、5、6、7、8! 1、2……」パン! パン!
伊織(何よ、律子! 私のどこを見てるのかしら……!)イライラ…
伊織(振りが遅れてるですって? ちゃんと見なさいよ、遅れてないじゃない!)
伊織(5、6、7、8!)
タンッ タンッ! - 伊織(それに、私が前に出すぎてるんじゃないわ。
他の皆がステージを広く使えていないだけよ!)
伊織(5人でやるんだから、もっとダイナミックに動かなくちゃ盛り上がりに欠けるわ!)
伊織(水瀬家は常に帝王たれ……もっと、大きく……もっと前に!)
タンッ! タタン タンッ!
雪歩「わ、わわっ! い、伊織ちゃ…!」キュキュッ!
伊織「えっ」
雪歩「きゃっ……!!」グラァ…!
ドシンッ
律子「!! 雪歩っ!!」ダッ!
香「転んだわ!」
リョウ「おい、大丈夫か!?」
雪歩「あぅ、ぐ、うっ……!!」プルプル…
春香「雪歩、大丈夫!?」
真「ちょっと見せて……あ、足首が……!」
亜美「うあうあー、大変だよー! 兄ちゃーん!!」ダッ! - 伊織「………………」
P「……そうか。伊織とぶつかりそうになった雪歩が、それを避けようとして……」
雪歩「プロデューサー……ごめんなさい……!」ポロポロ…
P「お前が謝る事じゃない。伊織も、皆一生懸命練習をしようとした結果、起こった事だ」
伊織「…………」プイッ
律子「それにしても、どうしましょう? プロデューサー」
律子「雪歩のケガは、フェスまでに治るかどうかは分かりませんし、
仮に治るとしても、この状態ではどのみちレッスンはできません」
P「……そうだな」
P「美希、響、貴音」
響「ん、自分?」
貴音「お呼びでしょうか、プロデューサー」
P「今度のフェス、お前達に任せられるか?」
伊織「…………ッ!!」ガタッ! - 美希「うん、いいよ」
P「今の俺達の中で、一番ステージの完成度を高めることができるのは、
フェアリーのオーバーマスターだ」
P「クインテットライブよりも人数は減ってしまうが、
お前達ならクインテットに負けないダイナミックなステージ作りができると思う」
響「おぉっ、自分達が春香達の代わりに出るのかぁ!
ちょっと責任重大だなー、でもなんくるないさー!」
貴音「元より私達も、最高のステージを作り上げるために常に精進している身。
いついかなる時でも、心の準備は出来ております」
律子「妥当な選択ですね。美希も、気を引き締めてレッスンしなさい」
美希「大丈夫なの。今度のライブのじゅーよーせーは、ミキも分かってるつもりだよ?」
P「皆も、それでいいか?」
春香「それは、こんな事になったらしょうがないですし……皆、いいよね?」
千早「客観的に見ても、美希達が出るのが一番だと思います」
やよい「みなさん、私、ばばばーんって応援しちゃいますー!」ピョン!
真美「真美達も負けないよーん!」ピョン!
伊織「ちょ、ちょっと待って!!」
P「ん……」 - 伊織「そ、それじゃあ竜宮小町で出るのはどうかしら!?」
伊織「ほらっ! 私達の方がそれなりにテレビに出ていて知名度もあるし、人気も…!」
あずさ「伊織ちゃん」
伊織「!」
あずさ「……その言い方は、美希ちゃん達に失礼よ?」
伊織「くっ……!」
美希「デコちゃん」
伊織「! 美希……」
美希「そんなに焦らなくても、大丈夫なの」
美希「ミキ達がちゃんと会場を盛り上げて、デコちゃん達のステージを作ってくるから」
美希「ミキ的には、デコちゃんにはもっとミキ達の事を信じてほしい、って思うな」ニコッ
伊織「そんなんじゃない!!」
美希「!?」ビクッ!
伊織「このライブには、私が出なきゃいけなかったの!!
私が! 私が……もっとランクを上げるための、大事なライブだったのに!!」
伊織「こんな事で、足踏みなんてしていられないのよ!!」 - 春香「ちょ、ちょっと伊織! いくらなんでもそれはワガママじゃ…!」
伊織「良いわよね春香。
あんたはいつだってお気楽な事を言っていればいい、おめでたいポジションで!」
春香「な、なっ……!?」
真「ちょっと待ってよ伊織! そんな言い方は無いだろ!」
伊織「何よ真っ! ただしゃんしゃんプリティでいたいだけのあんたに、
この私の悔しさが分かるの!?」
真「そんな事言ったら、元々このライブに出れなかった他の皆だって悔しかったよ!!」
伊織「うるさいわねっ!! 大体雪歩がボーッとしてケガなんかするのが悪いのよ!!」
雪歩「ひっ……!」
真「伊織っ!!! 雪歩に謝れっ!!」
伊織「何でよ! 謝らないわよ!」
真「あれは伊織が自分のエリアを越えて動き回ってたのが悪いんじゃないか!!」
伊織「ステージを盛り上げるためよ!! 私は悪くないわ!!」
律子「伊織、そこまでにしなさい!」
伊織「律子……!!」キッ
律子「どうしたのよ、伊織。最近のあなた、何だか様子がおかしいわ」 - 伊織「……上を目指す事が、そんなにおかしい事?」
伊織「誰からも認められるトップアイドルになろうとする事が、おかしいっていうの!?」
律子「そのために、他の皆を顧みないのはおかしい事よ」
伊織「! ッ…………」
律子「あのね、伊織……あなたの事や、家の事情は、私達も良く理解しているつもりよ」
律子「ただ、そんなに簡単にトップアイドルなんてなれるものではないの。
同じ事務所の12人全員をトップアイドルにするのは、なおさらそう」
律子「でも、それが私やプロデューサーの夢であり、目指すべき道」
律子「一度目指すと決めたなら、それを実現させるための最善策を常に講じていくわ」
律子「今度のライブは、あなただけのライブじゃない。
皆が次の段階へと上っていくためのライブなの」
律子「時間はかかるでしょうけど、いつか必ずあなたもトップアイドルにするわ。
だから、私とプロデューサーを信じて。お願い」
伊織「…………みんな、律子の監督不行き届きじゃない……」
律子「えっ……?」
伊織「この間の仕事だって、何で私が芸人達とおでんを食べなきゃならないのよ!!」 - 律子「!?」
亜美「あっ、この間の収録の罰ゲーム……」
伊織「あんな事やらされて、私のイメージはどうなるっていうの!?」
伊織「その前だってそう! アイドルらしい事は申し訳程度に収められて、
後はただクイズのパネラー席に座ってやらせ回答したり、ひな壇に座るだけ!!」
伊織「このままじゃ、せいぜい飽きられないうちに汚れ役として使われて、
時期が来れば自然消滅する三流タレントになるのがオチよ!」
伊織「私達を信じて、ですって? よくもそんな事が言えたわね!」
伊織「律子やプロデューサーがいなくたって、私はやっていけるわよ!!」
律子「!!」
伊織「いいえ、いない方がやっていけるわ!!
もっとCDを出して、音楽番組にも売り込みをして! 実力はあるもの!」
伊織「さっきのレッスンだって!!
私の事をちゃんと見ない、売り込む事ができないプロデューサーなんていらな…!」
パチンッ!!
伊織「…………ッ!?」 - 律子「! はぁ、はぁ、はぁ……」
香「り、律子さん……」
P「うわっ、つ…………痛そう……」
伊織「…………ッ!」ポロポロ…
やよい「伊織ちゃん……」グスッ…
律子「…………ごめんなさい」クルッ
香「あっ、ちょっと……」
カツッ カツッ ガチャッ バタン
伊織「………………何よ」スッ
ツカツカ ガチャッ バタン!
春香「あ、あぁ……」オロオロ… - ザワザワ…
美希「ミキ、何か悪い事、言ったかな……」
貴音「貴女は何も心配は要りませんよ、美希」
響「でも伊織、自分達の知らない間に、相当ストレス溜めてたのかなぁ……」
真「雪歩は何も気にしなくていいからね」
雪歩「ううん、ごめんね。あの……伊織ちゃんも、すごくレッスン、本気だったもの」
雪歩「それについていけなかった、私が悪いの……」グスッ…
亜美「ううん、ヘーキヘーキ! いおりんもちょっとムヒのし所が悪かったんだYO!」
千早「亜美。それってたぶん、虫の居所じゃないかしら」
亜美「そうともゆう」 - あずさ「でも、どうしましょう……このままじゃ、伊織ちゃんも律子さんもかわいそう」
真美「仲直りしないで、雰囲気サイアクのままレッスンしたくないよぅ、真美」
P「とりあえず、俺、伊織を見てきます」
リョウ「いや、アンタは律子君の所へ行ってあげた方が良い」
P「えっ?」
香「伊織ちゃん、プロデューサーさんに対しても強い口調で言っちゃったもの。
今顔を合わせたら、きっと伊織ちゃんも余計に追い詰められちゃうわ」
香「というワケで、ここは女同士、アタシに任せて」
リョウ「頼んだぞ」
香「……えぇ!」タッ
タタタ…
P「すみません、こんな事で気を遣わせてしまって……」
リョウ「大変なのはおたくらだ。俺達に謝る事じゃないさ」
リョウ「とにかく、律子君の下へ急ごう」
P「はいっ」 - ~スタジオ外 非常階段~
伊織「ひっく、ひっく…………」
伊織「律子の、馬鹿……何よ…………もう、知らないから……」グスッ…
カンッ カンッ…
伊織「…………?」
香「おぉ、いたいた。こんな所にいたのね」
伊織「香…………」ゴシゴシ…
香「はい、オレンジジュース。ロビーの自販機で買ってきたけど、飲む?」スッ
伊織「いらない」
香「うぐっ……即答……」
伊織「ここの自販機には、果汁100%のオレンジジュースが無いもの」
香「よくご存知で。じゃあ、代わりにアタシが飲もうっと」プスッ
香「……うん、美味しい。なかなか捨てたモンじゃないわよ?」チューッ
伊織「………………」 - 香「傍から聞いてただけの身で悪いけど……」
香「さっきのやり取りは、伊織ちゃんに非があると思うわ」
香「ちゃんと、雪歩ちゃんや、律子さんに謝るべきだとアタシは思う」
伊織「………………」
香「なぁんてね」ニコッ
伊織「……?」
香「アレくらい言いたい事言ってやった方が、お互いせいせいするわよ」
香「もちろん、伊織ちゃんの言動って、すごく誤解を生みやすいし、
今日みたいにケンカも起こしやすいけど、それはそれじゃない?」
香「アタシもつい言いたい事言っちゃって、よく兄貴に怒られたりしたんだー」
伊織「兄……?」
香「そっ。もう死んじゃったけどね」
香「でも、ケンカしたら仲直りすればいいわ」
香「リョウとだって同じようなやり取りするけど、ずっと一緒にやってきたし、
ケンカの一度や二度した所で崩れてしまうような絆じゃないもの」
香「それは、765プロの皆だって同じでしょう?」 - 伊織「……皆に謝れ、って言わないの?」
香「謝った方が良いって伊織ちゃんが思うのなら、そうすると良いわ」
伊織「!」
香「アタシだけじゃなくて、むしろ皆の方がよく知ってるんじゃないかな」
香「今のような事をアタシに聞くくらい、伊織ちゃんは周りに気配りができる、
とっても優しい子だって」
伊織「香……」
香「でもね……一つだけ、聞いても良い?」
香「何でそうまでして、伊織ちゃんはあのフェスにこだわったのかな」
伊織「………………」
香「もちろん、家を見返すためにトップアイドルになろうって気持ちは良く分かったわ」
香「でも、伊織ちゃんのような優しい子が、あそこまでなりふり構わなくなるのは、
よほどの理由があるはずよね……?」
伊織「…………お父様と約束したの」
伊織「今度のフェス、必ず見に来る、って……」 - 香「お父さんと?」
伊織「お父様は、私がアイドルを目指すって言った時、何も反対しなかった」
伊織「それどころか、古い友人である高木社長に声を掛けて、
765プロに入れてくれさえもしたわ」
伊織「最初は、私の事を応援してくれてるって思って、嬉しくなったの」
伊織「でも……そんなのじゃなかった」
伊織「順調にウチの財閥の関連会社を任されているお兄様達と違って、
私は、会社の経営学とか、帝王学といった教育は何も受けさせてもらえなかった」
伊織「お父様から、何も期待されていなかったの」
伊織「だから、私が何をしようと見向きもしない……
好き勝手させてきたのだって、厄介者な私を大人しくさせるため」
伊織「アイドルをさせてくれたのだって、やっと認めてくれた、って思ったのに……
結局、娘を黙らせる新しい玩具ができた程度にしか思っていなかったのよ」
香「そ、そんな……」
伊織「そのお父様に、自分を認めてもらえる初めてのチャンス……
私は、床に頭を擦り付けてお父様にお願いしたわ」
伊織「チケットを渡すから、どうか今度のフェスを見に来てください、って」
伊織「だから…………」ジワ… - 香「……ふぅん、そっかぁ」
香「親に認めてもらえるチャンスだから、ね……」
伊織「あんたには分からないでしょうね……常に優秀な兄達と比べられる私の苦しみは」
香「そうね……正直、分からないわ」
香「何せ、親がいなかったもの、アタシ」
伊織「!? えっ……」
香「血の繋がっていない兄貴一人しかいなかったから、親ってどんなカンジなのかって、
良く分かんないな」
伊織「ち、血の繋がりが無い……?」
香「リョウのパートナーってね……元々、アタシの兄貴がやっていたの」
香「でも、ある時、兄貴が悪いヤツらに殺されて……」
伊織「!!」
香「それからは、アタシがやってるんだ。パートナー」
香「リョウは、何も言ってくれないけれど……アタシも、すごく悩む事があるの」
香「アタシは、パートナーとしてリョウに必要とされてないんじゃないか、って……
兄貴と違って、足手まといになってるんじゃないかって」 - 香「だから、少しでも認めてもらおうと、アタシなりに努力してみたりするのよ」
香「ほら、961プロに雇われてるっていう、海坊主ってスイーパー。
あの人に、トラップの仕掛け方を伝授してもらったりね」
伊織「はぁっ!?」
香「それに、曲がりなりにも危険を潜り抜けてきたおかげで、
自分の身くらいは多少なり守れるようにはなってきたわ」
香「銃の扱いは、まだまだだけどね」
香「さっきだって、リョウから「頼んだぞ」なんて言われちゃって、
ちょっぴり嬉しかったりして。えへへ」
香「でも……最近になって思うの」
香「認めてもらおうと思う気持ちなんて、結局はアタシの自己満足で、
何もリョウのためにならない事なのかな、ってさ」
伊織「! 冴羽リョウの、ために……」
香「まっ、自分のため=リョウのためになるんだ、って割り切る時もあるんだけどね」
香「だから……アタシは、正直伊織ちゃんの苦しみは、理解できないんだと思う」
香「でも、その……上手く言えないんだけどさ」
香「今の自分の行動が、一体誰のためになるんだろうって……
時々でいいから、振り返ってみるのはどうかな?」 - 伊織「自分の行動が、誰のためになるか……」
香「もちろん、お父さんに認めてもらう事は、何より自分のためで、
それ以外に無いのかも知れないけど……」
香「もし、皆に謝らなくちゃ、って思ってるんだとしたら……」
香「さっきの言動は、本当に伊織ちゃんがやりたい事だったのかな……
誰かのために、なる事だったのかな……?」
伊織「………………」
伊織「私…………皆に謝ってくるわ」スクッ
香「ふふっ、そう言うと思った」ニコッ
伊織「えっ……?」
香「実は、ここの自販機に果汁100%のオレンジジュースが無い事は、知ってたの」
香「さっき、そこの二人に教えられてね。隣のコンビニまで買ってくるって」スッ
伊織「…………!?」クルッ
雪歩「伊織ちゃん……さっきは、ごめんね」スッ
真「雪歩は休んでて、って言ったのに、一緒に行くって聞かないんだもん。
まいったよ、もう」 - 伊織「雪歩…………真……!」
雪歩「伊織ちゃん、ごめんね……
そんなに、伊織ちゃんにとって大事なライブだったのに、私……!」ジワァ…
伊織「ちょ、ちょっと止めなさいよ!
先に謝られたら、こっちだって謝れないじゃない!」
真「謝りたくて怒るなんて、伊織らしいよ。へへっ」
伊織「真っ! 茶化すのは止めなさい!」
伊織「もう……とにかく、私が悪かったわ。
ケガをさせた事も、フェスに出れなくなってキツく言っちゃった事も、全部ね」
伊織「何より、事情を皆に話しておくべきだったって……ごめんなさい」
雪歩「…………伊織ちゃん」
雪歩「中に、入ろっか。皆の所に、帰ろう?」
伊織「……えぇ、いい加減そろそろ寒くなってきたしね」
香「実は、この寒空でオレンジジュース飲むの、結構しんどかったりして……」カタカタ…
真「何でそんなやせ我慢してたんですか」 - ~屋上~
P「ほら律子、コーヒー」スッ
律子「ありがとうございます……」
リョウ「おほ~、あったかい」ズズ…
律子「自分のアイドルに手を上げるなんて……プロデューサー失格ですね」
P「あの状況では仕方ない。そう悲観的になるなって」
律子「でも……!」
リョウ「人間、誰だってカッとなる事くらいある。
伊織ちゃんだって、いつまでもこの程度の諍いを引きずるような子じゃないさ」
律子「……確かに、分別はできるしっかりした子です」
律子「でも……だから、驚いてしまったんです」
律子「まさかあの子の口から、あんな言葉が出てくるだなんて……
ワガママではあるけれど、場の空気を乱すような事まではしないし、言わなかった」
律子「それで、信じられないって思って……頭に、血が上ってしまって……」
P「あぁ、気持ちは分かるよ」 - リョウ「しかし、君みたいに生真面目な子の方こそ、
頭に血が上った経験は少ないんじゃないのか?」
律子「えっ?」
リョウ「仕事に私情を持ち出さない人間は、
合理的な結論を導く事を常に優先するあまり、ただ一つの手段に固執する」
リョウ「そういう人間は、理屈では考えられない、想定外の事態に弱いんだ。
理屈でしか考えられない人間なのだから、当然だな」
リョウ「きっと君は優秀で、理詰めで大抵の物事をこなしてきただろうから、
なおのことそういう経験は少ないんだろう。違うかい?」
律子「……私が優秀かどうかはともかく、想定外の事に弱いのは確かですね」
リョウ「そんな君に、とっておきの治療法がある」
律子「えっ、治療法?」
リョウ「あぁ」
リョウ「恋の手ほどきさ」ニコッ
律子「…………は?」
ワキワキワキワキ…
律子「!? う、うわ……!」ビクッ! - リョウ「にっひっひっひ、このピッチピチのスーツに隠し切れないもっこりヒップ!
そしてくびれ! バスト!」
リョウ「昔はアイドルやってたんだってね~りっちゃん? ヌフフ!」ワキワキ…
リョウ「おい、プロデューサーさん。
これから起こる事については、くれぐれも他言してくれるな。男の約束だ」キリッ
P「えっ、あの……後ろ、危ないかも……」
リョウ「なーっはっはっはっはっ!!
邪魔者がいないこの場だったらいくらでもこのボクちんもっこりでき…!」
ドガアァァァンッ!!! 【100t】
リョウ「あ、アヘヘ……りっちゃん何でそんな物騒なもの持ってるの?」ピクピク…
律子「香さんから借りたんです」フンス!
リョウ「あっ、そう。へぇ~~……アイツめぇ……」バタン… - 律子「ふぅ……でも、何だかスッキリしたかも!」
P「そ、そうか。それは良かったな」
律子「えぇ」
リョウ「そう。それがもっこり治療法の真の狙いだったのだ」ウンウン
律子「は、早いですね、起きるの……」
リョウ「さぁ、そろそろ戻ろう」クルッ
リョウ「まずは一度、伊織ちゃんとしっかり話をしてみる事だ。
彼女の方も、今頃は香が上手くやって、気持ちを落ち着けているところさ」
リョウ「お互いにわだかまりがあると、影響があるのは今回のフェスだけじゃないだろう?
竜宮小町とそのプロデューサーとして、これからも一緒にやっていくんだし」
律子「………………」
リョウ「…………?」ピタッ
P「あ、あの……冴羽さん」
律子「……頭に血が上ったのは、伊織から言われた内容も、あったんです」
律子「今日、皆に話そうと思っていました……」
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伊織「何がシティーハンターよ、ただの変態じゃない!」【後編】