P「いや、どこも見てないぞ?」
奏「そう。Pさん」
P「どうした」
奏「下手ね、嘘が」
P「…………」
奏「どこを、見てたの?」
P「どこって訳じゃなくて、奏を」
奏「ふぅん、どうして?」
P「それは……」
奏「気が付いたら、目が追っていた?」
P「……いや」
奏「下手ね、やっぱり」
P「…………」
奏「そっか……ふふっ」
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奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「唇を、な」
奏「そ。似合ってるかしら」
P「ああ。口紅のCMに高校生なんてと言われたが、間違ってなかったよ」
奏「Pさんは私の唇、好き?」
P「好きというか、綺麗だとは思ってるよ」
奏「ふーん……ね、Pさん」
P「ん?」
奏「この口紅。落ちやすいかな、落ちにくいかな……試してみて、いい?」
P「……ご自由に」
奏「そう……ちゃんと、見ててね?」
P「ああ」
奏「……ん」
P「…………」
奏「結構すぐ落ちちゃうのね、指で拭っただけなのに」
P「そうだな」
奏「キスされちゃうかと思った?」
P「いいや」
奏「Pさんは、落ちにくいみたいね」
P「生意気な口を」
奏「塞いじゃう?」
P「いいや」
奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「……言いたくない」
奏「じゃあ、キスしたら教えてくれる?」
P「何だよその理論は……おい近いぞ待て近い近い近い!」
奏「教えてくれる?」
P「…………腰」
奏「腰?」
P「そんな細い腰で、どうやってあれだけ激しいダンスをこなしてるのかちょっと心配になってな」
奏「……ふふっ。そんな事心配してたの?」
P「だから言いたくなかったんだ」
奏「大丈夫、ちゃんと私は踊れるわ」
P「ああ、それは信じてるよ」
奏「トレーナーさんや、仲間や、あなたが。教えてくれたもの、手取り、足取り、腰取り」
P「…………」
奏「なーんて。ちょっとクサかったかな」
P「……奏」
奏「何、Pさん?」
P「俺は腰を取った覚えは無いぞ」
奏「そうだったかしら」
周子「どこ見てんのー、プロデューサー」
P「いや、二人の脚を」
奏「やらしい人」
P「やましい意味じゃなくてだな! 白いなって思ったんだ!」
奏「白い?」
P「ああ。奏も肌が白いと思ってたが、改めて見比べると周子はそれ以上だ」
周子「あー、何だっけ。白い七味?」
奏「色の白いは七難隠す、ね」
P「またテキトーな覚え方を……」
周子「まぁまぁ。それに奏も結構白いよ?」
P「そうなのか?」
周子「うん。肩も背中もシミ一つ無いし」
P「…………」
周子「玉のような肌って言うのかな? シャワーを弾くみたいな」
P「…………」
周子「肩とかだけじゃなくて、他のもっと」
奏「Pさん、真剣に聞き過ぎ」
P「いや、これはやましい意味じゃなくてな」
周子「いや、やましいでしょ」
P「…………やましいです」
奏「やらしい人」
奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「眼を見てたんだ」
奏「あら、今日は素直なのね」
P「今度はマスカラのCMを取って来れないかと思って」
奏「なーんだ」
P「この前のCMで分かったが、奏は化粧映えする顔だしな」
奏「それ、褒めてるの?」
P「貶してるわけじゃない。化粧なんてしなくても、奏は綺麗だ」
奏「……そ」
P「もっと近くで見ていいか」
奏「え? あ、うん」
P「よっ、と」
奏「…………」
P「…………」
奏「…………」
P「あれ。奏、ひょっとしてチーク差してるか」
奏「…………見過ぎ」
P「どこ行くんだ、奏?」
奏「…………化粧室っ!」
奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「その指……」
奏「ああ、これ? 加蓮に塗ってもらったのよ」
P「オレンジか」
奏「彼女の色ね」
P「奏の色は何だろうな……青。違うな、蒼?」
奏「それは凛の色かな」
P「それか、黒だな」
奏「当たり。ペディの黒は自分で塗ってみたわ」
P「洒落てるな」
奏「女の子だもの。身嗜みには気を使わないとね」
P「時々忘れそうになるよ。奏は隙が無いから」
奏「そうねぇ、寝る時くらいかしら。マリリンも言ってたでしょ?」
P「何?」
奏「シャネルの五番よ、って」
P「ああ、何か聞いた事あるな」
奏「私の場合は、名も知らないマニキュアとペディキュアね」
P「…………」
奏「想像した?」
P「ああ。夏はいいが、今の季節は止めた方がいい。風邪でも引いたら困る」
奏「……はぁ」
奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「……別に、どこも」
奏「相変わらず嘘が下手ねぇ」
P「ほっとけ」
奏「ま、水着なんて、見る場所は限られてるけどね」
P「…………」
奏「ご感想は?」
P「ノーコメント」
奏「つれない人」
P「成人男性が女子高生の水着見て感想言うのも変態っぽいだろうに」
奏「じゃあ、プロデューサーとしてなら?」
P「白い肌に群青のビキニがこれ以上無いくらい似合ってる。
バストも結構ある方だけど、腰までの滑らかなラインがすらりとして眩しい。
足先もペディキュアで飾って」
奏「ねぇ」
P「何だ」
奏「わざとやってる?」
P「何をだ」
奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「奏の未来を少し、な」
奏「よく見えた?」
P「残念だが、まだはっきりとは」
奏「そ」
P「おい、手」
奏「大丈夫。私もPさんと一緒に歩いてあげるから」
P「…………そうか」
奏「ふふ……授賞式の蘭子ちゃん、可愛かったわね。今にも泣き出しちゃいそうで」
P「ああ。奏」
奏「ん?」
P「必ず、ガラスの靴を履かせてやる」
奏「……ふふっ! どうしたの、急に?」
P「見えたんだよ、少し。ガラスの靴を履いた奏が」
奏「へぇ」
P「後ろ姿が、ちらりとだけどな」
奏「じゃあ、振り向いてもらわないとね?」
P「そうだな」
奏「Pさん」
P「何だ」
奏「今の私も、ちゃんと見ててね?」
P「ああ」
奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「うなじ」
奏「そんなに珍しいものでもないでしょうに」
P「いや、珍しいぞ。奏は滅多に髪上げないしな」
奏「…………」
P「あ、おい。何で下ろしちゃったんだ」
奏「ちょっと意地悪したくなってね」
P「頼む、もう一回やってくれ」
奏「ふーん……そんなに見たいの?」
P「見たい」
奏「…………」
P「おお…………」
奏「…………はい、おしまい」
P「あ。……もう一回!」
奏「ふふっ、もう。きりが無いじゃないの」
奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「あ、いや、その、これは不可抗力で」
奏「ご感想は?」
P「眼福……じゃなくて、違う」
奏「……ふふ。まぁPさんなら別に、着替えくらい覗かれてもいいけどね」
P「いや、よくはないだろう」
奏「わざとじゃないんでしょう?」
P「まぁ……」
奏「ならいいわ。……でも」
P「でも?」
奏「他の娘の着替えを覗いたりしたら。すっごく、すごく、怒るわ」
P「…………はい」
奏「だから、他の娘を覗いたりしちゃダメよ」
P「……なぁ」
奏「ん?」
P「その言い方だと、まるで奏なら覗いてもいいように聞こえるんだが」
奏「そうね、私は怒らないけど。……どうする?」
P「どうするも何も無い」
奏「変な所でお堅いんだから」
P「変とは何だ変とは」
奏「どこ見てるの、Pさん?」
P「ああ。奏の髪、綺麗だと思ってな」
奏「そう? 凛や肇には敵わないくせっ毛だと思うけど」
P「長くはないが、よく手入れされていて綺麗だ」
奏「……触ってみる?」
P「いや、遠慮しとくよ」
奏「そう」
P「髪は女の命って言うしな。男が気軽に触るもんじゃないさ」
奏「…………」
P「奏?」
奏「…………意味、ちゃんと分かってるんじゃないの」
P「はっ?」
奏「何でも無いわ」
P「いや、意味が分からん」
奏「……どこ、見てるの? Pさん」
P「奏の全部を、見てる」
奏「そうね。隅から隅まで、見られちゃってるわ」
P「綺麗だ」
奏「……ふふっ。ありがと」
P「周子の言ってた事、嘘じゃなかったな」
奏「そんな事もあったわね。あの時のPさんは面白かったわ」
P「そりゃ、気になる女の子の話だからな。聞きたくもなるさ」
奏「調子の良い事言って」
P「許してくれよ」
奏「…………ねぇ、Pさん」
P「ん?」
奏「見てるだけで、いいの?」
— = — ≡ — = —
「何見てるの、あなた?」
「ん? アルバムだよ。ほら」
「あら、懐かしい……ふふっ、みんな若いわね」
「まだ数年前だろうに」
「毎日が濃かったからかしら。随分昔のような気がしちゃうわ」
「そうか、この頃は髪も短かったんだな」
「今から見ると可愛いものね。背伸びなんてしちゃって」
「俺にはそう見えなかったけどな」
「あなたの為にしていた背伸びだもの」
「…………」
「惚れ直した?」
「惚れてない時間が無いな」
「ふふっ。あなたも少しは大人になったわね」
「……はぁ。こりゃ死ぬまで姉さん女房だな」
「まだ背伸びをしてるだけかもしれないわよ?」
「演技の巧さは相変わらずだな」
「正解、知りたい?」
「教えてくれるならな」
「そう。じゃあ」
「——私から目を離しちゃ駄目よ、あなた?」