1:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)00:54:19.52ID:a1iubFJpo


nozomi_tojo-02

――――――――――――――――――――

…………μ'sの母なんて、誰が言い始めたんやろ?

まあ、嫌というわけではないんやけど、でもなんとなく釈然とせんときあるんよ。ウチそんな年やないし。

東條希は音ノ木坂学院に通う三年生。人呼んでμ'sの母。まあこの場合の母っていうのは、皆から信頼されとるって意味で手を打とうかな。

忘れてる人もおると思うけど、ウチは運がいいんよ。スピリチュアルなだけでなく、フォーチュンもお手の物ってところやね。

おみくじとか、くじびきとか、いつも良い物引き寄せるって言われてるんやで。

とはいっても、運が良くても悪くても、夜になって朝になって……毎日はぐるぐる回っていく。

それはラッキーガールなウチでも同じことで、みんなに対して平等に朝が始まっていくわけなんよ。

だからちょっと「最近肌寒くてベッドから出たくないわぁ」なんて思っていたって、誰にでも同じように時間は過ぎていくんやね。

もうちょっとだけ、……もうちょっとだけ……。むにゃ……

これはそんな東條希のとりわけツイてない一日のお話。

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3:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)00:58:34.30ID:a1iubFJpo


――――――――――――――――――――

自分でも、髪の毛結構長いなって自覚はある。

なんだかんだ海未ちゃんよりも長いから、μ'sで一番髪が長いってことになるんやないかな。そのせいもあって、毎日毎日髪を洗うのが一苦労。手入れも結構大変やったりする。

黒髪ロングは結構ポイント高いなんて軽く言われることもあるんやけど、その『ポイントの高さ』は女の子の陰ながらの努力で培われているっちゅーことを、もっと知っといてもらいたいかな。なんてご高説を垂れてみる。決して二度寝の言い訳やないんよ。

ピピピ、ピピピ、ピピピ

昨日は妙にダンスの練習がハードで、ホントに髪を洗うのが億劫やった。

でもさすがにお風呂入らず寝るわけにもいかないし、頑張って入って、その後なし崩し的に身支度を整えて倒れるようにベッドにダイブしたわけで。だから二度寝だって仕方ないやんな?

ピピピ、ピピピ、ピピピ

随分前から目覚ましがうるさい。

でも寒いしベッドから出たくない…………もうちょっと寝かせて欲しい。そんなことをしばらく繰り返す。

二度寝は一人暮らしの特権やね、なんて。プカプカ夢に浸かりながら思ったり。

ピピピ、ピピピ、ピピピ

もー、いい加減うるさいんよ~~!

パシッ

と、目覚ましを止める。

「う~~~~、んぐぐ」

伸びをしたところで愕然とした。『随分前から目覚ましが鳴っていた』ことに気づいたからだ。

「はっ、今何時なん!?」

と、時計を確認したところで玄関のドアがノックされる。

「希~~~、起きてる~~~?」

「あ、あばば…………寝坊や……」

4:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:04:24.95ID:a1iubFJpo


しかたがないので大急ぎで学校へ行く準備を始める。できるだけ早く、忘れ物が無いように。さっきまでの微睡みも今はいずこ、慌ただしい朝の始まりだった。

ツイてないなぁ。

「ごめ~ん、ちょっと寝坊しちゃったんよ」

「あら、珍しいわね」

と家を出発。お陰で朝ごはん抜き。ガックシやで…………。

いつもは時間までには集合場所でエリちを待っている側なのに、今回はウチが寝坊して、家まで迎えに来てもらうことになってしまった。アカンなぁ、この季節は。

ウチの少し前にはエリちの後ろ姿。高めで結ったポニーテールを眺めながら通学路を歩く。

空は雲ひとつなくて、なんだか空気も美味しく感じる。天気予報では今日は晴れるらしい。

落ち込んでもしゃあないな……。切り替えが肝心やしね!

「あ、そうだ、聞いてよ希」

「ん?……どしたん」

金色のポニテールがエリちの歩調に合わせてうきうきと揺れている。なにか良いことでもあったんかな。

5:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:07:10.05ID:a1iubFJpo


「さっきね、時間になっても希が待ち合わせ場所に来なくて、待っているのもなんだし希の家に行こうと思ったのよ」

「ごめんな~、わざわざ家まで来させて……」

「遅刻するほど遅くもないし、気にしないでいいわ、……それよりもね」

と、一旦言葉を切ってこっち側を向いた。その顔は笑顔。

「久しぶりにこっちに来たんだけど、あそこの辺りにね、ポップコーン屋さんができてるのよ!」

「え、そうやったん?」

「そうなのよ!ほら」

指差す方向には、確かに看板があった。最近にわかに流行っているちょっと高級なポップコーンのお店。

したり顔のエリち。それにしても、いつの間にそんなものができたんだろうか。……全然気づかなかったなぁ。多分いつもウチが通る道とは微妙に違う道で来たんやろなぁ。

「だからね、希。…………えへへ」

「わかった、放課後一緒に行こ?」

満面の笑み。笑顔が眩しい。

「絶対ね!約束よ!……ふふっ。迎えに来て正解だったわねー」

エリちは放課後の約束に至極満足しているようだった。授業中にお腹が鳴らないか心配だなぁ、とウチはぼんやり考えていた。

あと、まだ少し……眠たいな。

6:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:12:25.08ID:a1iubFJpo


――――――――――――――――――――

その時、ウチの髪がふわっと揺れた。

「あっ、希ちゃんに絵里ちゃんにゃー!」

丁度歩いていたのは音ノ木坂学院の校門のあたり。……風が吹くかのように現れたのは凛ちゃんだった。今日も元気にかわええなぁ。

「おはよ、凛ちゃん」

「おはよう、凛」

エリちと二人で挨拶をしていると「凛ちゃん待ってぇ」と後ろから花陽ちゃんが走ってきた。打てば響くように凛ちゃんと花陽ちゃんは挨拶しながら走り去っていく。

「若いねぇ…………」

輝く一年生諸君の到来に、分不相応なセリフを言ってみる。と、そんな時。

「わぎゃっ」

ウチの胸に顔をうずめる女の子が一人。

「わふっ……はっ……!?んんん」

どうやら歩きながらスマートフォンをいじっていたらしく、急な事態を把握しきれていないようやった。

「ちょ、っと、……真姫ちゃん。そろそろ離れてくれへんかな」

「んひゃっ!!」

ようやくウチの胸から顔を引き剥がした真姫ちゃんは複雑そうな顔をしている。というか少し顔が赤いような……?

7:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:16:52.61ID:a1iubFJpo


「歩きスマホって最近危ないって言われてるのよ、気をつけなさい真姫」

「え、えぇ。この前も電柱にぶつかりそうになったんだわ……」

「まあ、ええよ。ウチも真姫ちゃんも怪我したわけじゃないしな」

「…………。」

そこでなぜか真姫ちゃんは黙ってしまった。どしたんやろか。

「気をつけなアカンよ、真姫ちゃん」

なにか言いにくそうな表情をしていたので、促すような声を掛けてみる。

少しだけまた間が開いたあとに真姫ちゃんは

「あ、ありがとう」

と真っ赤になりながらお礼を言ってきた。いじらしく癖のついた髪の毛をくるくる指で巻きつけている。

「その、ぶつかったのが、あなたでよかったわ。希。これからは気をつける」

逡巡

「……あと、やわらかかったわ。とても」

そう言い残し、風に流されるように校舎へ吸い込まれてしまった。顔はとても赤かったが、怒っているわけではないみたいやな。ふふ。

「……行ってしまったわね」

「せやね……」

秋が近い。紅葉の季節やし、真姫ちゃんも真っ赤に染まることもあるかもしれんなぁ。なんて、モミジに想いをはせてみる。

「さ、希、………………ふふっ、そろそろホームルームが始まってしまうわ。いきましょう」

時計を見れば確かにそんな時間だった。そういえばウチは寝坊したんやったな。急ごう急ごう。

でもなんかいまエリちの発言に間があったような…………。

ま、ええか。それにしても、眠いなぁ。

9:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:21:30.74ID:a1iubFJpo


――――――――――――――――――――

授業中は眠気との戦いやった。……ウチは勝ったんやな、あの熾烈な戦いに。

たまにこういう日はあるけど、何で眠っても眠っても眠気ってとれないん?そうかと思えばあんまり寝てないのに日中ずっと元気な日もあるもんね。不思議でならんわぁ。

あくびをしながら学食へと向かうウチ。現在昼休み。パンを手に入れようと学食の購買部めがけて早歩きの真っ最中。この学校は近隣のパン屋さんから学食にパンを仕入れていて、簡単に言うととても美味しいパンがお昼になると学食に並ぶわけやんな。

ということもあって、学食は毎日戦々恐々、歴戦を勝ち残った猛者だけが戦利品を手に入れられる過酷な戦いなんやよ。

せっかく学食に行っても売り切れやったらどうしようもない。というか朝ごはんを食べていないウチとしてはなんとしてもパンを死守する必要があるんや。美味しいパンを。…………そう考えると早歩きもいつのまにか小走りに変わっていった。

「うひゃーすごい人やな~」

いつものように購買はごった返している。

「あっ、希ちゃん!かわいいねー!」

列に並びながら人の多さに驚いていると後ろから声がかかった。しかし、出会い頭に『かわいいね』とは。穂乃果ちゃんさすがやね…………。

「あら、穂乃果ちゃん。おはよ、じゃなくてこんにちはやね」

「うひゃー!お腹減ったよ!」

穂乃果ちゃんは顔をクシャクシャにしながらお腹が減ったというアピールをしてくる。秋の空にぴったりやな。……あ、コロコロ表情が変わるって意味ね?

「この分じゃ、パンにありつけるか微妙やね……」

「ええ~~~!パン食べられないと穂乃果死んじゃうよ~~」

半泣き。ハの字眉毛。とても面白い顔になってるんやけど、あんまり言わんといてあげよう。

10:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:27:25.84ID:a1iubFJpo


「はーい。200円ね~。本日はこれで終了でーーーーす!!!」

「あっ……」

「そっ…………」

つまり、こういうことだ。

「ウチので丁度パンが売り切れ……」

「そんなぁぁぁぁ…………」

その言葉を聞いたと同時に、乙女心とお腹の虫が秋の空に大絶叫を轟かせたのだった。

「ま、まぁ、あれやん。これ、どうぞ」

「えっ、いや、でも……希ちゃんのでしょ?」

「せやけど、パン食べないと死んじゃうんやろ?μ'sのリーダーが死んじゃ大変やん」

「の、希ぢゃぁぁぁん」

ぼふっ。と抱きついてくる穂乃果ちゃん。胸に顔をうずめるのはこれで本日二人目。穂乃果ちゃんはふかふか、ふかふかと顔をごしごししている。

まるで子供のみたいな…………。

な、なんやろ。かわええな……。

「穂乃果ちゃん。離れようか」

「ご、ごめんね。柔らかくてつい……ありがとう希ちゃん」

お昼ごはんは中庭でμ'sのメンバーと一緒に食べる予定。さて……ウチはパンを手に入れ損ねてしまったし、どうしようか。

「……またちょっとツイてへんかったなぁ」

でも、あのまま穂乃果ちゃんに悲しい顔をさせたままにするか、パンを譲るかって言ったら、そりゃ穂乃果ちゃんを選ぶに決まってるやんね?

11:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:31:26.19ID:a1iubFJpo


――――――――――――――――――――

せやかてな。

何もウチは考えなしにパンを譲ったわけやないんよ。

今日は中庭で皆でお昼を食べる事になっていたんだけど、穂乃果ちゃんに先に中庭に行ってもらって、ウチは一旦教室に戻る。

さっき購買で穂乃果ちゃんの絶叫を聞いて思い出した。そういえば今日はお弁当を持ってきていたんやってな。今朝は急いで身支度をしたわりに意外としっかりものなんやなウチは。おかげで二度手間の上にパンの分お金を損してしまったんやから、ツイてへん。

「まあ、穂乃果ちゃんの可愛い笑顔でプラマイゼロ……に、しとこっか」

中庭に向かいながら、ウチは胸の中に居た後輩たちを思い出す。真姫ちゃんも穂乃果ちゃんも……なんや、可愛かったな。これが、母性なんやろうか……。

それにしても、……う~ん。眠いなぁ。

中庭でのお昼ごはんはつつがなく進んでいく。秋になって、お昼でも少し陽は傾いている。緯度とか経度があれで地球の軸の傾きと太陽との位置関係があれこれする感じの秋の陽気やった。

海未ちゃんになにやら注意を受けている穂乃果ちゃん。どうやら最後のパンを貰ったことを見つかってしもたらしいな。気にせんでええのに、海未ちゃんは結構義理堅いところがあるからね。

お礼を兼ねて海未ちゃんやことりちゃんにおかずをちょっとずつ分けて貰った。なんや申し訳ないなぁ。

「美味しいと評判のパンを貰ってしまう穂乃果がわるいんです」

と海未ちゃんがふんふん唸っている。ことりちゃんがそこに「まあまあ」と合いの手を差し込む。小さい頃からの友達というだけあって三人の息はいつもピッタリやな。和むわ。

12:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:35:14.46ID:a1iubFJpo


ぷわぷわ。ぷわぷわ。なんだかとてもぷわぷわする。

ことりちゃんの合いの手が会話に華麗に挟まれるせいやね。なんだか意識がゆりかごに揺られてるみたい。

「……すぅ…………すぅ」

まるで夢を見ているかのような気分だった。秋といえど、昼はそれなりにあったかいのだ。というか多分これは夢のようではなくて夢である。

子供みたいに小さくなったμ'sのメンバーに囲まれて、楽しくおしゃべりをしている景色が見たのだ。みんな、かわええなぁ。

まるで絵本の中の光景のように。柔らかくて、笑顔にあふれて…………すぅ。……すぅ。

可愛い皆に囲まれていると、愛しい気持ちがふつふつと湧いてくる。

みんな可愛いのだ。この場所におれて幸せやなと心底思う。

この場所を作れて、ホントに幸せだなと、ふわふわ思う。

すぅ……すぅ……。

「んむ…………むにゃ……」

13:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:37:35.83ID:a1iubFJpo


「このまま寝かせておいたらどうかな?」

「でも、そろそろお昼休みおわっちゃうし……」

「そうよ、そろそろ起こしてあげましょ」

「ここは、ニコニーのラブニコアタックですっきりさっぱりと……」

「ちょ、ちょっとニコちゃん……」

にぎやかな。そんな昼下がり。夢際に遠くから聞こえる声は波の音のように。ウチの頭はそれにあわせてゆらゆらと船を漕ぐ。カックン、カックン。

「でも、希ちゃん」

「可愛いにゃぁ……」

「まるで女神のお昼寝、ね……」

そんなつぶやきが耳に届いた気がした。

14:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)01:44:09.54ID:a1iubFJpo


「ふあ……」

目を開けると、皆がウチを取り囲んでニコニコしている。

どうやら、いつの間にか、寝てしまったみたいやんな。それにしてもウチを取り囲んでにやにやと…………一体なんなん?

「なんか、寝てたらしいね。ごめんね、みんな」

「いいえ、いいものを見せてもらったわ」

とみんながにこにこ。いいものって、……寝顔のことを言っとるん?

「な、なんか、恥ずかしいやん。やめてー」

じゃれるように言ってみたが、予想以上に頬が熱くなっている気がする。いや、気のせいや。にしても恥ずかしい。……ツイてへん。

その時、はらりとモミジの葉っぱが目の前をかすめた。赤く染まった葉っぱはなにやら意味ありげにふわりと一回転。思わず視線がモミジに奪われる。

落下の動線を目で追うと、なんとモミジは、ウチの、胸に。

「うわわ、すごいにゃー、胸にモミジが、乗ったにゃ……なかなか真似できない芸当にゃ…………」

驚きの声だ。ニコっちのうめき声がした気がしたけどそれもきっと気のせいやね。

いや、えっと。結構、恥ずかしいなあ……。そんな胸ばっかみんといて。

「すごいねー希ちゃん。」

その時ッ

「はっ!!!…………これ、これだよ!」

――――――ことりに電撃奔る!!

「……胸に大きな……葉を模した……リボン……ブツブツ」

「あ、あの、ことり……?」

突然電撃が迸ったことりに面食らう海未ちゃんは怪訝な顔をしている。

「今度の衣装のアイディア……思いついたの!希ちゃんありがとう!」

と、お礼を言われてしまった。

複雑な気持ちやわ。

そう思っていると、モミジは風にふわっと舞い上がりどこかに消えていった。

29:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:18:01.29ID:a1iubFJpo


――――――――――――――――――――

幸か不幸か、昼に寝たお陰で午後の授業は比較的問題なく過ごせた。時は放課後。練習のちょっと前。

「あなたのハートに…………バァーz_ン☆」

部室の扉に手をかけた時、不意に中から声が聞こえてきたのだ。でも、この感じは……。

「ラブアロー・シュートッ!!きゅるり~ん。えへっ」

海未ちゃん……。

あかん。あかんなぁ。これは一度退散したほうがええな……。ウチは何も聞いてない。こっそり。こっそり引き返そう。

ゆっくり扉から手を離し、後ずさろうとする。

「ドテーン、あーこんなところでコケちゃいましたー!きゃーパンツが見えち…………

べきっ

――――誰です!?」

うちの足元には、潰れた空き缶。

なんで……なんでこんなところに空き缶が捨ててあるん!?廊下のどまんなかに!……なんで!?ツイてないどころの話やないってこれ!

め、面倒な事になりそうやなぁ……。

とたん、ガラッと部室のドアが開いたかと思うと涙目の海未ちゃんが出てきて、

「の、希!!!…………み、見ましたね」

今にも涙のしずくがこぼれそうな海未ちゃん。……というかいつも思うんやけど、なんでわざわざ見つかりそうな所で練習しとるんやろな?

30:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:24:14.82ID:a1iubFJpo


「うう、見られてしまいました…………もう終わりです……」

この世の終わりのような顔をする海未ちゃん。いや、そういってもな、多分メンバーの殆どが部室でたまに練習しとるの知っとると思うんよ。

海未ちゃんに直接言わないだけで。

「穂乃果やことり、花陽のみならず、希まで……」

「あーもう、よしよし。泣かんでええって、誰にもいわんから」

「うう……希ぃ……」

己の醜態を晒してしまった自責の念だろうか……。でも、そんなに気にしなくてもいいのに。海未ちゃんは言いながらウチに抱きついてくる。

本日三度目。胸の中には海未ちゃんが居る。穂乃果ちゃんや真姫ちゃんとはまた違った良さがあるなぁ。普段とのギャップ……というか。

「やはり、私がこんなことをするのは変なのでしょうか……」

「うーん。ウチは変やとは思わんなぁ」

「ほ、本当ですか?」

「うん。ホント。海未ちゃんだって女の子やん?可愛いことしたいもんな?……ラブアローシュートってな」

弓を射る格好をする。

「の、希!……からかうのは」

「いやいや、でも、それって普通のことやと思うんよ」

「普通……ですか?」

身長は殆ど同じくらいのはずやのに、胸の中の海未ちゃんはとてもあどけなく見える。涙目で上目遣いってところがきっとポイントなんだと思う。

そんな海未ちゃんを見ていると、自然に語尾が優しくなっていくのを感じた。まるで母が我が子にそうするかのように、な。

「スクールアイドルとして、可愛くありたいって、そう思うんやろ。それは全然普通の事」

抱きつかれる暖かさは秋の日には丁度いいかもしれない。腕の中の海未ちゃんを感じながらウチは言う。

「だって海未ちゃんこんなにかわええもんな」

31:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:30:18.82ID:a1iubFJpo


それから他の部活のメンバーが部室に集まるまでの間、ウチは海未ちゃんの話に付き合ってあげた。

結構長い間話していたような気がするんやけど、不思議なことにメンバーのみんなは全員用事があったらしく海未ちゃんの話が終わるまで誰も部室に入って来なかった。

海未ちゃんの話を聞いている途中、何度か部室のドアの方で物音がした気がしたけど、気づかなかったことにしとこうかな。

メンバーが集合してからは、大きな問題もなく練習終了。下校の時間となった。

校舎の外に出てみると、段々と日が短くなってしまったのか。空は赤と濃紺のマーブル色に赤く染まっている。

赤と青の混ざった空に揺れるその長い黒髪は、いつもよりちょっと輝いて見えた。

「頑張って、可愛いスクールアイドルの海未ちゃん。」

穂乃果ちゃんことりちゃんと一緒に帰路につく海未ちゃんの背中に、そっとラブアローシュートをお見舞いしておいた。

32:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:43:53.91ID:a1iubFJpo


それから他の部活のメンバーが部室に集まるまでの間、ウチは海未ちゃんの話に付き合ってあげた。

結構長い間話していたような気がするんやけど、不思議なことにメンバーのみんなは全員用事があったらしく海未ちゃんの話が終わるまで誰も部室に入って来なかった。

海未ちゃんの話を聞いている途中、何度か部室のドアの方で物音がした気がしたけど、気づかなかったことにしとこうかな。

メンバーが集合してからは、大きな問題もなく練習終了。下校の時間となった。

校舎の外に出てみると、段々と日が短くなってしまったのか。空は赤と濃紺のマーブル色に赤く染まっている。

赤と青の混ざった空に揺れるその長い黒髪は、いつもよりちょっと輝いて見えた。

「頑張って、可愛いスクールアイドルの海未ちゃん。」

穂乃果ちゃんことりちゃんと一緒に帰路につく海未ちゃんの背中に、そっとラブアローシュートをお見舞いしておいた。

33:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:45:08.52ID:a1iubFJpo


――――――――――――――――――――

話題になるだけあって、ポップコーンはなかなかの美味やった。たまに寄って帰るのもいいかもしれんな。

エリちと約束のポップコーン屋さんに寄ったあと、一人家に帰る途中でニコっちに出会った。

ニコっちの話では、どうやら商店街でくじ引きをやっているそうで、対象のお店でお買い物をすると引換券をくれるらしい。

「でも、一つの店舗で一人一枚しかもらえないのよ。だから……」

一緒に買物をして、福引をして欲しいということらしい。

くじ引き。これはようやくウチの本領発揮出来る場面ってことやんな。

今日はなんだかツイてなかったから、きっと幸運の貯金は沢山溜まってるはずやん。

34:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:46:35.34ID:a1iubFJpo


「はーいまたまたポケットティッシュね」

「うう、全部ハズレだったわ…………」

しょんぼり顔のニコっち。結果は見ての通り惨敗だった。

「何のためにお店を沢山はしごしたと思ってるのよ……」

うなだれるニコっち。……つまり、この勝負、全てウチにかかってるってことや。

いまこそ東條希のフォーチュンな一面を魅せつけるときやね。

目の前の抽選機を一瞥するとウチは腕まくりを一つ。

「みとってなニコっち~!ウチの実力を思い知らせてあげる」

「おっ、お嬢ちゃんやる気だねぇ!……はいどうぞ~!ガラガラっといっちゃって!」

運命のガラポン……。

「てい!」

ガラガラガラガラ…………

36:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:49:44.65ID:a1iubFJpo


「まあ、そういうことも有るわよ。ほら……私は丁度ティッシュ足りないなって思ってたから。」

結果はウチも惨敗。なんで一個もあたらんの……。こんなんおかしい。絶対おかしい。

「ぐぬぬぬぬ……」

ツイてない……な。

「ほら、落ち込まないの。元気出して、希」

ニコっちはそう慰めてくれるものの、くじ系は強いと自負しておきながらこの体たらく、一日微妙にツイてないことが続いたからか変にダメージが大きい。

「うぅぅ……いつかリベンジしてやる」

「それが、くじは今日までなのよ」

「そんなっ」

そんなとき、カランカランカランと大きな鐘の音が聞こえた。同時に子供の声。

どうやらウチらの後ろに並んでいた小さな子どもが特賞を取ったらしい。うわーとかひゃーみたいな歓声が聞こえてきた。

お使いでもしていたんやろか。小学生くらいの女の子が一人、誇らしげに商品を受け取っている。えっへんと胸をはるそのさまはなんとも微笑ましい光景やった。

ニコっちとウチは顔を見合わせる。

なんの変哲もない日常の一風景なのに、その光景を見ていたら色々どうでも良くなってしまった。

もう一つくじ引くの遅かったら当たってたのになーなんて言いながら、なぜかウチとニコっちは二人とも顔が自然に笑顔になっていた。

37:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:54:21.47ID:a1iubFJpo


――――――――――――――――――――

ニコっちと別れたあとは特に何事もなく帰宅した。練習のキツかった昨日とは違う柔らかい疲れを感じる。

なんだか今日は色々とあった気がする。

一人でご飯を食べながらテレビをつける。……全体的に今日はツイてなかったなー。ううむ、ラッキガールな希ちゃんは一体どこへ……。

今日一日を振り返りご飯と一緒に噛み締めながら、録画しておいたドラマを見ようとテレビを操作する。実は最近、再放送のドラマにはまってしまっていた。

結構古いドラマなんやけど、これがなかなか面白くてな……ポチポチっと。

ってあれ?

なぜかドラマが始まらないなと思っていたら、なにやら別のバラエティ番組が録画されていたのだった。

「……番組、間違えてる」

番組表の一覧から見たいものをぽちっとするだけの時代に、録画する番組を間違えるとは……。ツイてないというか、ちょっと過去のウチぼーっとしすぎではないだろうか。

大きな大きなため息を吐きつつ、しかたがないので間違えて録画されていたバラエティ番組を見ることにした。

38:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)15:58:40.74ID:a1iubFJpo


よく見てみると、この番組、アイドルがたくさん出ている。

というか、アイドルがたくさん出るのがコンセプトの番組みたいやね。へー、こんな番組あるんや。この時間帯の番組滅多に見る機会ないからなぁ……。

「あ、このアイドル、花陽ちゃんが言ってたやつ」

「あ。こっちもや」

普段見ない番組もたまに見てみると面白いもので、花陽ちゃんが興奮気味に語っていたアイドルがちらほらいたりして結構面白かった。

アイドルとスクールアイドルの差こそあれ、参考になるところが沢山ある。というかこの娘、結構可愛いな……。

「あ、花陽ちゃん?」

「希ちゃん?どうしたの急に」

なんとなく気になったので電話をかけてみることにした。うーん。花陽ちゃんの声は癒やされるなぁ。

「あのなー、いま録画の設定間違えて録ってしまったバラエティ番組みてるんよ」

「は、はぁ……」

「でな、番組名が――――って言って……、XXXXって娘が出とってn」

「ハァァァァーーーー!!!!!あのXXXXちゃんですか!!!ピャァーーー!!!」

39:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)16:02:57.91ID:a1iubFJpo


とまぁ、こんな感じで花陽ちゃんの鼻息荒めのアイドル談義をしばらく電話越しに聞いていたら夜も遅くなっていた。

偶然ウチの見とった番組は、どうやら花陽ちゃんが録画をしそこねた番組らしく、今度DVDに焼いて渡す約束をしたら花陽ちゃんはめっちゃ喜んでた。

電話の向こう側の花陽ちゃんの顔が目の前に居るようにわかる。ドラマは見れなかったけどこれはこれで良かったんやないかな。

花陽ちゃんが喜んでくれたし一件落着、電話も終わったのでお風呂入ろ。

40:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)16:06:07.95ID:a1iubFJpo


――――――――――――――――――――

脱衣所で服を脱いでいると、洗面台の鏡に自分が映る。

当たり前のことやけど……。でも今日はなんとなく違和感があった。

まあ、今日一日ツイてなかったしなんとなく、そういう『カン』みたいなものが働いたという感じ。それこそスピリチュアルってやつやね。

寝坊したり、お弁当持ってきてるのにパンを買ったり、くじ引き全部外れたり、寝顔見られたり……。

一つ一つは大きくないけど、ちりも積もれば山にもなるというもの。そこそこ色々あった一日だった。でも心なしか悪くない一日だったような気がする。

軽く息をついてから、髪を解くついでにふっと横目で鏡を見る。

「ありゃ?」

髪の後ろの方に、見たことのない飾りが付いていた。

手のひらより一回り小さいほどの星形の花弁、そしてきれいな紫色。これは……

「桔梗……」

桔梗をあしらえた花飾りが後ろ頭についていたのだ。

「…………」

手にとって確認する。

ああ、なんとなくわかってきた。

お昼、穂乃果ちゃんは出会い頭に『かわいいねー』と言っていた、穂乃果ちゃんなら仕方がない……なんて思っていたもんやけど。

朝、エリちの言葉には変な間があった。あれは、きっとこれを見て言っていたんやな。

……なるほどなぁ

43:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)16:12:15.05ID:a1iubFJpo


学校の校門のあたりを歩いていた時……。

その時、ウチの髪がふわっと揺れた。

「あっ、希ちゃんに絵里ちゃんにゃー!」

きっとあのとき、これを付けられたんやな。このスピリチュアルでフォーチュンな東條希になんて可愛いイタズラを…………。

「今度、凛ちゃんにはわしわしMAXをお見舞いしてやらなあかんなー」

物騒な言葉とは裏腹に、ウチの顔は笑顔。

花飾りは可愛いし、凛ちゃんも可愛い、ラブライブのメンバーもみんなが可愛い。そう思えて仕方がなかったから。

湯船に浸かりながら、明日どうやって凛ちゃんをわしわししたものかと思案する。

「ツイてない一日やったなー、ホントに。…………ふふっ」

44:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)16:16:15.06ID:a1iubFJpo


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エリち、真姫ちゃん、穂乃果ちゃん、ことりちゃん、海未ちゃん、ニコっち、花陽ちゃん、凛ちゃん……。

お風呂から上がったあと、ベッドの中で一人ひとりを思い浮かべる。

μ'sの母っていうのは悪くはないんよ。でもやっぱり、μ'sの姉、くらいでもいいんじゃないだろうか。

なんて思ったりして。

皆が可愛いし、この毎日はとても大切。

それに、妙~にツイてない一日やったけど、終わってみれば、こういう日もたまには悪くはないかもって思えるし。

そう、切り替えが重要やん。

明日は良いことあると良いな。

「ふふ……むにゃ」

ゆっくりと瞼を閉じると、また夢を見た。

昼見た夢のつづきのような夢。

今日のように色々とツイてない夢。

でも、皆笑っていて、皆とても幸せやった。

45:◆oZf06d53Imn3:2014/10/28(火)16:19:33.14ID:a1iubFJpo


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東條希のツイてない一日

おわり

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