ガンパレード・マーチとガールズ&パンツァーのクロス二次創作となっています
基本的に西住みほ視点での進行となります
時代設定はガンパレ側に合わせ2000年の設定に
学園艦や戦車道などの世界観設定はガルパン側に合わせてあります
ただ、所々都合のいい改変も行っていますのでご了承ください
榊涼介氏の小説版ガンパレにも多分に影響を受けております
前回
【ガルパンクロスSS】ガンパレード・パンツァー【前編】
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みほ「ダージリンさん!」
優花里「あー!その車輌は、FV1034チャレンジャー2!自衛軍には無いはずのその車輌がなぜ!?」
ダージリン「All is fair in love and war. 恋と戦いは、あらゆることが正当化されるのよ」
麻子「答えになってない」
副官であるオレンジペコが口を挟む
ペコ「紅茶を沸かせるポットがあるからじゃ……」
ダージリン「何か言いまして?」
ペコ「ひゃいっ!」
みほ「っ!!」
仲間が駆けつけ安堵した刹那、先ほどと似た戦慄がみほの背筋を駆け抜ける
この感覚にはやはり覚えがあった
みほ「ヤマネコさん!三時方向のビルの向こう!」
すぐさま、レーザーライフルの発射音が聞こえた
来須「すまん、逃げられた」
若宮「例の『敵』か?」
来須「ああ」
麻子「あれの他にも同じのがいたのか?」
来須「似てはいた。だが詳細は判らん。今度のやつは飛行型の幻獣が多数護衛に付いていた」
みほ「最後のスキュラ撃破前にののみちゃんから通信があって……もしかしてその『敵』が……」
華「こちらの動きをスキュラに伝えたと?」
来須「ののみには、幻獣の気配を感じ取る力がある」
華「そんな力が……」
とりあえずその場の脅威は去り、安堵したみほはダージリンに礼を言う
みほ「本当に助かりました……」
ダージリン「土壇場を乗り切るのに必要なのは勇猛さではなく、冷静な計算の上に立った捨て身の精神。あなたの戦いぶり、見せてもらったわ。私たちと戦ったときとは比べ物にならないほど成長したのね」
みほ「そ、そうでしょうか?」
ダージリン「ええ、そうですとも。さあ、あなた方は司令部まで撤退なさい。あとは私たちが引き受けます」
みほ「すみません、よろしくお願いします!」
ダージリン「今度は、一滴たりとも紅茶をこぼさずに幻獣を追い払って見せますわ」
掃討戦、5121の援護を聖グロリアーナに任せ、市役所まで戻る大洗戦車小隊
戦車から降りると沙織が飛びついてきた
沙織「心配したよーもー!」
みほ「ごめんごめん!」
優花里「西住殿!幻獣を目の前にして全く怯まぬ戦いぶり!感動したしました!」
みほ「あはは、あれ?気を抜いたら、足が……」
沙織に支えられゆっくり地面に座るみほ
エルヴィン「前にも似たような光景を見たな」
カエサル「隊長は戦闘中は異常なほど肝が据わっているのにな」
ねこにゃー「もともと普通の女子高生だったんですから……」
優花里「そうだ!お怪我の手当てをしなければ!」
石津「私が……するわ……」
いつの間にか傍に立っていた衛生官の石津が言う
手には救急セットを持っていた
みほ「あ、ありがとうございます」
石津「私も……感じたの……あなた、狙われているわ……」
みほ「え?」
ののみ「みほちゃーん!」
指揮車から駆け寄ってきたののみが抱きついてくる
ひなたの良い匂いがした
瀬戸口「ご苦労さんだったな。敵増援が現れたときは肝を冷やしたが、流石だな」
みほ「いえ、5121さんとの訓練のおかげです」
あゆみ「人型戦車の動きに比べたら、幻獣なんて止まってるみたいなものだった!」
左衛門佐「全て西住隊長のお膳立てあってのことだがな」
あけび「火力アップのおかげでミノタウロスも撃破できました~」
あや「眼鏡割れずに済みました!」
口々に喜びの声を上げる仲間たち
みほは窮地を無事脱することが出来たことに胸をすく思いだった
聖グロリアーナが戦列に加わり、戦闘は順調に進んでいるようだった
激戦を潜り抜けたアンツィオの隊が入れ替わりに撤退してくる
梓「5121と一緒に戦ってくれた人たちだ」
沙織「隊の動きも凄く良かったんだよ」
みほ「挨拶しに行ったほうが良いかな?」
サングラスの男「それは少し待っていただけますか」
瀬戸口「坂上先生……」
華「お知り合いですか?」
若宮「さっき会った本田先生の同僚で、かつて人型戦車の指導もしてくれた坂上先生だ」
坂上「5121の増援で戦線は持ち直しました。ですが、君たちが来る前の戦闘で彼女たちは少なくない犠牲者を出してしまいました。今はそっとしておいてあげてください」
みほ「あ……」
自分たちと違い、引き上げてくるアンツィオの隊員たちは一様に暗い顔をしていた
大洗の隊員たちは否応無く、これが戦争であることを強く思い知らされる
スーツの女性「あなたたちが、歩兵部隊と本田先生を助けてくれたのね?ありがとう」
みほ「あ、はい……無事全員助けられて良かったです」
ののみ「あー!芳野先生!」
芳野「あらののみちゃん!お久しぶりね!」
芳野と呼ばれた女性はののみを抱きしめる
彼女も元5121の教師であったが、他二名と違い戦闘訓練とは無縁の一般教科担当であり、民間からの出向であるらしかった
沙織「その先生がなんでここに……?」
芳野「野戦訓練の合宿のお手伝いで来てたんだけど、巻き込まれちゃって。戦闘が始まってすぐ後送してくれるって言われたんだけど、生徒を置いて逃げ出せなかったの」
本田「ここにいても足手まといでしょうに」
華「そんな……」
芳野「いいの。その通りだから……でもせめて生徒を元気付けてあげなくちゃ。戦車隊のところに行って来ますね」
それを聞いていた森が険しい顔で芳野に問いかける
森「芳野先生、まだお酒に逃げたりしてませんよね?」
芳野「うん!あの頃はあなたたちに迷惑をかけちゃったけど……もう大丈夫!
私弱かったけど、あなたたちがずっと頑張ってるのを見て勇気をもらったから
今度は私があの子達にお返ししてあげなくちゃ!」
それを聞いた森は、今にも泣きそうな顔になっていた
みほたちにはわからないが、学園艦時代の彼女たちにも色々あったのであろう
芳野はアンツィオの戦車隊の元へ小走りで駆けて行った
みほは先ほど石津に言われた言葉が気がかりだった
みほ(狙われている?それは『敵』にってこと?あれを私が見つけてしまったから……だとしたら、ここの被害は私の……)
ののみ「みほちゃん、めーなのよ!みほちゃんはみんなを守ったの。それはとっても立派なことなのよ。むねをはって笑うの!」
みほの胸の内を見透かすようなののみの言葉
しかしみほは不思議とののみの言葉を受け入れることが出来た
まるで子供を諭すお姉さんのようなののみの言葉に、みほは笑顔になって言った
みほ「……うん、そうだね!ありがとう、ののみちゃん!」
ののみはにっこり笑った
エルヴィン「それにしても隊長、改めて思うが見事な戦いぶりだった」
カエサル「うむ。小型は榴弾に、中型は我らの戦車砲に任せ、自らは敵の注目を一手に引き受けるあの戦術機動、並の心臓では出来ん」
あや「途中からはもう自分たちで撃ってたし!」
みほ「そ、それは華さんと麻子さんの腕があってのことですし……」
沙織「麻子、絶好調だったもんね?」
麻子「だが、隊長の指示があって初めて動けるからな」
華「でも、完全に身を乗り出すとは思いませんでしたが」
みほ「うう、ちょっとハイになってたかも……」
優花里「あの舞い踊るように戦う姿、まさに絢爛舞踏と言わざるを得ません!」
あゆみ「けんらん?」
桂利奈「ぶとー?」
優花里「そういう勲章があるそうですよ。受賞者は片手で数えられるほどだそうですが」
瀬戸口「絢爛舞踏……」
優花里「瀬戸口殿?」
瀬戸口「そいつは世界で一番、幻獣を殺した人間さ
息をしているように幻獣を殺すんだろう
ほんの少しだけ、普通より武器を使い分けて、
ほんの少しだけ、普通より移動して、
ほんの少しだけ、普通より作戦会議してる…。そのうち化け物になっちまったのさ」
若宮「その勲章を持つものは、なぜだか、すぐ行方不明になる……
俺は一度だけ、別の絢爛舞踏を見たことがある。失踪の三日前だったが
冷たい目をしていたな……」
優季「なにそれ……」
あけび「こわい……」
優花里「に、西住殿、私は決してそのようなつもりで言ったわけでは……」
沙織「みぽりんがそんな恐い人間になるかな~」
麻子「普段はぽややんとしてるからな」
みほ「あぅ、そうなのかな……」
沙織「麻子がそれを言う!?」
笑いあう仲間たち
それを見た瀬戸口と若宮は顔を見合わせ苦笑いし、こちらに向けて少し申し訳なさそうに頭を下げた
みほは、この仲間たちが支えてくれる限り、自分はきっと大丈夫なのだと言う予感があった
だからこそ必ず守るという決意を新たにすると同時に、仲間を喪ったアンツィオの隊員たちを慮った
舞「そこの二人、我が友に随分と不穏なことを吹き込んでくれたようだな」
瀬戸口「げ」
5121と聖グロリアーナ、自衛軍が引き上げてくる
どうやら戦闘は終わったようだ
瀬戸口「いやぁ、お前さんと速水のやつと、少しダブってだな」
舞「たわけ!この者たちは日常の尊さを決して手放さぬ貴重な者たちだ!不安がらせるでない!」
若宮「む……面目ない」
みほ「あの、舞さん、そんなに気にしてませんから……」
舞「みほよ、そなたもそなただ。聞いたぞ、その戦いぶりを。なんという無茶をする」
みほ「う、ごめんなさい……舞さんの言葉を思い出して……」
舞「ぬ、私の?……むぅ、それは困った」
怒ったり、困ったり
かつてテレビに映っていた舞のイメージからはかけ離れたその様子を見て、その場にいた者たちに笑みがこぼれる
ダージリン「ごきげんよう。あなたが、5121小隊の芝村さんね」
舞「……そうだ。先ほどは仲間が世話になったようだな。礼を言う」
ダージリン「あら、芝村の方に礼を言われるなんて」
先ほどとは打って変わって、ダージリンも舞も硬い雰囲気である
その様子を不安げに見守るみほ達
ダージリン「……あなたは、他の芝村とは随分違うみたいね」
舞「私は私だ。芝村だが、時計の電池は取り替えられるようになった。一族に変わり者がいても良かろう」
みほ「時計の電池?」
華「なにかの暗喩でしょうか……?」
ダージリン「……そうね、失礼したわ」
舞「いや、いい」
ダージリン「西住さんは、不思議な人ね」
舞「そうだな。話していると、心が安らぐ」
ダージリン「みんなと仲良くなってしまうものね」
みほ「え、それは……皆さんが素敵な人達だから」
舞「ふっ」
ダージリン「ふふふっ」
みほ「あぅ……」
優花里「そういえばダージリン殿、チャレンジャーは一輌のみであとは日本の戦車なんですね。チャレンジャーはイギリスの戦車ですが……」
ダージリン「ええ、これは私の父が残してくれたものなの。私はいつかイギリスに行きたいと父にせがんでいたのだけれど、戦争が激化してしまって。父の部下がこの戦車を私の元に届けてくれたの」
優花里「イギリスは既に……すみませんでした」
ダージリン「いえ、いいのよ」
歩兵救出の際、一時われを失ったみどり子は石津からカウンセリングを受けていた
石津「精神……干渉を受けたようね……もう大丈夫よ」
みどり子「精神干渉?」
手伝いをしていた小杉が答える
小杉「おそらく、園サンが遭遇しタのは『ナイトメア』ですネ。ココ最近現れるヨウになっタ幻獣デス。……10人ほどノ人間の顔を貼り付けテ、人の心を狂わせるデス」
希美「ひ、人の顔を……!」
モヨ子「ヒトウバンの強化版みたいな……」
麻子「咄嗟に撃破しなければ危なかったな」
みどり子「ふん!どうせビビってしまったわよ!悪かったわね!」
麻子「そんなことは無い」
みどり子「え?」
麻子「実はわたしも、幽霊は駄目なんだよ。ソド子がいてくれたから気丈になれた」
みどり子「……」
麻子「いつか私がやられそうになったときは、ソド子が助けてくれ」
みどり子「……うん」
この日、愛知県に出現した幻獣は5121・大洗混成独立遊撃中隊、聖グロリアーナ女学院戦車隊、アンツィオ高校戦車隊、および自衛軍によって駆逐された
しかし、民間人および学兵の被害も大きく、また取り逃がした『敵』の存在も脅威となり、九州奪還に向かう人類に一抹の不安を残すものとなった
前日の戦闘が夜通しで行われたこともあり、次の日の午前中は休息に当てられていた
5121小隊は大洗学園の倉庫横にプレハブを設置して、そこを小隊詰め所兼司令室として利用している
午後、詰め所には人型戦車の各パイロット、オペレーター、整備主任、そして戦車チームの隊長、副隊長、各リーダーが集められた
沙織「麻子ったらまだ夢見心地なんだよ」
みほ「あはは、頑張ってくれたからね」
沙織「ん?この写真立ては……」
壬生屋「小隊発足時の集合写真ですね」
舞「善行め、ここでも飾っているのか」
みほ「あれ?この男の子は……?」
写真の中央部には黒髪の少年が舞と並んで写っている
厚志「あ、それ僕」
みほ「え?」
厚志「僕の地毛は青なんだけど、そのときは黒く染めてたんだ」
沙織「へぇ~。あ、でもこの頃は髪の毛くりっとしててなんか可愛いね」
厚志「可愛いってのはちょっと……」
舞「こやつめ、一年足らずで身長までグングン伸ばしおって」
滝川「チクショー置いてきやがって!」
壬生屋「顔つきも精悍になられました」
みほ「速水さんの青髪、とっても綺麗ですね」
厚志「そうかな……えへへ、ありがとう。そういう風に言われたこと無かったな
あまり良い思い出は無かったんだけど……うん、嬉しい」
沙織「みぽりん、舞さんが嫉妬しちゃうよ!」
みほ「え!?あ、いや……」
舞「な!?せ、せぬわ!」
善行「あー、ごほん。2つお話がありますが、まず我々の今後の予定についてお話します」
舞「う、うむ。話すが良い」
善行「学園艦は更に南下、高知県宿毛市に停泊し燃料や物資等を搬入、これまで同様に訓練を行いつつ軍の再編を待ちます」
カエサル「そこが九州へ攻勢をかける際に出立する地であると?」
善行「はい。我々の中隊は自衛軍と合流し、大分県佐伯市に上陸し侵攻することになります。また現在協議中ですが、別の学兵部隊とも共同作戦をとることになります」
エルヴィン「九州各地からの同時侵攻作戦だったな……」
梓「今から緊張してきた……」
典子「まだ早いって」
ねこにゃー「せめて足手まといにならないよう訓練しないと……」
善行「それともうひとつ。我々が遭遇した『敵』についてです」
みほ「!」
舞「良いのか?」
善行「盗聴器の類は仕掛けられていないことが確認済みです」
沙織「え?そんなにヤバい情報なの?」
善行「……まあ口外したところで眉唾物と思われるだけでしょうが、隊員以外には話さないでいたほうが身の為ではありますね」
沙織「うぐ、自信ないかも……」
桃「そのくらい自重せんか!」
ナカジマ「まあ、内容聞いてからだねー」
善行「ラボ、と呼ばれる研究所があります。噂くらいは聞いたことがあるでしょう」
厚志「……」
カエサル「あまりいい噂は聞かないな」
梓「もう嫌な予感がする」
善行「そこでは幻獣に対抗するための人類を作り出す実験が行われていました。現在では7種類のタイプが存在するようです」
みどり子「人体実験ってこと?そんなの許されるはずが……」
善行「ええ、だからこそ秘匿されています。四世代目までは殆ど普通の人間と代わらない程度の強化でしたが、五世代目で一転、かなり手を加えたそうです。結果、強い同調能力を持ち、姿を変異させることが出来る強力な能力が生まれました」
みほ「まさか……」
善行「ええ、西住さんが見た『敵』はそれが変異した姿なのでしょう。第五世代、別名『ペンタ』と呼ばれるものたちです」
沙織「でも、幻獣に対抗するために作られたなら、なんで私たちに攻撃を……」
善行「能力が強すぎたために幻獣と同調してしまい、大半が幻獣に寝返ってしまったのです。これが幻獣共生派の始まりとも言われています」
エルヴィン「豊田市に共生派がいたのはそういうことだったのか」
善行「彼らは『幻獣使い』とも呼ばれ、かつて人間であったにもかかわらず幻獣を支配下に置くことができます。大洗町と豊田市で幻獣の強さが違ったのはペンタの個性による違いが出たものと思われます」
厚志「来須さんの狙撃からも逃れたし、今回のはより手強かったんだね」
ののみ「大洗のときは、幻獣は嫌がってる感じがしたの」
瀬戸口「無理矢理従わせて隊列もままならなかったってことか」
原「ダメねぇ、ちゃんとアメとムチを使い分けないと」
善行「……」
善行「彼らは精神感応ネットワークを持ち幻獣に指示を送っていると言われています。また、ペンタ同士でも情報共有が出来るようですね」
沙織「ってことはみぽりんの情報が……」
桃「ほかの奴らにも伝わっていると言うことか……!」
みほ「……」
善行「生み出されたペンタは約30体ほど、造反時に大半が処理されましたが、一部は逃げ出し、現在3~5体ほどが存在すると考えられています」
典子「割と少ないんだね」
善行「ですがその1体1体が危険なのです。どうか、皆さんで西住さんを助けてあげてください。そのために、私は独断でこの情報を皆さんに伝えようと思ったのです」
エルヴィン「元より承知!」
カエサル「隊長の恩に報いねばな」
沙織「友達だもん、当たり前だよ!」
みほ「みんな……」
舞「誓おう、人類の敵に、我が友を傷つけさせはせぬとな」
午後からの訓練は、軽めのもので終了した
前日の疲労を考慮したことによる措置である
夕方になり、みほたちは帰宅の準備を終えたのだが、そこで倉庫前でなにやら作業をしている舞を見かけた
みほ「舞さん、なにしてるの?」
舞「ん、これか?」
言うなり、舞は手に持った木の板を倉庫の出入り口に貼り付けた
みほ「『正義最後の砦』……?」
優花里「おお!なんとも勇壮な響きですね!」
華「確か、整備テントの方にも同じものが掲げられていましたね」
舞「かつて、熊本で戦うときに私は不退転の覚悟を持って我らが隊をそう呼んだ。だが、熊本・九州は陥落した。沢山の仲間たちと共に」
みほ「……」
舞「あのようなことは繰り返させはせぬ。私はこの隊を守り、そして九州を取り戻す。そう決めた」
麻子「これは自らを鼓舞するための言い回しという所か」
沙織「わたしたちが、世界を守るんだね」
大洗学園艦は高知県・宿毛湾に到着
更に近隣にもいくつか学園艦が停泊していた
中隊は宿毛市・大島に上陸し周辺警護をしていた
沙織「なにもない所だね~」
華「島の東側には住宅街もあるようですが」
桃「ここらは九州に近いことから、場所によっては疎開が行われている。大島に住民はほとんど残っていないはずだ」
柚子「各所に塹壕が掘りぬかれてるし、戦車用の壕もあるんだって」
杏「野戦陣地ってやつだね~」
カエサル「向こうに別の学園艦の隊がいるな」
エルヴィン「あれが奪還戦で合流する隊か?」
梓「あ、こっちに来ます!」
沙織「誰?」
舞「あれはプラウダ高校の隊長カチューシャと副隊長ノンナだ」
優花里「あれが有名な"地吹雪"のカチューシャと、"ブリザード"のノンナですね!」
みほ「そういえば、前に一緒に戦ってたって小杉さんが言ってたね」
ノンナ「Здравствуйте 青森以来ですね」
舞「そなたらが我らと共に戦う部隊か?」
カチューシャ「ふん!芝村は挨拶いらずで楽なことね」
ノンナ「私たちはこの後、八幡浜港に移動したあと、別府湾への侵攻に向けて待機する予定です」
沙織「ってことは、あの人たちは合流部隊じゃないみたいだね」
みほ「うん……」
カチューシャ「ん?……ぷふっ!あはははは!このカチューシャを笑わせるためにこんな戦車を用意したのね!ねぇ!?」
どうやらモコスを見て笑っているようだ
桂利奈「他の部隊にはモコスって無いの?」
茜「モコスは撤退戦でほぼ全てが廃棄されたんだ。お前たちが乗ってるのは、研究用に本土に回されたうちの一つをブン取っ……接収したものだ」
杏「やーやーカチューシャ、よろしく!大洗学園生徒会長の角谷だ」
カチューシャ「……」
杏「?」
カチューシャ「ノンナ!」
杏「は、へ?ほぁ……」
カチューシャを肩車するノンナ
面々を見下したカチューシャは得意げに告げる
カチューシャ「あなたたちはね、全てがカチューシャより下なの!技術も、身長もね!」
桃「肩車してるじゃないか……」
カチューシャ「ん!?聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね!しゅくせーしてやる!」
ののみ「いいな~!ね、たかちゃん、ののみも肩車してほしいの」
瀬戸口「ん?そうだな、よし!」
ノンナよりも背の高い瀬戸口がののみを肩車すると、ののみの頭の位置はカチューシャよりも高くなる
それを見たカチューシャは激昂した
カチューシャ「ああ!お前!カチューシャよりも上になるな!」
ののみ「きゃはははは!」
カチューシャ「お前たちは気に入らなかったんだ!あの人型戦車もカチューシャたちの戦車よりずっと高いし!ずるいぞ!」
麻子「子供か……」
みほ「あはは……」
壬生屋「ののみさん、うらやましい……!」
みほ「え?」
壬生屋「いえっなんでもありません!」
カチューシャ「あら?西住流の……」
みほ「うぅ……」
みほは昨年まで黒森峰に在校していたため、戦車道全国大会決勝戦で対戦したプラウダ高校とは面識があった
自然と大会内容を思い出し萎縮してしまうみほ
優花里「西住殿……」
杏「あれ?河嶋、小山、向こうにいるのってサンダース校じゃないか?」
桃「あ、本当ですね」
優花里「サンダース大学付属高校の方々とお知り合いなのですか?」
杏「うん!前に学校の交流会で知り合って、友達になったんだ!お~い!おケイ~!」
ケイ「え?……アンジー?アンジーなの!?」
杏はサンダース校の隊長であるケイの元へ駆けて行く
みほたちからは再会を喜ぶ様子が見えたが、次第にケイが俯き、泣き出したように見えた
二人は抱き合っている
優花里「なにかあったのでしょうか?」
カチューシャ「今、サンダース校は私たちと一緒に行動してるの」
みほ「そうなんですか?」
ノンナ「説明いたします」
サンダース大学付属高校は長崎県佐世保市所属の学園艦だった
全国でも屈指の生徒数を誇り、戦車道履修者も多い
熊本と同じく、早くから徴兵が行われ多くの学兵が戦地へ送り出された
当然、それだけ多くの死傷者も出た
撤退戦の折には真っ先に幻獣の襲撃を受け初動が遅れ、学園艦を捨て善行が指揮する隊になんとか拾われ命からがら撤退したものの、更にかなりの損害を出してしまった
その後も山口県にて九州からの幻獣の侵攻を防ぐ任務に引き続き従事していたが、その頃には副隊長であるアリサとナオミの隊を除けば死傷により隊員が全て代替わりしており、ケイの精神は磨耗しきってしまっていた
杏が戻ってくる
杏「おケイは、フランクでフレンドリーで、誰よりも明るい子だったんだ」
すっかりやつれてしまったケイの様子を見た杏は、流石にショックを隠せなかった
ノンナ「彼女は撤退以降、極力損害を出さないよう細心の注意を払って隊を指揮し続けました。少し前に私たちと合流してようやく、一時休養を取ることができたのです」
カチューシャ「ケイは誇り高く戦ったわ。私たちには彼女たちを守る義務がある」
カチューシャの先ほどの幼くわがままな様子は鳴りを潜め、その瞳には彼女たちに同情し、そして絶対に守るのだという強い意志が見て取れた
沙織「私たち、急に戦争に駆り出されて、不運なパターンだと思ってたけど」
麻子「まだ恵まれていた方かもしれんな……」
優花里「5121に助けてもらわなければ、どうなっていたか分かりませんしね」
ののみ「カチューシャちゃんは、りっぱなのね。えらいえらい」
ののみは心から賛辞を送った
しかし、カチューシャは何より上からの目線を嫌う
お姉さんのような物言いの彼女の言葉に、先ほどの雰囲気はどこへやら、カチューシャは再び激昂する
カチューシャ「むー!カチューシャより年下の癖に!」
ノンナ「背はカチューシャよりも高いようですね」
カチューシャ「なっ!」
みほ「ののみちゃん、今年でいくつ?」
ののみ「えっとねー……9さい!」
カチューシャ「……」
カチューシャは呆然としてしまった
と、そこへなにやら小さな影がトコトコと歩み寄ってきた
沙織「へ?ペンギン?」
桂利奈「わあぁ!かわいいー!」
優季「お洋服きてるー!」
桃「帽子とトレンチコート?」
華「なぜこんなところにペンギンが……」
カチューシャはわれに返る
カチューシャ「おお!同志ハードボイルドペンギン!」
ノンナ「ご苦労様です」
ペンギン「クェ」
みほ「ハードボイルド?」
カチューシャ「同志よ、私は馬鹿にされているんだ、さぁ私の頭の上に乗ってあいつより高くなるんだ!」
桃「それでいいのか……」
ペンギン「……」
カチューシャ「ピ、ピロシキもやろう!」
ペンギン「……ハァ」
柚子「ため息ついた!?」
ノンナ「カチューシャ、彼は買収には乗りません。なぜならハードボイルドだからです」
ペンギンはいつの間にか来ていたブータと顔を見合わせている
沙織「なにしてるんだろ?」
みほ「お話してるのかな?」
麻子「わからん」
カチューシャ「ぐぬぬ……もういい!行くわよノンナ!」
ノンナ「До свидания」
カチューシャ「あ、そういえばあんたたち、なんでウォードレスの上にジャケット羽織ってるのよ?」
みほ「えっと、それは……」
沙織「ちょっと事情があって……」
カチューシャ「ふん、まあどうでもいいけど」
カチューシャはノンナに肩車されたままサンダース校の元へ向かっていく
ペンギンもそのあとについていく
みほ「ほっ……」
沙織「ダージリンさんに笑われちゃったからね……」
妙子「それにしても、随分と刺激的な格好をなさってるのね?」
忍「隊長、いじわるしちゃだめですよ」
華「あ!ダージリンさんとオレンジペコさんのモノマネですね!?わたくしすぐわかりました!」
麻子「上手いな……」
プラウダ校は降雪地域所属だった為か装軌式戦車が多く、サンダース校は装輪式戦車が多いようだ
そしてその中にポツリと見慣れない車輌が見える
沙織「ん?ゆかりん、あの車はなに?」
優花里「あれは……軍用車輌ではありませんね。装甲は付けてるようですが……」
ナカジマ「ありゃースバル360だね」
スズキ「随分古いタイプだ」
ホシノ「58年のK10型じゃない?」
ツチヤ「たった50台販売の?誰かの趣味かな……」
沙織「自動車部だけの世界に入っちゃったね」
優花里「これは私もお手上げですぅ……」
沙織「このあとの予定はどうなってるのかな?」
ののみ「無事にしざいのはんにゅうがおわったら、交代できゅーけーなの」
優花里「休憩ですか、せっかくですから宿毛の町に出かけませんか?」
華「いいですね。豊田市では観光どころではありませんでしたし……」
瀬戸口「ふーむそうだな……大島には神社くらいしか見るところは無いが……少し足を伸ばせばショッピングセンターやアミューズメントパークがあるな」
沙織「わ!行こう行こう!」
みほ「うん、そうだね!」
麻子「私は寝させてもらう」
舞「そなたら、今は任務中で……」
瀬戸口「すまん、休憩はキャンセルだ。黒崎鼻に幻獣が出現」
あゆみ「えー!?」
あや「空気読んでよー!」
優花里「仕方ありません!」
沙織「むしろ空気呼んでこっちに来たんじゃ」
華「沙織さん!」
沙織「あ!ご、ごめん……」
みほ「ううん、気にしないで。各チーム乗車!発信準備に入ってください!」
ののみ「プラウダ校の方が位置が近かったため、もうすぐ戦闘に入ります!」
善行「ひげねこチームより各隊へ。今回の戦場は主に森林です
戦車は動きが取り辛く、小型幻獣の浸透が懸念されます
プラウダ校、サンダース校の男子歩兵部隊もいますので、大洗の各チームは歩兵支援をお願いします」
みほ「了解しました!」
善行「逆にネコさんチームは前線に出て積極的に敵を撃破してください」
舞「わかった」
厚志「こういうところで人型の利点が生きるよね」
瀬戸口「後方には小学校をはじめ市街地がある。駅前から東側は住人も残っている。間違っても突破されることは無いようにな」
若宮「こっちも野戦陣地は構築済みだ。俺たちはプラウダ校の歩兵に合流して行動する」
みほ「わかりました!各車、パンツァー・フォー!」
善行「指揮車は脇本の漁業事務所脇にて停車、そこで固定とします」
瀬戸口「その少し先が防衛線になる。大洗戦車隊はまずそこを目指してくれ」
カエサル「敵の規模は判明したか?」
瀬戸口「少し待ってくれ、プラウダ側から通信が入った。……これは、敵さんかなり気合を入れてきたみたいだな」
ののみ「敵の先鋒部隊、スキュラ25、ミノタウロス35、ゴルゴーン40、グレーターデーモン40、その他レーザー型、小型幻獣多数!」
舞「っ!これは……厚志、速度を上げよ!」
厚志「うん、飛ばすよ!」
最前線ではプラウダ校の車輌と歩兵が戦闘を、その後方からの支援をサンダースの兵が行っているようであった
みほ「かなりの小型幻獣が包囲を潜って浸透してきている……あんこうチームより各車、榴弾を装填、装甲車はグレネードで塹壕の向こうの敵に攻撃してください!」
エルヴィン「了解!」
沙織「こちらリスさんチーム!99式はこの位置でいいかな!」
みほ「大丈夫です。その位置から曲射してください。ウサギさんチームは近くの戦車壕を使用、練習した隠蔽法を使ってください」
梓「りょ、了解!」
典子「もう少しひきつけて……撃て!」
カエサル「こちらも続け!」
浸透してきたゴブリン、ゴブリンリーダー、レッサーデーモンは次々と粉砕される
だが、またすぐに押し寄せてくる
みほ「レッサーデーモンの突破力は歩兵にとって脅威です。カモさんチーム、アリクイさんチームは機動力を生かして敵を引き付けて下さい」
杏「うひゃ~!西住ちゃんも大胆な指令出すようになってきたね~!」
柚子「それだけみんな動けるようになってきたってことだよ!」
桃「わ、我々も焼夷榴弾は使える!敵先鋒に攻撃!」
みどり子「任せて!ほらカモはこっちにいるわよ!」
ねこにゃー「今はゲームではなく訓練を積みました!あの通りに動ければ……!」
足の速いカモさんチームとアリクイさんチームに釣られた小型幻獣は、側面を歩兵、車輌の両方に突かれ撃破されていく
みほ(こちら側は順調……でもこの浸透数は……)
みほ「あんこうよりひげねこさんチームへ、前線の様子はどうなっていますか?」
瀬戸口「敵の攻撃はかなり苛烈で撃破された車輌もいくつか出ている。だが歩兵の被害は少ないな」
善行「どうも、わき目も振らず後方を目指しているような動きですね。おかげで中型の撃破も比較的容易ですが」
みほ「……それは、もしかして私が……」
善行「敵の思惑はまだわかりません。ですが不安要素ですね。ヤマネコを護衛につけましょう」
みほ「……すみません」
ののみ「あやまりっこは無しなのよ、みんなで助け合うの」
みほ「はい。ありがとうございます!」
幻獣の攻撃は苛烈を極めているが、人類側は何とかその攻撃を凌いでいる
しかし、それでもエルネギーが尽きるまで戦い続ける幻獣と違い、戦車は補給を受けなければならない
カチューシャ「こちらプラウダ戦車隊!悪いけど、一旦補給に戻らせて欲しいの!」
舞「了解した。だが我らのみではミノタウロス級はともかく、足の速いデーモンやキメラなどは止めきれぬ」
みほ「入れ替わりに、私たちが……」
ケイ「待って!ここは私たちに任せて!」
杏「おケイ!でも……」
ケイ「アンジー、私もいつまでもおんぶに抱っこじゃいられないわ!やらせて!」
杏「……無理は、しちゃだめだよ」
ケイ「アンジーに会えて、少し元気をもらったから。プラウダの人たちにも恩返しがしたいしね」
善行「サンダース戦車隊、話は聞きました。前衛は人型戦車に任せ、歩兵と協力し支援に努めてください。敵の動きは直線的です。無理はしないように」
ケイ「オーケー!アリサ、ナオミ!フォーメーションVで行くわよ!」
アリサ「イエス、マム!」
ナオミ「了解」
プラウダ戦車隊が最終防衛ラインまで一時撤退してくる
プラウダ校、5121小隊、レオポンチーム総出で整備に当たった
プラウダ学園艦の準備が整い、艦砲射撃によって戦線は優位に保たれてきた
なにしろ巨大な学園艦、大藤島から黒崎鼻の間の宿毛湾数キロに渡ってに鎮座しており、戦域のほぼ全てが射程内と言っても良いのである
舞「被弾した車輌はすぐに後退させよ。今や敵は飛んで火にいる夏の虫に過ぎぬ」
厚志「舞にしては楽観的だね」
舞「逆だ。こちらに戦力を集中しすぎては裏をかかれる可能性がある」
みほ「裏を?」
舞「撤退戦以後の幻獣は妙に狡い手を使ってきた。だが今回はかつての力押しに戻ったような戦法だ。それは今の我らにとっては与し易いことだが……」
善行「なにか裏があると?」
舞「確証はない、だが備えておいて……チッ!また一山追加だ!通信を切る!」
瀬戸口「与し易い、ねぇ……自分たちの仕事量わかってて言ってるのか」
みほ「ねこさんチームもそろそろ補給をしないといけないのでは……?」
善行「……五分後にみけねこチームとトラねこを撤退させます。同時に大洗戦車小隊は前進、プラウダ学園艦の艦砲射撃に合わせ、大洗・サンダースは火力を集中させてください。プラウダ戦車隊は補給後に防衛線まで前進」
瀬戸口「ちょっと待ってください!壬生……くろねこは!」
壬生屋「ひげねこさん?わたくし、まだまだ戦えます。弾薬の補給も必要ありませんし」
瀬戸口「……そういう問題じゃない」
善行「くろねこは火力を集中させている間、突破してきた中型を仕留めることに専念、みけねこチームとトラねこが復帰次第、休息に入ってください」
壬生屋「了解しました」
みほ「ウサギさんチーム、アヒルさんチーム、カメさんチームはくろねこさんのサポートに回ってください」
梓「了解!」
典子「あのサムライはやらせないよ!」
桃「ま、任せろ!」
前進した大洗戦車小隊は、サンダースの戦車隊と共に曲射射撃を行う
同時に学園艦からの旺盛な艦砲射撃も行われた
あけび「うわ!すご……」
カエサル「まるで地獄を呼び出したような光景だな」
あゆみ「森の動物とか、大丈夫かなぁ」
瀬戸口「動物たちは一足先に逃げたさ。彼らは勘が鋭いからね」
優季「えー!わかるんですかー!?」
瀬戸口「ああ、動物たちは人類と盟友なのさ」
桂利奈「すごーい!」
ののみ「みおちゃん!幻獣が何匹か抜けたの!」
壬生屋「通しません!」
梓「来るよ!射撃準備!」
妙子「チームワークの見せ所です!」
杏「河嶋ー、敵数の捕捉頼むよー」
桃「はっ!」
森「みけねこチーム、補給完了!」
狩谷「こっちも完了だ」
舞「くろねこよ、すぐに我らが向かうゆえ、撤退するがよい」
壬生屋「わかりました」
瀬戸口「よしよし、以前と違って素直に言うことを良くいい子になったな」
沙織「お?気になる発言!」
壬生屋「せ、瀬戸口さん!今は作戦中です!」
カチューシャ「なに暢気な通信してるの!プラウダ、前進するわよ!サンダースと大洗は下がりなさい!」
ノンナ「спасибо ケイさん、よく持たせてくれました」
ケイ「なんの!」
カチューシャ「ここまでやってくれただけで十分よ。まだ九州戦も控えてるから、今はコンディションを整えることを考えて」
ケイ「……ラジャー!ありがとうね」
士魂号一番機と大洗戦車小隊、サンダース戦車隊は後退していく
そんな中、瀬戸口の緊迫した声が響く
瀬戸口「宇須々木方面に幻獣出現!くそっ!またこいつら、なぜこうも突然!」
壬生屋「撃破に向かいます!」
みほ「私たちも、でも防衛線が……!」
ケイ「ココは任せて!意地でも通さないわ!」
アリサ「隊長が復活したら、恐いもの無しよ!」
みほ「ケイさん……」
杏「無茶するんじゃないよ」
善行「サンダースの皆さんは、いざとなったら無理せず防衛線を下げてください。そしてあんこうチーム、これはあなた方をおびき寄せる罠かもしれません」
桃「nuts!また罠か!どれだけ西住隊長を苦しめれば気が済む!」
柚子「桃ちゃん……」
みほ「ありがとうございます。でも、一人じゃありません。ヤマネコさんも付いてくれています」
来須「……」
来須の姿はみほからは確認できなかったが、それでも近くで守ってくれているという安心感を感じていた
みほ「大洗は隊を二つに分けます。ののみちゃん、宇須々木に現れた敵の規模はわかりますか?」
ののみ「ミノタウロス3、ゴルゴーン5、グレーター・デーモン7、キメラ8、ナーガ6、あとは小型がたくさんなの。でもまだ隠れてるかもしれないよ」
みほ「……わかりました。先程くろねこさんを支援していた隊と、リスさんチームはサンダース戦車隊と共に防衛線で砲撃を続けてください。残りはくろねこさんと共に宇須々木へ急行します」
沙織「みぽりん、気をつけてね」
忍「ここは任せてください!」
梓「西住隊長のところには行かせない!」
杏「アンジーのことも任せといてよ」
宇須々木へは防衛線から3km後退した道のりになる
家屋も増え複雑な地形になってくるため、艦砲支援は受けられない
近隣住民は避難しているが、さらに東方面へ侵攻されると市民にも被害が出る
茜「こちら、えっと……シャムネコその1、思い出したぞ!宇須々木には前大戦時に海軍基地として重要視されてて、今でも当時の倉庫や壕が残ってるんだ!幻獣どもはそこに潜んでいたのかもしれない!」
左衛門佐「ということは、やはりさっきの報告通りの数じゃない可能性があるな」
瀬戸口「珍しく参考になる意見をありがとうな」
茜「一言余計だ!」
士魂号Lの車内で華はみほに語りかける
華「みほさん、瀬戸口さんの軽口は壬生屋さんを和ませるためでしょうか?」
みほ「うん、きっと……壬生屋さんは休息も、一番機の修理も済んでない。私たちがフォローしなきゃ」
麻子「見かけによらず健気な男だ」
華「沙織さんが言ってたじゃありませんか。優しい人だって」
麻子「そうだな……」
瀬戸口「それと、ようやく自衛軍が援軍に来る。市街地への侵攻は防がねばならんが、焦らず慎重に頼むぞ」
みほ「了解しました……見えた!あんこうチームより各車へ!相手が背を向けてるうちに……」
壬生屋「今のうちに、中型を仕留めます!」
みほ「え、くろねこさん!?待って!」
先頭のあんこうチームを追い抜き、壬生屋の一番機はミノタウロスに向け疾走
ミノタウロスの1体を袈裟斬りに、反対の刀を横薙ぎに
瞬く間に2体を撃破する
みほ「くっ!残り1体を!」
3輌の戦車の砲撃により、ミノタウロスは爆散
残りの幻獣が一斉にこちらへ振り向く
みほ「くろねこさん!一度後退を!」
壬生屋「いいえ!わたくしは前衛でみなさんの盾になりつつ敵を引きつけます!皆さんはその隙に砲撃を!」
みほ(壬生屋さん、もしかして疲労で余裕がないんじゃ……!)
三番機の動きは見事なものだった
常に敵の死角を取り、刀に突き刺した敵を盾とし攻撃を防ぐ
以前みほがやった囮作戦よりもずっと洗練され、最小限の動きでそれを行っていた
しかし、しかしそれでも、みほには胸騒ぎがした
みほ(あの温厚な壬生屋さんが仲間の制止を振り切るなんて……これまで独断で動くことなんて無かった!)
それはみほが知る由も無いことであったが、以前の壬生屋は猪突猛進としか言いようの無い戦い方しか出来なかった
しかし戦いの中で学び、多くの戦友の死を糧として、ようやく自分と仲間、同時に守れる戦い方を得たのである
だが極度の疲労の中、知らず知らずの内にかつての愚かだった自分の戦い方に戻っていく
細かい技術や足捌きなど体が覚えていることはそのまま、しかし思考がまとまらなくなっていたのである
みほ「くろねこさん!まだ敵が潜んでいるかもしれないんです!退いてください!……壬生屋さん!」
壬生屋は更にゴルゴーンやキメラ、ナーガといった射撃型の幻獣に肉薄し、味方車輌との連携で撃破していくが……
次の瞬間、士魂号一番機は大きくぐら付いた
壬生屋「キャアアアアア!!」
一番機の右腕が宙に舞う
レーザー攻撃であった
みどり子「隊長!スキュラが3体浮かんできたわ!隠れてみたい!」
ねこにゃー「私たちは、小型を撃破するので精一杯です!」
みほ「カモさん、アリクイさんはそのまま小型を撃破しつつ退いてください!」
エルヴィン「我々はスキュラか!?」
みほ「この地形ではレーザーも当て辛いはずです!3輌同時攻撃で1体のスキュラに攻撃をかけます!各車射撃位置へ!」
おりょう「心得たぜよ!」
麻子「隊長、一番機が囲まれてる」
みほ「くろねこさん!デーモンが来ます!」
壬生屋「これしきッ!」
一番機は正面のグレーター・デーモンを左の刀で切り捨てると、落ちていた右の刀を士魂号の右足で掴み拾い上げ、そのまま後ろから突進してきたもう1体に突き刺した
さらに数体の幻獣を手足の刀で薙ぎ払う
それは士魂号の限界を超えた動きだった
華「す、凄い……!」
みほ「各車、2時方向のスキュラに砲撃!」
合図と共にスキュラに砲弾が飛来、爆発し消滅する
ののみ「更に敵増援!きたかぜゾンビもいるの!」
瀬戸口「壬生屋!無事か!もうすぐ自衛軍が来る!もうすぐなんだ!耐えてくれ!」
ののみの泣きそうな声と、瀬戸口の切羽詰った声が聞こえる
そこで一番機が方膝をついた
みほ「くろねこさん!?」
壬生屋「くっ!左足が、動かない!」
それは右足で刀を掴んで振り回していたため、軸足となっていた左足の人工筋肉が限界を超え断裂したためであった
いかに士魂号といえど動かなければただの的である
一番機は左手の刀を持ち上げ、寄らば斬ると言わんばかりに敵を威圧し続ける
エルヴィン「一番機を守れ!」
あや「当たって!」
ぬえさんチームの士魂号Lは一番機に迫ったグレーター・デーモンに砲撃を加える
カモさんチームとアリクイさんチームもそれに続く
みほ「スキュラがわき腹を見せた!カバさんチーム!あんこうと共に10時方向のスキュラに十字砲火!カモさんチームとアリクイさんチームは対空砲火!」
カエサル「撃て!」
更に1体のスキュラを撃破
しかし最後の1体のスキュラが一番機のレーダードームを削り飛ばす
みほ(次弾装填……くっ!ゆかりさんの手動装填の方が速い!)
みほが最後のスキュラに砲撃指示を出そうとしたとき、あの寒気がみほを襲った
みほ(この、タイミングで!?)
華「みほさん!」
みほ「……急速後退!」
麻子「!」
麻子がすかさずギアを入れ変え猛バックする
瞬間、前面装甲がレーザーに削り取られる
来須はその瞬間を見逃さないだろう
みほは信頼の元そう判断し、即座に指示を出す
みほ「ヤマネコさん、6時方向上空!各車輌は12時方向のスキュラに一斉砲撃!」
一斉放火がスキュラを襲う しかし……
最後のスキュラは厚い装甲をこちらに向けており、3輌の士魂号Lの砲撃を受けてなお浮かんでいた
みほ(位置が悪い!)
エルヴィン「グデーリアン!移動だ!」
優花里「しかし、一番機が!」
スキュラの赤い目がさらに強い光を帯びる
周りには生き残っているグレーター・デーモンにキメラ、ナーガ
きたかぜゾンビも残っている
このままでは一番機のみならず戦車隊までも危うい
そう思われたとき、突如スキュラは爆発した
カエサル「来てくれたか!」
みどり子「遅いのよ!」
自衛軍の90式戦車の砲撃である
それは狙い違わず、残りの幻獣にも砲撃を加えてゆく
当然、大洗の戦車隊も一番機をカバーしながら攻撃を続ける
やがて周りが静かになったとき、無線に聞いたことのある声が流れてきた
蝶野「あなたたち、無事?お願い、無事なら返事を頂戴!」
みほ「蝶野……教官……!」
かつて基礎の基礎を教えるため自衛軍から出向してきてくれた教官、蝶野亜美の声であった
現行最新型である90式戦車戦車を筆頭とする自衛軍の攻撃により、宇須々木に出現した幻獣は駆逐されていく
来須「ペンタを狙撃した。確認に向かう」
先ほど、みほからの指示を受けた来須は、レーザーライフルによる狙撃を成功させていた
みほ「大まかな方向しか指定してなかったのに……」
来須「奴のレーザー照射から大体の位置は割り出せていた。まだ護衛がいると思われる。戦車の支援が欲しい」
エルヴィン「では我々が向かおう」
ねこにゃー「ボクたちもお供します」
来須を乗せた2輌の車輌はペンタの落下地点へと向かって行った
残る3輌は満身創痍の一番機を守るように配置されている
舞「こちらみけねこチーム、敵の攻勢がかなり弱まった」
善行「司令型幻獣を失ったことによる影響だと思われます。掃討戦に移行してください」
ののみ「宇須々木の幻獣、反応消滅しました!」
原「こちらシャムネコチーム、一番機を回収に向かっても?」
善行「あんこうチーム、どうでしょうか」
みほ「……はい。小型幻獣も見当たりません。大丈夫だと思います」
瀬戸口「……司令」
善行「許可します。行ってあげてください」
瀬戸口「感謝します!」
みほたちは車輌から降り、一番機のコクピットから出てきた壬生屋を支える
壬生屋は心身ともに消耗したのか、かなりフラフラであり、地面に降り立つとその場にへたり込んだ
周りは自衛軍の戦車と随伴歩兵に囲まれ安全は確保されている
整備班のトレーラーとクレーン車、軽トラがやって来た
軽トラの荷台から瀬戸口が飛び降り、こちらへ駆けてくる
華「瀬戸口さん!こちらです!」
瀬戸口「壬生屋!」
壬生屋「瀬戸口さん……」
麻子「とくに外傷は無いようだ。安心しろ」
瀬戸口「そうか!よかった……みんなにも苦労かけた」
みほ「いえ、私たちも壬生屋さんに助けられてますし……無事でよかったです」
壬生屋「わたくし、指示も聞かずに暴走して……」
壬生屋は今になって冷静になり自分の行動を思い返したのか、俯いて顔を上げられないようだった
瀬戸口「今はいい。とりあえず休もう」
壬生屋は瀬戸口に支えられ、軽トラへと向かっていった
中村「あいたー!こいつはまた派手に動かしたばいね。装甲の破損もばってん、手足の人工筋肉もボロボロになっとるタイ」
岩田「フフフ、これは最早サムライの戦いというよりNINJA!ジャパニーズNINJAの所業と言わざるを得ませんね!」
左衛門佐「壬生屋殿は阿修羅のごとく戦った」
おりょう「膝をつきなお闘志を燃やし続けたじゃきに、まっこと勇ましきおなごぜよ」
カエサル「その覇気には我々も勇気付けられた。破損も大目に見てやって欲しい」
新井木「えー?直すのは僕たちなんだけどなー!ただでさえ壬生屋さん被弾率高いんだもん!」
中村「しぇからしか!俺たちは二度とぶっ壊れないよう補強することを考えればよかね!」
岩田「あなたの無駄なエネルギーを消耗するのには一番機担当はもってこいなのですよ。それとも原さんの茶坊主でもやりますか?ふ、フフフ……」
新井木「わかった、わかったよ!壬生屋さん頑張ったもんね!」
左衛門佐「原殿は恐れられているのか?」
カエサル「皆の憧れの美人班長という感じなのだが」
おりょう「女は見た目じゃ判らんきに」
来須「ペンタ護衛の撃破を完了」
善行「了解しました。芝村竜師長の部隊へ連絡します」
エルヴィン「我々はどうすればいい?」
善行「そうですね……現場保持の方は?」
来須「俺一人で問題ないだろう」
善行「わかりました。ぬえさんチーム、アリクイさんチームは大洗と合流してください」
エルヴィン「了解した」
ねこにゃー「わかりました」
舞「自衛軍の車輌がこちらにも来たな」
カチューシャ「ふん、随分とのんびりだったわね。もう私たちでほとんど片付けてしまったわ」
自衛軍の主力戦車隊は黒崎鼻方面へと向かったが、一輌の90式戦車がみほたちの下へ近づいてくる
先ほど通信してきた蝶野亜美の搭乗車輌である
亜美「遅くなってごめんなさい。みんな……無事で良かったわ!」
優花里「蝶野教官!」
華「お久しぶりです」
亜美「みんな立派になったのね!……少し、悲しい気もするけれど」
麻子「教官の指導があったから、私たちは今生き延びている」
亜美「そう言って貰えると、気が楽になるわ」
優花里「あ!その階級証、三佐に昇進なされたのですね!おめでとうございます!」
亜美「ふふ、ありがとう。今は独立部隊の指揮を任されているわ」
みほ「もしかして、私たちの隊と合流する自衛軍の部隊というのは……」
亜美「ええ、私たちの隊よ」
5121、プラウダ、サンダース、そして自衛軍の攻撃により宿毛市に残存していた幻獣は消滅
人類側はさしたる損害も無く敵を退けることに成功した
指揮車の周囲に各員が集まり状況の確認を行う
善行「幻獣の駆逐は完了しました。とりあえず、皆さんお疲れ様です」
ナカジマ「あんこうの士魂号Lは前面装甲の換装が必要だね。でも主要機関に問題はないよ」
原「士魂号一番機も一見手酷いけど、機体の全とっかえは必要ないわ。予備パーツでまかなえます」
壬生屋「あの、わたくし……」
善行「宇須々木での戦闘の件は私の判断ミスです。壬生屋さんの疲労を鑑みませんでした」
壬生屋「そんな!」
瀬戸口「そういうことにしておくんだ」
舞「くっくっく……善行よ、そなたがそんな風に謝罪する姿を見ることになるとはな」
善行「臆病になってしまったんですよ」
沙織「芝村さん、なんか悪役みたい」
みほ「沙織さん!」
厚志「悪役みたいじゃなくて、悪人なのさ」
滝川「へっへっへ!違いねぇ!」
舞「聞こえているぞ」
エルヴィン「それにしても、ここでペンタを一体撃破出来たのは大きいな」
カエサル「うむ。九州奪還に向けて、幻獣の策略や共生派の暗躍などの懸案事項が一つ潰せたからな」
来須「西住」
みほ「は、はい!?」
気配もなく突如として背後から大男に声をかけられたみほは、飛び上がってしまった
来須は帽子の鍔に触れ一拍置くと、再び口を開いた
来須「あの時、お前は砲塔から身を乗り出していなかった。ペンタはレーダーにも映らん……見えていたのか?」
みほ「え……?」
ペンタからのレーザー攻撃を回避したときのことを言っているのだろう
それは判ったのだが、みほはどうにも返答に困った
みほ「えっと……なんというか、勘……みたいなもので」
麻子「だが、三度目だ」
優花里「きっと西住流を受け継ぐ者だけが感じ取る気配とかがあるんですよ!姉上殿も凄い実力者ですしね!」
舞「……」
みほ「あはは……」
まだ舞以外の者には姉の戦死は伝えていない
伝えれば、きっと仲間たちは自分に気を使ってくれるだろう
しかし、余計な心配はさせたくなかった
舞「……同調能力、というものがある」
エルヴィン「前にペンタの説明を受けたときに出た単語だな」
舞「ラボによって様々な実験が行われたようだ。個体差はあるが、何らかの超常能力を付加させるものだ」
カエサル「それが原因で第五世代は寝返ったと」
沙織「でも、みぽりんはそんなの……」
舞「強化実験に頼らずとも、元々は生あるものはみな使えたものらしい。心を落ち着け、自然と同化すれば見えるものがあると。みほよ、そなたはそれが見えるのかもしれぬな」
みほ「心を……」
瀬戸口「だが、ペンタの連中は生ではなく死に引っ張られちまった。自然と同化するってのは、危ういことかもしれないな」
舞「またそなたは恐がらせるようなことを……」
瀬戸口「すまんすまん。だが心配になってな」
華「みほさんなら、きっと大丈夫ですよ」
麻子「そうだな、私も信じる」
みほ「みんな……!」
沙織「でもそもそもなんで第五世代の人達は幻獣に引っ張られたのかなぁ?」
瀬戸口「幻獣、あしきゆめは平穏を生み出そうとしているのさ。死と絶望によってな」
みほ「あしきゆめ……石津さんが言ってた……」
梓「そんなの平穏っていうの?」
優季「さっぱり」
桂利奈「ってことは、良いゆめもあるの?」
舞「そうだな、希望、愛、喜びなど正の想いから生まれるもの。生きようとする意志。生と騒乱。それがよきゆめだ。我らが生きていくためには、あしきゆめと戦い続けなければならぬ。生きることは戦いとはよく言ったものだ」
あや「難しくてよくわかんない」
あゆみ「ねー?」
舞「ふふ……そなたたちはそれでよかろう」
撤収が完了したプラウダ校とサンダース校の隊長、副隊長たちがみほたちのもとにやってきた
カチューシャを肩車したノンナが口を開く
ノンナ「我が方は損害こそ出たものの、死者はゼロ。皆さんの支援に感謝します」
カチューシャ「あなたたち、中々のもんよ。……言っとくけど、カチューシャたちほどじゃないから!」
カチューシャはそっぽを向きながらそう言った
ノンナはカチューシャを降ろす
そしてカチューシャはみほに向かって手を差し伸べた
みほは握手に応じる
カチューシャ「奪還戦、別の戦場だけどヘマはしないように。カチューシャをガッカリさせないでよ!……ミホーシャ」
カチューシャはみほを独特の愛称でそう呼んだ
きっとそれは彼女にとって敬意の証なのだろう
そう思ったみほは満面の笑みで応えた
みほ「はい!」
カチューシャのその青い目は、嬉しそうに強く輝いた
ケイ「ミホー!アンジー!」
みほ「ケイさん……わ!」
ケイはみほに抱きついてきた
突然のことにみほは目を白黒させる
沙織「おお~」
優花里「!」
杏「無事でなにより~」
ケイ「あなたたちと一緒に戦えてよかったわ。私はもう大丈夫。九州ではお互い頑張りましょう!グッドラック!」
みほ「はい!そちらもお気をつけて」
アリサ「隊長がまたヘナチョコになったら、私がお尻叩いてあげますよ!」
ナオミ「おい、調子に乗るんじゃない」
ケイ「あははは!うん!お願いね」
そう軽口を叩き合う彼女たちの目には、薄っすらと涙が滲んでいた
杏もケイと抱き合い、別れを惜しんでいた
みほにはどうもスキンシップに慣れなかったが、彼女たちにとってそれは自然なことのようだった
ののみ「ペンギンさん、またね!」
ペンギン「クェ」
ののみはペンギンを頭に乗せて遊んでいたが、そろそろ時間ということを察して別れの挨拶をした
カチューシャ「ど、同志……」
ノンナ「先を越されましたね」
カチューシャ「な、なんとも思ってないわよ!ほら!撤収するわよ!」
カチューシャは少し離れたところで大洗の一年生と一緒にコサックダンスをして遊んでいた下級生たちに向かって叫んだ
カチューシャ「じゃあね~ピロシキ~」
ノンナ「До свидания」
麻子「結局あのペンギンは何だったんだ」
華「さあ……?」
瀬戸口「彼も俺たちの仲間さ。さぁ学園艦に戻ろう。蝶野三佐が率いる隊とも話し合わなくちゃな」
大洗学園艦のグラウンドでは自衛軍が設営を行っていた
麻子「一気に物々しくなったな」
優花里「流石に自衛軍ともなると屈強な兵が多いですね。とくに歩兵の方々は」
華「来須さんや若宮さんが増えたみたいです」
沙織「コレだけ男の人が増えたとなると……チャンス到来じゃないのかな!」
舞「武部よ、そなたはそればかりだな」
沙織「なにさー!芝村さんは速水くんがいるからうらやましいなー!」
舞「な……!やめんか!」
みほ「あはは……」
亜美「みんな、よく来たわね!」
みほ「蝶野教官!」
亜美「私たちは善行竜師の指揮下に入ることになるわ。これからは同僚というわけ。よろしくね!」
みほ「はい!よろしくお願いします!」
舞「90式戦車3輌、74式戦車12輌、61式戦車改18輌、随伴歩兵80名に砲兵24名か。随分と大所帯になったな」
亜美「はい。尽力いたします。芝村上級万翼長とお呼びしたほうが?」
舞「呼び捨てで構わん。敬語もいい。そもそも階級は同級相当だ」
亜美「……わかったわ。それじゃあよろしくね、芝村さん」
瀬戸口「学兵を大事にしてくれる自衛軍の方は貴重です。歓迎しますよ、蝶野三佐」
亜美「ええ、特にこの子達は私がかつて受け持った子達だから……ずっと心残りだったのよ。でも、立派に戦ってる姿を見て安心したわ」
善行「みなさん、揃っていますね」
亜美は背筋の伸びた綺麗な敬礼を行った
善行「楽にして下さって結構ですよ。私からも我が隊の面々と良くやってくれるようお願いします」
亜美「はい」
善行「さて、もう少し先の話ですが九州奪還戦にて我々と合流する学園が決定しました」
優花里「おお、ついに!」
沙織「どこだろう、仲良くできるかな?」
善行「大分県佐伯市にて、我々は黒森峰女学院と合流します」
みほ「……!」
校舎の会議室では手狭なため、自衛軍部隊員との顔合わせも兼ね倉庫前で会議が行われた
改めて善行は口を開く
善行「我々は黒森峰女学院と合流後、第106師団隷下第5戦闘団として編成されます」
舞「ふむ、106師団が復活か」
カエサル「九州、とりわけ熊本を取り返すという意思の表れというわけだな」
善行「師団本部は下関に設置される予定ですがね」
瀬戸口「俺たちの隊は、佐伯市から阿蘇を通り、熊本を目指す」
エルヴィン「随分と長距離移動だな、大丈夫か?」
善行「本作戦では人類側が多方面から進軍することにより幻獣の動きを分散させることが重要です。一気に進むのではなくその都度、橋頭堡を築いていきます」
瀬戸口「今回は航空支援も行われる。他の部隊との連絡も密に行わなきゃならない」
ねこにゃー「場合によっては退却も有り得るのでしょうか……?」
善行「戦況によって一時退却は考えられますが、作戦上、一箇所でも穴が開けば総崩れの恐れもあります。それゆえ各戦闘団の戦力を強固なものとし、確実な任務遂行を行うように、というのが上の見解です。攻勢作戦ですからね」
舞「機動防御戦の訓練も行う必要があるな」
善行「そうですね、この作戦では粘り強さが要求されるでしょう」
梓「でも、味方が黒森峰っていうのは心強いよね!」
優花里「確かに!隊長は西住まほ殿なのでしょうか?」
みほ「……」
舞「……」
善行「あー、彼女は現在自衛軍へ出向となっているため、黒森峰の隊長は逸見エリカ千翼長となっています」
みほ(出向?これは嘘……善行さんは本当のことを知っているのかな……)
善行「現在の情報は以上です。また時期が近づけば追って情報が入るでしょう。それまでは作戦に向けての訓練です」
瀬戸口「各員リフレッシュの時間も作るようにな。九州に上陸すれば暇なんかなくなっちまうだろう」
善行からの報告は終わり、ひと段落ついたところで亜美が口を開いた
亜美「ねえ、この部隊では各チームにニックネームが付いているみたいだけど?」
みほ「はい。舞さんたっての希望で……」
舞「共生派の傍受に配慮して、だ」
厚志「舞ったらまだ言ってる」
亜美「あはは!いいわね、そういうの。私たちの部隊にも付けてくれないかしら?」
みほ「え?で、でも……」
亜美「私たちもこれから共に戦う仲間なんだもの。ね?」
顔を向けられた自衛軍の部下たちは苦笑いを浮かべている
それでも批判的な声は無く、彼女は隊員たちから信頼を得ているのだという雰囲気があった
みほは善行の顔をうかがう
善行「今回は他部隊との連携も想定されているので符号は使いませんが……まあ、部隊内での使用であれば問題は無いでしょう」
みほ「えっと、では……自衛軍の皆さんをまとめて『いぬさんチーム』として、戦車隊は『こいぬさんチーム』でどうでしょう」
自衛軍の女性戦車兵たちはまんざらでもないという表情である
亜美の影響か、柔軟でノリの良い隊員が多いようだ
亜美「うん!可愛くていいじゃない!じゃあ、歩兵たちは子犬を狙う狼さんね!」
これには流石に自分たちはそんな節操無しではないと抗議の声が上がる
と言っても、怒っているようではないようだ
亜美「いいじゃない、強そうでしょ?」
桂利奈「狼さん、がおー!」
優季「こわーい!」
あや「つよそー!」
強そうと言う言葉に渋々、と言った感じで隊員たちは納得したようだ
沙織「蝶野教官、男性歩兵の人達を手玉に……!」
華「教官はお強いですから、きっとそれを認めているんですよ」
麻子「尻に敷かれているだけじゃないのか」
その後の質問や雑談も終わり、その日は解散となった
メンバーがその場を離れる中、倉庫前に善行、舞、厚志、亜美、そしてみほが残っている
舞「善行よ、この作戦についてだが」
善行「他の隊員の前では言えませんが……私個人としましては、不確定要素が多すぎるこの作戦は正直不安ですね。兵站運用がかなり厳しくなります」
亜美「補給線がかなり延びてしまいますね」
舞「電撃的な進撃であればともかく、他部隊との足並みを揃えた上での長期戦となると……」
厚志「かわりに、敵の戦力も分散されるから、いつものしつこい増援は減るんじゃないかな?」
みほ「一長一短……という感じですね」
善行「私のモットーは疑うことです。あらゆる被害や落とし穴を想像する悲観主義(ペシニズム)。それと戦うことから私の戦いは始まりますが、今回は味方を信頼することが参戦の前提条件です。つまり……」
舞「そなたの出番は殆ど無いと言う事だな」
厚志「そんな実もふたも無い」
善行「いえ、その通りですよ。だからこそ、現場の指揮官たるみなさんに作戦の成否が掛かっています。どうか、よろしくお願いいたします」
亜美「ご期待に沿えるよう、努力いたします!」
善行「ああ、西住さん」
みほ「はい?」
善行「後ほど正式な伝令が届きますが、今回の戦闘の活躍で、あなたと大洗戦車隊員の昇進が決まりました。それぞれ一階級昇進です」
みほ「あ、えっと……レオポンさんチームの方々は?」
善行「今回は戦車兵に限られますね。どうしてもラインオフィサーとテクノオフィサーでは昇進速度に差が出てしまうもので」
みほ「私の昇進の変わりに、整備の皆さんを昇進させて上げられないでしょうか?」
善行「……ふ、あっはっはっは!」
みほ「あの、おかしかったでしょうか?」
善行「いえ、失礼。軍でもね、前線と後方の兵の間の確執というのは中々解決できない問題なのですよ。前線兵は後援を軽んじ、後方部隊は階級が上がる兵を疎んじ、そして上層部は彼らに目を向けられなくなる」
みほ「……」
善行「あなたは仲間を気遣ってあげられる人です。どうか、皆を引っ張っていってあげてください。上に立つものは、それ相応の責任が発生します。あなたにはそれが期待されるだけの力があるのですよ。大丈夫、あなたの仲間に、あなたの昇進を疎む人はいないでしょう?」
みほ「それはもちろん!……はい、わかりました」
厚志「善行さんはあんなこと言ってたけど、作戦に向けて相当念入りに準備してるよね」
舞「当然だ。あの臆病者が何もせず座っているはずが無い」
みほ(お姉ちゃんのこと、聞きそびれちゃったな……)
善行、亜美と別れ、みほたちは学園の校門へ足を向ける
既に日は落ちかけ、街灯が点き始めている
校門では何人かの生徒がみほたちを待っていて、声をかけてきた
沙織「みぽりーん!」
みほ「沙織さん、みんな、待っててくれたんだ」
沙織「うん!あのね、今度の土曜日なんだけど」
優花里「五十鈴殿が参加されている生け花の展示会に、みんなで行こうという話になりまして」
みほ「わぁ!華さんの作品が見られるの?」
華「はい、少しお恥ずかしいですが、是非」
麻子「5121からも何人か見に行くそうだ」
厚志「へぇ、僕たちも見に行こうか、舞?」
舞「む、そうだな……私に花の何たるかが分るかどうか……」
花「見たまま、感じたままを受け取っていただければ、それでよろしいかと思います」
舞「ふむ、わかった」
厚志「決まりだね!」
土曜日、面々は展示場に集合
水族館の施設内で展示されているようだった
普段、鉄と油の匂いばかり嗅いでいる隊員たちにとって、花の香りはとても心安らぐものであった
壬生屋「これは……とても心が落ち着きます」
瀬戸口「ああ。来てよかっただろう?」
滝川「俺はちょっと落ち着かねぇな……ロボットのプラモ屋とかなら落ち着くんだが」
石津「滝川くんは……こういう雰囲気も……必要……」
沙織「お、おのれー!私もカップルで来たかった!」
麻子「私たちで我慢しろ」
みほ「あはは……華さんのお花はー」
沙織「ん……お!あれじゃない!?」
そこには戦車の形を模した花器に生けられた花が飾られていた
思わず感嘆の声を上げるみほたち
沙織「すごーい!」
みほ「戦車にお花が……」
舞「ほう、こういうものもあるのか」
壬生屋「流石に特注品だと思いますが……」
華「来てくれてありがとう」
そこに着物姿の華が現れる
みほ「華さん。このお花、凄く素敵です!力強くて、でも優しい感じがする……まるで華さんみたいに」
華「……この花は、みなさんが生けさせてくれたんです」
華は戦車道を通じて、これまで自分に足りなかった個性と新しさを花に見出すことが出来、母親とも和解することが出来たという
母から、自分とは違う華の新境地と認められることが出来たと
それを聞いたみほは自分のことのように嬉しかった
舞「確かにこの花からは力強さが伝わってくるが……同時に私には砲塔部分が派手に爆発しているように見えるのだが」
滝川「奇遇だな、俺にもそう見える」
厚志「ちょっと舞……」
瀬戸口「お前さんたち、もっと風情と言うものを」
華「まあ!ふふふ……そう言われれば、そうも見えてきますね。これも戦車道の影響でしょうか」
麻子「まあ、戦車道ではアレも見所の一つではある」
沙織「それでいいの……?」
館内のフードコートで食事を取る一行
壬生屋「西住さん、先日の一件では申し訳ありませんでした。改めて謝罪します」
みほ「あ、いえそんな」
壬生屋「瀬戸口さんにも諭されまして。多くの人を守りたい思いも大事ですが、自分の命を蔑ろにする者にそれは出来ないと。わたくしは西住さんを信じて戦うことを誓います」
みほ「……はい。私からも、よろしくお願いします!」
沙織「麻子のおばあ、退院出来たんだ!」
麻子「ついでにあの口の悪さも治してくれればよかったんだが」
沙織「どの口が言うの?」
みほ「でも良かった。おばあちゃんからも、麻子さんのことよろしくって言われてたの」
麻子「むぅ……おばぁから、奪還戦もしっかりやれと発破かけられたよ」
優花里「私も両親から激励されました!お父さんはちょっと泣いていましたけど」
みほ(家族……か……)
舞「学園艦の一般住人は、九州接近時は内部に退避すると言っていたな?」
みほ「はい。一応本土に降りるという選択もあったのですけど、殆どの人は学園艦に残っています」
優花里「学園艦の守りは強固ですし、内部となるとますます安全ですからね」
華「学兵たちのために、出来るだけ普段の生活を維持したいという住人の方々が多いみたいです」
壬生屋「なんとありがたいことでしょう」
石津「ここは……暖かい人の意思が……集まっているわ……」
滝川「へへっ!心強いじゃねぇか」
厚志「舞?どうかした?」
舞「む、学園艦の守り、という話題で思い出したのだがな。そなたらもサンダースの学園艦が九州撤退戦で放棄されたと言う話は聞いたであろう?」
みほ「はい。ケイさんたちが幻獣に強襲されて逃げたって……」
瀬戸口「中型幻獣クラスでは容易く沈まない学園艦がなぜ、って話しか?」
舞「うむ……いや、当時の戦域図を見たのだが、サンダースの学兵は学園艦との経路を寸断され北西へ逃げざるを得ない状況ではあった。だが学園艦側は海上から逃げるなり出来たはずなのだ。それにその場でやられたのなら学園艦は佐世保に存在するはずなのだが……」
厚志「え?別のところにあるの?」
舞「軍のデータベースに侵入して見た衛星写真では、長崎半島を越え島原湾付近に位置していたのだ」
沙織「侵入って……」
麻子「恐ろしいな」
みほ「それは、サンダースの学園艦はまだ機能していると言うことでしょうか?」
舞「さて、それも今回の作戦で明らかになるやもしれぬな」
次の日、勲章の授与式が行われた
大洗の戦車隊の隊員たちはそれぞれ一階級昇進、みほは千翼長となった
みほは隊内での階級差を危惧したが、レオポンチームメンバーが心から祝ってくれたことに安堵した
善行から九州奪還戦の決行日時が知らされる
残された訓練期間はそう多くは無かった
桃「時間はわずか……我々は戦い抜けるだろうか……」
舞「焦っても仕方がない。目の前の課題を一つずつこなしてゆくしかない」
杏「河嶋。西住ちゃんと芝村ちゃんを信じるんだ」
桃「会長……」
杏「そうだ、あそこ予約しておこうかな。決行前の日はみんな空けておいてよ」
それからは皆訓練に励み、学園艦をみんなで探検したり、隊員たちでバレーボール大会を開いたりもした
5121のメンバーにあんこう音頭を教えたり、奥様言葉で話す善行を目撃したり
みほがシャワールーム使用中に覗かれ、舞が激怒し犯人を大福死に処したこともあった
そしてあっという間に奪還戦前日になる
奪還戦前日早朝、倉庫前で生徒会メンバーが口を開く
杏「さあ!いよいよ奪還戦だよ!」
桃「危険な任務だ。だが我々は人類のため、勝利せねばならない。負ければ……」
みほ「……」
杏「んじゃ、西住ちゃんも何か一言」
みほ「へ?」
杏「ほら!」
みほ「えっと、明日合流する黒森峰女学院は、私がいた学校です。きっと、心強い味方となってくれるはずです。だから、あの……私も一生懸命落ち着いて、冷静に頑張りますので、みなさん頑張りましょう!」
「おーーー!」
厚志「ほら舞も」
舞「お、おー!」
瀬戸口「善行さん、黒森峰から連絡が」
善行「分りました。みなさん、今日はあまり無理をし過ぎないように」
夕方、訓練を終え再び倉庫前
桃「訓練終了!やるべきことは全てやった!」
舞「あとは各自明日の出撃に備えるように。解さ……」
杏「おっと待った待った!今日はみんなあそこに行くよー!」
5121と大洗のメンバーはとある店に向かう
桃「ここ、ですか?」
杏「そ!さあ入ろ入ろ」
店主「いらっしゃい!準備できてるよ!」
店内には沢山のとんかつ料理が並べられていた
ゲンを担ぐつもりで杏が予約していたらしい
杏「ここはねぇ、いろいろと縁起のいいお店なんだよ」
店主「みんな、うちのカツを食べて頑張ってね!それと、君たち味のれんの常連だったんだって?僕はあそこの親父さんと個人的な知り合いでね。連絡を取ったら、これを送ってくれたんだ」
ののみ「わ~!アップルパイだー!」
みほ「もしかして、舞さんが前に言ってたのって」
舞「うむ、間違いないな」
厚志「あはは、これはますます負けられないや」
麻子「こんなに食べ切れんぞ」
華「あら、そんなに量は無いようですが?」
沙織「て、店長~!こっちご飯特盛でお願いします!」
中村「むむ!これは絶品タイ!」
桂利奈「このアップルパイも!」
あけび「ほっぺた落ちそうです!」
新井木「んん~美味しー!」
おりょう「活力が湧いてくるぜよ」
岩田「フフフ!カツだけに!カツ力が湧いてくる!これはカツしかない!カツコイイィィィー!」
舞「やかましい!」
桃「カツカツ言えば良いってもんじゃない!」
杏「河嶋、そうカツカツするな」
桃「会長まで!?」
沙織「重大な発表があります」
みほ「え?」
沙織「実は私……」
優花里「婚約したんですか!?」
華「彼氏もいないのに?」
壬生屋「せ、瀬戸口さん……まさか、あなたという人は!」
瀬戸口「待て!なぜそうなる!」
沙織「違うわよ!じゃん!アマチュア無線2級に合格しました!」
華「まあ!」
優花里「4級どころか2級なんて!」
みほ「2級って結構難しいんじゃ?」
滝川「そんなに難しいのか?」
瀬戸口「まあかなり専門的な分野になるからな。1級ともなると丸暗記では無理かな」
沙織「いやぁ大変だったよ~!麻子と狩谷さんに勉強付き合ってもらって」
麻子「教えるほうが大変だった」
狩谷「まあ、いい気晴らしにはなったさ」
加藤「うぇっへっへ!こりゃなっちゃん貸出料取らんとなぁ」
左衛門佐「有料なのか!?」
狩谷「僕はお前の所有物じゃない」
加藤「あはは、冗談や!」
みほ「でも沙織さん凄い!婚約発表は無いと思ってたけど」
沙織「みぽりん何気に酷い!」
原「でも西住さんもかわいい顔してるんだから、彼氏の一人でも作ればいいのに、ねえ?善行さん?」
善行「ゴフッ!ごほっごほっ!え、あー、それは個人の価値観によりますし……」
滝川「善行さんが動揺してる」
妙子「弱点なんでしょうか?」
典子「はっきり言うんじゃない」
みほ「私は……私は、みんなと一緒にいるのが、今凄く楽しいから……みんなの事が、大好きだから」
麻子「おぉ……」
優花里「西住殿に告られましたー!!」
沙織「むむ、男女関係無く告白とは、みぽりん恐るべし……」
みほ「え!?あ、そういう意味じゃ……」
舞「ののみよ、渡したいものがあるのだろう?」
ののみ「うん!みほちゃん、あのね……これ、みんなで作ったの!」
ののみから手渡されたそれは、あからさま嘘くさい勲章であった
嘘くさいが、ずいぶん真面目に作られているようだ
真ん中にはののみの手書きだろうか、「えらい」と書かれている
みほは普通の勲章より、価値があると思った
みほ「ののみちゃん、みんな……ありがとう!とっても嬉しい!」
作戦当日早朝
第5戦闘団の隊員たちは倉庫前にて出撃準備に取り掛かっていた
沙織「ほら麻子起きて!」
麻子「眠い……なんでこんな時間に出撃なんだ……」
みほ「この時間帯は幻獣の活動が比較的少ないんだって、あくまで統計上のものだけど」
滝川「今回は見送りも無しか。この前はそこそこの人が見送ってくれてたよな」
優花里「仕方ありませんよ。一般住人は昨夜までに艦内へ退避していますから。私の両親もそうです」
華「こちらの点検は終わりました」
ナカジマ「全車の整備も万全にしてあるからね!」
茜「この僕が直々に手を汚したんだ。簡単に壊してくれるなよ」
田代「お手伝い君が何をほざく!何か不具合があったらすぐ言えよ」
ツチヤ「今回は余剰パーツもたんまりあるからね~」
みほ「はい!ありがとうございます!」
善行「確認します。佐伯湾に近づいた時点で幻獣側からの激しい抵抗が予想されます。洋上からの艦砲射撃と自衛軍の艦載機による爆撃で防衛線を崩し、佐伯港に上陸します」
瀬戸口「上陸までの間は陸戦隊は昇降口にて待機だ。士魂号三番機のみ特別に用意したミサイルで洋上からの攻撃を援護してくれ」
舞「了解した」
厚志「これは僕の仕事はほとんど無さそうだね」
善行「学園艦のサイズの問題上、黒森峰女子が先行して上陸する予定ですので、士魂号一番機と二番機は先に前進して合流してください。若宮君も、あらかじめ選抜しておいた随伴歩兵と共に向かってください」
若宮「ハッ」
善行「残りは上陸後、南方面から進撃してくる幻獣に備えつつ敵を撃破、集合地点は佐伯小学校の駐車場とします」
みほ「了解です」
宿毛湾を出発して三時間ほど
佐伯湾に近づく前に艦載機が飛び立つ
そして学園艦からの射撃も開始された
麻子「始まったな」
各員はそれぞれ戦車に搭乗して待機しているが、流石に内部に篭っていては気が滅入ると車外に身を乗り出しているものもいる
リスさんチームとウサギさんチームなどはトランプで遊んでいた
その気楽さがみほには少し羨ましかった
華「みほさん?」
言われて気づく
左手が震えていた
みほ「大丈夫……大丈夫……」
手を押さえ、自分に言い聞かせるみほ
小杉「西住サン、手、貸してくださいデス」
みほ「ヨーコさん?」
いつの間にか傍らに三番機整備士の小杉ヨーコが佇んでいた
小杉は整備士であるが、よく細かいことに気付き、隊の縁の下の力持ちのような存在として、皆に慕われていた
大洗が合流してからもよくフォローしてもらっていて、本人の希望もあり下の名前で呼ぶようになっていた
曰く『ヨーコ』は太陽の名前、幸福の名として自慢らしい
小杉「……はい。最初に模様ありキでス。これは、幸運の模様。万物の精霊、この模様を巡って踊り、言うことを聞くデス」
みほ「幸福の……模様……」
小杉「はい。終わりデス。頑張ってくださいネ?」
みほの目にはいつもと変わらない自分の手が映った
一種のおまじないのようなものだったのだろうか
しかし不思議と手の震えは収まり、深い安心感のようなものを感じた
みほ「ヨーコさん、ありがとう!」
小杉はニッコリ笑うと整備班のもとへ戻っていった
瀬戸口「みんな、待つのはしんどいだろうがもう少しの我慢だ。先行した黒森峰女学園は無事上陸に成功した。俺たちもまもなく出撃だ」
みほ「はい!」
善行「三番機も頃合を見て上陸準備に移ってください」
舞「わかった……ふむ、こんなものか。厚志」
厚志「うん、ようやく出番だね!」
大入島で待ち構えていた幻獣は爆撃と艦砲射撃により消滅
第5戦闘団は佐伯港に上陸する
舞「ふむ、このあたりは片付いているか」
壬生屋「わたくしたちは先行いたします」
若宮「こちらも移動する」
ののみ「市立中学校の向こうから幻獣接近中なの!」
瀬戸口「黒森峰は佐伯駅の北西側の幻獣に対応中だ。俺たちは南側に向かうぞ」
善行「ひげねこチームは地方裁判所で固定とします」
みほ「了解!各車、あんこうについて来てください。パンツァー・フォー!」
舞「市街戦ゆえ見通しは利きにくいが、逆に幻獣も動きは取り辛いはずだ」
みほ「はい。各車、指定のポイントに移動してください。いぬさんチーム、よろしくお願いします」
亜美「ええ、前衛は任されたわ!」
来須「きたかぜゾンビが突出してくる」
亜美「オーケー、攻撃開始!」
長島町の少し広い通りを境として、隊は陣形を作り攻撃を開始した
歩兵たちは建物を利用し攻撃を加える
狭い地域に密集して押し寄せる幻獣は旺盛な砲撃を浴び次々と消滅していく
杏「うひゃぁ~!凄い数だね!」
柚子「こんな数は初めて見ました……」
桃「た、隊長!我々は撃たなくていいのか!?」
みほ「まだです。番匠川に阻まれているため、いま来ている幻獣はじきに勢いを緩めるはずです」
舞「今は時折すり抜けてくる敵を撃破することに専念せよ」
およそ一時間、自衛軍の攻撃を浴びた幻獣の攻勢は弱まってきた
みほ「あんこうよりいぬさんちーむ、補給の必要な車輌や被弾した車輌は下がってください。こちらは前進します」
亜美「了解、後退するわ」
瀬戸口「敵さんはまだこちらへ前進を続けている。油断しないでくれ」
舞「ふむ、敵は余力を大きく残していると言うことだな」
みほ「カメさんチーム、カモさんチーム、アリクイさんチームは突出のし過ぎに注意してください」
敵の数はだいぶ少なくなり、生き残った幻獣も傷ついたものが多かった
みほの指示により慎重な攻撃を加え続け、確実に敵を撃破していく
そんな中、ウサギさんチームの操縦手・桂利奈は前方に何かの影を見つけた
桂利奈「あれ?だれか倒れてるよ?」
梓「ホントだ、あのウォードレスは学兵?あ!動いてるよ!」
あゆみ「生き残りかも!助けてあげなくちゃ!」
舞「学兵?……待て!近付くな!!」
倒れていたウォードレスが起き上がり、砲塔から顔を出していた梓と目が合った
しかし、その目は1対ではなく、顔中に赤い眼が無数に存在していた
梓「ひっ」
その手に持った銃が持ち上がる前に、来須のレーザーライフルがウォードレスを貫いた
すると各所から同様にウォードレスを着た『それ』が湧き出てくる
舞「ワイトだ!注意せよ!」
みほ「戦車を破壊するほどの火力はありません!動きも緩慢なはずです!落ち着いて機銃で攻撃してください。オオカミさんたちは援護をお願いします」
やがて20対ほどのワイトは全て駆逐される
しかし、ウサギさんチームのメンバーはショックを受けていた
桂利奈「な、なに今の……恐いよぉ」
舞「授業で習ったであろう?熊本戦のあとより数多く出現しだした非骨格群体属寄生科の超小型幻獣、いわゆるゾンビ兵だ。戦死した我らが同胞の身体に寄生し、これを操って戦う」
杏「寄生……寄生だって?九州を守るために必死で戦って、こんなところで力尽きて、その死まで利用されて!」
桃「会長……」
杏「河嶋、あたしは許せないよ……なんだって幻獣はこんな……みんながやられたらと思ったら、あたしは!」
杏がここまで激昂した姿を見るのは、みほたちはもちろん、生徒会のメンバーも初めてであった
会長の生徒たちを想う気持ちが、幻獣に寄生された学兵たちにも向けられ爆発したのだ
瀬戸口「落ち着くんだ、気持ちはわかる。俺たちだって、始めて遭遇したときは衝撃だったさ。死んだはずの仲間や恋人たちが、死んだときの姿のままで動き出す、その心理的な効果は恐るべきものだった」
杏「……」
瀬戸口「だがな、それこそが奴らの狙いなんだ。彼らの無念を想うのなら、俺たちは生きて切り抜けなきゃならない」
みほ「会長、わたしは皆さんを死なせはしません。それにあんなに訓練したじゃないですか!きっと……絶対大丈夫です!」
杏「……うん、ごめんね……ありがとう。よっし!河嶋、小山!張り切るぞ!」
柚子「会長……!」
桃「はい!」
瀬戸口「よしよし、いい子だ。大洗は素直な子ばかりでお兄さん嬉しいよ」
壬生屋「瀬戸口さん!角谷さんたちは上級生ですよ!」
瀬戸口「ん、そうだったか?で、そっちの状況は」
滝川「いやぁ順調も順調!また撃墜スコア稼いじまったな」
壬生屋「なんというか、とても戦いやすいです。まもなく合流できそうですよ」
若宮「黒森峰は実に統率の取れた隊だな。隊を指揮しているのは逸見エリカ千翼長といったな?」
みほ「エリカさん……」
逸見エリカ―――みほが黒森峰に所属していた頃のチームメイトであり、みほが転校してからは隊長を務めている
彼女はみほの姉、まほのことを大変尊敬していた
気性の激しい一面もあったものの、まほの妹であるみほとも仲は良かった
しかし、去年の戦車道大会決勝での一件で仲に亀裂が入り、まほの戦死でその溝は埋まらないものとなってしまった
みほは今でも、みほが亡くなったと聞かされたとき取り乱し泣き叫んだエリカの顔が忘れられない
瀬戸口「黒森峰もそろそろ佐伯小学校へ向かうそうだ」
華「西住さん、昔のお仲間と再会ですね」
みほ「はい……」
麻子「我々も合流地点に向かおう」
みほ(エリカさん……きっとまだ怨んでるだろうな……)
合流するのが黒森峰だと聞かされたときから、みほはある程度の覚悟はしていた
しかしいざ対面となると、やはり恐かった
佐伯小学校駐車場にに各隊が集合する
休息も兼ねて、隊員たちは早速交流を図っているようだった
優花里「強豪黒森峰と聞けばもっとピリピリとした人達をイメージしていましたが……」
沙織「みんな普通にお話してるね」
みほ「みんな普通の女子高生だよ。もちろん戦車道の試合のときは凄く統率の取れた一流の選手たちばかりだけどね」
麻子「誰かこっちに向かってきたぞ」
みほ「!」
舞「舞だ。芝村をやっておる」
エリカ「黒森峰女学園戦車隊隊長、逸見エリカだ。早速だが今後の動きについて協議したい」
みほ「は、はい!」
九州各地へ侵攻した他部隊も、きわめて順調に上陸を果たしたようであった
第5戦闘団も当初の予定通り国道10号に乗り国道57号を目指すことに
協議の最中、みほが気になったのはエリカの口調であった
みほ(お姉ちゃんに……似てる?)
最悪、出会い頭に罵声の一つでも浴びせられるかも知れないと思っていたみほだが、エリカは無駄口の一つも叩かず、淡々と舞や善行、亜美らと話している
また、みほが黒森峰にいた頃の彼女は女性語を使用していたが、それも見られない
それが気がかりであった
エリカ「では各隊は補給後、指定の隊列を組み行軍、中ノ谷峠のトンネルまで迅速に移動と」
舞「うむ。距離にして約15kmと言ったところか。だが山中の行軍ゆえ幻獣の奇襲には十分に警戒せねば」
亜美「九州が幻獣の支配下にある以上、あらゆる地点から襲撃されてもおかしくないと考えなきゃね」
善行「移動開始は0800とします」
エリカ「了解。では……」
話が済むと、エリカは踵を返して自分の隊へと戻ろうとする
思わずみほは声をかけてしまった
みほ「あ、あの!」
エリカ「……何か?」
みほ「え、えっと……その……」
考え無しに話しかけてしまったみほは言葉を詰まらせてしまう
謝りたいのか、許されたいのか、そもそもエリカは今自分をどう思っているのか……
頭の中がぐちゃぐちゃになってしまった
エリカ「……我々はもう子供ではない」
みほ「え?」
エリカ「戦場で雑念を抱けば、死に繋がる。私は隊を率いる身……そういったものは既に捨てた」
みほ「……」
エリカ「ここまでは順調だが、決して油断はするな。迅速かつ確実な行動を期待する」
みほ「エリカさん……」
再び歩き出したエリカの背中に、みほは呼びかける
みほ「あの、私たちチーム名を付けて呼び合ってるんです!よかったら黒森峰も……」
エリカ「その必要は無い」
エリカは今度は振り向かずに言った
舞「みほよ、今は行動によって示すときだ。仲間を守るのであろう?」
みほ「そう……だね。うん、頑張らないと!」
みほ(最優先は、皆を生きて帰すこと……!舞さんの言うとおり、エリカさんに気持ちを伝えるなら……今は戦うときだ!)
決意を新たに、自分の搭乗する士魂号Lへと歩き出すみほ
すると今度は自分が声をかけられた
「待ってください、みほさん!」
みほ「あ……」
「あの時はありがとう」
みほ「……!」
その少女の名は赤星小梅
昨年の戦車道大会決勝戦で、みほが助けた戦車に搭乗していた生徒である
小梅「あの後みほさんがいなくなって、ずっと気になってたんです。私たちが迷惑かけちゃったから……でもみほさんが戦車道やめないで良かった!」
みほ「うん……私は、やめないよ」
小梅は、笑顔を見せてくれた
みほは、気がかりになっていたエリカのことについてたずねてみた
みほ「あの、エリカさんのことなんだけど……」
小梅「隊長が変わったことについて……ですか?」
みほ「うん。何て言うか、お姉ちゃんに似た雰囲気を感じるなって」
小梅「みほさんが転校されてからしばらく、隊長はとても気を落とされていました。でも私たち2年も徴兵される頃になって、急に人が変わったようになりました」
みほ「……」
小梅「以前にも増して厳しく、そして優秀な指揮をとるようになりました。私たちが生きてこられたのは隊長のおかげです。でも、無理をしているみたいで……」
みほ「無理を?」
小梅「本当に何となくなんですけど、私たちには分かります。また、以前の元気なエリカさんに戻って欲しいって気持ちも、少しあります……」
みほ「そう……ありがとう。いつか、戦車道で元気な皆と、エリカさんと戦いたいな」
小梅「はい!」
沙織「みぽりーん!」
華「行きましょう!」
みほ「うん!」
大洗戦車隊の各チームに行軍説明を行ったあと、士魂号Lの前に佇むみほ
そっと、装甲に手を乗せる
みほ「がんばろうね」
すると、そこに小さな手が添えられる
みほ「ののみちゃん!」
ののみ「えへへ」
さらに他の仲間たちも手を重ねてくる
ののみ「まいちゃんも!」
厚志「ほら、呼んでるよ」
舞「わ、わたしもか……?」
渋々、と言うには少々嬉しそうな表情で参加する舞
みほはみんなの顔をよく見た
みほ「……行こう!」
「おーーー!」
優花里「西住殿、良かったですね!仲間を助けた西住殿の行動は、間違ってなかったんですよ!」
みほ「……今でも、本当に正しかったかどうかは分らないけど、でも……あのとき私は助けたかったの、チームメイトを。だから、それでいいんだよね」
舞「戦車道は『道』であろう?仲間を助けたそなたは微塵も恥じることは無い。我らはこの地でたくさんの戦友を救えなかった」
みほ「舞さん……」
舞「あの日、大洗で多くの市民を救おうとしたそなたを守ることが出来たのは、私の誇りだ!そなたと出会えてよかった」
みほ「私も、私も舞さんに会えてよかった!」
沙織「ちょっとちょっと、なに今生の別れ~みたいな会話してるのよ!」
麻子「映画では死亡フラグと言うやつだな」
優花里「え、縁起でもない!」
華「ふふふ、みんなで帰れるよう、精一杯頑張りますね」
ののみ「ののみもいっぱい応援するのよ!」
沙織「よーしそれじゃあプロの無線技術を見せようかな!」
麻子「本職に任せておけ」
沙織「酷い!なんでそんなこと言うの!?」
麻子「だってアマチュア無線だし」
黒森峰を先頭として、自衛軍、大洗と続く第5戦闘団は国道10号を進む
5121の人型戦車は3つに別れ、1番機は黒森峰、2番機は自衛軍、3番機は大洗へとそれぞれ付随している
次第に民家はまばらになり、鬱蒼とした山道へと変わっていった
桃「しかし、山道とはいえこれは……」
杏「幻獣領になった地域は自然が復活するって言われてるからね。家も飲み込まれてる……」
柚子「それを根拠に共生派になる人もいるって言われてますね」
梓「いくら自然が戻るって言っても、人を殺してまでなんて!」
おりょう「ここにもたくさんの人の思い出と築き上げてきた歴史があったぜよ……」
左衛門佐「人類にとって到底納得の出来るものではないな」
みほ「……あんこうよりひげねこさんチームへ、こちらは現在異常なし」
善行「了解です」
舞「思ったより抵抗が少ないな」
壬生屋「こちらくろねこ、敵が出現……え?」
瀬戸口「どうした!?」
壬生屋「もう掃討が完了したみたいです……速い!」
エルヴィン「流石黒森峰というところか」
舞「だが敵も多くは無い……これは」
厚志「順調すぎる?」
舞「今回は敵を避けての行動ではなく、敵を九州から駆逐することが目的だ」
みほ「敵がいなければ始まらない……そういう作戦ですからね」
散発的な戦闘は度々起きたものの全て少数の小型幻獣の襲撃にとどまり、戦闘団は1時間ほどで中ノ谷峠まで到達
トンネル前で若宮から通信があった
若宮「ここは俺とオオカミたちで先導しよう。距離は1km弱で見通しも悪くはないが、万が一の時に戦車が身動きが取れなくなると困るだろう」
舞「ねこさんチームもここはトレーラーで通るしかないからな」
エリカ「……了解」
みほ「こちらは外からの攻撃の警戒を行います。来須さんもお願いできますか?」
来須「わかった」
若宮「む、前方にゴブリン集団発見だ。攻撃する!」
ほどなく銃撃音が響き、そしてすぐに止んだ
若宮「掃討完了だ。だがまるで抵抗がなかった。妙だぞ?」
典子「上陸のときにあんなにいた幻獣はどこに……」
優季「恐がって逃げちゃったんじゃないですかぁ?」
あや「そーそー!あんだけコテンパンにされたんだもん!」
優花里「うーん芝村殿も、幻獣にも知性があるとおっしゃっていましたし……」
妙子「でも、ここ幻獣がたーっくさんいるんですよね?」
ねこにゃー「幻獣も何か企んでるんじゃ……」
忍「確かに、これまでも痛い目に合わされてきたし」
みどり子「でも今は隊長たちを信じて進むしかないでしょう?」
カエサル「しかし、只おんぶにだっこと言うわけにも行くまい」
みどり子「何?西住さんたちが信じられないって言うの?」
モヨ子「ちょ、ちょっとソド子!」
カエサル「そうは言っていない。だが、かのカエサルとて失敗はあったのだ。我々も良く考えて……」
みどり子「船頭が多くたって瓦解するだけでしょ?余計なことはしない方が良いって言ってるの!」
カエサル「……なんだと?」
エルヴィン「おい、言いすぎだ!」
優花里「エルヴィン殿、抑えて!」
みほ「み、みなさん落ち着いてください!」
速水「なんかギスギスしてきちゃったね」
舞「すわ決戦と乗り込み緒戦を制し、しかし今は勇み足を踏まされているのだ。逸る気持ちは分かるが、これはいかんな」
善行「……他部隊の状況を確認してください」
瀬戸口「了解」
エリカ「こちらは前進する」
みほ「え?あ、は、はい」
沙織「うぅ~みんな仲良くいこうよ~?」
第5戦闘団は国道502号に乗り換え、なお西へ進んでいく
相変わらず散発的な幻獣の襲撃はあるものの、さしたる損害も無く撃退している
だが、隊員たちの精神は徐々に、しかし確実に消耗していった
みほ「舞さん、この幻獣の動きは……」
舞「うむ、挑発染みているな。善行よ、これは確実に何かあるぞ」
善行「そうですね。ですが現在レーダーにも大規模な幻獣の姿は確認されていません。三重町に入ったら休息を取りましょう。各隊長は指揮車まで集まってください」
三重カントリークラブを通り越し三重町に入った戦闘団を迎えたのは、荒廃した建造物と生い茂る木々が一体となった不思議な光景であった
隊員たちは疲れた表情でその景色を眺める
桃「これは……なんだか寂しい感じがしますね」
麻子「ここにも逃げ遅れた市民や学兵の死体があるな」
舞「注意せよ。また襲い掛かってくる可能性もある」
あゆみ「うう~こんなのヤだよぅ……」
中村「よっし!安全なトコば見つけたら炊き出しするばい。腹が減っては戦が出来んタイね」
新井木「お!いいねいいね!ボク張り切って手伝うよ!」
狩谷「そのやる気を普段も発揮して欲しいものだな」
桂利奈「ごはん?やったやった!」
みほ「えっと……あのスーパーマーケットの駐車場が広くて安全も確保できそうじゃないですか?」
舞「そうだな、ではあそこで休止を取る」
亜美「分かったわ」
エリカ「了解」
豊後大野市に到着した頃には午後3時を過ぎていた
隊員たちは5121の整備班と一部の自衛軍が手伝って作った特製カレーを受け取るため並んでいた
速水「整備班のみんな張り切ってるね」
舞「今のところ士魂号は無傷だからな。これまでの行軍で溜まったフラストレーションを解消できるというのもある」
華「整備班では炊飯も行えるのですね」
壬生屋「中村君をはじめ、食事にこだわりを持つ人がおおくて。実際にこれで士気が保たれている面もあります」
滝川「俺はレーションも好きだけどな。加藤が手配してくれるおかげで質の高いものが食えるし」
麻子「前にスカウトの2人がレーションを食べてるのを見たが、あれはあまり美味そうには見えなかったぞ」
優花里「ああ、それは材料をペースト状にしたもので味は期待できませんが、カロリー量がすごいんですよ。あのお二人は基礎代謝も高いでしょうしね。我々が食べたら3日は持つんじゃないでしょうか?」
沙織「華なら食べられそうかも?」
華「そんな、私そんなに大食いでは……」
沙織「え?」
みほ「……」
みほは先ほど険悪な雰囲気になってしまったみどり子とカエサルの様子をちらっと見た
なんとか仲直りしてもらおうと思案していたみほだが、そこに近寄る人影があった
原「お二人さん、ちょっと良いかしら?」
カエサル「原整備主任……」
みどり子「……なんですか?並ぶ順番ならちゃんと守って……わぷっ」
原は、二人をきつく抱きしめる
原「あなたたちにはいっぱい喧嘩して、何度も仲直りする権利があるわ。でも戦争のせいでそんな当たり前の権利すら戦って勝ち取らなきゃいけなくなってしまった」
カエサル「……」
原「いま躓いてしまったら喧嘩もできなくなってしまう。また皆でバカやって、戦車道続けて欲しいから……だから、ね?」
みどり子「……そんなのわかってます。あの、その、言い過ぎたわ。ごめんなさい」
カエサル「いや、いいんだ。皆を思う心は伝わった。……ソド子殿」
みどり子「ちょっとその呼び方は!」
原「ふふふ、さあ皆でご飯食べましょう!そうだ、そっちの学園艦ではどんな歌が流行ってたの?こっちでは『SWEET DAYS』って曲が流行っててね」
森「先輩、それ去年の流行歌ですよ。やっぱり『想い出になるよ』です!」
加藤「それも去年の流行やね」
あや「あ!私たちも混ぜてくださーい!」
優季「『DreamRiser』って曲が素敵ですよ~」
梓「みんなで歌うなら『Enter Enter MISSION!』の方が~」
みほ「ほっ……原さん凄いなぁ」
沙織「なんて包容力!私もあんなふうになりたい!」
麻子「無理だ」
沙織「そんなバッサリ!」
舞「私からも言わせてもらうがやめておけ、あれは恐ろしい女だ」
優花里「よ、よく分かりませんが何だか凄い説得力が……」
みほ「あれ?石津さん?」
原「あら?あなたも話に混ざる?」
石津「原さん……私のときと……随分違うのね……」
原「あ……」
滝川「お、おい石津……」
沙織「え?なになに?」
厚志「えーっと原さんと石津さんには色々あって」
石津「わたし……ギュってしてもらってない……」
原「え?……あ、そ、そういうこと!えっと……滝川くんにしてもらえばいいじゃない」
沙織「おお~~~!」
麻子「落ち着け」
石津「滝川君は……照れ屋の上に……朴念仁……」
原「……滝川君、あとで来なさいね?お説教」
滝川「な、なんでだ……」
カレーを受け取ったみほは大洗の隊員たちと別れ指揮車に向かい、各隊長たちと同じ席についた
食事をしながら今後の話し合いをしようというのである
離れた所からは流行歌を歌う声が聞こえてきた
エリカ「……」
亜美「なんだか不満そうね?」
エリカ「……いえ」
善行「いいじゃないですか、食べながらというのも。我が整備班の作るカレーは絶品ですよ」
舞「もぐ、食えるときにもぐもぐ、食っておくことだ」
厚志「舞、口の周りに付いてるよ」
みほ「ハンカチありますよ」
エリカ「……黒森峰の隊員たちも喜んでいます。そこは感謝します」
善行「結構。ではこれからの行動についてです」
舞「現地点よりさらに西へ進軍し、竹田市へ入ることは予定通りだ。だが予想以上に我々の進軍スピードが速い」
厚志「速いと駄目なの?」
亜美「私たちの行軍ルートは比較的困難なルートなのよ。だから他隊と比べて戦闘団の規模が小さく、かつ人型戦車の打撃力と速度を重視した編成なの」
みほ「でも、こちらの予想に反して幻獣の抵抗が少なかった……」
エリカ「敵が手をこまねいているのならば、一気に熊本まで進軍してしまえばいい。グデーリアンは言った、厚い皮膚より速い足と」
舞「まあ待て、私は阿蘇が危険区域と見ている。あのあたりは市街地は見通しの良い平野となっており遮蔽物が少ない。周囲も山に囲まれており逃げ道も限られておる。奴らにとって都合のいい土地だ」
エリカ「逃げ道などと。我々黒森峰の打撃力を持ってすれば物の数ではない」
みほ「エリカさん、それは……現在の幻獣の出現数から見ても、相当数の幻獣が潜んでいる可能性があります。それに日が暮れてしまえばますますこちらの不利になります」
舞「我ら5121はかつて阿蘇の地で沢山の地獄を見てきた。侮るでない」
エリカ「私が臆したと?」
みほ「そういうことでは……」
善行「双方落ち着いてください。私としては、逸見さんの迅速な行動という意見に一定の支持をします」
舞「善行?」
善行「もちろん、闇雲に突き進むのは容認できませんがね。竹田市から阿蘇市までは20kmほどの距離があります。全体である程度進んだところで先遣隊を出しましょう」
亜美「先遣隊が大規模な幻獣の群れをを先んじて発見できれば、学園艦に爆撃要請が出せるわね」
善行「そういうことです。今の時期ならば日が落ちるまで十分な時間もあるでしょう。逸見さん、先遣隊をお願いしてもよろしいですか?」
エリカ「了解しました」
善行「先遣隊の役目はあくまでも敵の早期発見と報告です。不測の事態にそなえて練度の高い黒森峰にお願いしましたが、発見次第すぐに後方に合流する心積もりでいてください。念のために士魂号一番機も同行させます」
エリカ「……わかりました」
みほ「エリカさん、気をつけてくださいね……」
エリカは準備のため自分の隊に戻って行った
後に残ったメンバーが顔を寄せる
舞「逸見率いる黒森峰は間違いなく精鋭だ。だが……」
厚志「なんか気持ちが逸っているって感じ?」
善行「彼女は九州撤退戦後の数々の防衛線での実績があります。ですが今回のような攻勢作戦は初めてですからね」
みほ「私もエリカさんも撤退戦のときは学園艦にいたので九州戦の経験がありません。そのこともあるのかもしれません」
みほ(あるいはお姉ちゃんの戦死した地であることも影響してるのかも……)
善行「みなさんは各隊員に説明を。壬生屋さんにはよく注意するよう伝えてください」
舞「わかった」
休憩を挟んで午後4時半過ぎ、第5戦闘団は進軍を再開した
のどかとも言える国道57号線を進む戦闘団だったが、これまで以上に幻獣の気配は希薄となっていた
桂利奈「ぜーんぜん敵が出てこないねー」
梓「油断するなって言われたでしょ」
あゆみ「朝のアイツみたいなやつにはもう会いたくないなぁ」
瀬戸口「さて、もうすぐ阿蘇市だ。全軍停車してくれ」
エリカ「こちら黒森峰、先行する」
壬生屋「くろねこ、参ります」
瀬戸口「他の戦闘団も幻獣との戦闘が少ないそうだ。何かあるとみた上で向かってくれ」
壬生屋「承知いたしました」
エリカ「こちら異常なし」
壬生屋「同じく異常なしです」
みほ「……あんこうよりみけねこさんチーム、あまり先行しすぎると分断されてしまう恐れが」
舞「うむ。先遣隊は慎重を期すように」
石津「なんだか……嫌な……予感がするわ……」
ののみ「ののみもなの。誰かがじっと見ている感じがするのよ」
善行「瀬戸口君、戦域図レーダーから目を離さないように」
瀬戸口「了解……と、来やがった!レーダーに反応多数!!壬生屋、そっちの方が先に確認できたはずだ!何をしていた!?」
壬生屋「う……」
みほ「くろねこ……壬生屋さん!?どうしたんですか!?返事を!」
ののみ「めーなの!」
石津「まずいわ……多分……精神汚染型……!」
善行「しまった……!」
舞「先遣隊の進軍が止まらない!滝川!先遣隊の前方に撃ち込め!」
滝川「わ、わかった!」
みほ「リスさんチームも撃ち込んでください!」
沙織「りょ、了解!紗希ちゃんお願い!」
砲弾が先遣隊の頭上を飛び越えて飛来する
前方の道路に着弾し、ようやく先遣隊と一番機は足を止めた
滝川「おいおいヤバいぞ!すげぇ数の幻獣だ!」
優花里「先遣隊が囲まれていきます!」
舞「これが狙いか!」
みほ「エリカさんたちを助けないと……!あんこう全速前進!パンツァー・フォー!」
舞「待て!それこそ敵の思うつぼだ!くっ……厚志!」
厚志「西住さん、単機じゃ無理だ!僕たちが前に出る!」
黒森峰の隊員たちは完全にパニックに陥っていた
高い団結力と技量を誇る黒森峰戦車隊は、しかし突発的な状況に弱いという側面があった
その上で気付けば突然幻獣に囲まれていたのだから、無理からぬことであった
みほの無線機に切迫した声が響く
エリカ「こ、これは……一体……」
壬生屋「くっ……わたくしが付いていながら……」
みほ「壬生屋さん!大丈夫ですか!?」
壬生屋「はい、なんとか……先ほどの攻撃でナイトメアが数体吹き飛んだようです」
みほ(それで精神汚染が止まった……それに大多数への精神汚染は、効き目が浅かったのかも……)
壬生屋「わたくしが盾になります!黒森峰のみなさんは下がってください!」
エリカ「に、西住流に逃げるという道は……」
壬生屋「何を馬鹿な!今は戦車道の試合ではありません!急いで!」
舞「厚志!敵の中に突っ込むぞ!」
厚志「幻獣たち、こっちだよ!僕がお前たちの悪夢だ!」
亜美「この数では歩兵を前に出すわけには……歩兵隊は塹壕から制圧射撃!戦車隊、前へ!黒森峰の退路を退路を確保するわ!」
エルヴィン「隊長!我々は!?」
みほ「阿蘇は各地に野戦用の塹壕が掘られています。自衛軍の歩兵はそこから攻撃を行うので、そちらの援護を」
桃「しかし、それではせっかくの火力も生かしきれないぞ!」
みほ「どのみちあれだけの数を相手に機動戦は無理です。各隊は練習通りに拠点からの攻撃を。出来れば隠蔽も今のうちに」
梓「りょ、了解!」
沙織「ちょっと、あんこうチームは……?」
みほ「私たちは、出来るだけ敵を引っ掻き回して黒森峰の退路を確保します」
カエサル「バカな、危険だ!」
みほ「無茶は承知しています。でも黒森峰を助けたくて、だけど私も全体を指揮する余裕が無いの。みんな、お願い……!」
沙織「……わかった!紗希ちゃん、あんこうチームに近づく敵を狙って!」
エルヴィン「グデーリアン、大野君、やれるだけやってやろう!」
あや「わかりました!」
優花里「了解です!」
滝川「今は猫の手も借りたい、すまねぇが頼むぜ!」
士魂号三番機がジャンプし幻獣の群れを飛び越え着地する
着地した際の低い姿勢のまま背部のミサイルハッチが開き、一斉に有線式ジャベリンミサイルが放たれた
舞「次!奴らの目をこちらに向けさせよ!」
厚志「一番機が見えた!でも……」
ミサイルの一斉発射で開いた穴も、またすぐに幻獣の群れで塞がってしまう
人型戦車はよく奮戦しているが、波のように押し寄せる大軍を単機で防ぐことは出来ないでいた
みほ「見通しが良すぎる!敵を路地に誘い込みます!華さん、11時方向、ミノタウロスに攻撃!」
華「はい!」
腹部に徹甲弾の直撃を受けたミノタウロスは爆発四散、そばにいた別のミノタウロス、ゴルゴーン、グレーターデーモンとそれに追従していた小型幻獣の群れが一斉にこっちを向く
みほ「3時方向に転進!ウサギさんチーム、リスさんチーム、お願いします!」
直線道路を進むあんこうチームに追いすがる幻獣を、別の隊が攻撃する
99式の榴弾とモコスの徹甲弾は効率よく敵の一団を蹴散らした
典子「あんこうチームの前方に敵が来てる!」
忍「角度よし!」
妙子「装填完了!」
あけび「仰角よし……発射!」
74式の砲撃も正確に敵を打ち抜く
訓練でのアヒルさんチームの命中率は大洗の中でもトップクラスの成績であった
壬生屋「っ!敵が少し減ってきてます!黒森峰は今のうちに!」
壬生屋の奮戦とエリカの采配により、混乱に陥ってなお黒森峰はかろうじて被害を防いでいた
最後尾の部隊から猛退却を始める
瀬戸口「待て!10時方向から敵が来ている!」
エリカ「何っ!止まれ!」
しかし、2輌の士魂号Lに生体砲弾が直撃、車輌は擱座してしまった
エリカ「無事か!?応答しろ!」
無線機が破損したのか応答は無かったが、乗員が中から這い出てきた
どうやら奇跡的に全員無事のようだ
しかし―――
舞「まずいぞ、あれでは道が塞がれて後続が離脱できない上に」
滝川「搭乗員は格好の的だ!」
カエサル「10時方向の敵に攻撃を集中だ!」
典子「こっちも!」
沙織「わ、私たちは……」
みほ「こっちは大丈夫です!あちらの援護を!」
梓「私たちも!」
ねこにゃー「だ、脱出した人たちを収容するよ……!」
ももがー「任せるナリ!」
ぴよたん「撃ちまくるっちゃ!」
亜美「私たちも前へ!歩兵も数名連れてきて!」
アリクイさんチームの96式装輪装甲車が徒歩で退却してきた学兵の収容に向かう
友軍の猛烈な射撃は中型幻獣を近づかせない
浸透してきた小型幻獣は随伴歩兵の巧みな射撃により排除されていた
滝川「ははっ!自衛軍も良い腕の部隊がいるもんだな!」
ねこにゃー「い、急いで乗ってください……!」
黒森峰の隊員6名が息を切らせて96式に転がるように乗り込んできた
真っ青な顔をしていたが、外傷は無いようだ
同時に自衛軍の随伴歩兵も乗り込み、乗員限界まで満載にした96式は撤退していく
舞「擱座した車輌を押し出せ!」
滝川「オラァ!」
二番機が撃破された士魂号L2輌をキックで押し出し、後続の部隊は撤退を再開した
ののみ「幻獣が塹壕の方に向かってるの!」
エルヴィン「こ、こっちか!?」
滝川「行かせるかよ!……ってダメだ!数が多すぎる!逃げろ!」
若宮「アレは防ぎきれん、撤退するぞ!」
みどり子「歩兵を収容するわ!」
桃「待ってくれ、ここを離れたらあんこうチームが!」
来須「撤退だ」
杏「承服できないね。西住ちゃんたちを孤立させられない」
みほ「行ってください!こちらは何とかします!」
柚子「何とかって……」
塹壕からはあんこうチームの姿は見えなかったが、、おびただしい数の幻獣が移動する様子は見える
みほ達が幻獣の大軍を誘導している光景は容易に想像できた
桂利奈「わっわっ!こっちに向かってくる!」
あゆみ「ど、どうするの!?」
梓「うぅ……下がりながら先頭の幻獣に砲撃!」
砲塔の旋回も出来ず、ただでさえ速度の遅いモコスの後退射撃は、速度も遅い上に射撃の精度も欠いていた
そしてついに、キメラとナーガの生体レーザーがモコスのホバー部分に直撃した
あゆみ「きゃあぁぁぁぁぁ!」
桂利奈「あ、あれ?動かない!?」
若宮「なんだと!?来須!」
来須「……救助に向かう」
典子「後退しつつ援護だ!」
忍「リスさんチームはやらせない!」
あけび「よく狙って……」
左衛門佐「おのれ!近づくな!」
仲間の援護により幻獣は中々モコスまでたどり着けないでいた
モコスの頑丈な装甲も味方していたが、生体砲弾やトマホークが装甲を削る音を聞くうちに一人の精神が限界に達した
あゆみ「やだ、いやだよ……!」
梓「あゆみちゃん?」
あゆみ「テレビで見たもん……人間を捕まえた幻獣は、人の手足を生きたままちぎってバラバラにして……!」
桂利奈「あ、あゆみちゃ……」
あゆみ「嫌……あんなの嫌ぁ!いやああぁぁぁぁ!助けてえぇぇぇぇ!」
みほ「山郷さん!」
山郷あゆみは普段ボーイッシュでさっぱりした性格であったが、反面ストレスを溜め込みやすい性格であった
上陸早々に学兵たちの死体や、幻獣に寄生された人間を直視してしまったことなどが重なり、ついに爆発してしまった
あゆみ「いやぁ……あんな死に方は嫌だよぉ……」
みほ「山郷さん、落ち着いて」
梓「西住隊長!?」
みほ「大丈夫、もうすぐ若宮さんと来須さんが助けに来てくれるから。皆も援護してくれてる。だから諦めずに気をしっかり持って!」
桂利奈「隊長……」
梓「あんなに沢山の幻獣に追いかけられてるのに……」
あゆみ「……はい、すみません……ひぐっ、頑張ります……!」
そのとき、ハッチを叩く音が聞こえた
若宮「さあ、出た出た!さっさと逃げるぞ!」
先頭の若宮、しんがりをつとめる来須に挟まれてリスさんチームの隊員は地面に降り立つ
若宮「走れるか?遅れたら来須に尻を引っ叩かれるぞ!」
桂利奈「えっちー!」
梓「へんたーい!」
来須「……」
若宮「がははは、それだけ元気があれば大丈夫だな!」
騒ぎながら5人は走り去っていく
みどり子「会長、こちらはもう満員です……リスさんチームを」
杏「……わかった、小山」
桃「くっ!どうしてなんだ!」
柚子「桃ちゃん……西住ちゃん、私たちは……」
みほ「リスさんチームを、お願いします」
桃「……すまない!」
リスさんチームと若宮、来須を乗せた89式装甲戦闘車は戦場を離脱していく
黒森峰の最後尾も自衛軍と合流し体制を立て直していた
麻子「さて、どうする」
華「こちらはもう攻撃する余裕がありませんね」
この状況に置いても2人の仲間は冷静でいてくれた
みほは今はそれがありがたかった
舞「あんこうチーム、こちらと合流は出来ぬか?」
みほ「そちらに、ですか?」
舞「敵の大群は大まかに3つに分かれた。我らのところと、自衛軍・大洗の隊、そしてそなたらのところだ」
厚志「自衛軍のところは拠点の構築も出来てるみたいだし、防衛に徹すれば大丈夫だって」
滝川「こっちもちとキツイけどよ、士魂号が3機揃えばまだ粘れるんだぜ」
壬生屋「ですがそちらは……」
みほ「はい、正直逃げ回るのに精一杯の上、脱出口も見つけられていません」
瀬戸口「お前さん達さえ包囲を脱出できれば、艦載機での爆撃が行える。すでに爆撃要請は行い、あちらさんは攻撃準備中だそうだ。そして他隊にも連絡、プラウダ・サンダースの部隊がこちらに救援に来てくれるとのことだが……」
舞「そちらは間に合わん。一か八かになるが、合流して一気に突破する」
壬生屋「あなた方をここで失うわけには参りません」
滝川「へっ!武者震いがするぜ!」
厚志「滝川、それ恐くて震えてるんじゃ」
滝川「ああ恐いね!だけど仲間に死なれる方がもっと恐い!」
厚志「……そうだね。西住さん、僕も精一杯戦うよ。だから」
みほ「はい、分かりました。……みんな、ありがとう」
みほ「麻子さん、回頭して県道11号に!」
麻子「了解」
並走している道路に乗り換え、逃げてきた方向へ再び向かうあんこうチーム
しかし方々から生体砲弾が飛び交ってくる上に、足の速いきたかぜゾンビが追いすがる
麻子「これだけ道幅が狭かったらジグザグに動くことも出来ないぞ」
みほ「多少の損害は無視して全速力で向かってください!」
きたかぜゾンビの生体機関砲が士魂号Lの装甲を掠める
華「この角度では迎撃も出来ない……!」
滝川「任せろっ!」
士魂号二番機が92mmライフルで遠く離れたきたかぜゾンビを正確に狙撃する
一撃で撃破するものの、さらにその背後からスキュラ数体が姿を現す
舞「厚志、我らもアレを狙う」
壬生屋「目の前の敵はわたくしにお任せを!」
二番機と三番機は160mmジャイアントバズーカに持ち替えスキュラを攻撃
一体を撃破
舞「よし、あんこうチームが近づいてきた。滝川、煙幕だ」
滝川「合点!」
二番機から煙幕弾が発射され、周囲はスモークに覆われる
これによりレーザーはかなり減衰される
舞「まだ中型が大量に向かってきている、我らにぴったり付いて来い……む?」
厚志「あんこうチームが来ない?」
石津「ダメ……これは……罠!」
みほ「麻子さん!華さん!」
麻子「ぐっ!」
華「頭が……!」
煙幕を張るタイミングが若干早かったため、士魂号Lの姿は完全に煙の向こうに消えてしまっていた
さらに大量の小型幻獣が周囲に浸透してくる
それを踏み潰し蹴散らしながら舞は叫ぶ
舞「くそっ!まさかペンタの仕業か!?」
滝川「レーダーにあんこうチームは映ってる!近くにいるのに!」
壬生屋「中型が迫ってきています!」
厚志「舞、突っ込むよ」
厚志がいつもより低いトーンでそう告げる
壬生屋「速水さん!」
バズーカを捨て右手にジャイアントアサルトを装備しそちらの射撃管制は舞に任せ、厚志は開いた左手でグレーターデーモンにパンチをめり込ませる
動かなくなったデーモンを盾に舞がアサルトを連射、スモークにより視界を奪われた幻獣は撃破されていく
デーモンが消滅すると同時に移動しさらにあんこうチームの元に行こうとするが
厚志「っ!」
間一髪のところで生体レーザーを回避する厚志
アンフィスバエナの中距離用レーザーである
それをかなりの至近距離から放ってきた
厚志「邪魔だ!」
厚志が感情的に叫ぶ
今度はキックで吹き飛ばすものの、さらに3体が迫ってくる
滝川「キリがねぇ!」
背後では壬生屋と滝川が迫り来るゴルゴーンやミノタウロス、グレーターデーモンの対処に追われている
とても三番機を援護できる状況ではなさそうだった
舞「みほっ!聞こえるか!?なんとか撤退は出来ぬか!?」
みほ「麻子さんと華さんが……っ!外も小型幻獣で溢れて、あ……」
みほの耳に大きな歩行音が聞こえる
ミノタウロスのものである
腕を振り上げる気配を感じた
みほ「くっ!」
なんとか体を操縦席にねじ込み士魂号Lを急発進させ、ミノタウロスのパンチを回避する
だが、ただでさえ狭い空間で華と密着した状態のためまともに操縦することができない
小型幻獣に足を取られ速度を落とし、すぐに追いつかれてしまう
みほ(麻子さんと華さんは私の勝手でここまで付き合わせたんだ、死なせるわけには行かない!)
みほは二人に呼びかけるものの、苦悶の表情で俯くばかり
精神汚染に必死に抗っているためであるが、その前にもっと現実的な死が押し寄せてくる
みほ「うぅ!小型幻獣が邪魔で、動かせない!」
舞「みほ!」
そのとき、砲声が轟いた
ミノタウロスの上半身が爆発し、ゆっくりと倒れていく
さらにもう一発、今度は違う音が響いた
これは士魂号Lの周りの幻獣を狙ったものでは無かった
その瞬間、フッとプレッシャーが無くなった様な、そんな気がした
麻子と華の顔から苦悶の表情が消える
みほ「舞さん?」
舞「いや、私ではない……」
滝川「俺でもねぇ、誰だ?」
そして煙の中から飛び出してきたのは、見たことも無い巨人であった
右手に持った超硬度大太刀で押し寄せる幻獣を切り裂き、離れた敵に対しては左手のジャイアントアサルト、そして肩に装備されたグレネード砲で攻撃を加える
その動きは鮮烈にして華麗で無駄が無く、そして速かった
瞬く間に士魂号Lの周囲の幻獣を駆逐し、次の敵に備え警戒している
スモークが晴れ、その姿を認めた舞が呟いた
舞「まさか、栄光号……か?」
みほの耳に聞きなれない単語が聞こえてくる
しかし、次の声にその疑問も吹き飛んだ
「聞こえるか、みほ。怪我はないか?」
それは、聞きなれた声
みほ「え……そんな、嘘……!」
「無事なんだな?」
もう二度と聞くことを望めないと、そう思っていた、なんだか懐かしいような声
みほ「お姉……ちゃん……?」
戦死したはずの姉、まほの声であった
まほ「話は後だ。まだ大勢敵が迫ってくるぞ、離脱しろ」
士魂号Lにまとわりついていた小型幻獣を人型戦車・栄光号で排除しつつまほは言う
みほもすぐに我に返り、5121小隊の元へ進むよう指示を出した
厚志「ねえ、なんか幻獣の勢いが弱まったような気がしない?」
壬生屋「覇気が失せたように感じます」
舞「む、数こそ相変わらずだが……これは」
舞は拡声器のスイッチを入れ、まほに呼びかける
舞「そこの人型のパイロットよ、こちらの周波数を教える。応答できるか?」
砲撃を加えながら後退しつつ、まほから返答があった
まほ「しばらく」
舞「やはりそなたであったか」
みほ(そうか、一緒に戦ったことがあるって言ってたっけ)
舞「先ほどの二度目の射撃は」
まほ「敵の指令型を撃破した。ペンタだ」
厚志「あ~、道理で」
華「みほさんのお姉様も、ペンタを感知出来るのですね」
みほ「華さん!麻子さん!大丈夫!?」
麻子「ああ、頭痛は治まった」
瀬戸口「動けるのならすぐに後退してくれ、艦載機の爆撃が開始される」
みほ達は豊後街道を進み駅前から撤退、後方部隊と合流
そして飛来した艦載機の爆撃により、阿蘇市一帯は業火に包まれた
柚子「町が……」
杏「皮肉だね。幻獣支配地域じゃなければこんな戦術は取れなかった」
桃「会長……」
杏「ま、九州の幻獣が集結してくれてたおかげで一網打尽に出来たし万々歳かなー?」
華「会長、軽口を叩いてますけど……悲しそう」
麻子「町が滅ぶ姿は見たくないんだろうな」
みほ「大洗の町と学園艦を、あんなに愛してる人だもんね」
瀬戸口「帰還した車両は整備部隊のところに。おそらく爆撃だけでは殲滅は不可能だ。後ほど他部隊と共に攻勢作戦に出る」
ののみ「精神汚染を受けた人は、萌ちゃんが検査してくれるの」
ナカジマ「こっちこっち!オーライ!」
スズキ「うわあ、あちこちボロボロだね」
ホシノ「でも駆動系には問題なさそう」
ツチヤ「とりあえず再出撃できるだけの応急処置だけはしなきゃ」
みほ「すみません、よろしくお願いします」
華「では私たちは石津さんのところへ」
麻子「行って来る」
原「西住さん、ひとまずお疲れ様。よく戻って来てくれたわ」
そう良いながら原はみほを抱きしめる
照れながらみほは答えた
みほ「はい、舞さんたちに沢山助けられました。それから……」
二人は士魂号と共に少し送れてやってきた人型戦車を見上げる
原「栄光号……なんであの機体が……」
みほ「原さん?」
険しい表情で忌々しげにつぶやく原
みほが不安そうに見ていることに気づくと、表情を和らげた
原「……いえ、何でも無いわ。さあ、行ってらっしゃいな。お姉さんなんでしょう?」
みほ「は、はい!」
栄光号から降りて来たまほにみほは駆け寄った
夢じゃない、幻覚でもない
紛うことなき姉を目にして、みほの息は弾んだ
みほ「お姉ちゃん!」
まほ「……みほ」
みほ(えっとえっと、なに言うか考えてなかった!)
まほ「……すごい格好だな」
みほ「え?……あ!!」
原謹製のウォードレス姿であることに気づいたみほは、あわててジャケットを着て戻ってきた
みほ「えへへ……お姉ちゃん、また会えた」
まほ「……うん」
みほ「もう、会えないと思ってた」
まほ「……うん」
みほ「なんで……なんでっ!」
まほ「……すまなかった、みほ」
みほ「お姉ちゃん……!」
姉の胸に飛び込むみほ
まほは優しく頭を撫でてくれた
みほ「私がっ!私のせいでお姉ちゃんが死んじゃったって!ずっと……ずっとそう思ってて……!辛くて……っ」
まほ「そんなことない、私がしくじったんだ。みほは悪くないよ」
みほ「お母さんも……すっかり落ち込んじゃって……」
まほ「そうか、お母様が……辛かったな、もう大丈夫だ」
そうして、しばらくみほは静かに泣き続けた
まほも黙って頭を撫で続けていた
まほ「落ち着いた?」
みほ「うん……」
善行「救援感謝します、西住万翼長」
まほ「お久しぶりです」
善行「お母様のことは?」
まほ「今なら問題ないでしょう」
みほ「あの、なんの話でしょう?」
善行「西住さん、私がこの隊に赴任したとき、前任者が戻ってきたと言いましたよね?」
みほ「はい……まさか」
善行「そうです。あなたのお母様、西住しほさんが今は私がいた隊の指揮を執っています。まほさんの生存を報告すると、立ち直ってくれました」
みほ「お母さんが……」
舞「つまりそなたは初めからまほの生存を知っていたのだな?」
善行「はい」
舞「なぜ黙っていた」
善行「守秘義務がありまして。芝村がらみでのね……本来はここに現れる予定も無かったのですが」
舞「……貴様」
みほ「ま、舞さん!私は……お姉ちゃんが生きていてくれただけで、今はそれで十分だから……」
舞「ふん、みほに免じてこの場は下がってやる。が、後ほど説明してもらうぞ」
善行「……わかりました。作戦後にご説明します」
そうして善行は指揮車へと戻っていった
舞「くくく、善行め、柄にも無く落ち込んでいたな」
みほ「え?そうだったんですか?」
厚志「流石の善行さんも集団精神汚染までは予想できなかったみたいだね。危うく隊を壊滅させるところだったから」
舞「あやつは5121結成よりも以前に自らの隊を壊滅させてしまった過去がある。だから辛抱強く生き残れる隊を作ることに躍起になっていたのだ。それゆえ今回は橋頭堡を築きつつの進軍予定であったが、敵の少なさに釣られて突出しすぎた」
まほ「偵察部隊が精神干渉を受けてしまったのだろう?」
舞「仕方ない、では済まぬ。そなたが来てくれなければ……」
エリカ「隊長ーーーー!」
まほ「わっ!エリカ……」
石津のカウンセリングを終えたらしいエリカが、顔をくしゃくしゃにして飛び込んできた
エリカ「隊長!生きてっ!生きていてくれたんですね!私は、私わぁ……!」
まほ「今の隊長はお前だろう?やれやれ、今日は泣き虫が多いな」
そう言ってまほは苦笑した
みほは、こんな風に笑う姉を見たのはとても久しぶりだなと思った
桂利奈「え?モコス直せるの!?」
狩谷「放棄した場所が市街地から外れた場所だったからな。爆撃に巻き込まれず回収することが出来た」
中村「破損箇所もホバー部分だけだったばってん、すぐ直せそうばい。安心して良かよ」
梓「良かったー!これからどうしようかと思ってたから」
茜「感謝しろよ。この僕が直々に直してやるんだからな」
あゆみ「ありがとうございます!私、もう弱音吐きません……」
茜「お、おう……分かればいいさ」
田代「何を偉そうに、テメーはヒマだっただけだろうが」
茜「なんだと!」
ナカジマ「ゴメンねー?こっち士魂号Lの補修で手が離せなくてさ」
田代「オラッ!さっさと行くぞ!」
茜「ま、待て!こいつと二人でか!?」
森「十分でしょ?私たちは士魂号の点検整備で忙しいし。田代さんの足引っ張らないようにね」
茜「畜生!バカにしやがって!」
梓「……いっぱい助けられてるね」
桂利奈「うん」
あゆみ「みんなのために、私……頑張るよ」
瀬戸口「やはりあれだけの規模の幻獣を完全に殲滅することは出来なかった。これより各方面より終結した部隊による掃討戦が開始される」
ののみ「傷ついたあいてがほとんどだけど、みんなゆだんしちゃめーなのよ!」
善行「プラウダ、サンダース、聖グロリアーナ、そして各隊の自衛軍が参加しますが、作戦領域が広いため連携は考えなくても良いでしょう。また西住万翼長の栄光号も参加してくれます」
まほ「先ほどの戦闘で指揮を取っていたと思われるペンタは撃破した。精神汚染は無いものと思われる」
亜美「それなら安心ね!私たちはバンバン撃って行くわよ!」
厚志「あはは、いいね楽しそうだ」
舞「たわけ。発進するぞ」
原「士魂号、栄光号、全機リフト・オフ!」
みほ「この戦いで熊本、いや九州を取り戻す……あんこうより全車へ!私たちに続いてください!パンツァ・フォー!」
カチューシャ「よーやくまともな戦闘かと思ったら、どいつもこいつもボロボロね!蹴散らしてやるわ!」
ノンナ「手負いの獣ほど危険といいます。油断は禁物ですよカチューシャ」
ダージリン「四本足の馬でさえつまづく、という諺もあるわ。これだけの規模、何があっても不思議ではなくてよ」
ケイ「ミホと、アンジーたちが必死で戦った戦場……油断はしないわ!いいわね!」
アリサ・ナオミ「イエス、マム!」
瀬戸口「各隊、戦闘に入りました!」
みほ「国道57号線を境に展開します。突出しすぎず、慎重な砲撃を心がけてください」
壬生屋「突破してきた敵はわたくしにお任せを」
亜美「歩兵は塹壕から支援!忍び寄ってくるゴブリンがいる可能性もあるから注意して!」
舞「今回は我らも主に支援射撃に専念だ。まほ……そなたもそれで良いな?」
まほ「了解」
厚志「うーん、さっきまでとは幻獣の勢いが全然違うね」
舞「油断するなと言われたばかりであろうが」
滝川「でもよ、実際そんな感じだぜ?何か企んでる風でもねぇ」
優花里「意見具申であります!前進して戦域を縮小しても良いのでは?」
舞「……みほよ、どうだ?実を言うと私も構わないと思っているのだが」
みほ「はい。大丈夫だと思います。ペンタの気配もありません」
まほ「同意見だ」
舞「よし、県道11号と、阿蘇一の宮線に隊を分け前進する。横合いからの敵襲に注意せよ」
みほ「途中から極端に遮蔽物が少なくなります。前に出過ぎないように」
ケイ「オーケー!こっちからも敵を追い込むわ」
カチューシャ「ふん、こちらのいい様に動いてくれるわね、間抜けだわ」
ノンナ「幻獣を指揮していたペンタは撃破されたと聞いていますが」
ダージリン「やはり統率が取れなくなっているようね」
ペコ「なんだか怪我をしたせいで焦っているようにも思えます」
瀬戸口「あちらさんは順調みたいだな」
ののみ「みほちゃんたちは大丈夫?」
みほ「損害はありません。でも……」
優花里「爆撃の影響で、そこらじゅう瓦礫の山ですね……」
柚子「慎重に進まないと……」
舞「焦るでないぞ。瓦礫が邪魔になったときは我らを呼ぶが良い」
桃「開けたところに出た。見えたぞ!幻獣の大群だ!」
杏「あれだけの爆撃でもまだこんなに残るもんだね~」
エルヴィン「伊達に幻獣側の九州総軍というわけではないと言うことか」
厚志「ここらは田園地帯だったところだね」
滝川「スキュラやゾンビヘリが少ないな」
瀬戸口「飛行型の幻獣は爆撃で特に打撃を受けたようだな。逆に地表にいた連中はいくらか被害を軽減してるみたいだ」
典子「でも無傷とはいかなかったと」
カエサル「この機を逃す手は無いな」
エリカ「位置に付いた。砲撃準備よし」
亜美「こっちも準備完了よ」
ののみ「てきの増援の気配はありません」
舞「ふむ、一気にカタをつけよう」
みほ「……撃て!」
その後は一方的な攻撃が続いた
四方を囲まれた幻獣は右往左往した挙句、碌な反撃もままならぬうちに壊滅
九州を支配していた幻獣軍はほぼ消滅した
沙織「勝った……勝ったの?やったー!」
エルヴィン「我々の勝利だ!」
梓「みんなー!やったよー!」
桂利奈「勝った勝ったー!あはははは!」
口々に勝利の喜びを叫ぶ仲間たち
後方まで戻ったみほは舞の元に向かった
みほ「まだ、なんだか実感が沸きません……」
舞「そうだな、私もこんな短期決戦になるとは思っていなかったが。だがそういうものだろう」
まほ「まだ各地に小規模な幻獣の群れは存在するだろう。それらの警戒と排除は今後も続けていかねばならない」
みほ「お姉ちゃん」
瀬戸口「そうだな、九州の完全な安全確保はより時間がかかるだろう。各地の復興・戦後処理。ここからが本当の戦いとも言える」
善行「本当に沢山の学兵たちが犠牲になりました。あなたたちと同じ、学園艦という場所で青春を送るべき若い命が。子供たちを戦場に送り出してしまった責任を、大人は取らなくてはならない」
みほ「善行さん……」
亜美「まあ、とにかくあなたたちは良く頑張ったわ!全力で褒めてあげる!」
カチューシャ「ふーむイマイチ歯ごたえが無かったわね」
ノンナ「損害が無いことが何よりですよ、カチューシャ」
カチューシャ「それもそうね。また会いましょう、ミホーシャ」
ケイ「コングラッチュレーション!今回のMVPはミホね!私たちもあなたたちに負けないくらい、また強くなって見せるわ!……またね!」
ダージリン「本当に……お強くなったわね。戦車道で対決できる日を楽しみにしているわ」
体良く幻獣の主力を撃破できたため、各戦闘団は拠点確保と、戦後処理のために送られてくる部隊のためのルート確保に動き出していった
第5戦闘団も明朝、熊本へ出発する
その間、まほの身に何があったのかを聞くことになった
2人で並んで戦車の上に腰掛ける
まほ「仲間を庇い撃破された、と言うところまでは聞いているだろう?だが私はそこでは死ななかった。負傷した仲間の戦車兵を引っ張り出し、何とか脱出したものの周りは幻獣に囲まれていた。死を覚悟したときに芝村の手の者に救われた」
みほ「芝村の人に……でもそれならどうして戦死したって……」
まほ「私が乗っている人型戦車、栄光号というのだが、あれはサンダース大付属の学園艦で開発されていたものだ」
みほ「サンダースで?」
まほ「うん。あそこは全国でも屈指の大きさの学園艦で各種施設も揃ってるし、なにより
長崎所属だから実戦データも多く取れた。でも知っての通り人型戦車は動かすのもやっとの兵器でその上適性パイロット自体希少だ。だから私に白羽の矢が立った」
みほ「……原さんが栄光号を見たときに、凄く嫌なものを見る顔をしたの。お姉ちゃんを戦死扱いしないといけないくらい、その栄光号……何かあるの?」
まほ「私も、詳しい内容については聞かされなかった。だが……乗っていて分かったよ。この機体はとても悲しんでるって。たくさんのおぞましい出来事の末に出来上がったものだって。栄光号が私に語りかけてきた、そんな気がしたんだ」
みほ「人型戦車自体が……」
まほ「でも私に拒否権は無かったよ。仲間の傷は深く、彼らの口利きで芝村の専任医療スタッフに診てもらえることになった。サンダース大付属学園艦は、実は機関部のトラブルで今もあの場所に停泊したままだ。私はそこの住民たちも守りたかった」
みほ「ケイさんたちはサンダースを見捨てたって言ってたけど……無事だったんだ」
まほ「学園艦は守りに関しては鉄壁と言えるからね。最も、甲板上の町や防衛設備はもう壊滅してしまったが……」
みほ「舞さんが、学園艦が撤退戦後も移動していたって言ってたのは……」
まほ「そうだな、しばらくは活動していたんだ。これも私が栄光号のパイロットを引き受けた理由の一つだが……撤退戦で取り残された学兵たちの救出も行っていたんだ」
みほ「!」
まほ「あの撤退戦で最後まで戦った学兵のほとんどは、熊本の同胞たちだ。取り残された仲間を、私はどうしても見捨てられなかった……助けることが出来たのはほんのわずかで、私が見つけたときには事切れていた場合がずっと多かったけど」
みほ「お姉ちゃん、そんな戦いをずっと……」
まほ「みほを助けることが出来て良かった。今まで頑張ったね」
みほ「うん!」
まほ「お母様が落ち込んでいたと言っていたな?」
みほ「あんなに塞ぎ込んだお母さんは初めて見たよ……私のことも全然目に入らないみたいで」
まほ「みほ、お母様から私に連絡があったんだよ。みほのことを守ってくれと。それから……すまなかったと。あれは立ち直った後だったんだな」
みほ「お母さんが……?」
まほ「大丈夫、みほのこともとても大事に思ってるよ」
みほ「うん……あ、復帰したってことは、お母さんが総司令官なの?」
まほ「いや、以前善行竜師が就いていた関東方面軍司令だ。九州方面軍司令はお母様の友人の林凛子という方だ」
みほ「もう行っちゃうの?」
まほ「一度サンダースに戻らないといけないんだ。データのフィードバックもあるし、何より簡単な整備はともかく、深部まではここの人たちに見せるわけにはいかない」
みほ「またすぐ会えるよね」
まほ「ああ、いずれここで遊ぶこともできるよ。昔みたいにね」
再び栄光号に乗り込んだまほは、サンダースの学園艦へ戻っていった
舞「行ったか」
みほ「はい」
舞「もう夜もふけてしまったな。明日に備えてそなたも休め」
みほ「はい、そうさせてもらいます」
後日、熊本およびその周辺の安全も確保され、第5戦闘団は後続の輜重部隊と入れ替わる形で佐伯港へと帰還していた
深夜、大洗学園艦の艦橋には各隊の隊長たちが揃っている
善行「こんな時間に申し訳ありません」
厚志「黒森峰はまだ僕たちと一緒なの?」
エリカ「まだ予断を許さない状況だから。しばらくは第5戦闘団の傘下よ」
みほ「何か問題があったのですか?」
善行「太平洋から学園艦が接近中なのです」
舞「太平洋から?どこの艦だ」
善行「不明です」
亜美「えっと、どういうことでしょう?」
善行「通信機器の故障か、何らかのトラブルかは分かりませんが、通信が出来ないのです。識別信号は出ているんですがね」
舞「観測は?」
善行「幻獣の妨害もあり十分な観測が出来ないでいましたが、そろそろ観測可能範囲に入る頃でしたので、皆さんを呼びました。万が一のこともあるので戦闘団にも待機していてもらいます」
エリカ「万が一?それは一体……」
そのとき、大洗学園艦から艦載機が飛び立っていくのが見えた
亜美「艦の運営は生徒たちが行っているけど、流石に航空機の管制は自衛軍の管制官が行ってるのね」
みほ「あの隊のコールサインはライダーっていうんだって。大洗のご当地プロレスラーにあやかって付けたらしいよ」
エリカ「ふーん、そう」
みほ「あれ、興味ない?」
エリカ「別に……ふふっ」
厚志「仲直り出来たみたいだね」
舞「そうだな」
パイロット「ライダー1より大洗へ、あの学園艦はこちらの通信にも誘導にも応じない」
舞「……」
みほ「ずいぶん大きな艦ですね」
エリカ「サンダースや黒森峰の艦より大きいわ……」
オペレーター「強行着艦を指示しますか?」
善行「いえ、それは危険です。辛抱強く通信を……」
みほ「……!」
舞「みほ?」
みほ「駄目……逃げて!」
善行「!……各機に退避命令を」
パイロット「な、艦砲が……!?クソ!撃ってきやがった!ライダー3がやられた!」
オペレーター「学園艦から幻獣の反応多数!な、何だこれは……!」
舞「まさか……」
みほ「あの学園からペンタの気配を感じます!」
エリカ「そんな!」
厚志「狙いは大洗学園艦か……?」
パイロット「させるか!ライダー1、エンゲージ!」
オペレーター「おい、待て!」
数機の艦載機は砲塔部に向けてミサイル攻撃を行った
しかし、ミサイルを撃ちつくしても巨大な学園艦の砲塔を全て潰すことは出来なかった
みほ「いけない、やられちゃう!」
まほ「航空機は全機退避せよ」
エリカ「隊長!?」
みほたちの目に、空を駆ける巨人が映った
それは費用対効果が見込めず、採用が見送られていた「リテルゴルロケット」を装備した栄光号である
退避して行く航空機と入れ違いに凄まじい速度で学園艦にたどり着き、側面の砲塔を神業の如き射撃で潰していく
しかし、ロケットの燃焼時間が限界に差し掛かろうというところで、ついに砲撃が栄光号を捕らえた
まほ「みほ……!」
水柱を立て海中に沈む栄光号
みほ「え……嘘……」
舞「っ!艦砲射撃だ!攻撃される前に敵の砲塔を全て潰せ!」
善行「各隊は直ちに戦闘準備!」
亜美「西住さん!?しっかりして!西住さん!」
周りの声が聞こえなくなってくる
エリカ「――――!」
舞「――――――!」
みほ「お姉ちゃん!!」
沙織「みぽりん……」
第5戦闘団の面々は格納庫で待機していた
酷く落ち込んだ様子のみほに、仲間たちは声をかけあぐねている
砲塔を潰された敵の学園艦は現在沈黙状態となっており、善行たちは対策を考案中である
撃墜された栄光号は大洗学園の船舶科の生徒たちにより引き上げられ、砲の当たり所が良かったのか、気密状態が良かったのか、まほは奇跡的に生存していた
しかし、現在は昏睡状態にある
隊長たる自分がこんな状態ではいけないと頭では分かっていても、みほは目の前で姉が撃墜されたショックから立ち直れずにいた
舞「これでは戦えんな」
桃「士気を高めないと……だがこれまで散々西住には助けられた。姉があんな事態になって、誰が西住を責められる!私には……掛ける言葉が見つからない……」
杏「河嶋……」
舞「ふむ」
そして舞は、ツカツカと歩を進め隊員たちの前に立つと、奇妙な動きを始めた
舞「♪あああん あん あああんあん あああんあああん あんあんあん」
滝川「ブフォッ」
沙織「舞さん!?」
優花里「どうしたんですか!?」
壬生屋「まさか、幻獣に脳を……」
舞「♪あの子会いたやあの海越えて 頭の灯りは愛の証 燃やして焦がしてゆーらゆら」
気の毒な程に顔を真っ赤にした舞が叫ぶ
舞「さあ皆、私が踊るゆえ歌うが良い!」
厚志「舞、舞 声が裏返ってるよ」
桃「逆効果だぞおい!」
華「あの芝村舞さんが……」
優花里「みんなを盛り上げようと……」
麻子「微妙に間違ってるけどな」
優花里「私も踊ります!」
華「やりましょう!」
沙織「みんな行くよ!」
麻子「仕方あるまい」
続々と舞の周りに人が集まり、踊る人が増えてゆく
原「さあさあ私たちも行きましょう」
森「えぇ!?わ、私もですか?」
新井木「前に踊り方は教わったじゃん!行こ行こ!」
石津「私も……踊るわ……」
ののみ「ののみも踊るー!」
加藤「せやな!踊らにゃソンソンってやつや!」
田代「ば、馬鹿はなせ!畜生覚えてろ!」
みほを除いた大洗と5121の女子全員が踊りだした
若宮「おぉ……原さんが……!」
厚志「あっはっはっは!こりゃ良いや!」
滝川「芝村のこんな姿は二度とお目にかかれねぇな」
茜「こんなときに何をやってるんだ……」
狩谷「こんなとき、だからじゃあないのか?」
みほ「みんな……」
舞はまっすぐみほの目を見据えた
みほ「わたしも!」
ついにみほを含めて踊り出す
♪あした会いましょあの浜近く あなたの灯は恋の光
誘って焦らしてぴっかぴか 誘って焦らしてぴっかぴか
愛してあんあん 泣かさないであんあん
いやよいいわよ あんあんあん
格納庫に少女たちの楽しげな声が響き渡る
そこに割り込むくたびれた男の声
善行「あー、お楽しみのところ申し訳ありませんが」
忍「ぜ、善行さん……」
なぜか後ろのほうでタライが落ちる音が聞こえた
善行「西住さん、もう大丈夫ですか?」
みほ「はい、大丈夫です。お姉ちゃんも、きっとすぐ元気になります!だから私はみんなを守るために戦います」
善行「大変結構。安心しましたよ。それでは作戦を説明します」
背後でくねくねしていた岩田に突っ込むものは最後まで現れなかった
善行「まず最初に例の学園艦の詳細データを皆さんにお渡ししておきましょう」
杏「ヘカトンケイル?」
柚子「これがあの学園艦の名前ですか?」
善行「はい。かつて欧州で運営されていた学園艦のようです。欧州諸国の学園艦のうち、南大西洋を通り南アフリカへ向かった人々は現在でもそこで抵抗を続けています。逆に北極海側からロシア難民を吸収しつつベーリング海を越えるという険しい逃避行を行ったのがヘカトンケイル学園です」
エルヴィン「想像を絶する困難だったのだろうな……」
善行「そして苦難を乗り越えようやく日本にたどり着きましたが、もはや日本にも超巨大学園艦を維持する財力も無く受け入れを拒否され、太平洋を渡りアメリカを目指すという絶望的な選択をしました。記録ではここで消息が途絶えています」
梓「大西洋を西に進んでアメリカを目指したほうが近かったんじゃないですか?」
カエサル「幻獣の侵攻はユーラシア大陸の西から始まったからな。徐々に追い詰められ核を使ってまで撤退する羽目になるとは思わなかったんだろう」
左衛門佐「しかしこんなに接近するまで察知出来なかったとは……」
優花里「芝村殿、以前軍のデータベースに侵入し衛星写真を見たと言っていましたが、あれは使えなかったのですか?」
善行「そんな危険なことをしていたのですか……」
舞「黒き月の出現以降、宇宙開拓は停滞している。衛星といっても常時浮いているわけではなく、あれは適宜衛星軌道に打ち上げているロケットからの画像だ。それと秋山、今後不用意にこやつに私の悪行をばらしてくれるな」
優花里「は、はい!了解しました!」
華「ということは、常に日本周辺の情報を知ることは出来ないと言うことですね」
麻子「宇宙は幻獣の支配下という話も聞いたことがあるな」
善行「まあそのくらいで。さてヘカトンケイルの対処ですが、分析の結果幻獣に寄生されていることが判明しました」
桃「馬鹿な……!」
おりょう「学園艦が寄生されるとは聞いたことが無いぜよ」
華「ゾンビヘリやワイトのようなものでしょうか?」
善行「そうですね、ただしあれほどのサイズですから隅々までとはいかないようです。主要機関や各種武装などに隔たっていると見ていいでしょう」
瀬戸口「そしてその隙間を縫うように小型・中型幻獣が艦の内外にいるようだ」
壬生屋「もしかして、潰した艦砲が再生するようなことも……」
善行「ええ、その通りです。ゆっくりですが、艦載機と栄光号が攻撃した部分が再生されていることが確認されました」
滝川「マジかよ……」
みほ「ヘカトンケイルを外から破壊することはほぼ不可能ということですね?つまり……」
善行「大洗学園艦を、破壊した砲塔の側につけ直接乗り込み、主要機関に巣くっている幻獣を撃破します」
みどり子「とんでもない作戦ね」
典子「でも他に有効な手は無いんでしょ?」
沙織「みぽりんのお姉ちゃんが作ってくれた時間と突破口だもん、やるしかないよ!」
桂利奈「よーしやったるぞー!」
暗い海に浮かぶ巨大な学園艦・ヘカトンケイル
その艦に苛烈な砲撃を加えながら大洗学園艦は接近していく
沙織「ち、近くで見るととんでもない大きさだね……」
麻子「だが艦の制御はうちの乗組員たちのほうがずっと上だ。私の友人もいるしな」
優花里「その通りです!」
みほ「でも、近づくとどんどん憎悪が増しているような気がする……やっぱり」
舞「ペンタがいるのはほぼ確実と見てよいな?」
厚志「……ねえ、撤退戦以降幻獣の戦い方が微妙に変わったけどさ、もしかして」
華「あの艦から指示を出していた可能性があると?」
舞「ふむ、まあ頭の片隅には置いておこう。さて時間だ!」
みほ「パンツァー・フォー!」
艦同士が最接近したところでタラップが架けられ、各車輌は一斉に渡っていく
そこで一部の車輌は別行動に移る
あや「うわぁ気持ち悪い!」
優季「なにこれ~」
あゆみ「寄生された部分ってこんな気味悪いんだ……」
舞「あまり直視するでない。精神に以上をきたすこともあるぞ」
善行「あらかじめ決めておいた自衛軍と黒森峰の車両は、砲塔の再生を阻止するため攻撃してください」
亜美「そっちを攻撃し続ければ、他の箇所が損傷したときの再生も遅らせることが出来るって訳ね!」
瀬戸口「その通り。ん……早速幻獣どもがお出迎えだ。ゾンビヘリが突出してくるぞ」
滝川「こちらトラねこ、攻撃するぜ!」
二番機の92mmライフルが火を噴く
見事命中し、ヘリは回転しながら墜落する
華「流石ですね!」
みほ「引き返していく……?」
舞「様子見ということか?みほよ、やはり一筋縄ではいかん相手かも知れぬ」
みほ「はい。気を引き締めていきましょう」
あや「あのぉ、この辺にも内部への入り口はありますけど、ここで歩兵さんたちを下ろしちゃ駄目なんですかぁ?」
瀬戸口「それはだな、艦内部は各ブロックにユニット化されていて移動手段が徒歩しか無くなってしまう。幻獣の襲撃を何度もかわしながら何キロも歩いたら疲れちゃうだろう?」
あゆみ「ああ~そっかぁー!」
優季「瀬戸口先輩、あったま良い~!」
壬生屋「瀬戸口さん……!」
瀬戸口「下級生に優しく説明しただけだって、そんな恨めしい声出さんでも」
舞「たわけめ」
みほ「あはは……」
広大な甲板の平野部を進む戦闘団
やがてオペレーターからの報告が上がる
ののみ「敵反応多数!森や山からいっぱい来るの!」
瀬戸口「スキュラも10体以上いるぞ、気をつけろ!」
みほ「もくもく作戦は?」
舞「地形図は渡されているが、慣れない地理にこの暗闇だ。レーザーは減衰されるが下手をすればこちらが不利になるぞ」
エリカ「こちら黒森峰、ここは私たちに任せてもらえないかしら」
みほ「エリカさん?」
エリカ「こういう地形での戦闘はあなた達より私たちのほうが手馴れているわ。ここで時間を浪費するより、さっさと歩兵を運ぶべきよ」
みほ「でも……」
舞「逸見よ、そなたも西住流の薫陶を受け継いでいるのだな?ならば全員生かして見せよ」
エリカ「ふん、西住流にそんな文言は無いけど……やってやろうじゃない。阿蘇での汚名は返上させてもらうわよ!」
滝川「俺もここに残るぜ!スキュラ狩りには役に立てるだろ」
みほ「……わかりました。よろしくお願いします!」
平野部の幻獣はエリカたちと滝川に任せ、先を急ぐ
もうすぐ市街地というところで、みほたちは予想外の敵に阻まれた
みほ「あれは……」
優花里「ティーガー戦車!?いや、それだけじゃない、もっとたくさん……」
舞「戦車道で使われていた戦車のようだな」
ねこにゃー「もしかして、あれも幻獣に寄生されて……」
桃「っ!攻撃してくるぞ!」
杏「西住ちゃん!」
みほ「みなさん落ち着いて!寄生された兵器は、中堅程度の技量しかないはずです。性能ではこちらが上、技量はたくさん訓練した皆の方がずっと上です!冷静に履帯や機関部を狙ってください!」
優花里「Ⅳ号もいますね……」
みほ「……」
各車は敵の射線から上手く車体をずらし、遮蔽物を利用し、見事に砲撃を命中させていく
これまでの訓練や実戦を活かした動きが出来ていた
あけび「命中!」
妙子「これで4輌撃破です!」
典子「よし良いぞ!次だ!」
忍「了解!」
カエサル「恐るるに足らず!」
おりょう「他チームとの連携も忘れたらいかんぜよ」
左衛門佐「ぬえさんチームの援護に行こう」
エルヴィン「あれはⅢ突か……」
優花里「落ち着いて、慌てなくてもいいからね」
あや「は、はい、秋山先輩!」
麻子「皆、腕を上げたな」
華「みほさんの適切な指導のおかげですよ」
みほは撃破したⅣ号戦車を見つめた
きっとこの学園艦でも自分たちと同じ年頃の少女たちがこの戦車に乗り込み戦車道に打ち込んだのだろうと
そう思うとたまらなく悲しかった
みほ「ごめんね……」
そうつぶやき、前を向いた
しかし……
みどり子「た、隊長!撃破した戦車が動き出したわ!」
みほ「え……!」
桃「馬鹿な!確かに履帯や機関部を破壊したはずだ!」
みどり子「でも実際動いてるのよ!」
舞「みほよ、戦車道で使われる戦車の兵員室は、特殊なカーボンで保護されているのであったな?」
みほ「は、はい。まさかそこに寄生している幻獣の本体が?」
舞「おそらくな。それを潰さない限り何度でも再生するのだろう。まさしくゾンビ戦車だな」
優花里「し、しかしあのカーボン装甲は120mmを超える口径の砲撃にも耐えます!我々の攻撃力では抜けません!」
かつて自分たちが乗り、戦力不足として乗り換えた車輌たちは
思わぬ強敵としてみほたちの前に立ちはだかることになった
麻子「いくら旧式車輌とは言え、あれだけの数に攻撃されれば避け切れんぞ」
優花里「この数……サンダースや黒森峰の保有台数よりもずっと多いですよ」
エルヴィン「チッ、プラウダや聖グロリアーナ、サンダースが近くにいてくれたら……」
おりょう「今回は航空支援も受けられないからきついぜよ」
舞「あの戦車に有効な攻撃力を持つのは、超硬度大太刀か、我らのミサイルだな……」
壬生屋「芝村さん」
舞「うむ、そうだな……厚志、行けるな?」
厚志「任せてよ」
みほ「舞さん?」
舞「ここは我らみけねこチームとくろねこに任せてもらおう」
優花里「軽く100輌以上はいますよ!?たった二機で……」
舞「不安か?」
みほ「……いえ、信じます。ご無事で!」
舞「そちらもな」
壬生屋「皆さん、お行になってください!」
戦車隊は全速力で市街地へ向かっていった
厚志「僕はこの大量の戦車よりも西住さんと戦う方がずっとやり辛いかな」
舞「ふ、そうだな。ゾンビ戦車共よ、精々厚志を楽しませるが良いぞ」
壬生屋「参ります!」
みほ「市街地へ入ります。道幅が狭くなるため、レーザーやゾンビヘリの斉射に注意してください」
沙織「私たちは優先的にそっちを攻撃するよ!」
杏「内部への進入口はこの先だったよね?」
みほ「はい。ペンタの気配も強くなってきました」
ののみ「ののみも感じるの!」
善行「西住さんと東原さんがアンテナ役になってくれていますね。石津さんの姿が見えないようですが」
加藤「萌りんなら、救護が必要になったときの為に準備しとく言うてたで?」
善行「ふむ、そうですか」
みほ「ワイトが多数出現!みんな気をつけて……くっ!」
市街地に出現したワイトは、以前見かけた学兵に寄生したものだけでなく、この街で暮らしていたであろう老若男女の住人たちであった
この街で起きた悲劇が脳裏に浮かび、みほは思わず涙ぐむ
しかし、すぐにそれを拭い前を向いた
みほ(今は泣いてる時じゃない!)
みほ「前方の幻獣一団に火力を集中、撃て!」
カエサル「よし!突破口が開いた!」
みほ「あそこで歩兵を降ろします!各員援護をしつつ随時降車してください!」
若宮「俺たちの出番だな!気合を入れて……ん!石津!?お前なぜここにいる!」
みほ「石津さん!?」
滝川「なんだって!?」
石津「私がいれば……精神汚染は防げるわ……」
若宮「いやしかしだな……」
来須「時間が無い」
善行「石津さん、近頃随伴歩兵の訓練をしていましたが、この為に?」
石津「……あらゆる……状況のためよ……」
ねこにゃー「ボクたちが運んだ兵の中に紛れてたんだね……」
滝川「ちょっと待てよ!確かに俺も訓練に付き合ったけど、こんな土壇場でよ!」
石津「信じて」
滝川「うぐっ……」
善行「やれやれ、とんだ突撃衛生兵だ。仕方ありません、許可します」
滝川「善行さん!?ちっくしょう、絶対無事に帰って来いよな!」
若宮「むぅ、何があるか分からん、自分の身は自分で守れよ!」
石津「ええ」
みほ「石津さん!……気をつけてくださいね」
石津「……ありがとう」
亜美「歩兵部隊が帰ってこれるよう私たちはここを死守するわ!」
みほ「狼さんチームが帰還するまで、こいぬさんチームの負担を軽減します!各車分散して敵の目を引き付けてください!相手の目を回してやりましょう!ぐるぐる作戦です!」
典子「みんなー、敵を挑発するよー!」
妙子・忍・あけび「はい!!」
梓「西住先輩の動きと映画をヒントに編み出した戦術を実行するときが来たよ!名づけて!」
梓・あゆみ・桂利奈「大絢爛舞踏!」
カエサル「ハッハッハ、また大仰な名前だ!」
おりょう「だが、悪くないきに」
左衛門佐「我々も参戦するぞ!」
沙織「リスさんよりウサギさんチーム、次の角を右折してください。こちらが上手く援護できる形になります」
梓「了解!このモコスじゃ……ううん、モコスじゃなくても冷泉先輩のような動きは無理。でも仲間に協力してもらえれば!あゆみちゃん、前方のナーガを挑発!」
あゆみ「発射!怒ってる怒ってる!」
優季「桂利奈ちゃん、次右折ね」
桂利奈「あい!」
優季「その次も次も次も右折!」
桂利奈「あいあいあ~い!」
河嶋「あの一年たちが、良い動きをしてくれる!」
柚子「負けてらんないよ桃ちゃん!」
杏「こっちも撃ちまくるよー!」
モコスが引き付けた敵に次々と砲撃を加え撃破していく
さらに狭い路地で身動きが取り辛いミノタウロスの背後に回りこんだ
中型の主力といえど、背面は装甲が薄い
梓「よし、チャンス!」
あゆみ「120mmの威力、思い知れー!」
ののみ「ミノタウロス撃破!」
桂利奈「やったあ!」
瀬戸口「敵が密集し始めてきたぞ!」
みほ「侵入口の自衛軍から引き離します。各車散開してください!」
みほの号令でそれぞれ散らばり、自衛軍への攻撃が弱まる
しかしそれは同時に自分たちの危険が増すことにもなる
瀬戸口「この反応は……G・タランテラが来るぞ!気をつけろ!」
みほ「!……私たちが引き受けましょう!」
麻子「了解」
華「分かりました!」
市街地での戦闘が苛烈さを増していた頃、平野部でも同時に激しい戦闘が行われていた
エリカ「くっ!キリが無いわね!」
滝川「落としても落としても沸いて出てきやがる!」
原「こちらシャムネコチーム、タラップ付近にも抜けてきた幻獣がちょくちょく来るようになってきたわ。残った戦車隊が応戦してくれてるけど……そっちは大丈夫?」
滝川「すんません、なるべく撃ち洩らさないようにしてるけど、あまり余裕は無いっす!」
エリカ「いざとなったらタラップを降ろすことも考えるべきかしらね。学園艦内部に侵入されるわけにはいかないもの」
原「ダメよ、あなたたちをちゃんと迎えるまでは」
エリカ「もしもの話よ」
滝川「待て、なんだありゃ!?」
エリカ「あれは……オウルベアー!?そんな、マリオネット型だなんて!」
原「何ですって!?」
マリオネット型……大型幻獣のことである
数千対の中型幻獣に対し1対の割合で出現すると言われている
そのサイズと戦闘力により、通常戦力では歯が立たないとまで言われる危険な幻獣である
エリカ「いえ、それにしてはサイズが小さい……?この学園艦特有のタイプなの……?」
滝川「どちらにしろマズい!レーザーが来るぞ!」
それまで巧みな戦術で被害を抑えていた黒森峰の戦車隊であったが、ついに一条のレーザーが一輌の戦車の履帯を捉えた
擱座した車輌を見たエリカは青ざめて叫ぶ
エリカ「脱出しなさい!急いで!」
滝川「俺が盾になる!さっさと逃げろ!」
脱出した黒森峰戦車兵はウォードレスの筋力補正を受け一目散に逃げ去っていく
だが、その直後に二番機が膝をついた
滝川「やっべ、足をやられた、お前らも撤退しろ!」
エリカ「はぁ!?馬鹿言わないで!」
滝川「前も西住流に逃げるという道は~とか言ってたよな?でも今は逃げとけって」
エリカ「あんたはどうするのよ!?」
滝川「へっへっへ、さてどうすっかな……」
エリカ「……私たちがアレを二番機の射界まで引っ張り出すわ。あんたはそれを狙撃して」
滝川「おい、それは」
エリカ「私たちを誰だと思ってるの?名門・黒森峰女学院よ?あんたたちに出来て私たちに出来ないはずがないじゃない!……あんたの腕を信用して言ってるんだからね。止まって撃つほうがあんたもやりやすいでしょ?」
滝川「……へっ、わーったよ!やってやるぜ!」
そういうと滝川は片膝立ちの姿勢に二番機を固定し、照準を定める
エリカ「各員、フォーメーションD!敵を引き付けるわよ!……私たちを死なせないでよね!」
滝川「プレッシャー掛けてくれるぜ。誰も死なせねぇ、死なせねぇぞ!」
ヘカトンケイル内部に侵入した歩兵部隊は、大量の小型幻獣に苦しめられていた
若宮「これほどとはな……ゴブ共のほかにもコボルト、スケルトン、レッサーデーモン、バジリスクまで居やがる」
来須「ワイトはほとんど居ないようだな」
若宮「内部の人間は五体満足ではいられなかったんだろう。変わりにヒトウバンはウヨウヨ居る。吐き気がするな」
衛生兵用ウォードレス・テンダーフォックスに身を包んだ石津は負傷兵の手当てをしていた
石津「これで……大丈夫……」
若宮「少し驚いたぞ。戦闘もこなしてる上に、怪我をした兵を戦闘可能なレベルまで復帰させるとはな」
石津「西住さんが……みんなを守ろうとしていた……暖かい思いに触れたの……私は、それに答えたかった……」
若宮「ふうむ、そうだな!」
来須「敵だ」
若宮のウォードレス・可憐が持つ12.7mmヘビーマシンガンを軸に弾幕を張り、幻獣を蹴散らしながら少しずつ下層へ進んで行く
そして何層が下ったとき、周囲の風景が一変した
若宮「これは……通路の上下左右全て幻獣の寄生体か。こんなところにずっといたら気が狂いそうになるな」
来須「!」
石津「強い……プレッシャー……この先から感じる」
そのとき、若宮や来須を含む全歩兵に頭痛が走った
幻獣の思念波である
若宮「ぐっ!精神汚染か!?」
石津「させない!」
石津が前に出る
歩兵たちに向かっていた思念波は消え去った
しかし
石津「う……」
若宮「石津!?しっかりしろ!狼からひげねこ!石津が倒れた!」
来須「来るぞ」
耳障りな音と共に、士魂号一番機の片方の超硬度大太刀の刀身が宙を舞った
壬生屋「くっ!まだやれます!」
壬生屋の剣士としての技量は人並み外れたものがある
が、5121小隊の切り込み隊長たらしめている要因は、仲間と共に考案し極限にまで効率化した動きにある
最小限の動きで敵を制し、無駄の無い流れで場をも制する
それが乱れると、高知での戦いのときのように大きなダメージを負いかねない
壬生屋「やはり、硬い!」
幻獣相手なら、いやカーボンコーティングの施されていない車輌であれば、いとも容易く撃破できたであろうが、今は硬い岩を刀で何度も斬りつけているような状況であった
それでも既に30輌以上のゾンビ戦車を斬り伏せているのは僥倖と言えた
舞「ミサイル、残弾なし」
厚志「これからどうしようか?パンチやキックじゃ駄目?」
舞「こちらの装甲のほうが持たぬであろうな」
厚志「うーん、20mmのジャイアントアサルトじゃ元々有効打にならないし、海に落っことすにしても数が多すぎるね」
舞「補給に戻るわけにも行かぬな、こいつらを連れては行けぬ」
厚志「ちょっと困ったかな」
壬生屋「芝村さん、速水さん、ここはわたくしが引き受けます。お二人はミサイルの補給に戻ってください」
舞「ならぬ。流石に無謀すぎる」
厚志「瀬戸口さんに怒られちゃうよ」
壬生屋「しかしこのままでは……」
厚志「あ……舞、あれあれ。肩のところ」
舞「む、来てくれたか。そなたが居てくれれば百人力だな」
厚志「うん、うん、ありがとう。いやぁ僕たちの方こそお礼を言わなくちゃ」
壬生屋「あの、お二人ともどなたとお話して……」
舞「なに、そなたも良く知るものだ」
壬生屋「え?」
厚志「とばすよ、舞」
舞「存分に駆けるがよい。攻撃は私に任せておけ」
猛然と駆け出した三番機
腕部から青い光が輝き、瞬く間に周囲の戦車を駆逐していく
壬生屋「す、凄い……どうやって……」
舞「ふむ、こんなものか」
厚志「そうだね、もうこっちは大丈夫。西住さんのところに行ってあげてくれるかな?」
舞「壬生屋、我らは引き返して黒森峰と二番機の援護に向かうぞ」
壬生屋「は、はい!」
市街地ではG・タランテラが建物を破壊しながらあんこうチームを攻撃していた
しかしその強力なレーザーは士魂号Lを捉えられていない
杏「あいつ!街を滅茶苦茶にしやがってー!」
桃「会長……」
柚子「でも、建物に足を取られて上手く動けないみたい」
みほは冷静に指示を送る
みほ「地上で見ると巨大ですが、スキュラとサイズは変わりません。射程が短くなり、動きも緩慢になったものと考え、落ち着いて死角に回りましょう」
麻子「分かった」
みほ「麻子さん、ナイスです!射程に……入った!今です!」
華「発射!」
みほ「よし、効いてる!もう二、三発撃ち込んで……」
瀬戸口「まずいな、市街地の幻獣の反応がどんどん増えてきている。黒森峰からの報告では小型のオウルベアーまで現れたそうだ」
みほ「!……わかりました。何とかしてみます」
桃「何とかって、どうする気だ?」
みほ「基本的な方針は変わりません。自衛軍はあの場所を動けないので私たちが引っ掻き回すしか……出来るだけあんこうが敵を引き付けますが、皆さんにも無理してもらうことに……」
桃「今更それが何だ!私たちをここまで引っ張ってきてくれたのはお前だろう!」
杏「河嶋の言うとおりだ。もっと私たちを頼ってくれて良いんだよ」
優花里「今こそ、西住殿に恩を返すときです!」
エルヴィン「うむ。我々の意地を見せようではないか」
カエサル「前の戦いでは隊長に頼りきりだったからな」
みほ「みんな……ありがとう、よろしくお願いします!」
あんこうチームの士魂号LがG・タランテラを撃破したことを皮切りに、各チームは各々の判断で動きだした
一番多くの敵を引き付けているあんこうチームの負担を軽くするため、そして何より自分たちの力でみほの為になりたかったからである
ののみ「ウサギさんチーム!そっちにスキュラが向かってるの!」
桂里奈「嘘!どうしよう!?」
梓「スキュラ、西住隊長のところに絶対向かわせちゃいけない、ここでやっつけよう!」
あゆみ「わかった!120mmなら十分撃破できるし!」
桂「でもどうやって!?」
梓「主レーザーは長射程だけど射角が狭くて、副砲はその逆で短くて広い……やっぱり空中要塞って言われるだけあって難しいな」
桂里奈「お腹の部分が弱点なんでしょ?」
あゆみ「でもモコスだとほとんど仰角が取れないから遠くから撃たないとあたらないよ?」
梓「長距離での撃ち合いは分が悪すぎる……!」
スキュラに捕捉されないよう動きながら打開策を探るウサギさんチーム
放たれたレーザーが周囲の建物を粉砕する
梓「あれだ!桂里奈ちゃん!あの地点にスキュラを誘い込んで!」
桂里奈「あい!」
梓「よし、反転!崩れた瓦礫を盾にしながらスキュラの下に!」
あゆみ「一年ナメんな!」
桂里奈「ナメんなー!」
あえて真正面からスキュラに向かって進むモコス
蛇行し、瓦礫を利用しながら進むモコスを、動きの遅いスキュラは捉えきれない
桂里奈「後ろに回りこんだよ!」
梓「相手は旋回に時間がかかる!あの瓦礫に乗り上げて!時間との勝負!」
スキュラがこちらを向こうとしている間に、モコスは狭い仰角を稼ぐため瓦礫に乗り上げる
身を乗り出しているためもはやレーザーを防ぐものはなく、先にこちらを向かれたら一巻の終わりである
梓「あゆみちゃん!」
あゆみ「射程に……入った!」
梓「撃て!」
モコスから放たれた砲弾がスキュラの装甲の薄い底面部に突き刺さる
内部に軽い気体が詰まっているスキュラはぐずぐずと火を吹き上げ、やがて爆発した
桂里奈「やった!」
あゆみ「凄い!私たちだけで倒したよ!」
梓「油断しちゃダメ!まだ敵が来るよ!」
ののみ「ウサギさんチーム、スキュラ撃破!」
優季「おお、やるぅ」
沙織「負けてられないね!」
左衛門佐「小型幻獣が大量発生!」
カエサル「全部相手していたらキリがない!中型を狙え!」
おりょう「しかしこう多いと動きづらいぜよ」
優花里「沙織殿、99式ならあの一帯の小型幻獣を殲滅できるのでは?」
エルヴィン「以前整備班がなにやら持ってきてたようだが」
沙織「うん、とっておきだって言われて……ちょっと待って、榴弾の交換するから!」
あや「先輩!なんか怪獣がいます!」
優花里「か、怪獣!?」
エルヴィン「あれがオウルベアーか?」
カエサル「口が開いた!?ぬえさんチームが狙われているぞ!逃げろ!」
優花里「掴まっていてください!」
オウルベアーの口内にある目からレーザーが発射され、ぬえさんチームのすぐ横を掠めていく
さらに頭部の目からも大口径レーザー砲が発射される
あや「ちょっと!あのレーザー超恐いんだけど!?」
エルヴィン「これは強烈だな……!」
沙織「榴弾を発射します!注意してください!」
99式から榴弾が放たれる
それは少数だけ生産・配備され、5121整備班がくすねてきた榴弾用多目的弾である
子弾は形成炸薬であり範囲も広く、小・中型幻獣には極めて有効な攻撃力を持つ
ののみ「命中!小型幻獣多数撃破!」
エルヴィン「オウルベアーは!?」
ののみ「……まだいるの!」
おりょう「しぶといぜよ」
カエサル「むっ!」
左衛門佐「なんだあの光は?」
瀬戸口「腹部にある目から光学・物理障壁が張られている!背後を狙え!」
ののみ「左右からミノタウロス、ゴルゴーン接近!」
エルヴィン「こいつらを倒さなければ……」
カエサル「背後に回りこめん!」
沙織「嘘!?ど、どうしよう……ぼやぼやしてたらカバさんチームとぬえさんチームがレーザーにやられちゃう!」
そのとき、砲手席の紗希が振り向き口を開いた
紗希「レーザー……撃つところ……」
沙織「しゃべった!?」
優季「あの口が開いたところに榴弾を撃ち込めばいいのね?」
沙織「流した!?」
優季の質問にこくりと頷く紗希
長距離からの精密射撃、それも口が開いた瞬間のシビアなタイミングのため、砲手の紗希にはかなりの集中力が要される
優季「車体調整よし」
沙織「照準……よし、紗希ちゃん、お願い!」
紗希「……」
そして放たれた榴弾はオウルベアーの防御されてない口に吸い込まれ、爆発
頭部を失ったオウルベアーは倒れ伏した
あや「凄ぉい!紗希ちゃん天才!」
沙織「これで他のチームの援護も楽に……!」
ねこにゃー「危ない!」
どこからか飛んできた生体砲弾からリスさんチームをかばい、アリクイさんチームの装甲車が被弾した
沙織「あ、アリクイさんチームが!」
みほ「どうしました!?」
沙織「私たちを庇って……」
みほ「! アリクイさんチーム、無事ですか?怪我は!?」
ねこにゃー「……大丈夫!」
ぴよたん「大丈夫だっちゃ!」
ももがー「大丈夫なり!」
沙織「良かった……大丈夫みたいね」
杏「小山!アリクイさんチームを助けに行くぞ」
柚子「はい!」
優季「先輩!こっちにも幻獣が来てます~」
沙織「カメさんチームが来るまで何とか防ごう!」
みどり子「ゴモヨ!パゾ美!こっちに敵の注意を引き付けるわ!」
モヨ子「わ、わかったよそど子!」
望美「こっちに来るよ」
みどり子「87式は威力偵察のための車輌よ!ちょっとやそっとじゃやられないわ!」
モヨ子「きゃああ!レーザーや強酸には耐えられないよ!」
みどり子「くっ!デカいからっていい気にならないでよ!こうしてやる!」
25mm機関砲が火を噴く
口径は人型戦車のジャイアントアサルトよりも大きく、中型幻獣にも十分有効だ
しかし、正面装甲に当たり倒しきることは出来ない
望美「と、とまらない!」
杏「こちらカメさんチーム、アリクイさんチームを拾ったよ!」
みどり子「了解!ゴモヨ!あっちの角まで全速力!」
最高速度100km/hを誇る装輪装甲車である87式は一目散に退避
リスさんチームとカメさんチームも射撃を加えながら後退していく
ねこにゃー「私たちも援護を!」
収容されたアリクイさんチームの隊員も、後部兵員室の銃眼から射撃し、小型幻獣を排除する
優花里「後ろに回りこみました!」
エルヴィン「よし、撃てー!」
アリクイさんチームに気を取られすぎた幻獣は挟み撃ちにされる形となり、かなりの数が撃破された
瀬戸口「装甲が厚いやつが多い代わりに、グレーター・デーモンやアンフィスバエナのような足の速い幻獣が少ないな」
善行「G・タランテラもそうですが、もしかしたら幻獣が日本に上陸する前後のタイプが多いのかもしれません」
みほ「あんこうよりひげねこさんチームへ、こちらは大多数の幻獣を撃破できました。自衛軍や歩兵部隊の方はどうなっていますか?」
沙織「うわ、みぽりんたちあれだけの数の幻獣を……」
優花里「五十鈴殿と冷泉殿も覚醒状態ですね」
亜美「こっちは大した損害はないわ。でもそろそろ限界。歩兵部隊は……」
若宮「狼からひげねこ!石津が倒れた!」
善行「な……!」
みほ「石津さんが!?」
その直後、無線からレーザー発射音と爆発音が響いた
善行「若宮君、応答してください。若宮君!」
来須「……俺たちは無事だ。だがすまん、ペンタを取り逃がした」
瀬戸口「高エネルギー反応!何だこれは!?」
亜美「なにあれ?」
自衛軍が守備をしている地点から離れた場所に光の柱が出現
程なく甲板に開いた大穴から何かが飛び出してくる
みほ「レーザー?……これは……!」
みほの頭に痛みが走る
深い怨嗟のような叫びが響いた
みほ「あれが……この学園艦を支配していたペンタ!」
亜美「攻撃を……くっ、射程外!」
みほ「麻子さん、追ってください!」
麻子「了解」
善行「あれを逃してはいけません!あんこうチームが一番目標に近い。西住さん、どうか」
みほ「はい!必ず!」
エルヴィン「我々も追うぞ!」
優花里「はい!」
沙織「私たちも!」
優季「この車輌じゃ間に合いませんよ~」
あや「それでも!」
カエサル「我々は自衛軍の援護に!」
桃「了解だ!」
追いながら華は何度も射撃を加えるものの、ペンタは右往左往しながら回避する上に、崩れた建物を迂回しながらの攻撃は当たらない
ペンタは学園艦外縁部を越え海上まで離脱していく
あんこうチームの士魂号Lは市街地を抜け甲板の端まで到達、遮蔽物の無くなった今が最大の、そして最後のチャンスであった
しかし
みほ「朝日が……!」
華「逆光で見えない!」
照準が定まらず焦るみほと華
そのとき、どこからともなく声が聞こえてくる
みほ「歌……?」
絶望と悲しみの海から、それは生まれ出る
地に希望を、天に夢を取り戻すために生まれ出る
それは、今なお戦い続ける仲間たちの声
エリカたち黒森峰や5121の隊員たち、大洗の仲間たちの声
「そなたは、歌は歌えるか?」
みほ「え?だ、誰?」
闇を払う銀の剣を持つ少年
それは子供のころに聞いた話、誰もが笑うおとぎ話
「題は…がんぱれーど、なにがしだ。ほれ、銀の剣という」
ふと横を見ると、砲塔の端にブータがちょこんと座っていた
長いひげが、塩風に揺れた
でも私は笑わない 私は信じられる
あなたの横顔を見ているから
ブータ「わしはな、その歌が好きだよ。その歌を頭から信じて歌うひとが好きだ。その歌を好ましく思うわしが好きだ」
みほ「ブータ……君なの?」
はるかなる未来へ階段を駆け上がる
あなたの瞳を知っている
ブータ「いかにも。我はブータニアス・ヌマ・ブフリコラ。長靴の国より来る客人神。猫神族の英雄にして、最後の戦神。そして、そなたらの友だ」
みほ「猫神族の……英雄……」
今なら私は信じられる あなたの作る未来が見える
あなたの差し出す手を取って
ブータ「…不思議そうな顔をするな、軍神の名を告ぐ者よ。あしきゆめと戦う者。人類の守護者。我と我らは戦友を歓迎する。絢爛舞踏よ」
みほ「絢爛、舞踏?」
私も一緒にかけあがろう
幾千万の私とあなたで、あの運命に打ち勝とう
ブータ「友よ。いや、今や戦友となった者よ。我はそなたに力を貸そう。あしきゆめの、その暗い想念を探すのだ」
みほ「これは……この青い光は……?」
みほの右手に、見たことの無い模様が浮かび上がる小杉ヨーコにおまじないをかけてもらった場所だ
はるかなる未来への階段を駆け上がろう
私は今 一人じゃない
ブータ「聞こえるか、戦友たちの声が。人々と、神々と、そして散って行った者たちが、今そなたと共にある」
みほ「うん。聞こえるよ、みんなの声。それに……」
全軍抜刀 全軍突撃
未来のために マーチを歌おう
ガンパレード・マーチ ガンバレード・マーチ
みほは聞いた
ペンタから流れてくる怨嗟の叫びの、更に深いところからの声を
みほ「助けて……って、言ってた」
麻子「なら救わないとな」
みほ「うん!」
後方から大洗の仲間たちが追いついてくる
優花里「いた!西住殿が……青い光に包まれて……あれは一体?」
沙織「みぽりん、綺麗……」
みほは指示を出す
青い燐光が、ペンタの姿をはっきりと心に映し出す
みほ「華さん、前方、ペンタを照準!」
華「この一撃は、みんなの想いを込めた一撃……」
みほ「……撃て!」
士魂号Lから放たれた砲弾、いや光弾は青い軌跡を描き、ペンタに吸い込まれてい行く
狙い違わず命中、ペンタは消滅した
みほは消滅しつつあるペンタから流れ込む大量の憎しみの声の中に、ありがとう、という小さな声を確かに聞いた
ののみ「あんこうチーム、ペンタ撃破!」
桃「やった……のか?」
柚子「そうだよ桃ちゃん!」
杏「大勝利だ!」
沙織「やったよみぽりん!」
華「やりました!」
優花里「私たち、勝ちました!」
麻子「待て、まだ幻獣は残ってる」
舞「その通りだ、さっさと援護に来るが良い」
厚志「あはは、舞ったらそろそろGに耐え切れなくなってきたね」
舞「余計なことは言うな!」
みほ「は、はい!皆さん行きましょう!」
指揮官を失った幻獣に最早みほたちを食い止める力は無く、甲板上の幻獣はすべて消滅
艦内部に侵入した歩兵たちも無事に戻ってきた
そのころには石津も意識を取り戻していた
すっかり日は上がり、大洗学園艦に帰還する隊員たち
最後に戻ってきたあんこうチームを皆で出迎える
梓「先輩!」
あや「やりましたね!」
優季「凄いです!」
あゆみ「おかえりなさい!」
桂里奈「カッコよかったです!」
原「みんな、おかえり!」
森「これで一安心ですね」
小杉「無事で何よりデス」
カエサル「エクセレント!」
エルヴィン「ヴィットマン級だったな!」
左衛門佐「お見事!」
おりょう「やったぜよ!」
狩谷「冷や冷やさせる」
遠坂「流石大洗ですね」
田辺「み、みんな凄いです!」
みどり子「やるじゃないの!」
中村「よくやったばい!」
岩田「素晴らしい、素晴らしいィィィィーー!」
新井木「凄いなぁ!」
忍「ワールドカップクラスです!」
妙子「凄いアタックでした!」
梓「ナイスクイック!」
田代「良くやったなぁテメェら!」
茜「ふん、まあ当然だな」
ナカジマ「良い走りだねえ!」
あけび「シビれました!」
ツチヤ「ヒャッホオオォォォォウ!!」
皆があんこうチームの元に集まる
みほ「みんな……ありがとう」
沙織「みぽりん降りておいでよ」
みほ「うん……あ、あれ」
優花里「西住殿?」
沙織「どうしたの?」
みほ「力が入らなくて……」
麻子「しっかりしろ隊長」
みほ「あはは……」
舞「そなたは毎回それだな」
厚志「いいじゃない、頑張ってくれたんだもの」
壬生屋「そうですよ」
滝川「俺!俺も今回は頑張ったぜ!」
舞「ふむ、珍しく滝川機が一番損傷しておるな」
滝川「うぐ」
エリカ「彼には助けられたわ。私からも礼を言っておくわ。ありがとう」
滝川「お、おう」
亜美「うん!みんな頑張ったわ!グッジョブ!」
善行「ええ、みなさん良くやってくれました」
瀬戸口「お兄さん褒めてやるぞ!」
ののみ「ののみからも良い子良い子なの!」
加藤「せやなぁ!みんな凄い活躍やったで!」
若宮「原さん!男・若宮、やりました!」
来須は黙って帽子を直した
みほはあんこうのマークがペイントされた士魂号Lを振り返る
砲塔にはブータが乗っている
優花里「あれ、ブータ殿が乗ってます」
沙織「なんで?」
みほ「……ありがとう、ブータ君」
ブータ「ニャーオ」
先ほどの威厳のある声は、もう聞こえなかった
桃「西住!」
生徒会の面々が並んでいる
柚子は目に涙を浮かべている
桃「西住、この度の活躍、感謝の念に耐えない。本当に、本当に……ありが……ふえぇぇぇぇええぇぇん!」
柚子「桃ちゃん泣きすぎ……」
会長「西住ちゃん」
みほ「はい」
杏「これであのヘカトンケイルも、ようやく休めるね」
みほ「はい……」
杏「……私たちの学校、守れたよ!」
みほ「……はい!」
杏はいつかのように、みほに抱きついた
杏「ありがとね……」
みほ「いえ……私の方こそありがとうございました!」
仲間たちは喜びの声を上げ続ける
一年生たちは中型幻獣キラーになるなどとはしゃいでいた
そこに石津がやってきた
みほ「石津さん、もう大丈夫なんですか?」
石津「ええ、一時的なショックだったから……あとでもう一度診てもらうけれど……」
みほ「そうですか、よかった……」
石津「それより、目を覚ましたそうよ」
みほ「え?」
石津「お姉さん」
みほ「!」
舞「行ってくるが良い」
みほ「は、はい!すみません!」
桃はまだ泣き続けていた
みほ「お姉ちゃん」
学園艦の救護室で、まほはベッドから身を起こしていた
頭に包帯を巻いている
みほ「怪我は大丈夫?」
まほ「ああ、頭を打っただけみたいだ。きっとあの機体が守ってくれたんだ」
みほ「栄光号が?」
まほ「うん。強い恨みを持った子だったけど……人を守りたいって気持ちも流れてきたんだ。きっとかつては熊本を……これはあまり言うべきじゃなかったな」
みほ「……」
まほ「……聞いたよ、大洗学園艦を守りきったんだな。よくやったな」
ベッド脇に座ったみほを、まほは強く抱きしめる
まほ「立派な隊長になった」
みほ「そうかな?」
まほ「そうだよ」
エリカ「失礼します、隊ちょ……な、何を」
みほ「あわわ、じゃあまた後で!」
まほ「ああ」
みほ「お姉ちゃん」
まほ「ん?」
みほ「見つけたよ、私の戦車道!」
まほ「……うん」
エリカ「大会のときは、負けないわよ!」
みほ「はい!」
大洗学園艦の左舷公園の端で舞は待っていた
みほは横に並ぶ
学園艦や各車輌の修理、ヘカトンケイル学園艦の後処理などで周囲は慌しく動いており、既に夕方となっていた
みほ「ブータ君が助けてくれたの。凄く渋い声で、古風なしゃべり方だった」
舞「ふむ。奴は我らの友だ。まあ本来戦神は毛がふかふかで、ニャーと鳴くもの」
みほ「そうなの?舞さん、ふかふかの動物好きだもんね」
舞「ゴホンゴホン!……九州奪還は成った。日本から幻獣はほぼ駆逐されたと言っていい」
みほ「はい」
舞「だが、大陸にはいまだ幻獣どもが跋扈し、この国を狙い続けている。ヘカトンケイルのような学園艦も、まだ存在するかも知れぬ」
みほ「……はい」
舞「我らは戦い続ける。我らは弱者と我が国民を守る義務がある。それが我らの約束。」
みほ「舞さんは……強いですね」
舞「……我ら芝村にとり、戦場は故郷のようなものだ。我らは戦いの中で生を受け、戦いの中に死んで帰る。好んではいないが、故郷であるに違いない」
みほ「……」
舞「そなたは、私の隣が似合うと思うぞ。ただの人間より、芝村の友として生きよ」
みほ「それは、速水さんの方がお似合いなんじゃ……」
舞「た、たわけ!ぐぬぬ、言うようになったではないか」
みほ「あはは……でも、わたしはみんなを守るために戦うのもいいけど、戦車道の大会もやりたいな。みんな最初はそのために頑張ってたから……」
舞「そうか……ふむ、そうだな。どうせしばらくは幻獣の侵攻もなりを潜めるであろう。ならば」
みほ「え?」
舞「さっさと大会を開けるよう手を打つとするか。そうだな、我らも尚敬高校代表として参加するか」
みほ「えっ、えっ?」
舞「ついでに厚志のやつも参加させるか。あやつは顔立ちが女々しいゆえ気付かれまい。ん……去年ならともかく今は厳しいか?いや行ける!私がそう決めた!」
みほ「え~!?」
その日、幻獣は日本から姿を消した
日本政府は各地での学兵の死傷率の酷さを訴えた善行を始めとした将兵たちの声をようやく聞き入れ、自衛軍再編の強化に乗り出していく
いまだ人類の脅威が去ったわけではなく、次なる幻獣の侵攻に備える日本であるが、束の間の平和は人々に活気を取り戻させた
その年、例年より少し送れて戦車道の全国大会が開かれた
その中には、初出場の学校が2校登場し、国民を大いに沸かせたという
終
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これにて完結です
途中スレを落とすなど至らぬところもありましたが、楽しんでいただければ幸いです
しばらく経ったらHTML化依頼しようと思います
SS製作にあたり、「戦争ではない」ことが強調されたガルパンを戦争物に巻き込むという、ある意味冒涜的なことをしているため
極力元作品の雰囲気を残したいと思いましたが、出来たかどうかは分かりません
また初期構想では生体脳にされたまほを搭載した栄光号にみほを乗せるという考えもチラッと浮かびましたが、あまりにアレなので即効却下しました
やっぱり彼女たちは戦車に乗ってこそ、だと思います
読んでくれた方々、ありがとうございました
あー、本編内で明かすつもりでしたが書き忘れたのでここで
厚志の予想通り、九州撤退戦後から幻獣が各地に出没し戦法が変わったのもペンタたち、特にヘカトンケイルに寄生していた奴の仕業です
太平洋側から大洗に侵攻したのも彼の指示でした
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