1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/03/17(火) 20:12:45.54 ID:CPbQDBMhO


yukikaze

艦これSSです

前編
【艦これ長編SS】雪風「また廻り逢う時まで沈まない」【前編】


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293:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/18(月) 23:01:37.87 ID:sS4Aw0K7O


翌日

提督「すまないな、こんな朝早くに呼び出して:

金剛「こんなアーリーモーニングに、突然どうしたんデスか提督?」

提督「金剛、榛名。お前達に言っておきたい事があってな」

榛名「お姉さまと榛名にですか?」

提督「そうだ。特に金剛、お前には本当に長い間世話になったな」

金剛「提督?」

提督「榛名にも今まで世話になりっぱなしだったが、これからも面倒を頼む事になりそうだ」

榛名「一体どうしたのですか……?」

提督「今までずっと迷惑をかけてすまなかった。それに、比叡と霧島の二人を死なせたのは全て私の所為だ。本当にすまなかった……」

榛名「提督、一体どうして今……」

金剛「提督……まさか……」

提督「金剛、私はお前よりも少し先に逝くことになりそうだ」

金剛「提督……どういうことですか!? 私よりも先ということは…………まさかレイテに!!?」

提督「察しがいいな。流石だ」

金剛「駄目です!! 提督が行く必要はありません!!」

提督「これは命令だ。私には抗え無い」

金剛「どうして!! どうして提督が死ななければならないのですか!!?」

提督「命令に抗おうとし続けたのが仇になったな」

金剛「それは私達を護ろうとしたからなのに!」

提督「だが、護れなかった。それが現実だ」

金剛「でも!! でも!!」

提督「いいんだ金剛。それに、私は安心しているんだ」

金剛「どういうことですか?」

提督「死ぬ事が出来れば私は他の子を死なす為の命令を下さなくて済む……ハハ、司令官失格だな」

金剛「提督……」

294:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/18(月) 23:02:21.91 ID:sS4Aw0K7O


提督「榛名、今後の事でお前には話しておきたい。私の代わりに別の中将が来る事になっている。横須賀に戻ったらお前達はその中将の指示に従ってくれ」

榛名「提督がこのまま指揮を執り続けるという選択肢は無いのですか?」

提督「無い。私は瑞鶴と共に消えることになるだろう」

金剛「…………」

提督「すまないな、金剛」

金剛「いえ、何となく分かっていました。ですが、こうなるのでしたら私……」

提督「やはりそうだったか……」

金剛「やっぱり提督は気付いていましたか」

提督「何となく、だがな」

金剛「ねえ、提督」

提督「何だ?」

金剛「運命っていうのは酷くて残酷で、それでいて時には縋りたくなる本当に嫌な物ですね」

提督「全くだ」

金剛「私もすぐに後を追います。瑞鶴と一緒に待っていて下さいね」

提督「本来ならば後を追うなと言うべきなのだがな……約束だ」

金剛「よかった……」

提督「二人とも、よりにもよってこんな話で悪かったな。戻ってくれ……しかし」

榛名「他の皆さんには言わないっということで宜しいでしょうか?」

提督「ああ」

榛名「分かりました。では、失礼します……金剛お姉様、参りましょう」

金剛「グッバイ提督。また来るネ」

パタン

295:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/18(月) 23:02:52.75 ID:sS4Aw0K7O


榛名「金剛お姉様……」

金剛「シー」キョロキョロ

金剛「うん、大丈夫ネ。何デスか榛名?」

榛名「一体榛名達は誰の為に戦っているのでしょうか?」

金剛「難しい話デスね……これはヒトそれぞれだと思いマス」

榛名「それは榛名も分かっています。今までは榛名にも戦う理由はありました。ですが榛名の戦う理由を全て喪う事になりました……」

金剛「それは、私と提督デスか?」

榛名「はい。提督にならば榛名は命を預けても良いと思っておりました。提督は榛名達艦娘の事を兵器としてでは無く、一人の兵士として扱ってくれました。しかし、無理矢理榛名の大切な人達を奪って行った、榛名達を兵器やそれ以下の存在として扱う人間は……私には許せません」

金剛「それだけデスか?」

榛名「後は……榛名は前の戦いで生き残りました。金剛お姉様や比叡お姉様、そして霧島を護れませんでした……だから、だからこそこの新しい生を受けた時は、お姉様達を榛名が護ろう、お姉様達を榛名より先に逝かせ無いと榛名は榛名に誓いました。なのに……蓋を開けてみれば、前と全く同じ事になってしまいました!! 榛名が運命を、因果を変える事が出来なかった!!」

金剛「サンキュー榛名。榛名は優しいデスね……だけど、榛名の話を聞いて一つ分かったコトがありマス。榛名が私達を助けようとしてくれたのと同じヨウに、私は妹達のワガママを全て受け止めてあげようと思ってまシタ」

榛名「え?」

金剛「比叡と霧島は私が不甲斐なかった所為で命を落としてしまいまシタ。榛名には、私の轟沈で辛い思いをさせてしまったネ。デスが、榛名は私に護って貰う存在では無く私を護る存在で在ろうとしてマス。つまりこれは、お互いのエゴのぶつかり合いネ。榛名を護りたい私、私を護りたい榛名。恐らく比叡も霧島も優しいですから同じヨウなエゴを持っていたでショウ。デスが、お互いこれでは意地の張り合いになってしまいマス。だから、榛名……」

榛名「はい」

金剛「これから榛名は榛名の為に生きて下サイ。思い上がりかもしれまセンが、私が沈んだら悲しんでくれると思いマス。だけど、それを負い目に思わないで下サイ。そうしてくれるダケでも私は幸せデス」

296:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/18(月) 23:03:28.54 ID:sS4Aw0K7O


榛名「お姉様……」

金剛「OK 榛名?」

榛名「……はい」

金剛「Yes それで良いネ」ナデナデ

榛名「お姉様……」

金剛「もしも提督がいなくなった世界が最低で最悪でどうしようもない世界ならば榛名は好きにすれば良いネ。その時に榛名が戦う意味を決めれば良いのデスよ」

榛名「はい……お姉様……」

金剛「榛名は泣き虫ネ」ナデナデ

榛名「榛名は……泣き虫です……」

金剛「強くなって下さいネ、榛名」ナデナデ

榛名「はい……!」

金剛「その言葉が聞けて安心しまシタ。では、そろそろ行きまショウ」ポンポン

榛名「はい……!」

………………………………。

297:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/18(月) 23:17:32.79 ID:sS4Aw0K7O


磯風「雪風は?」

浜風「さっき一人で埠頭に居ました。多分夕方まで帰って来ないでしょう」

浦風「うん。でも万が一があるから早目に話そうのぉ」

磯風「そうだな」

浜風「雪風の精神状態が危険だという事はなんと無く分かって居ましたが、こんな会議を開くなんて一体何があったのですか?」

浦風「あんじゃね、この前の戦いで翔鶴さんが亡くなった時に雪風が、こがぁな事を言ぅとったんで」

浦風「『ただ、私は”兵器”に近付いただけですよ』って」

浜風「それは一体……」

浦風「雪風は心を手離しかけておる」

浜風「しかし、それは無理……いや、雪風だからこそですか……」

浦風「そうじゃのぉ。雪風はあまりにもえっとの人の命を目の前でのぉなってきた。特に初風や時津風はかなりキツかったゆぅて思う。辛い思いをするくらいなら何も感じん方がええ、雪風は多分そう思うとるはずじゃ」

磯風「だが、雪風は心を手離しきれていない。亡くなる寸前の翔鶴さんに向かって労りの言葉をかけていた」

浜風「まだ完全には壊れていないという事ですか?」

磯風「多分だが……」

浦風「じゃが、人の死に目を見てもいっこも動揺をせんどころか、『死』に対して恐怖感の様なマイナスの感情は完全に抜け落ちとる。多分雪風自身の『死』すらも抵抗なく受け入れとるじゃろうね」

浜風「死を恐れない兵士……確かに兵器と何ら変わりはありませんね」

浦風「じゃが、それがええわけが無い。せめて雪風にゃぁ……」

コンコン

298:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/18(月) 23:27:19.78 ID:sS4Aw0K7O


磯風「だ、誰だ!?」

雪風「私です。戻りました」

磯風「ゆ、雪風か。入っていいぞ」

ガチャ

浦風「早かったのぉ。どこ行っとったん?」

雪風「訓練の後は少し散歩してました」

浜風「そうですか……」

雪風「はい」

全員「…………」

磯風「そうだ、今から夕飯を作ろうと思うのだが、雪風も食べるか?」

雪風「いえ、いいです」

磯風「そうか……」

雪風「私は寝ますが、好きにしてて下さい」

磯風「あ、あぁ……」

雪風「では」バサッ

浜風「雪風に迷惑になります。外に出ましょう」

浦風「そうじゃね」

パタン

299:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/18(月) 23:40:33.14 ID:sS4Aw0K7O


浜風「驚きましたね……夕方までは帰って来ないと思ってたのですが……」

浦風「もしかすると聞かれたかもしれんのぉ」

磯風「あまりこの話題をしない方が良さそうだな」

浦風「なら、一つだけ聞いて欲しぃんじゃ。もうわしらが沈む訳にゃぁいかん。沈んだらまた雪風を追い詰めることになるから。こればっかしゃぁ約束」スッ

磯風「ああ」スッ

浜風「はい」スッ

浦風「指切りげんまん。嘘ついたら……ついたら?」

磯風「そうだな……」

浜風「磯風の手料理を一週間食べ続けるというのは?」

磯風「ん? どうして私なんだ?」

浦風「浜風、見た目以上にエゲツないのぉ。採用じゃ。指切りげんまん。嘘ついたら磯風の手料理喰わす、指切った」

磯風「何故……」

浜風「これで絶対に死ぬわけには行かなくなりましたね」

浦風「そうじゃな」

浜風「では、夕食を作りますか」

浦風「ウチに任しとき」

浜風「雪風にも後で持って行ってあげましょう。雪風、最近まともに食べてないように思えるので」

浦風「うん」

磯風「解せぬ……」

………………………………。

303:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/19(火) 23:04:55.86 ID:2ReMObr2O


大淀「提督!!」バタン

提督「どうした」

瑞鶴「わっ、大淀!? どうしたのよそんなに慌てて!」

大淀「今闇夜に紛れてレイテ島へ深海棲艦が上陸したとの情報が入りました! その後すぐに打電をしたのですが、レイテ島守備隊との通信が繋がらなくなりました!!」

提督「通信機器をやられたか、又は全滅したか……どちらにせよ無駄な犠牲者を出してしまった事が悔やまれるな」

大淀「あれ程提督が陸軍に撤退要請を出されたのに、それを黙殺した陸軍上層部が悪いのでは」

提督「そうなんだが、残念だ」

大淀「提督、如何なさいますか!?」

提督「大淀、すぐに全員を集めてくれ。すぐに行動に移る」

大淀「了解しました! 失礼します!」

提督「遂にこの時が来てしまったか……瑞鶴、前に話した作戦を開始するぞ」

瑞鶴「うん…………」

提督「すまない……」

瑞鶴「ううん、提督さんの所為じゃないもん。それに、提督さんと一緒だから、私、怖くないよ」

提督「瑞鶴……」

瑞鶴「行こ、提督さん。みんなを待たせちゃう」

…………。

304:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/19(火) 23:05:38.26 ID:2ReMObr2O


提督「大淀、これで全員だな?」

大淀「はい! 間違いありません!!」

提督「時間が無い為要点のみを伝える。先程レイテ島に深海棲艦が上陸し、陸軍の守備隊からの連絡が途絶えた。そして近辺には多くの敵艦艇が待ち構えている事が予想される」

大淀「そして、少し前より日本の基地に対して航空機による攻撃を受けており、友軍の基地航空隊はほぼ壊滅しております。援護は望めないでしょう」

提督「そこで我らはレイテ島の奪還作戦……捷一号作戦を発動することをここに宣言する。本作戦には日本海軍の保有戦力のほぼ全てを投入する。また、敵からも大規模な反撃が予想される。恐らくここにいる全員が無事に顔を合わせることは無いだろう。それだけは覚悟して欲しい」

長門「艦娘として生を受けた時より覚悟は出来ておる。そんな事よりも編成を発表してくれないか? もう出来ているのだろう?」

提督「分かった。編成を発表しよう」

305:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/19(火) 23:06:23.15 ID:2ReMObr2O


提督「これより出撃する艦娘について発表する。参加人数が多い為一気に読み上げるが、後ほど掲示板にリストを貼っておく。では、読み上げるぞ」

提督「第一遊撃部隊第一部隊。戦艦 大和、武蔵、長門。重巡洋艦 高雄、愛宕、摩耶、鳥海、妙高、羽黒軽巡洋艦 能代駆逐艦 長波、早霜、朝霜、島風」

提督「第一遊撃部隊第二部隊。戦艦 金剛、榛名。重巡洋艦 利根、筑摩。軽巡洋艦 鈴谷、熊野、矢矧。 駆逐艦 雪風、浜風、浦風、磯風、野分、清霜」

提督「第一遊撃部隊第三部隊。戦艦 扶桑、山城。軽巡洋艦 最上。駆逐艦 満潮、朝雲、山雲、時雨。随行油槽船として、八紘丸 萬栄丸 御室山丸 日栄丸 雄鳳丸 厳島丸 日邦丸 良栄丸も艦隊に加える」

提督「第二遊撃部隊。重巡洋艦 青葉、那智、足柄。軽巡洋艦 鬼怒、阿武隈。駆逐艦 曙、潮、霞、不知火、初春、若葉、初霜」

提督「機動部隊本隊。航空母艦 瑞鶴、瑞鳳、千歳、千代田。航空戦艦 伊勢、日向。軽巡洋艦 多摩、五十鈴、大淀。駆逐艦 秋月。そして私が乗り込む朝霧だ」

ザワザワザワザワ

提督「何か質問は…………ありそうだな」

千代田「提督! 一体この編成はどういう事ですか!? それにどうして提督まで!」

提督「順番に答えよう。編成については、この編成こそ最も適切だと私が判断した。次に私が出る理由だが、私が何時までも引っ込んでいたらお前達の士気が下がるのは目に見えている。だからこそ大将自ら出張って来たという訳だ」

千代田「それ嘘だよね! ねえ、千歳お姉もそう思うよね!?」

千歳「提督……それは本当なのですか?」

提督「ああ、勿論だ。嘘偽りなど全く無い」

千歳「そうですか……ならば私は提督を信じましょう」

千代田「千歳お姉!!」

金剛「提督はこんな事で嘘をつきまセン! 私達が提督の事を信頼出来なくてどうするのデース!」

榛名「はい。榛名も同感です」

千代田「うぅ……」

提督「納得出来たな? では、他にはいるか?」

熊野「では、私からも……先にお詫び申し上げますわ。失礼な事を言わせて頂きます。今回提督も出撃されるとの事ですが、万が一、億が一にお亡くなりになったらどうするのか教えて頂けないでしょうか?」

鈴谷「ちょ、くま」

提督「有事の際には後継者を決めている。私が死んだとしても指揮系統の壊滅的混乱には陥らない筈だ」

熊野「そうですか。この様な質問をしてしまい申し訳ありませんでした」

提督「謝る必要はない。他の者も気になっていた事だろう。他にはあるか?」

不知火「司令、発言して宜しいでしょうか?」

提督「勿論だ」

不知火「其々の艦隊の動きや作戦の概要について何も話されて無い様ですが、それについてご教授願いたく存じます」

提督「この場で話すと混乱を招く恐れがある。その為、其々の艦隊から数人を呼び出し作戦内容などを話す」

不知火「混乱ですか?」

提督「ああ。間違いなく起きるだろう」

不知火「…………そうですか、分かりました。ありがとうございます」

提督「では、解散してくれ。夜が明けたらすぐに出港する」

全員「了解!!」

……………………。

306:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/19(火) 23:21:00.38 ID:2ReMObr2O


コンコン

瑞鳳「瑞鳳、千歳、伊勢入ります!」

提督「ご苦労。入ってくれ」

ガチャ パタン

提督「お前達で最後だ。とりあえずそこに座ってくれ」

瑞鳳「はい!」スッ

伊勢「私たちは何をすればいいの?」

提督「お前達には最も危険で最も辛い作戦を実行して貰う事になる」

伊勢「え?」

提督「先程集まって貰った時に作戦内容を言えなかったのはこれの所為だ。言ったら最後、暴動すら起きる可能性があった」

瑞鳳「一体何を……」

千歳「囮……」ボソッ

伊勢「千歳?」

瑞鳳「お、囮……!?」

提督「その通りだ。お前達機動部隊には囮となって貰う」

伊勢「提督、貴方自分が何を言っているのか分かってるよね?」

提督「当たり前だ。最もストレートにすれば、お前達に死んでくれと言っている」

伊勢「…………確かにこんな事をあの場で言ったら提督、殺されたかもね」

提督「今殺される訳にはいかないからな。こんな卑怯な手段を取ったというわけだ」

伊勢「とりあえず続けて」

307:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/19(火) 23:50:11.59 ID:2ReMObr2O


提督「深海棲艦は私達と比べ物にならない戦力を保持している。特に機動艦隊は脅威だ。もしも奴らの艦載機がそれぞれの艦隊に襲いかかってきたら一たまりも無い。場合によっては各個撃破されてしまい、連合艦隊は壊滅するだろう」

千歳「…………」

提督「それだけは避けねばなら無い。ならば、こちらは敵にとっても最優先撃破目標である空母を囮にして敵の艦載機を引き付ければいい。この艦隊は壊滅するだろう。しかし、総合的に判断すればその方が被害は抑えられ、そして作戦の成功率も上がるだろう」

伊勢「それはそうだけど……」

提督「更に、艦娘の司令官、つまり戦力を掌握している私が共に出撃する。その情報を敵に傍受されれば敵は間違いなくこちらを狙う様になるだろう」

千歳「それだけではないですよね?」

提督「どういうことだ?」

千歳「提督、作戦の成功率の為だけに出撃する訳ではないですよね」

提督「それは聞かなければならない情報では無いだろう」

千歳「いえ、必要です」

提督「何故だ」

千歳「本心を話してくれなければ、私は貴方について行けないです」

提督「…………お前達だけにこの様な非情な責務を負わせたくなかった。これで満足か?」

千歳「それが聞けただけで十分です。この作戦の意味を見出す事が出来ました」

提督「そうか」

瑞鳳「瑞鶴はこの事を……」

瑞鶴「知っている」

瑞鳳「やっぱり……」

提督「瑞鳳、伊勢。二人にもこの作戦の実行を承認して貰いたい」

瑞鳳「私……頑張ります!」

伊勢「…………」

提督「伊勢はどうだ?」

伊勢「提督が自らの命を犠牲にする覚悟があるのに私が拒否する訳がないじゃない。承認する」

提督「ありがとう」

伊勢「もしも生きて帰ってこれたら美味しいお酒奢ってね」

瑞鳳「私もお願いね」

瑞鶴「私も……貰いたいな」

伊勢「千歳は?」

千歳「私はいいわ。果たせるか分からない約束はしない主義だから」

伊勢「そう?」

提督「酒については約束しよう。生きて帰れたら好きなだけ呑ませてやる。これから私は簡単な暗号化をした電文を大本営に向けて送る。出港まであと少しだが、好きにしてくれ」

瑞鳳「はい」

提督「また後程」

ガチャ パタン

………………………………。

308:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/20(水) 00:07:29.87 ID:PJpU44IsO


提督「これより我等連合艦隊はレイテ島奪還に向けて出撃する!! この中にもう二度と逢うことが出来なくなる者もいるだろう。だが、これだけは胸に刻んでくれ」

提督「私はお前達の事を死んでも忘れない! そしてお前達の誇りはいつまでも生き残った者に受け継がれる! 絶望だけはするな! 最後まで死に抗え! 最後まで生きようと足掻け! 生きてさえいれば何かが変わるかもしれない! この呪われた世界に打ち勝つんだ!!」

提督「Z旗を掲げよ!! 皇国の興廃此の一戦に在り!! 各員一層奮励努力せよ!!」

提督「全艦抜錨!!」

316:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/31(日) 23:03:11.97 ID:q8ruqItCO


パラワン島沖

摩耶「姉貴、提督が乗ってる朝霧からの電文が届いたぜ。あたし達の艦隊だけじゃなくて、全艦隊、そして大本営宛にも送っているみたいだ」

愛宕「内容は分かるかしら?」

摩耶「我ら機動艦隊はこれよりブルネイより退避し、レイテ沖の北方よりアウトレンジにて敵艦隊への攻撃を図る。艦隊司令長官」

鳥海「摩耶姉さん……」

高雄「普通こんなことは電文で送らないわ。どういうこと?」

愛宕「敵に傍受されて解読されたら大変よね〜」

高雄「提督がそれを知らない訳がないわ。一体どうして……」

愛宕「提督に打電してみる?」

高雄「駄目です。提督は無線封鎖とおっしゃっておりました」

愛宕「でも、提督がこんな電文打ってるのよ?」

高雄「何か理由がある筈……何か……」

摩耶「……囮だ」

愛宕「囮?」

摩耶「そうだ。提督は空母と司令という二つの餌で敵を釣るつもりだろうな」

高雄「そんな馬鹿な話があってたまりますか! どうして提督がそんな事をする訳がありません!」

摩耶「いいや、あいつならやる」

高雄「提督は艦娘を大切にする人です! そんな提督が囮なんてするわけが」

摩耶「あいつの判断ならな。多分艦娘の内訳は大本営の指示だろうさ。だけど朝霧を瑞鶴達の艦隊に所属させたのは提督の意思だ」

高雄「どうして……」

摩耶「さあな。んなの提督にしか分からないね。あたしには推測しか出来ねえ」

高雄「……愛宕。どうする?」

317:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/31(日) 23:03:37.69 ID:q8ruqItCO


愛宕「摩耶ちゃんや鳥海ちゃんが提案していたパラワン水道の迂回を却下してパラワン水道へ突入するわよ」

摩耶「なっ!!? 何でだよ!! それだけは駄目だ!あそこは危険だって言ったろ!! 岩礁の所為でまともに艦隊運動が出来ねぇ! そんなとこに潜水艦が待ち受けていたら間違いなく鴨だぞ!」

愛宕「私達が早くレイテ沖にたどり着ければ敵の機動艦隊を目下一番の脅威である私達の艦隊に引きつけられるわ。そうすれば提督を護ることに繋がるのよ?」

摩耶「姉貴や他の奴らが危険に晒される!」

愛宕「摩耶ちゃん。私達の為に提案は命をかけてくれたのよ? なのに私達が提督の為に命をかけないわけには行かないわ。ねえ、高雄?」

高雄「そうね。私も賛成」

摩耶「そうじゃねえんだよ! そうじゃねえんだよ姉貴!!」

愛宕「何がそうじゃないの?」

摩耶「それは……くそっ! 鳥海、お前からも頼む!」

鳥海「ごめんなさい、摩耶姉さん……私には反対出来ません……」

摩耶「鳥海!? 何でだよ! 何でお前が反対するんだよ!!」

鳥海「提督を護りたいというのは私も思ってます。なので……愛宕姉さん、一つ意見具申してもよろしいですか?」

愛宕「なあに?」

鳥海「私と位置を代わって下さい。私が先頭に行きます」

摩耶「いいや、あたしが先頭だ。その代わりお前はあたしの後ろに来てくれ」

鳥海「いえ、私が先頭です」

摩耶「末っ子はあたしの言う事を聞け! あたしが先頭だ! 姉貴、パラワン水道を通るならこれくらいの我儘を聞いてくれよ! 頼む!!」

愛宕「駄目って言ったらどうするの?」

摩耶「姉貴達を撃って大破させて近くの泊地に送り返す」

愛宕「摩耶ちゃんがそんなこと出来ないのは知っているわよ?」

摩耶「いいや、今だけは出来る。何なら試してみっか?」

愛宕「……分かったわ。高雄、後方の隊に下がって。私と摩耶ちゃんと鳥海ちゃんで前衛を……」

摩耶「駄目だ。姉貴は二人とも後衛に行ってくれ。その代わりに何人か駆逐艦を回してくれ。対潜警戒をして貰いたい」

愛宕「んもう……摩耶ちゃんってば我儘ね。分かったわ、私も後衛に下がるわね。摩耶ちゃんも鳥海ちゃんも絶対に無茶しちゃダメよ?」

摩耶「ああ、安心してくれ」

愛宕「雪風ちゃん、浜風ちゃん聞こえる〜? 配置換えよ〜」

318:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/31(日) 23:04:09.40 ID:q8ruqItCO


浜風「配置換えですか? 私達はどこに行けば宜しいのでしょうか?」

愛宕「摩耶ちゃんと鳥海ちゃんと一緒に前衛になって貰いたいのよ〜」

浜風「分かりました。すぐに向かいます」

愛宕「よろしくね〜」

浜風「磯風、浦風。私と雪風は前衛に行くので、後ろは任せます」

磯風「任せてくれ」

浦風「行ってらっしゃい」

浜風「雪風、行きましょう」

雪風「はい」

…………。

319:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/31(日) 23:04:44.98 ID:q8ruqItCO


浜風「お待たせしました」

摩耶「待ってたぜ。早速で悪いんだが、ソナーで敵潜水艦を探ってくれ」

雪風「はい」

浜風「…………とりあえずこの近辺に反応はありませんね」

摩耶「了解だ。じゃあ、パラワン水道に突入するぞ。鳥海、お前も気を付けろよ」

鳥海「はい」

摩耶「雪風と浜風も厳重注意だ。特に潜水艦には気を付けろ。ソナーで潜水艦を探り続けてくれ」

浜風「了解!」

摩耶「姉貴、これよりあたし達前衛はパラワン水道に突入する! 間を空けて姉貴達は後について来てくれ」

愛宕「分かったわ〜」

…………。

320:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/31(日) 23:05:31.66 ID:q8ruqItCO


摩耶「浜風、雪風。敵の潜水艦の反応はないか?」

浜風「はい。全く反応はありませんね」

摩耶「おかしい……既にあの場所は通り過ぎたぞ……本来ならもうあたし達が……なあ、鳥海。何かがおかしくないか?」

鳥海「はい……本当ならもう既に……」

摩耶「潜水艦が動いている反応は無かった。あんだけ念入りに確認したにも関わらずだ。まさか本当にいないのか……?」

鳥海「潜水艦が動い…………摩耶姉さん」

摩耶「なんだ?」

鳥海「もしも潜水艦が居なかったのでは無く、完全に停止していたのだとしたら……」

摩耶「っ!!? くそっ!! 姉貴! 姉貴聞こえるか!!?」

愛宕「なあに、摩耶ちゃん? そんなに慌てちゃってどうしたのかしら〜?」

摩耶「潜水艦だ!! 潜水艦に気を付けろ!! 魚雷が来るぞ!!」

愛宕「でも摩耶ちゃん達が確認してくれたんでしょ?」

摩耶「出し抜かれたかもしれねえ!! 頼む! せめて警戒を!!」

高雄「愛宕!! 雷跡が!! 危ないっ!!」

愛宕「え?」

摩耶「姉貴!! 姉貴!! どうしたんだ姉貴!!?」

ズドーン!!

摩耶「今のなんなんだよ!! 姉貴!! おい、愛宕姉さん!! おい!! おいっ!!」

高雄「摩耶!」

摩耶「どうしたんだよ!! 今の音は何なんだよ!!」

高雄「愛宕が被雷して沈みました……これから私が指揮を……」

摩耶「まだ来る!! 今すぐ回避行動をとれ!! 次は高雄姉さんの番なんだよ!! 頼むから逃げてくれ!! 愛宕姉さんと高雄姉さんを失うのは嫌なんだよ!! 鳥海! 姉貴達の救援に向かうぞ!!」

鳥海「しかし、摩耶姉さんが!」

高雄「ごめんなさい、摩耶。鳥海……私も駄目みたい……直撃コースよ。避けられないわ」

摩耶「嘘だろ!! 諦めるなよ!! どうして!!」

高雄「二人とも……ごめんなさ……」

ズドーン!!

321:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/31(日) 23:06:00.60 ID:q8ruqItCO


摩耶「…………後衛の駆逐艦の全員はすぐに対潜攻撃を行え!! 絶対に逃がすな!! 皆殺しにしてやれ!! そして高雄姉さんが沈んでいなければ救助をやるんだ!」

鳥海「摩耶姉さん! 雷跡が!!」

摩耶「なっ!!?」

鳥海「今なら避けられます! 摩耶姉さんは避けて下さい!!」

摩耶「駄目だ! あたしが避けたらお前や雪風、浜風に命中するぞ!!」

鳥海「それでも避けて下さい!! 過去を打ち破って下さい!」

摩耶「……すまねえな、鳥海。結局あたしには何も変えることが出来なかった」

鳥海「姉さん!?」

摩耶「これからが本番だがお前がみんなを引っ張ってやれ。そしてお前は過去を乗り越えろ」

鳥海「摩耶姉さん!!」

摩耶「言い忘れてた……今までサンキューなっ、鳥海!!」ニコッ

鳥海「っ!!」

ズドーン!!

………………………………

………………

……

322:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/05/31(日) 23:23:58.29 ID:q8ruqItCO


浜風「……すみません……逃げられてしまいました……」

鳥海「いえ、しょうがないわ。大和さん、そちらの様子はどうですか? こちらの潜水艦は見失ってしまいました」

大和「こちらも逃げられてしまいました……」

鳥海「分かりました。それと、高雄姉さんの容態は?」

大和「被雷した衝撃で意識を失ってしまってます。それに、装備は大破していて、さらに出血も多量で正直危険な状態です」

鳥海「まだ息はあるのですね?」

大和「はい。しかし……あっ、高雄!! 高雄!! 高雄の意識が戻りました!!」

鳥海「本当ですか!?」

大和「…………はい、はい……鳥海、高雄は何とか自力で航行は出来るようです。これより朝霜ちゃんと長波ちゃんを護衛につけてブルネイへ撤退させます」

鳥海「お願いします」

高雄「…………ちょう、かい」

鳥海「はい! 何ですか!?」

高雄「摩耶ちゃんは……?」

鳥海「摩耶姉さんは……沈みました……」

高雄「そう…………鳥海、せめて貴女だけでも帰って来て……お願いだから……」

鳥海「努力します」

高雄「先に、ブルネイで、待って、いるわ……ね」

鳥海「はい。お気を付けて下さい」

高雄「ええ……」

ブツッ

鳥海「大和さん、これからは以前の取り決めの通り貴女が旗艦になって下さい」

大和「分かりました。では、私大和が旗艦の任を引き受けます」

鳥海「よろしくお願いします」

大和「では、高雄と朝霜、長波以外はレイテへ向かいましょう」

長波「悪い、後は頼んだ」

朝霜「あたい達の分も頑張ってくれよな」

大和「艦隊、目標レイテ島。進軍再開して下さい!!」

………………………………。

332:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/02(火) 23:06:05.11 ID:3+R1abNfO


シブヤン海

大和「おかしいですね……敵が見当たりません……」

武蔵「この武蔵に恐れをなして逃げ出したか」

長門「奴らがそんな事で逃げ出す訳が無いだろう」

武蔵「分かっている。ただ言ってみただけだ」

大和「提督や瑞鶴達も心配です。どうしましょう……」

利根「空からじゃな」

大和「はい?」

利根「敵は空から来るぞ」

大和「空……航空機ですか?」

利根「そうじゃ。吾輩達は大艦隊じゃ。なのに真っ向から勝負を挑むなんて愚の骨頂、最も効果的に打撃を与える事が出来る航空機で攻撃して来るのが定石じゃろうな」

大和「確かにそうですね……分かりました。航空機に備えましょう。ですが、レイテへの突入は急ぎますよ」

利根「うむ! そうするが良いぞ!」

矢矧「こちら二水戦旗艦矢矧! 敵の攻撃隊が接近中! 大和、指示を!!」

利根「言ってる側から来おったの!」

大和「全艦対空戦闘準備! 戦艦と重巡の皆さんは三式弾、又は零式弾装備!! 対空電探や高射装置を装備している人は全員使用して下さい!」

武蔵「卑怯者め……海に生きる者なら撃ち合いこそ至高と分かっているだろうに……赦さんぞ!!」

大和「この大和が矢面に立ちます。皆さんは私が敵の攻撃を集めている間に敵機の撃退をして下さい!」

武蔵「いいや、その役目は私が引き受ける」

大和「いいえ、私が引き受けるべきです」

武蔵「大和は艦隊の旗艦だ。旗艦が何度も変わっては他の者も混乱するだろう。私は戦艦の誇りと矜持にかけて敵と闘いたい。それに私は生きて帰る事など望んでいない。この色はその覚悟の証だ。私がいることで他の者を護る……ふっ、これこそ戦艦冥利に尽きるってものだな」

大和「最初から死ぬつもりなら、認めません」

武蔵「いいや、蝿に殺されるつもりなんて無い。この武蔵が目指すはその先、戦艦同士の砲撃戦だ。そうやすやすと沈んでられんよ」

333:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/02(火) 23:06:42.11 ID:3+R1abNfO


大和「分かりました。では、引き付け役は武蔵に任せます」

妙高「大和、私からもいいですか?」

大和「はい、何でしょうか」

妙高「私も武蔵と共に囮になります」

武蔵「駄目だ。それは私一人で十分だ」

妙高「いいえ、私はその役目を担うにはうってつけです」

大和「どういう事ですか?」

妙高「私は沈めませんから」

武蔵「何を言っている! 未来の事が分かるとでもいうのか!?」

妙高「いえ、未来は見えないですが……そうですね、夢を見たとでも言いましょう」

武蔵「貴様……からかっているのか?」

金剛「Hey 武蔵! 私はそれでGood だと思いマース!」

武蔵「どういう事だ、金剛」

金剛「夢は大切デス! それにイギリスにはデスね〜こんな言い伝えがありマース! 1827年にイギリスのサフォーク州にあるポルスティッドという小さな村での事デス。その村にはマリア・マーティンというso cute なガールが居マシタ。そのマリアは……」

武蔵「いや、もういい」

金剛「Oh どうしてデスか〜!? ココからが良いところなのデスよ!?」

武蔵「詰まる所、正夢は存在するとかだろう?」

金剛「ど、どうシテ分かったのデスか!?」

武蔵「……大和、妙高はどうする? 意見を採用するか? それとも却下するか?」

大和「絶対に沈まない自信はあるのですか?」

妙高「勿論です」

大和「時間がありません。妙高はすぐに武蔵の元に行って下さい」

妙高「分かりました」

大和「……皆さん、武蔵と妙高を何としても護り抜いて下さい! これより戦艦は三式弾、零式弾を敵艦載機群に撃ち込みます! 重巡は射程に入り次第砲撃開始!」

長門「弾幕だけは絶対に切らすな! 帝國海軍の力を奴等に見せてやれ!!」

大和「距離、方位、速度良し。 信管時限設定良し。 戦艦全艦、撃ち方始め!! ってえ〜っ!!」ズドーン!! ズドーン!!

……………………。

334:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/02(火) 23:07:59.03 ID:3+R1abNfO


矢矧「雪風! 右舷から敵雷撃機が接近!! 迎撃を!」

雪風「はい」ズダダダダ

矢矧「このっ! 落ちなさい!!」ズダダダダ

浜風「敵機、弾幕を抜けました! 武蔵さん!!」

武蔵「使用可能な機銃で撃ち落としてやる! 機銃全門ってえ!!」ズダダダダ

妙高「危ないっ!!」バッ

武蔵「妙高!! やめろ!!」

ズドーン!!

妙高「っつ!! 機関がやられてしまいましたか……しかし、まだやれます! もう一発来ますので私の影にいて下さい!!」ズダダダダ

武蔵「馬鹿者!! 重巡如きに、この大和型の武蔵が庇われる必要など無い!!」

妙高「もう一発右舷より魚雷接近です! 私の因果なら大丈夫です!!」

武蔵「やめろ!! 妙高離れろ!!」

妙高「いいえ、私は沈めませんから」

武蔵「何を言っているんだ妙高!! 早く回避を!」

ズドーン!!

335:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/02(火) 23:08:31.00 ID:3+R1abNfO


妙高「うああっ!!」

武蔵「おい、妙高!! しっかりしろ妙高!!」

妙高「ま、だ……まだ行け……ます」

武蔵「大和! 妙高をこの戦闘海域から離脱させてくれ!!」

大和「今は無理! 敵機が飛び回る中離脱させるのは危険すぎるわ!!」

武蔵「だが、このままだと妙高がやられる!!」

矢矧「第十戦隊! 妙高と武蔵の護衛に向かうわよ!! 陣形は崩すな! 絶対に弾幕を切らすな! いいわね? ……最大戦速!!」

野分「はい!!」

清霜「武蔵さんは絶対に護る!!」

雪風「10時の方向より敵爆撃機接近中です」

浜風「まだ射程外ですが8時の方向より攻撃機接近してます!」

矢矧「清霜と雪風、浦風は爆撃機へ攻撃。浜風、磯風は攻撃機。私も攻撃機に応対するわ」

雪風「分かりました。高角砲撃ち方始め」ズドン! ズドン! ズダダダダ

清霜「撃て〜!!」ズダダダダ

浦風「落ちた!!」ズダダダダ

矢矧「敵攻撃機が射程に入った! 撃ち方始め!!」ズダダダダ

磯風「落ちろ」ズダダダダ

矢矧「高度が低くて当たらない! このままじゃ!」ズダダダダ

浜風「抜かれます!!」ズダダダダ

ズダダダダ ズバン!

浜風「えっ!?」

武蔵「私のことは心配するな。この通り私一人でも戦えるさ」

矢矧「しかし……」

野分「敵機が退却を始めました。第一波は凌いだようです!!」

336:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/02(火) 23:09:06.51 ID:3+R1abNfO


武蔵「それは朗報だ。大和、今の内に妙高を戦列から離脱させてくれ。今しか機会は無いやもしれん」

大和「分かりました。妙高、すぐに戦線から離脱して下さい」

妙高「まだ……戦えます」

大和「いいえ、戦える戦えないでは無いです。今の妙高は12ノット前後まで速度が落ちていて艦隊行動の足を引っ張ってしまいます。妙高がいる事で艦隊が危機に晒されます」

妙高「くっ…………」

大和「分かって貰えましたか?」

妙高「分かりました……羽黒……第五戦隊を任せ、ましたよ」

羽黒「はい、妙高姉さん」

妙高「重巡妙高、戦列から離脱します……どうか御武運を……」

大和「本当ならば駆逐艦の子を護衛に付けてあげたいのだけれども……ごめんなさい」

妙高「大丈夫、です。 私は一人、でも、帰れますから」

大和「…………気を付けて下さい」

妙高「はい…………では……」

武蔵「妙高、また逢おう」

妙高「ええ。またいつか」

大和「では、作戦を継続する艦は陣形を整えて下さい。武蔵は……」

武蔵「私は引き続き敵の攻撃を引き付ける。妙高の分まで戦い抜いてみせる」

大和「分かりました。矢矧達はどうしますか?」

武蔵「元の位置に戻ってくれ。援護感謝する」

矢矧「了解」

大和「恐らく第二次攻撃隊が直ぐに来るでしょう。今の内に艤装の不具合を確認しておいて下さい」

全員「了解!!」

………………。

339:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/05(金) 21:01:42.71 ID:rFnado0oO


大和「敵の第二次攻撃隊を捕捉!」

鈴谷「オッケー!」

熊野「言葉遣いが下品ですわ、もう少し品のある言葉遣いをしなさいな」

鈴谷「そんなお堅いこと言わなくていいじゃーん!」

熊野「また……まあいいですわ。敵機に備えますわ」

利根「筑摩、分かっとるな?」

筑摩「はい、利根姉さん」

利根「妙高があれだけ頑張ったんじゃ。吾輩も頑張れば武蔵を救えるやもしれん」

鈴谷「どーしたの? 鈴谷も話に混ぜてよ」

利根「それは少し難しいのぅ」

鈴谷「どーしてなのさ?」

利根「それは……」

筑摩「私と利根姉さんは愛を深めている途中ですので、私達の間には鈴谷さんは割り込んではいけません」

利根「そうじゃ、そうじゃ! 吾輩と筑摩は愛を深めて……って筑摩!?」

鈴谷「うわ……キッモ〜…………」

筑摩「もしも私達のように愛を深めたいのでしたら、熊野さんと深めてみてはいかがでしょうか?」

鈴谷「……ちょっと鈴谷には早過ぎるかな〜 お、お幸せに」

筑摩「ありがとうございます」

340:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/05(金) 21:02:12.94 ID:rFnado0oO


浜風「敵機が来ます。準備は大丈夫ですか?」

浦風「うちは大丈夫じゃけぇ」

磯風「大丈夫だ」

清霜「うん! 清霜は大丈夫だよ!」

野分「大丈夫です、姉さん」

浜風「その呼び方は……少し恥ずかしいですね」

野分「そうですか?」

磯風「浜風姉さん」

浜風「…………いえ、慣れないですが、嫌では無いので大丈夫です」

野分「助かります」

磯風「浜風姉さん」

浜風「雪風は?」

雪風「いつでも大丈夫です」

浜風「皆さん、何としても生き残りましょう。そろそろ射程に入りますね。矢矧さん」

矢矧「さっきと同じよ。出来る限りの弾幕を張って武蔵や他のみんなを護る。ただそれだけ。指示は出すけど、それ以外は各自で臨機応変に動いて」

浜風「はい!」

矢矧「撃ち方始め! 矢尽き刀折れるまで撃ち尽くせ!!」

……………………。

341:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/05(金) 21:02:56.25 ID:rFnado0oO


ズドーン!!

武蔵「くっ!!? やるじゃないか!!」

大和「武蔵!!」

武蔵「たった十数発爆弾や魚雷を食らっただけだ。全く問題無い」

大和「だけど!」

武蔵「妙高があれだけ頑張ってくれたんだ。ここで諦めたら妙高に見せる顔が無い」

大和「ならばせめて護衛を付けさせて貰います」

武蔵「護衛なんて要らないぞ!」

利根「なら吾輩に任せてくれないか?」

大和「分かりました。他には……」

利根「清霜を借りても良いかの?」

大和「はい。ですが、どうして?」

利根「吾輩は勿論じゃが、清霜は沈まない気がするんじゃよ」

大和「また夢ですか?」

利根「そうじゃな。吾輩も夢を見たのじゃ」

大和「納得行きませんが、今は時間が惜しいです。武蔵の護衛をお願いします」

利根「うむ! 清霜、聞こえるかの?」

清霜「聞こえるよ!!」

利根「今から清霜は吾輩と共に武蔵の護衛をするのが任務じゃ。矢矧、清霜を借りるぞ?」

矢矧「了解。清霜は利根と一緒に武蔵の護衛を」

清霜「うん! 清霜、頑張るよ!」

利根(これで吾輩が武蔵の分まで攻撃を受ければ護れるやもしれんな)

……。

342:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/05(金) 21:04:09.80 ID:rzcrHIXvO


清霜「武蔵さん! 敵の爆撃機が右舷から接近してます!!」ズダダダダ

武蔵「落とせないか! 取り舵一杯!!」

ズドーン!!

武蔵「くっ!!」

清霜「武蔵さん!」

武蔵「清霜にみっともない姿を見せてしまったな」

清霜「そんな事ないもん! 武蔵さん、すっごくかっこいいよ!!」

武蔵「そうか……かっこいいか」

清霜「みんなの代わりにこんな頑張ってるんだもん!! かっこ悪い訳がないよ!」

武蔵「そう言ってもらえると嬉しいな……さあ来い、深海棲艦よ!! この武蔵が全ての攻撃を受け止めてやる!!」

利根「清霜! 右舷から敵機が来とるぞ!!」

清霜「武蔵さんは清霜が護……え?」

ズドーン!!

利根「清霜!!」

武蔵「利根! お前にも爆撃機が来てる!!」

利根「しまった!! このっ!!」

ズドーン!!

343:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/05(金) 21:04:42.97 ID:rzcrHIXvO


武蔵「利根……清霜……」

清霜「武蔵さん……は大丈夫……?」

利根「ぬ、ぬかった……吾輩がもっと気を引き締めておれば……」

武蔵「大和! 聞こえるか!!」

大和「聞こえるわ! だけど、出来れば手短にお願いします!! こちらも敵の艦載機の攻撃が熾烈になってます」

武蔵「そっちの被害は?」

大和「浜風、矢矧、長門、そして私大和が爆撃を受けてしまい損傷してます」

武蔵「そうか……ならば、利根と清霜をそちらで引き取ってくれ。二人とも爆撃で傷付いている。もう十分だ」

大和「それでしたら、武蔵も合流をして下さい。もう夕暮れも近いです」

武蔵「いいや、無理だ」

大和「どうして!!」

武蔵「ほら、大和。時間が無いのだろう? 後は任せたぞ。では……さらばだ」

大和「武蔵!! む」ブツッ

武蔵「もう6ノットも速度が出ないんだ。ついて行くのはもう無理なんだよ、大和……」

武蔵「利根。清霜を連れて大和達の元へ向かえ」

利根「嫌じゃ」

武蔵「嫌だと?」

利根「そうじゃ。吾輩は気がすむまでここにいるぞ」

武蔵「何を馬鹿なことを!」

利根「分かっとるぞ武蔵。お主、もう6ノットも速度が出ない。それに沈むのも時間の問題だと思っとるのじゃろう?」

武蔵「…………」

利根「沈黙は肯定と取るぞ?」

武蔵「…………そうだ。その通りだ」

344:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/05(金) 21:05:25.10 ID:rzcrHIXvO


利根「うむ! ならば吾輩も最期まで付き合うぞ」

武蔵「何故そこまで私に拘るんだ?」

利根「何となく、では駄目かの?」

武蔵「駄目だな」

利根「ならば、武蔵が好きな様に解釈せい。吾輩はずっとお主の側に居続けるからの!」

武蔵「清霜はどうする?」

利根「大丈夫じゃ。清霜も沈まない筈だからのう」

武蔵「何故言い切れる?」

利根「おっと、口が滑ってしもうた。聞かなかった事にしておくれ」

武蔵「……利根、貴様……まさか」

利根「敵機じゃ」

武蔵「貴様等、私の邪魔をするな!!」ズダダダダ

利根「清霜、迎撃じゃ!」ズダダダダ

清霜「う……うん!」ズダダダダ

利根「また武蔵に向って爆撃を仕掛けてくるぞ!!」

武蔵「そうだ、ここだ!! 私はここにいる!! 全機私を狙えっ!!」

ズドーン!!

武蔵「くっ、まだまだ沈まんぞ!! もっとだ! もっと来るんだ!!」

ズドーン!!

武蔵「ふははははは、ふははははははははははは!! もっとだ!! もっとだ!!」

………………………………

………………

……

345:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/05(金) 21:06:00.13 ID:rzcrHIXvO


武蔵「利根よ……近くにいるか?」

利根「ここじゃ。ここにおるぞ」

清霜「ううう……武蔵さん…………武蔵さん……」

武蔵「その声……清霜か? 何だ、泣いているのか?」

清霜「だって……武蔵さんが……武蔵さんが!」

武蔵「利根よ、敵機の音が聞こえない様だが、今どうなっている?」

利根「もう日は暮れ、敵機は退却したのじゃ」

武蔵「そうか……もう夜なのか…………」

利根「ああ、お主は十分戦ったぞ。お主の勝利じゃ」

武蔵「私は……勝ったのか…………光栄だ……なあ、利根よ」

利根「なんじゃ?」

武蔵「出来る範囲で良い……私の身嗜みを整えてはくれないか?」

利根「うむ……」

武蔵「清霜も……頼む」

清霜「うっ……うん……」

利根「…………出来たぞ」

武蔵「すまない…………もう、私を支えなくて良いぞ。離してくれ……」

清霜「武蔵さん……」ポロポロ

利根「世界一を名乗るに相応しい勇姿だったぞ。流石は大和型戦艦武蔵じゃ」

武蔵「ああ…………仲間に見送られるのも……いい…………もの、だ……な……」

──チャプン──

利根「…………清霜……本隊に戻るぞ……」

清霜「ねえ、利根さん……」

利根「なんじゃ?」

清霜「武蔵さん……カッコ良かったね……」

利根「ああ。そうじゃな……」

………………………………。

348:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/06(土) 21:31:33.17 ID:BXI0rDDBO


エンガノ岬沖

提督「高角砲、機銃全て撃ち続けろ! 弾のある限り撃て!!」

乗組員「はい!!」

ズドーン!

乗組員「3番、4番、5番機銃に被弾!!撃ち手は即死、これで機銃は全て大破し使用不可能です!! っ、高角砲も全門大破!! 」

提督「そうか……」

乗組員「航空母艦瑞鶴に向けて大量の敵機が接近中!!」

提督「瑞鶴、朝霧に乗り込め!!」

瑞鶴「でも……!」

提督「命令だ!」

瑞鶴「……分かった」

乗組員「中将、どうなさるおつもりですか?」

提督「簡単さ……全乗組員に次ぐ、総員退艦せよ。繰り返す、総員退艦せよ。救命ボートに乗り込み大淀について行け」

乗組員「中将!?」

提督「言っただろう。お前たちの命は出来る限り護りたいと……大淀聞こえるか? 今から救命ボートに乗った乗組員がお前の元へ向かう。お前は救命ボートと共に呉か横須賀へ退却してくれ。頼んだぞ……」

乗組員「私は認めません! もしも中将が朝霧に残るおつもりならば私も残ります!」

提督「いいや、駄目だ。お前達は生き残れ」

乗組員「私は中将以外の者に尽くしたくはありません!」

提督「私よりも素晴らしい人間など幾らでもいる。軍人を続けろなどとは言わない。ただ、生き残って後の世をお前達が導いて欲しい。それだけが私の望みだ」

乗組員「嫌です! 中将を残して行くなんて私には……!!」

提督「しばしの別れだ。あと数十年もすればまた逢える」

乗組員「長すぎます! そんなに私には待てません!」

提督「出来る。それに考えて欲しい。私は愛する女と共に逝こうとしているんだ。それを邪魔するつもりか? 出来ればそんな野暮な事はして欲しくない」

乗組員「中将は……ズルイです」

提督「そうだ。私はズルくて弱くて力も無い存在なんだ。見損なってくれていい」

乗組員「そんな事出来るわけありません…………」

提督「そうか。だが、もう時間が無い……今までご苦労だったな。ありがとう」

乗組員「うぅ……中将……」

提督「さあ行け。生きて日本に帰るんだ。また、いつか逢おうじゃないか」

乗組員「……はい! また、いつか……!」ビシッ

タッタッタッ

349:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/06(土) 21:32:15.78 ID:BXI0rDDBO


提督「行ったか……瑞鶴、出てきて良いぞ」

瑞鶴「うん……」

提督「すまないな、私の我儘に付き合わせてしまって」

瑞鶴「ううん、いいの……それより、私、今のやり取りを見ていて思い出した事が……」

提督「その前に場所を移動しよう。朝霧をボートや他の艦娘達と逆方向に進めねばならない。移動しながら話そう」スタスタ

瑞鶴「うん……」スタスタ

提督「それで、何を思い出したっていうんだ?」

瑞鶴「ずっと前の記憶……みんな、私の上に集まって泣いてた……軍艦旗を下ろして、傾いている私。海の中に沈んでた……他にも翔鶴姉が私を遺して沈んだことや、囮作戦……一航戦や二航戦の先輩がいなくなった事……本当に色々、色々思い出したんだ……」

提督「そうか……」

瑞鶴「その記憶と、この世界で起きている事も全く同じ……ねえ、どういうことなの? 提督さん……」

提督「瑞鶴もとうとう思い出したか……」

瑞鶴「提督さん、教えて。何なの、この記憶は? ……何なの、この世界は?」

提督「瑞鶴、それが改二だ。それが改二の正体なんだ」

瑞鶴「改二……? 改二って……え?」

提督「軍艦だった時の記憶を取り戻すことだ。記憶を取り戻せばかつての戦い方を始め、様々なものを取り戻す事が出来る。だから強化もされるのだよ」

瑞鶴「提督さん、知ってたの?」

提督「ああ。お前達の過去は全て知っている。もちろん、この戦いがどうなるのかもな」

瑞鶴「じゃあ、五十鈴や千歳、千代田はこの戦いの事、この戦いで起きること全てを知っているの?」

提督「そうだ。彼女達は自分がほぼ確実にこの戦いで死ぬ事を知っている。だが、そうならないかもしれない。だから必死に抗おうとするんだ」

瑞鶴「抗えるものなの?」

提督「ほぼ不可能だ。だが、三日月や望月を思い出してくれ。あの子達は沈んだ場所や時期が全く異なる」

瑞鶴「あ……」

提督「だが、自分がかつて沈んだ戦いに参加してしまえば、今のところ100%沈んでる」

瑞鶴「だから、提督さんは大本営に抵抗してたの?」

提督「そうだな。しかし、大本営の奴らの命令を変える事は一度も出来なかった。抵抗しなかったのと何ら変わりは無い。何も知らない子を沈めたのは私の所為だ」

瑞鶴「…………どうして……」

提督「何だ?」

瑞鶴「どうして提督さんはみんなに自分の最期とかの知識を教えなかったの? 教えてくれれば、助かった子がいたかもしれないのに」

350:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/06(土) 21:32:50.33 ID:BXI0rDDBO


提督「教えたさ……」

瑞鶴「え?」

提督「なあ、瑞鶴。お前は私の最初の秘書艦を知っているか?」

瑞鶴「え? 電ちゃんじゃないの?」

提督「そうだ……表向きはな」

瑞鶴「どういうこと?」

提督「あれは嘘だ。もちろん知っている者など大本営の人間以外にはいない。電自身も自分が初めての秘書艦だと思っていた」

瑞鶴「…………前の秘書艦はどうしたの?」

提督「…………死んだ」

瑞鶴「死んだ……?」

提督「あれは最悪だった。当時改二などというものは無く、何もかもが手探りの時代だった。私と彼女は共に深海棲艦を討っていた。彼女は自分がかつては艦だったというぼんやりとした記憶以外は持ち合わせていなかった。私は彼女の過去の出来事を事細やかに調べ尽くし、彼女に彼女の生誕から最期までの全てを教えた」

瑞鶴「それで……その子は改二になれたの?」

提督「いいや、彼女は事実を聞いた後狂ったように暴れ始め、泣き叫び、自らを傷付けた……そして最後は……私の拳銃を抜き取り頭を撃ち抜いて死んだ……」

瑞鶴「うそ…………」

提督「悔しかった。愚かな私自身に嫌悪し、死のうと思った時もあった。しかし、大本営は新しい子を送り込んで来た。それが電だ……私はもう二度とあんな想いを艦娘にさせたく無い。もう誰も喪いたくない。そう願い提督を続ける事にしたんだ。だがな、そうは行かなかった……ある程度人数も揃い、戦力と言える様になってから大本営から指示を出される様になった」

瑞鶴「指示?」

提督「瑞鶴も既にいたはずだ。指示を受け始めた最初の戦いはウェーク島攻略作戦だった。もちろん、私は反対したが大本営に脅されたんだよ……命令を聞かねば全ての艦娘に過去を教えるってな」

瑞鶴「どうして!? 大本営の人達は私達の事を分かっているんじゃないの!?」

提督「ああ。大将が大本営内で台頭してからこのような指示を受けるようになったんだ。そして、命令に従わねば艦娘の全員に過去を教えるとな……私は脅され続ける以外に何も出来なかった」

瑞鶴「そういえば、どうして記憶を取り戻したのにみんな生きてるの……?」

提督「自分で思い出す分には壊れない様だ。もちろんショックを受けたり情緒不安定に陥る子もいた。だが、あれほど取り乱す事は無かった。勿論あの子が特別だった可能性は捨てられない。しかし、もう二度とその様なリスクを侵すわけにはいかない。だから私は改二になった子には、絶対に過去を他人に伝えるなと厳命してきた」

瑞鶴「そうなんだ……」

提督「その所為でみんなには本当に辛い思いをさせてしまった。救えたかもしれない命を奪ってしまったかもしれない……最低な提督だな……私は……」

瑞鶴「そんなことないよ……提督さんはいつも頑張っていたもん……」

提督「しかし、何も変わらなかったんだ。あの子に会わせる顔が無い……」

瑞鶴「ねえ、提督さんの最初の秘書艦って誰なの?」

提督「……朝霧だ」

瑞鶴「え!?」

提督「特型駆逐艦13番艦の朝霧だ。この艦の名前は彼女にあやかって付けたんだ。もう二度とあの様な事を繰り返さない為にも……」

351:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/06(土) 21:34:02.63 ID:BXI0rDDBO


瑞鶴「そうなんだね……提督さん……辛かったね……」

提督「そうだな……だが、すぐに私はその苦しみから開放される。この艦の役割は初月の再現だ。この命で他の子の命を漸く護ることが出来るよ」

瑞鶴「今更だけど、私もお供するわ。いいよね?」

提督「ああ、ありがとう」

瑞鶴「私もどうせ死ぬのなら、提督さんの横がいい」

提督「もし……」

瑞鶴「もし?」

提督「もしもこの様な世界で無ければ、瑞鶴と婚約し、死ぬまで寄り添って生きるという道もあったのやもしれんな……」

瑞鶴「そしていつかは子供が出来て、幸せな家庭を築く……そんな夢の様な世界……」

提督「本当に夢の様な世界だな……」

瑞鶴「でも、私はこんな世界でも幸せだった。提督さんと逢えたのだから」

提督「私もだ……瑞鶴と共に死ねるのが私の最大の幸せだ」

瑞鶴「うん」

提督「そろそろ朝霧も限界のようだ……敵艦隊のど真ん中で自爆する。いいな?」

瑞鶴「じゃあ、最後のお願いを聞いて欲しい」

提督「何だ?」

瑞鶴「絶対に離れないで済むように私と提督さんを何かで結んで欲しいな……」

提督「そうだな…………これでいいか、」

瑞鶴「ありがとう、提督さん」

提督「覚悟はいいか? 時限装置を入れるぞ?」

瑞鶴「いいよ」

提督「ああ……」

瑞鶴「提督さん、私の事を抱き締めて」

提督「ああ……」

瑞鶴「うん……私、今凄く幸せよ……」

提督「瑞鶴……君には苦しい想いばかりさせてすまなかった……これからはいつも一緒だ。これが……私達の結婚式だ」

瑞鶴「うん! 提督さん、愛してい────

………………………………

………………

……

356:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/15(月) 23:02:30.27 ID:cvkO3tVZO


大和「…………」

金剛「大和、どうしまシタか? 顔からスマイルが消えてマスよ?」

大和「少し思うところがありまして……」

金剛「他の艦隊のことデスね?」

大和「はい……墜落してしまった瑞鳳航空隊の生き残りから聞いた機動部隊の壊滅と朝霧……提督の死、そして時雨以外の第三部隊の全員が沈んだという報告。果たして今から私達がレイテ島に突入してもそれに意味はあるのか、成功する可能性があるのかが分からないんです……」

金剛「私は退却するべきだと思いマス。これ以上は無駄になる気がするのデス」

大和「しかし、これは日本の最後の反抗作戦でもあります。この作戦が失敗に終わると日本はいよいよ完全に補給ラインは断たれ、本土の危機に追い込まれるでしょう」

金剛「そうデスね。確かにそれには一理あるネ。デスが、大和?」

大和「はい?」

金剛「命さえあればまた何かをする事が出来マス。死んでしまえば出来る事筈だった事も出来なくなりマス。命があるに越した事はありまセン」

大和「…………そう、ですね……」

金剛「このまま帰りマスか? それとも戦いに戻りマスか?」

大和「…………決めました。ありがとうございます、金剛」

金剛「決めたのは大和デス。私はただお話を聴いただけデス」

大和「ふふ……全艦隊に告げます! 全艦き」

榛名「大和! SOS信号を受信しました!!」

357:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/15(月) 23:03:36.67 ID:cvkO3tVZO


大和「何処からですか!?」

榛名「場所は……レイテ島の方角からです」

大和「う…………」

金剛「敵の罠かもしれまセン」

大和「しかし……」

金剛「罠だった場合、敵が準備を整えて待ち構えているでショウ。そのリスクは分かってマスね?」

大和「…………ここで何もせずに見捨てるのは日本の恥、そして人間としてやってはいけないことです。……行きましょう」

金剛「OK」

雪風「私は反対です」

大和「雪風?」

雪風「これ以上戦力を消耗させるのは今後の為にも避けるべきです。それに、人間として、日本艦としてという感情論は戦場では邪魔なものです。それに従っていては正しい判断は出来ません」

浦風「雪風、止め……」

雪風「大切な事を話しているんです。横槍を入れないで下さい」

大和「続けて」

雪風「大和さんはたった一人の人間か艦娘の為に艦隊を動かそうとしてます。たった一人の為に犠牲を強いるつもりですか? SOSを出しているのが人間だった場合、戦力にすらならない人物の為に絶対な戦力を誇る艦娘が犠牲になるのは、全く割りに合いません。無視するべきです」

大和「…………雪風、あなた兵器みたい」

雪風「はい。私は兵器です」

大和「雪風、それは間違ってるわ。艦娘は兵器では無く兵士……つまりは人間。心を棄てるのは無理」

雪風「私はもう既に棄てました」

大和「私にはそうは見えない。雪風はちゃんと人間だわ」

雪風「そんな訳がありません」

大和「間違った選択をしているかもしれない大和に意見をして、決断を止めさせる。この行動にだって十分雪風の感情は含まれているわ」

雪風「っ……」

大和「兵器なら、命令にただ従うだけ。そこに何の感情も疑問も抱かない。少なくとも雪風は兵器ではないわ」

雪風「そんなこと……ありません……」

大和「意固地ですね……まあいいわ。今はあまり時間が無いから、続きはまた帰ったらやりましょう。帰ったら……」

雪風「…………」

358:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/15(月) 23:04:15.45 ID:cvkO3tVZO


大和「全艦に告げます。これより我が艦隊はレイテ島の方面から発信されたSOSの主を救助に向かいます。もしかしたらこれは敵の罠かもしれません。ですが、私達はそれでもあえて突入します。それが、『人間』として通さねばならない仁義というものです」

雪風「…………」

大和「救助が完了出来次第直ちに本土へ帰投します。皆さんは絶対に生きて帰るという意思を忘れないで下さい。それが生死を分ける時があるのですから」

雪風「…………そんな綺麗事……」ボソッ

大和「本土に帰ったらみんなでお祝いをしましょう。そして、この戦いで散った仲間を弔いましょう。そう、生きて帰るんです。生きてみんなで横須賀へ帰りましょう!!」

全員「はい!!」

雪風「…………」

大和「艦隊進路レイテ島へ! 全艦大和について来て下さい!!」

………………………………

………………

……

359:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/06/15(月) 23:12:24.65 ID:cvkO3tVZO


サマール沖

矢矧「…………あれは……っ!!?」

野分「どうしましたか?」

矢矧「大和、敵影!」

大和「方角は!?」

矢矧「11時の方向!」

大和「…………! こちらでも確認出来ました!」

矢矧「どうするの?」

大和「先ずは先制で戦艦の私達で砲撃を行います! 水雷戦隊は突撃の準備を整えて下さい!」

矢矧「了解」

大和「長門、金剛、榛名。砲撃を行います。徹甲弾を装填。目標、敵空母!」

長門「やっと私達の出番か……胸が熱いな」

金剛「榛名、準備はOKデスか?」

榛名「はい、金剛お姉様!」

大和「…………武蔵にもこの戦いを味わらせたかったな……」

長門「大和、全員準備出来たぞ」

大和「あ、はい!」

金剛「いつでもOKデスよ!!」

大和「方角、仰角共に良し……戦艦、砲撃開始!! 薙ぎ払え!!」

ズドーン!!

364:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/02(木) 19:51:21.73 ID:f9C01BA3O


大和「やはり、この距離では当たらない……」

長門「大和! 敵空母が逃げ始めたぞ!!」

大和「このまま逃すわけには行きませんね。熊野、第七戦隊と水雷戦隊は直ちに敵空母の追撃を行って下さい!」

熊野「承りました。第七戦隊の皆さん、この熊野に続いて下さいな」

鈴谷「や〜っと鈴谷達の出番だね!!」

利根「そうじゃな。じゃが、あまり羽目を外すでないぞ。敵は空母じゃ。艦載機を飛ばされたらひとたまりも無いからの」

鈴谷「大丈夫だって! 鈴谷も熊野も艦載機なんかにゃ負け無いよ〜!」

熊野「そうですわね。ですが、利根の忠告は御尤もですわ。気を付けさせて頂きます」

利根「うむ!」

筑摩「利根姉さん、そろそろ参りましょう」

利根「筑摩」

筑摩「はい、なんでしょう?」

利根「最後まで足掻くのじゃ」

筑摩「そうですね。最期まで抗います」

利根「やはり筑摩は吾輩の自慢の妹じゃな!」

筑摩「いえ、利根姉さんには敵いません」

利根「では……参ろうか」

筑摩「お供致します」

熊野「第七戦隊、追撃に移りますわ!! 全艦隊列を保ったまま艦隊運動を行って下さいな!」

………………。

365:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/02(木) 19:51:57.59 ID:f9C01BA3O


浜風「矢矧さん! 敵駆逐艦が第一戦隊に急速接近中!!」

矢矧「こちら矢矧! 第一戦隊に向けて敵駆逐艦が急速接近してるわ!! 迎撃に移行するわね!」

大和「いえ、矢矧達はそのまま敵空母を追撃して下さい!」

矢矧「了解!」

矢矧「第十戦隊、目標を敵駆逐艦に変更! 反航戦でいくわよ!」

全員「了解!」

矢矧「全艦、砲撃開始!!」ズドン!

野分「てー!!」ズドン!

ハ級「……」

浜風「弾着今!」

バッシャーン!!

浜風「遠! 直撃弾無し!!」

矢矧「次弾装填急いで!」

浦風「分かったんじゃ!!」

矢矧「第二射始め!!」ズドン!

浦風「おんどりゃあ〜!!」ズドン!

浜風「遠!! 先程と殆ど距離が変わってません!」

矢矧「何としても落とすわよ! 第三射撃て!!」ズドン!

浜風「遠! 駄目です!!」

雪風「敵空母より艦載機が発艦し始めてます。このまま駆逐艦を狙いますか?」

矢矧「くっ……最後にもう一発撃ち込んで終わりにするわよ。第四斉射撃て!!」ズドン!

磯風「当たれ」ズドン!

浜風「弾着今! 遠!! 有効弾無し!」

矢矧「…………敵空母を追うわよ! 全艦対空射撃準備!」

全員「了解!」

366:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/02(木) 19:52:31.93 ID:f9C01BA3O


ハ級「……」バシュッ

長門「大和! 敵駆逐が魚雷を発射したぞ!!」

榛名「大和と長門と榛名が直撃コースです!」

長門「このまま魚雷を受けて攻撃に転じるか? それとも反転して魚雷を避けるか? 時間が無いぞ」

大和「直撃コースの私を含めた戦艦は回頭! 金剛はそのまま敵を追撃して下さい!」

榛名「はい! 金剛お姉様、御武運を!!」

金剛「Yes! 私がやっつけるネ!」

大和「っ!!?」

長門「まずい! そのままだと直撃するぞ!!」

大和「ならば、一発は覚悟して……」

長門「大和!! 絶対に左右にズレるな!! 魚雷と並走するんだ!!」

大和「並走すればするほど敵艦隊との距離が離れてしまいます!」

長門「金剛が向かっている。 それに、回頭して被害を減らすと決めたのはお前だ」

大和「分かりました。魚雷の脅威が去るまではそのまま直進します」

長門「了解だ」

大和「暫く任せましたよ、皆さん」

…………。

367:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/02(木) 19:53:01.77 ID:f9C01BA3O


熊野「敵艦隊捕捉しましたわ!!」

鈴谷「ねえ熊野。あれ、空母もっといるよね?」

熊野「報告より多いようですわね。鈴谷は大和達に敵艦隊の編成を打電して下さいな」

鈴谷「オッケー!」

熊野「第七戦隊、敵艦隊に向けて砲撃開始ですわ!」

利根「なあ、熊野よ。一部の敵が突っ込んで来てるぞ?」

熊野「お二人は出来る限り敵空母を重点的に砲撃して下さいませ。私と鈴谷は突撃して来る部隊を叩きますわ」

利根「了解じゃ」

熊野「では、行動を開始しますわよ」

鈴谷「大和達への打電しゅーりょー!! さっ熊野、行っくよ〜!!」

熊野「第一、第二主砲砲撃開始!」

…………。

368:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/02(木) 19:54:27.81 ID:f9C01BA3O


熊野「とぉぉおぉおおおお!!」ズドン! ズドン!

鈴谷「熊野! 敵駆逐艦が突っ込んでくるよ!!」

熊野「分かってますわ! このままうしろを取られる訳には……っくぅ、どうして当たらないんですの!」ズドン!

鈴谷「大和に敵駆逐がそっちに行くかもしれないって打電を……あれ……?」

熊野「ひゃぁぁぁぁあぁあ!!」ズドン! ズドン!

鈴谷「駆逐艦の動きが……っ!?」

熊野「そろそろ当たりなさいな!!」ズドン! ズドン

鈴谷「熊野!! 逃げて!! そいつは大和が狙いじゃない!! 狙いは熊野だ!! あいつが魚雷を撃つ前に早く!!」

熊野「へ?」

ロ級「……」バシュッ

鈴谷「熊野ぉぉぉぉぉぉ!!!!」

熊野「……っ」

ズドーン!!!!

369:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/02(木) 19:56:40.52 ID:f9C01BA3O


鈴谷「熊野!! 熊野!! 熊野!! 熊野!!」

熊野「…………」

鈴谷「熊野!! 生きてる!! ……えっ」

熊野「鈴谷…………ですの……?」

鈴谷「熊野…………目が……目が……それに髪も……」

熊野「ふふ…………左目はもう駄目ですわね……この髪も自慢の髪だったのに、残念ですわね……」

鈴谷「熊野、早くこっちに!! 鈴谷が熊野の事を護るから!!」

熊野「鈴谷……」

鈴谷「熊野!! 手を出して!」

熊野「ありがとう」スッ

バッシャーン!!

鈴谷「うわっ!!?」

熊野「至近弾!? 鈴谷!!」

鈴谷「嘘……」

熊野「どうしたんですの!?」

鈴谷「燃料タンクが浸水……それに左推進器が……」

熊野「一応動けますわね?」

鈴谷「スピードは落ちたけど一応……でも…………」

熊野「曳航は不可能ですわね。筑摩、応答して下さいませ」

370:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/02(木) 19:57:26.94 ID:f9C01BA3O


筑摩「どうしましたか?」

熊野「私熊野は戦闘力を大きく喪失してしまいました」

筑摩「そう、ですか……」

熊野「鈴谷も至近弾で私ほどでは無いですが、戦闘力は落ちてしまっております」

筑摩「旗艦……ですか?」

熊野「そうですわ。旗艦を筑摩にお譲りしたいのです」

筑摩「…………申し訳ありませんが、お断りします」

熊野「ですが、私がこのまま旗艦を続けるのは不可能ですわ!」

筑摩「わかってます。なので」

熊野「なので?」

筑摩「利根姉さんに私から伝えておきます。利根姉さんならば必ず最後まで旗艦の任を全う出来ますから」

熊野「……分かりました。では、そのようにお願いしますわ」

筑摩「熊野さんはこれからどうするのですか?」

熊野「熊野は……このまま一人で戦線を離脱致します」

筑摩「危険ですよ?」

熊野「これ以上戦力を削る訳にはいきません。大丈夫ですわ、私一人でも必ずや本国に帰ってお見せします」

筑摩「そう、ですか……」

熊野「あとは、お任せしますわ……必ず皆さんは生きて本国に帰って下さいな。武運を祈ってます」

筑摩「熊野さん」

熊野「はい」

筑摩「またすぐに逢えますわ。先に待ってますわね」

熊野「ええ。御機嫌よう」

筑摩「はい。御機嫌ようです」

…………。

371:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/02(木) 19:58:18.43 ID:f9C01BA3O


熊野「鈴谷」

鈴谷「熊野……」

熊野「そろそろ行きますわね」

鈴谷「待って!」

熊野「泣くなんて鈴谷らしくありませんわ」

鈴谷「だって、もう会えなくなるような気がするんだもん!! 嫌だよ! 鈴谷、熊野と離れるなんて嫌だ!!」

熊野「そんなこと言わないで下さいな。それに、私鈴谷ともすぐに逢える気がしますわ」

鈴谷「でも……! でも……!!」

熊野「鈴谷……少し失礼しますわね」

鈴谷「くま……!?」ギュッ

熊野「私が居なくても鈴谷は大丈夫ですわ。だって、鈴谷はこの熊野のお姉様なのですから」

鈴谷「くま、の……」

熊野「大丈夫。鈴谷ならばこの戦いを生き抜く事は出来ますわ。だから約束ですわ」

鈴谷「約……束?」

熊野「熊野が帰ってきたら鈴谷が一番に熊野の事を出迎えて下さいな」

鈴谷「分かった、分かった!! 絶対に鈴谷は熊野の事を待ってるから!! だから絶対に熊野も帰ってきて!!」

熊野「ええ」

鈴谷「約束、だから……」

熊野「では、行きますわね。鈴谷……」

鈴谷「う……ん……」ポロポロ

熊野「鈴谷……いつか……また……」

鈴谷「行ってらっしゃい、熊野」

熊野「行ってきますわね」

………………………………。

377:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:12:39.96 ID:Rshj8ISdO


金剛「ファイヤー!!」ズドーン!!

鳥海「左舷砲撃開始!!」ズドン! ズドン!

バッシャーン

金剛「Shit!!」

鳥海「やはり、この距離では当たりませんね……」

羽黒「どうしましょう……」

金剛「私が敵に接近しマス。近距離からの砲撃でシたら……」

鳥海「私は反対です。金剛さんは追撃部隊の主力です。ここで金剛さんが沈んでしまったら、この艦隊は決定打を喪失することになってしまいます」

金剛「代案はあるのデスか?」

鳥海「私が敵艦隊中央に突入します」

金剛「そんなことしたら鳥海はまた私の砲弾が当たってしまいマス!!」

鳥海「姉さん達は因果に囚われてしまいました。そして、私もその因果に囚われてしまうでしょう。例え金剛さんの砲弾が当たらなくても、恐らく別の砲弾が命中して致命傷を受ける筈です。なので、少しでも艦隊の皆さんの為になる事をしたいです」

金剛「鳥海……」

羽黒「鳥海さん……」

鳥海「大丈夫です。誰の砲弾が当たっても私は恨む事はありません。だから、遠慮なく砲撃して下さいね」ニコッ

金剛「…………OK」

鳥海「ありがとうございます。では……鳥海、行きます!!」

…………。

378:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:14:04.19 ID:Rshj8ISdO


鳥海「左舷に敵艦隊! 取り舵一杯! 砲撃開始!!」ズドーン!

金剛「私達も砲撃するネ!」ズドーン!

羽黒「お願い、鳥海さんには当たらないで下さい!!」ズドーン!

バッシャーン!

鳥海「近、近! 金剛さんの弾は遠、近で挟叉! 羽黒の弾は近、近です!」

金剛「了解したネ! 仰角微調整! 全砲門ファイヤー!!」ズドーン!

鳥海「ってぇ〜!!」ズドーン!

バッシャーン!!

ヌ級「!!?」

鳥海「金剛さんの弾が敵空母に至近弾! 艦速低下してます!」

金剛「OK! この調子で打ち続けるネ!!」

鳥海「お願いします!」

金剛「全主砲門、装填完了! 一番、二番斉射! 続けて三番、四番斉射! ファイヤー!!」

イ級「……」バシュッ

羽黒「鳥海! 敵駆逐艦が雷撃を!!」

鳥海「っ! 艦速一杯!! 」

金剛「鳥海!! そっちはダメデスっ!!」

ズドーン!!

羽黒「鳥海っ!!」

379:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:15:09.36 ID:Rshj8ISdO


鳥海「やは、り……こうなりましたね……魚雷に誘爆。魚雷発射管一基が使用不可……炎が広がっていますね……」

金剛「また…………また私が……」

鳥海「金剛さん……こうなるのは宿命でした……気に病まないで下さい……皆さん、今すぐそこからも離れて下さい……」

羽黒「…………分かりました。金剛さん、行きましょう」

金剛「鳥海……本当に、ごめんなさい……」

鳥海「ありがとうございます、羽黒。引き続き艦隊をお願いします……」

羽黒「はい……」

鳥海「……生き残っている魚雷、発射…………」バシュッ

鳥海「後は……これで……愛宕姉さん、摩耶姉さん。待ってて下さいね……すぐに私も追いつきます。深海棲艦の皆さんは……」

鳥海「…………死んで下さい。道連れです」

ズドーン!!!!

…………。

380:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:19:01.25 ID:Rshj8ISdO


羽黒「鳥海さんが自爆しました……周囲にいた敵艦は全滅した様です……」

金剛「鳥海……」

利根「鳥海の死を哀しむ余裕は無いみたいじゃぞ。敵じゃ」

羽黒「て、敵の艦載機が接近中!!」

金剛「零式弾装填!」

利根「筑摩、他の隊にも空襲が来る事を伝えるのじゃ」

筑摩「はい!」

利根「金剛も吾輩の指揮下に入って輪形陣を形成! 皆の者、生き残るんじゃぞ!」

筑摩「利根姉さん! 敵艦隊もこちらへ向かって来てます!」

利根「空と海両方を相手にとるのは危険じゃな……敵艦隊とは逆の方向に針路を取る! 空襲が終わり次第反転し、敵艦隊を討つのじゃ!」

全員「了解!」

利根「皆の者、所定の位置に着くのじゃ! 忙しくなるぞ! 全艦、対空射撃始め!!」

381:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:19:39.69 ID:Rshj8ISdO


金剛「零式弾、ファイヤー!!」ズドーン!

羽黒「敵機撃墜の確認出来ずです!」

金剛「Shit!」

利根「20.3センチの射程に入るぞ! 吾輩達も零式弾を撃つのじゃ! 吾輩の号令に合わせて討つのじゃ! ……撃てぇい!」ズドーン!

羽黒「一機撃墜!!」

利根「やはり、一網打尽は難しいよのぅ」

金剛「あと何発か撃つ時間はありマス。次弾装填を急いで下サイ!」

利根「当たり前じゃ。一機でも多く落とすのが吾輩達の仕事じゃからの」

羽黒「全艦装填完了しました!」

利根「よし! 撃てぇい!!」ズドーン!

羽黒「撃墜無しです!」

利根「むぅ……零式弾は次弾装填。じゃが、そろそろ高角砲や機銃の出番じゃな。対空装備を全て使い尽くすつもりで撃って撃って撃ちまくれぃ!!」

全員「了解!」

利根「各々の判断で対空戦闘始めじゃ!!」ズダダダダダダ

…………。

382:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:20:11.21 ID:Rshj8ISdO


鈴谷「ヤッバ!! 敵爆撃機が7時の方向から突入して来た!!」

羽黒「敵攻撃機、1時の方向から突っ込んで来てます!」

利根「爆撃機は急降下直後に取り舵で躱すのじゃ! 全艦1時の方向からの攻撃機を何としても撃ち落とせ!!」

金剛「10時の方向からも攻撃機が来てるネ!」

利根「しまった! 挟み撃ちか!! 少なくとも片方を撃ち落とさねば危険じゃ!! 逃げ場を失ってしまうぞ!」

鈴谷「もー!! ヤバイって!!」

ズダダダダダ

鈴谷「一時の方向のが全滅した!? 何で!?」

利根「急降下爆撃が来るぞ! 取り舵一杯!!」

筑摩「敵攻撃機、魚雷投下しました!!」

利根「上はもう見るな! 敵の魚雷の航跡を見て躱すのじゃ!」

ヒューン ズドーン!!

利根「無事か!?」

羽黒「全員無事です! 回避成功しました!」

利根「ふぅ……」

鈴谷「でも、何で攻撃機が……」

383:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:20:55.39 ID:Rshj8ISdO


矢矧「待たせたわね。第十戦隊、到着」

鈴谷「矢矧!」

矢矧「間に合って良かったわ」

利根「すまぬ、助かった」

矢矧「これくらいなんてこと無いわ」

利根「色々と話したい事があるが、まだ空襲の最中じゃ。また後程改めて礼を申すぞ」

矢矧「そうね。雪風、浦風、磯風、野分。気を引き締めなさい。気を抜いたらその瞬間に死ぬものと思いなさいよ」

全員「はい!」

矢矧「第七戦隊の援護を開始! 敵の攻撃機の進路の先に弾幕を張りなさい!」

雪風「3時の方向から敵攻撃機が向かって来ます」

矢矧「利根、こちらは任せて!」

利根「うむ!」

羽黒「9時の方向から爆撃機、7時の方向から攻撃機! また同時攻撃が来ます!」

鈴谷「敵の艦隊が追い付いて来た!!」

利根「なんじゃと!? ええい、今は無視じゃ! 攻撃機と爆撃機を優先じゃ!!」

384:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:21:25.90 ID:Rshj8ISdO


利根「急降下爆撃が来るぞ! 全艦取り舵一杯!! 筑摩、敵の攻撃機は!?」

筑摩「魚雷投下し、ません!? どうして!?」

利根「何故じゃ!? 攻撃機は何処に向かっている!?」

筑摩「これは……私です! 私だけに向かってます!」

利根「爆撃は虚。まさか一隻に集中するとは……ぬかった……」

筑摩「衝撃に備えます。魚雷命中まで3秒、2、1……0」

ズドーン!!

鈴谷「そんな……筑摩まで……」

利根「筑摩、状況は?」

筑摩「痛た……火災発生、そして舵がやられました。速力も低下、艦隊行動困難です」

利根「そうか……筑摩は艦隊から離脱するのじゃ。分かったな?」

筑摩「はい、利根姉さん。御達者で」

利根「うむ。御苦労じゃったな、筑摩」

鈴谷「ちょっと……待ってよ……」

利根「なんじゃ?」

鈴谷「ねえ! どうして見捨てるの!? ねえ!! どうしてそんな簡単に置いていけるの!? あり得ないよ! 筑摩はあんたの妹なんでしょ!? こんなの酷すぎるよ!!」

利根「吾輩と筑摩はこれでいいんじゃ。これはかつてより二人で決めていた事じゃ」

鈴谷「それにしたって!!」

利根「また艦載機が来た!! その話は後じゃ!」

ズドーン!! バッシャーン!!

利根「今度はなんじゃ!!?」

羽黒「敵の砲撃射程内に捕えられました!!」

利根「このままだと一方的にやられてしまう……」

385:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/12(日) 22:22:12.79 ID:Rshj8ISdO


矢矧「私達が食い止めるわ!」

利根「じゃが……」

矢矧「この距離ならば魚雷の射程内に潜り込む事は可能よ。任せて頂戴」

利根「……うむ。お主らに任せるぞ」

矢矧「了解。第十戦隊のみんな、この酸素魚雷で敵を食い止めるわよ!」

浦風「了解じゃ!」

磯風「ああ」

野分「了解しました!」

雪風「はい」

矢矧「空には気を付けて。だけど気を取られ無いように。あくまでも目標は敵艦隊よ。この魚雷を叩き込む事だけを考えなさい」

利根「頼むぞ、矢矧」

矢矧「朗報を待ってて」

利根「うむ!」

矢矧「第十戦隊単縦陣!! 突撃開始!! 」

…………。

388:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/19(日) 22:30:42.49 ID:N5M8kuUqO


ズドーン!

矢矧「敵艦砲撃! 回避運動! 取り舵一杯!!」

野分「敵攻撃機、右舷より接近!」

矢矧「第二戦速に変更! 速度差をつけて!」

野分「敵攻撃機、魚雷を投下! ……魚雷は艦隊の前方を通過!」

矢矧「最大戦速に戻せ! 雪風、対空電探に反応は!?」

雪風「こちらに向かってくる敵機は確認出来ません」

矢矧「なら敵艦隊に集中! 雪風は対空電探にも注意を払って」

雪風「了解」

磯風「敵駆逐艦が真横をこちらに向けて来たぞ」

矢矧「魚雷よ! 雷撃した駆逐艦の方向に針路変更!」

磯風「大丈夫か?」

矢矧「このまま進むよりは被弾するリスクは少ないわ」

磯風「了解だ」

浦風「敵駆逐艦発砲!」

矢矧「回避運動!」

389:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/19(日) 22:31:11.13 ID:N5M8kuUqO


磯風「矢矧、一ついいか?」

矢矧「何? 手は止めないで簡潔に説明して」

磯風「煙幕は焚かなくていいのか? 煙幕があれば多少とはいえ、我々の姿を隠す事が出来る筈だ」

矢矧「恐らく敵はレーダー射撃をしているわ。煙幕の有無で殆ど差は出ないわ。それに今は敵の空襲の中。煙幕を焚くことによって、私達は敵の艦載機の姿を視認する事が難しくなる。結局、煙幕を焚くメリットがあるどころか、デメリットの方が多くなるわ」

磯風「確かにそうだな。すまない」

矢矧「気にする必要は無いわ。それよりも、敵の砲撃を躱す事に集中して」

磯風「ああ」

矢矧「ん? 大和から入電……? 一体何が……なっ!?」

野分「何かありましたか?」

矢矧「作戦中止……全艦撤退せよですって……!?」

野分「えっ!?」

磯風「しかし、筑摩や鈴谷は艦隊に着いて行くだけの速度が出ないぞ」

矢矧「何にせよ、この艦隊を近づけさせる訳には行かないわ。何としても時間を稼ぐわよ」

野分「どうやってですか?」

矢矧「幸いなことに、酸素魚雷の射程内に敵がいるわ。だから、魚雷をここから撃って敵の針路を変更させる。当たれば御の字、かわされても、敵の行き足を止める事は出来る。全艦雷撃準備。取り舵一杯! 敵に側面を見せろ!」

野分「準備完了です!」

矢矧「出来る限り広範囲に撃ち込む! 角度は7度! 雷撃開始!」バシュッ

矢矧「舵はそのまま指示があるまで固定! 離脱するわよ!!」

全員「了解!」

…………。

390:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/19(日) 22:32:03.67 ID:N5M8kuUqO


長門「大和」

大和「はい」

長門「本当にいいのか? 本当に救難信号を見捨てるというのか?」

大和「このままだと我々は全滅してしまいます……ここで全滅してしまえば、今後日本を護る事が出来る者は居なくなってしまいますから……」

長門「そう、か……」

大和「恥ずかしいですね。助けに行かねば仁義に反するなどと大事を言ったこの口で全滅させない為に逃げると言っているのですから」

長門「そうだな。だが、それが責任を背負った者の性だ」

大和「長門……弱音を吐く事を少しの間だけ許して下さい」

長門「今、私は何も聞いていない。好きにするがいいさ」

大和「…………口惜しいです……!! 私が、連合艦隊旗艦たる私が判断を見誤った所為で沢山の仲間が海の泡と消えて逝しました!! なのに私は何も出来なかった! 何も出来ずにのうのうと生きているんです! 世界最強と言われた主砲を持って、それに耐え得る装甲で身を固めていたって何も出来なかったんです! どうして……どうして私はこんなにも無力なの……!!」

…………

長門「気が治ったか?」

大和「多少は……申し訳ありません。お見苦しいところをお見せしました」

長門「私は何も聞いていないぞ」

大和「そうでしたね。ありがとうございます」

長門「先程入った電文によると、矢矧や利根達も退却の準備が整ったようだ」

大和「しかし……」

長門「筑摩が厳しいな。筑摩が艦隊に着いてくるのは難しいだろう」

大和「そうしましたら、矢矧の下にいる駆逐艦に護衛をして貰いましょう」

長門「そうだな」

大和「矢矧、聞こえますか?」

391:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/19(日) 22:33:02.99 ID:N5M8kuUqO


矢矧「聞こえるわ」

大和「今から矢矧の下に所属する駆逐艦にお願いしたい事があるの」

矢矧「内容を聞かせて」

大和「筑摩に護衛をつけたい。だから、駆逐艦をそれぞれ一隻ずつ出してくれない?」

矢矧「その様な頼み事なら引き受けるわ」

大和「ありがとう」

矢矧「雪風。貴女はすぐに筑摩の護衛に向かって。一刻を争うかもしれないから時間に余裕が無いわ。いいわね?」

雪風「分かりました」

野分「あ、待って下さい!」

矢矧「どうしたの?」

野分「筑摩さんなら私の方が近い場所にいます。宜しければ、私が行きましょうか?」

矢矧「分かった。じゃあ、野分は筑摩のところへ向かって」

野分「了解です!」

矢矧「頼んだわよ! じゃあ、また後ほど落ちあいましょう」

雪風「敵編隊襲来!!」

矢矧「またなの!?」

磯風「私も捉えた! まずい、こっちへ向かって来てる!!」

矢矧「利根や大和にも伝えて! 輪形陣形成急いで! 野分、敵機がまた来てる! 気を付けなさい!!」

…………。

392:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/19(日) 22:33:40.78 ID:N5M8kuUqO


矢矧「最大戦速を維持して! 左舷から魚雷が来てるわよ! 動きを予測して回避して!!」

利根「矢矧!!」

矢矧「何!?」

利根「鈴谷がやられた!!」

矢矧「鈴谷まで!?」

利根「敵の爆弾が鈴谷の魚雷に誘爆したのじゃ! 鈴谷は航行不能。意識も落ちたままじゃ!」

矢矧「今雪風を向かわせるわ! もう少し耐えて!」

「ズドーン!!」

矢矧「どうしたの!? それに今の火柱は何!?」

利根「鈴谷っ!! 鈴谷! しっかりせい!!」

矢矧「利根! 鈴谷がどうしたの!!? 利根!!」

利根「鈴谷の左舷におった魚雷と高角砲に誘爆しおった!! そのせいで鈴谷の……」

矢矧「鈴谷の何!?」

利根「左半分が吹っ飛んだ……」

矢矧「嘘……」

利根「再起不能じゃ……まだ息はあるが、時間の問題じゃな……これ以上鈴谷を苦しめとうない。吾輩が介錯する。だから雪風は呼ばなくていいぞ」

矢矧「分かったわ……」

利根「すまないのう鈴谷……吾輩が不甲斐ないばかりに……またあの世で逢おうぞ」

「ズドーン!! ブツッ」

矢矧「くそっ!」

雪風「敵機が暫く途切れます。また来る可能性はありますが、暫くは大丈夫でしょう」

矢矧「分かったわ……」

浦風「野分と筑摩さんが心配じゃねえ……」

磯風「そうだな……」

………………………………。

395:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/24(金) 22:55:04.24 ID:HCJfuNBmO


野分「筑摩さん! 右舷より敵爆撃機が接近中です!!」ズダダダダ

筑摩「了解!」ズダダ ガキンッ

野分「どうしたんですか!? 弾幕を張らないとやられてしまいます!」ズダダダダ

筑摩「弾切れね……」

野分「えっ!? そんな……!」

筑摩「野分ちゃん。命令を下します」

野分「嫌です! 絶対に離れません!!」

筑摩「ずっと言ってきたけど、野分ちゃんはここに居るべきではないの。今すぐに一人でこの海域から出て行きなさい」

野分「そんなこと出来ません! 逃げるなら筑摩さんと一緒じゃないと嫌です!」

筑摩「私は速度が出ないわ。このままだと野分ちゃんの足を引っ張る事にしかならないわ」

野分「それでも、仲間を見棄てるなんて出来ません! もう仲間を助けられないのは嫌なんです! 私は姉妹艦で、一番の友達だった舞風すら助ける事が出来なかったんですよ!?」

筑摩「絶対に譲る事は出来ないの?」

野分「はい! 絶対に私は筑摩さんと一緒に本国へ帰ります!!」

筑摩「……そう」ガチャッ

野分「筑摩……さん?」

筑摩「残念ね……」ズドーン!!

バッシャーン!!

野分「うわっ!! 筑摩さん!? どうして!!?」

筑摩「1分経っても立ち退かないのなら次は当てるわよ?」

野分「そんな! 私は筑摩の事を助けようと!」

筑摩「貴女が動かなければ、私はまた余計な弾を使わなければならないわ。もう数える程しか無い主砲の弾をね。貴女が此処から動かなければ動かない程、私は自分の命を繋ぐ為の弾薬を使う事になるの。つまり……」

野分「嫌……」

筑摩「私は貴女の所為で死ぬ事になるのよ。貴女が動かなければ私は死ぬ瞬間も死んだ後も……陽炎型駆逐艦野分を恨み続けるわ。そう、いつまでもね」

野分「どうして……そんな……何でこんな……」

396:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/24(金) 22:55:35.06 ID:HCJfuNBmO


筑摩「あと10秒ね。もしも私を殺したいのならば残りなさい」

野分「ごめんなさい……ごめんなさい筑摩さん!! ごめんなさい! ごめんなさい!! 本当にごめんなさい!!」クルッ

筑摩「行ってくれるのね?」

野分「ごめんなさい!! 私が無力でごめんなさい!! 私が……私が!!」

筑摩「野分ちゃん、ありがとう」

野分「うぅ…………筑摩さん……!!」ポロポロ

筑摩「…………行ったわね……さて…………演習弾でまた戦う事になるのね」ガチャッ

筑摩「筑摩の最期の戦いを始めようかしら」

……………………………………。

397:ずいず ◆9eWjFae4dI2015/07/24(金) 22:56:02.71 ID:HCJfuNBmO


翌日 ミンドロ島沖

磯風「筑摩や野分はまだ帰って来ないのか」

矢矧「連絡は途絶えたままよ。多分まだあの子は危険な海域を通過中で、自分達の位置を敵に知らせない為に連絡を入れないのだと思うわ」

浦風「そうじゃのぉ。筑摩さんやあの子がそう簡単に沈むわけ無い」

矢矧「私達に出来る事は、あの二人が帰って来るのを待つ事だけよ」

磯風「そうだな。すまなかった、このような不安を煽る様な事を言ってしまって」

浦風「そがぁなこと、気にせんでええよ」

磯風「ああ」

雪風「もう、待つ必要はありませんよ」

磯風「何だと?」

浦風「雪風!!」

雪風「野分は生きているか死んでいるのか分かりません。それなのに、帰ってくるかもしれないなんていう未確定な願望に振り回されるのは間違ってます」

浦風「雪風……自分が今何を言ぅとるんか分かっとるん?」

雪風「はい。私は艦隊が取るべき行動を述べたまでです」

浦風「雪風! あんた、最低じゃ!!」バチン!

雪風「…………」

浦風「うちは、雪風が心に負ぉた傷を癒さにゃぁいけんゆぅて思うとったけぇあんたの事を助けようゆぅて見守って来た! おおかたの事は見逃すつもりじゃったんで! じゃが、この戦いでの言動はあまりに酷い! 仲間の命を何じゃゆぅて思うとるん!? 雪風は大切な仲間の死を見すぎて死に対する感情が欠落しとる! でも、それじゃあいけんのんで! 例えどがぁに大切な仲間を喪って傷付いて心がめげそうでも仲間を見棄てるなんか以ての外じゃ!! 目を覚ますんじゃ雪風!! 傷付く事を恐れるな! 大切ななぁ今なんじゃけぇ!!」

雪風「うるさい!!」バチン

浦風「うぐっ!!」

磯風「おい雪風!!」

雪風「私を助けようと思って来た……? 私が傷付いてる……? 勝手に私の心を決めつけるな!! 私の心を決めるのは私だ!! それに私を助けようと思った? そんな自分勝手で自己満足な偽善はやめてよ!! そんなの私は望んでない!!」

浦風「この分からず屋!! どうしてあんたはそがぁに意固地なんじゃ!! 今の雪風は絶対に間違っとる!!」バキッ!

磯風「矢矧! 雪風を抑えてくれ!! 私は浦風を抑える! 浦風落ち着け! 落ち着くんだ!!」グイッ

矢矧「雪風、止めなさい!」

雪風「離せ! 離せ!! 私はこいつを殴らないと!!」

398:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/24(金) 22:56:39.89 ID:HCJfuNBmO


矢矧「艦隊の規律を乱すな雪風! これは旗艦命令よ! もう一度言うわ。雪風、止めなさい」

雪風「くっ………………うぅ……うぅぅ……!!」

矢矧「二人共、本国に戻ったら覚えてなさい」

浦風「はい……」

矢矧「雪風」

雪風「はい」

矢矧「私は今から大和に意見具申するわ」

磯風「雪風と浦風に関してか?」

矢矧「そうじゃないわ。雪風の言う通りいつまでも野分と筑摩の合流を待つのは危険だから、出航の時間を話し合うわ」

磯風「そうか……」

矢矧「じゃあ、ちょっと待ってて」

399:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/24(金) 22:57:06.82 ID:HCJfuNBmO


矢矧「大和、矢矧よ」

大和「矢矧……」

矢矧「意見具申をしていいかしら?」

大和「そろそろ移動しようってことね?」

矢矧「ええ。もう陽が昇って相当時間が経つわ。敵も既に偵察機や追撃隊を出していても可笑しく無い。これ以上は危険よ」

大和「分かっていたわ……あの二人が戻って来ることを信じたかったとは言え、留まり過ぎたわね……」

矢矧「正午になったら出航しましょう」

大和「分かりました。皆に伝えます」

矢矧「よろしく」

大和「ちょっと待って下さい。榛名が何か……」

大和「もうこれ以上は待てない? 今すぐ出航? 確かにずっと反対をされていましたが、あと少しだけ……」

矢矧「大和? どうしたの?」

大和「金剛まで……分かりました。そこまで言うのでしたら出航準備を進めましょう」

矢矧「大和、一体何を話しているの?」

大和「すぐに出航します」

矢矧「金剛と榛名に何か言われたのね?」

大和「ええ……すみませんが、出航準備を急いで下さい」

矢矧「了解」

400:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/07/24(金) 23:12:42.76 ID:HCJfuNBmO


矢矧「第十戦隊全艦出航準備」

浦風「了解……じゃ」

雪風「了解」

磯風「ああ」

「敵しゅーう!! 敵の航空機が接近!! 防空戦闘急げ!! 敵しゅーう!!」

ヒューン ズドーン!!

矢矧「敵襲!? 爆撃!? 全艦出航準備が出来次第すぐに出航して防空戦闘を開始! このままだと恰好の的になるわ!!」

雪風「出ます」ザッ

磯風「私も出よう」ザッ

矢矧「早い!? あの子達、何でこんな早く動けるの!? まさか緊急事態を考慮して缶を……」

浦風「あとちぃと……あとちぃと」

矢矧「浦風、急いで! って、大和から連絡!? 大和! さっきの爆発は一体……能代!? 分かったわ。すぐに動く」

矢矧「浦風急ぎなさい! 能代がやられたわ ! だから早く!」

浦風「なっ!? 能代さんが!?」

矢矧「そうよ! そんな事よりも早く出航準備を!!」

浦風「完了じゃ!」

矢矧「行くわよ! 抜錨!! 全速力で当海域より撤退するわ! それと防空戦闘準備!」

浦風「了解!!」

矢矧「両舷一杯! 機関が壊れそうでも今は脱出が優先よ!」

浦風「両舷一杯!!」

………………………………。

406:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/01(土) 22:03:32.08 ID:GOiP8TM3O


ブルネイ

浜風「磯風! 浦風! 雪風!」

浦風「浜風!」

磯風「浜風か。久しく見ていなかった気がするな」

浜風「それ程離れていた訳では無いはずですが」

磯風「まあ、な」

浦風「浜風はあの後どうしたん?」

浜風「マニラに一旦退却してからここ、ブルネイに移動しました」

浦風「無事でげにえかったよ」

浜風「私も浦風や磯風、雪風と会う事が出来てよかったです。ですが、野分や不知火姉さんの姿が見当たりませんね……やはり……」

浦風「不知火姉さんは分からんが、野分とは連絡が取れ無いんじゃ。多分……もう……」

浜風「そうですか……」

雪風「………………」

磯風「すまない」

浦風「あれ? 大和さん?」

磯風「大和か」

大和「お疲れ様です。十七駆逐隊、揃っているわね」

浜風「揃っていますが、どうしたんですか大和さん?」

大和「貴女達に今後の事を話そうかと思います」

浜風「今後の事とは?」

大和「私達戦艦の大半と、第十戦隊は一番初めにこの泊地より出発します」

浜風「すぐにですか?」

大和「いいえ、まだ時間はあります。急ぎたいのは山々なのですが、今の状態ですと日本に辿り着く前に力尽きてしまうでしょう。なので、あくまでも短期間ですが、暫くはブルネイに留まります」

浜風「分かりました」

大和「それまではゆっくりは出来ないかもしれませんが、出来る限り戦いの疲れを癒して下さい。では、私は用事があるので失礼しますね」スタスタ

407:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/01(土) 22:04:03.60 ID:GOiP8TM3O


浦風「ウチらもじゃが、大和さん疲れ切っとるね」

浜風「それはしょうが無いですね。全ての責任を背負ってここまで指揮をしてきたのですから」

磯風「仲間を見棄てる決断を何度も下したのだからな」

浜風「……この艦隊の旗艦ですからね…………」

磯風「辛いだろうな」

浦風「あまり気が滅入る話をしてもしょうがないよ」

浜風「そうですね」

浦風「そーゆやぁ高雄さんや長波、朝霜がブルネイにおるはずじゃけぇ会いに行かん?」

浜風「長波や朝霜ならば大丈夫ですが、まだ高雄さんは意識が戻らないままなんです。更に、怪我があまりにも酷いのであまり行かない方が良いです」

浦風「そうなんだ……」

浜風「それより、三人ともお風呂に入ったらどうですか?」

浦風「そうじゃね」

磯風「雪風と浜風はどうするんだ?」

浜風「私は大丈夫です」

雪風「私は後にします」スタスタ

浜風「雪風?」

磯風「ふぅ……」

浦風「…………」

浜風「何かあったのですか?」

磯風「まあ、色々とな」

浜風「教えて下さい」

磯風「言ってもいいのか?」

浦風「ウチから言うよ」

磯風「分かった」

浦風「あのな……」

…………。

408:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/01(土) 22:04:35.19 ID:GOiP8TM3O


浦風「……というわけなんじゃ」

浜風「分かりました。ありがとうございます」

浦風「うん……」

浜風「私は雪風の様子を見て来るので、二人はお風呂に入って来て下さい」

磯風「ああ。そうする」

浦風「スマンのぉ……迷惑かけちゃって」

浜風「いえ。大丈夫です」スタスタ

浜風(雪風は何処に行ったのだろう……)

朝霜「よお浜風」

長波「どうしたんだ? 浮かない顔してるぞ」

浜風「長波と朝霜ですか」

長波「なんだよその反応は。あたし達じゃ不満か〜?」

浜風「いえ、そういう訳ではありません」

長波「そうか? まあ冗談はこれくらいでいいか。で、何かあったのか?」

浜風「雪風を見ませんでしたか?」

長波「雪風? ああ、あいつなら宿舎の方に歩いて行ったぞ」

浜風「宿舎ですか?」

長波「ああ。何かあったのか?」

浜風「いえ、特に何かがあった訳ではないのですが、話しておきたい事があったので」

長波「ふーん。ま、頑張れよ」

浜風「はい。ありがとうございます」

長波「おう! んじゃ朝霜行こうぜ」

朝霜「そうだな! じゃあな浜風!」

浜風「はい」

…………。

409:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/01(土) 22:05:03.73 ID:GOiP8TM3O


高雄「…………」スウスウ

雪風「…………」

高雄「…………ぁ……ゃ……ぅ、ぃ」スウスウ

雪風「…………」

高雄「ぃゃ……行かな…………わ……も……」

雪風「…………っ」ガチャッ パタン

浜風「雪風」

雪風「……なんでしょうか」

浜風「高雄さんの病室……やはり気に病んでいるんですね」

雪風「いえ、そうではありません。艦隊の主力である高雄さんがどの様な状態なのかを確認したかっただけです」

浜風「…………」

雪風「では、私はもう行きますね」スタスタ

浜風「…………重症ですね」

雪風「…………」ピタッ

浜風「何でもありません。ただの独り言です」

雪風「そうですか」スタスタ

浜風「偽りの仮面……か」

浜風「雪風は自分自身を騙して心を護っている……私が何とかしないと……」

浜風「まずは雪風を一番よく知っている…………」

………………………………。

410:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/01(土) 22:05:32.61 ID:GOiP8TM3O


大和「八人とも揃いましたね」

矢矧「そうね」

大和「これより大和、長門、金剛。第十戦隊改め第二水雷戦隊の矢矧、雪風、浦風、磯風、浜風の艦隊で本国へ戻ります」

長門「ああ。榛名達はブルネイを頼むぞ。レイテなどから敵の航空隊が攻めて来るやもしれん」

榛名「はい……」

長門「どうした。元気が無いじゃないか」

榛名「そんな事は……」

金剛「大丈夫デス長門。ここは私に任せて下サイ」

長門「良いだろう」

金剛「榛名、後は頼みマスね」

榛名「金剛お姉様……」

長門「今生の別れになる訳ではないのだからそんな顔をするもんじゃない」

榛名「……そうですね…………」

金剛「大丈夫デスよ榛名。榛名は大丈夫デス」

榛名「榛名は……大丈夫ですか?」

金剛「Of course! 榛名は大丈夫デス!」

榛名「榛名は……大丈夫です……」

金剛「そうデス。それでこそ私の妹ネ!」

榛名「榛名は……大丈夫です」

金剛「強くなるんデスよ榛名」ナデナデ

榛名「金剛お姉様……」

金剛「行きまショウ大和」

大和「はい……全艦抜錨して下さい」

411:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/01(土) 22:06:03.48 ID:GOiP8TM3O


台湾沖

大和「本国まであともう一息です。対空警戒を忘れずにお願いします」

金剛「このままだと…………」

大和「どうかしましたか?」

金剛「そういえば……大和、ちょっと良いデスか?」

大和「はい。何でしょうか?」

金剛「あのデスね……言い難いのデスが……」

長門「何だ金剛。はっきりと話せ」

金剛「…………自然が呼んでるネ……」

大和「へ?」

長門「金剛……貴様……」

金剛「こればかりはしょうがないデスか! 出すなというのは無理な話デース!! ウ〜漏れてしまいそうデ〜ス!」

長門「大和……旗艦の判断に任せる」

大和「分かりました。急いで戻ってきて下さいね」

金剛「Thanks!! 助かるネ! 恥ずかしいので少し離れマスが、気にしないで先に行ってて下さいネ」

金剛「あとは…………浦風、聞こえマスか?」

浦風「金剛さん? 」

金剛「これから言う事を絶対に護って下サイ」

浦風「分かったが、何をか?」

金剛「今から浦風は、『絶対に沈まない。沈みたくない』と強く心に願うのデス」

浦風「金剛さん、何を言ぅとるんか!?」

金剛「もしかしたらそれで何かが変わるかもしれまセン。……約束ですよ、浦風?」

浦風「金剛さん、一体何をするつもりなんか!? 金剛さん!!」

金剛「私を自然が呼んでマス。心配しなくて大丈夫デスよ。今のは私の気まぐれデスから。恥ずかしいノデ通信切りマスね」ブッ

412:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/01(土) 22:06:41.89 ID:GOiP8TM3O


金剛「やれる事は全てやり切りましたね……あとは浦風が生きたいと願ってくれれば運命を覆す事が出来るかもしれませんから」

金剛「榛名……あとは頼みマス。比叡、霧島……私も逝くネ。自分の運命に最期まで抗う事が出来ない弱い姉でごめんなさい…」

金剛「私はもう運命に抗う強さは無いです。ただ、私の命で浦風を護る事が出来るのならば喜んで差し出します。多分それが私に出来る最期の事ですから………」

金剛「……カモン、シーライオン。私は逃げも隠れもしません。昔と同じ様に私を沈めなさい」

シュー

金剛「…………来ましたね……これで艦娘としての命も終わりですね……」

金剛「提督…………約束は護ってくれていますよね? 例え貴方が瑞鶴を愛していても私は貴方の側に居たいのです。その為ならば何処までもお供します。だから待っていて下さい提督…………」

「 」

金剛「!?」

金剛「あぁ…………提督、瑞鶴……ずっと待っていてくれたのですね……私も今そこに────」

413:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/01(土) 22:07:09.14 ID:GOiP8TM3O


磯風「どうした浦風!?」

浦風「金剛さんが!! 金剛さんが危険じ
ゃ!! 助けに!!」

浜風「浦風! 落ち着いて下さい!」

浦風「金剛さんを止めに行かんと!!」

矢矧「浦風、金剛から何を言われたの?」

浦風「絶対に生きたいゆぅて願いんさいってゆわれたのじゃ! 普通じゃったら絶対にこがぁな事はゆわんのに突然ゆわれたんじゃ!」

ズドーン!!

矢矧「爆発音!?」

磯風「矢矧! 大きな煙が上がってるぞ!!」

矢矧「まさか!!」サッ

矢矧「……金剛が……」

浜風「金剛さんが何ですか!?」

矢矧「沈んだ……今から行っても絶対に間に合わないわ……」

浦風「嘘じゃ! 嘘じゃ嘘じゃ!! どうして金剛さんが死なんにゃぁいけんの!? そがぁなん可笑しい!!」

雪風「矢矧さん。何もいないところで爆発したという事は敵の潜水艦の可能性が高いです。そして未だに潜水艦を探知出来ておりません。直ぐに海域を離脱しませんか?」

矢矧「大和! 金剛が沈んだわ!! 救助は間に合わない! そして、敵の潜水艦が潜んでいる可能性がかなり高いわ! 直ぐにこの海域から離脱しましょう!」

大和「了解! 全艦26ノットで海域を離脱! 敵の潜水艦と魚雷に厳重注意!! 行動開始して下さい!!」

浦風「金剛さん! 嫌じゃ!! 金剛さん!! 金剛さんを助けるんじゃ!!」

磯風「嘆くのは後だ!! 浜風! 浦風を引っ張れ!!」

浜風「了解!!」

矢矧「雪風は対潜警戒を重点的にやりなさい! 磯風は対潜警戒と対空警戒の両方を! 浜風は対潜警戒と対水上警戒! そして全艦爆雷の投下準備は完了させなさい!」

全員「了解!」

矢矧「もうこれ以上誰一人たりとも欠けずにで横須賀へ戻るわよ!」

………………………………

………………

……

420:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:04:58.09 ID:v0kXpseMO


横須賀鎮守府

大和「艦隊帰投しました!」

響「やっと帰ってきたね……おかえり」

大和「お出迎えありがとうございます。伊勢や日向達は戻って来てませんか?」

響「帰って来たよ。ただ、帰って来てすぐに資源確保の為に遠征に出されたよ」

大和「え?」

長門「どういう事だ!? あの戦いから帰って来てすぐにだと!?」

大和「榛名さんから聞いた限りですが、新しい提督となられる方はその様な事をする筈がありません!」

響「大和さん、一つ聞いていいかい? 榛名さんが言ってた新しい司令官の階級は?」

大和「今まで私達を導いて下さった提督と同じく中将です」

響「……それは間違ってるよ」

大和「何ですって?」

響「新しい司令官は大将。その情報は間違ってる」

大和「どうして……一体何が……」

長門「中将はどうした! この長門が直接連絡を取らせてもらう!」

大将「それは無理な話だ」コツコツ

421:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:05:37.41 ID:v0kXpseMO


長門「……貴様は誰だ?」

大将「私はお前の提督だよ。この横須賀鎮守府の提督である大将だ」ニヤッ

長門「中将はどうした? 我々は中将がここに着任すると聞いている」

大将「ああ、中将か。確かに中将は死んだ前提督の代わりに着任予定だった。だが……」

長門「勿体振るな。早く吐け」

大将「不幸な事に突然暴漢に襲われ死亡したよ。大方、中将は怨みを買う様な事をし続けていたのだろうな。因果応報とでも言っておこうか」

長門「…………貴様……何を企んでいる」

大将「企んでいるだと? ほう、私ほど『国』の為に尽くしている人間はいないと自負しているのだがな。分かって貰えず残念だ」

長門「性根が腐りきってる! 貴様はそれでも日本男児か!? 大和魂の欠片も持ち合わせていないのか!?」

大将「これは僥倖。私は大和魂やら日本男児やら侍魂等といった物は心底憎いのだよ。私はその様な馬鹿げた恥ずべき物を持ち合わせていない様でとても嬉しいよ」

長門「貴様っ!!」

大将「上官に手を出すのか? 私に少しでも触れてみろ。すぐさまお前をこの場で解体するぞ」

長門「卑怯者め……!!」

大将「おい、鉄パイプを持ってこい」

部下「しかし、その様な物を使ったら命が……」

大将「艦娘にはこれくらいではないと効かない。むしろこれでも優しい方だ。分かったのならば早く持ってこい!」

部下「はっ!」スッ

422:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:06:16.30 ID:v0kXpseMO


大将「御苦労。さて、生意気なこの尼には軍隊という物を思い知らさねばならないな……なぁっ!」バキッ!

長門「グッ……」キッ

大将「生意気な目だ。気に入らない!!」バキッ! グシャッ!

長門「ウグッ!」

大将「まだまだ物足りないなぁ! ほら立て」グイッ

長門「この……下衆が……」

大将「オラッ! その顔が気に入らない! フッ! その顔を潰してやろう!!」バキッ! バキッ! バキッ! グシャ!

大和「やめて下さい!! 長門はこの戦いで傷付いています! そのような事をしたら死んでしまいます!」

大将「これくらいで死ぬのならば私には不要だ! 死ぬがいい!! 死ねっ!!」グシャ!

長門「ガッ!!」バタン

大将「まだ息があるな? ほら、立て! さもなければ、そうだな……そこの青髪を同じ目に合わせようか」

長門「ぅ……この……!!」

大将「そんなにこの餓鬼が大切か? オラッ!!」グシャ! バキッ!

長門「うぁぁぁ!!」

大将「次を耐えたら今回は見逃してやろう。おい、青髪と茶髪。こいつを両方から抑えて動かないようにしろ。従わないのならばこいつを殺す」

浦風「そんな……」

雪風「…………はい」グイッ

浦風「長門さん……」

長門「やれ……」

浦風「ごめんなさい長門さん!! ごめんなさい!」グイッ

雪風「…………」

大将「死ねっ!!」バキンッ

グシャッ

長門「」

浦風「長門さん!!? 長門さん!!」

矢矧「長門!!」

大将「私に逆らったらこうなると分かったな? お前達で掃除をしておけ。汚れが残っていたらお前達全員同じ目に合わせよう。これは処分しておけ」

部下「はっ!」

大将「言い忘れていた。今後お前達はこの鎮守府より外に出る事を禁じる。命に背いた者は殺す。掃除が済み次第すぐに各自の部屋に戻れ」コツコツ

423:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:06:45.06 ID:v0kXpseMO


浦風「長門さん、死んじゃ嫌じゃ! 嫌なんじゃ……」ポロポロ

大和「長門の容態は」

矢矧「息はあるけど全身骨折してるわ。顔も骨折で済んでいればマシ……一刻を争うわ」

大和「長門をすぐに医務室へ連れて行って下さい。矢矧以外はここの掃除をすぐに済まして下さい。もうこれ以上被害を増やす訳には行きません」

矢矧「了解! 長門、あと少し頑張って」

大和「こちらは急いで片付けましょう」

磯風「……」ブツブツ

浜風「磯風?」

磯風「殺す……あいつだけは殺す……絶対に許せん」

浜風「耐えて下さい。磯風まで傷付くのは耐えられません!」

磯風「ならば先に殺してしまえば……!」

浜風「私もその気持ちは良く分かります! ですがそのような事をしたら貴女も無事ではすみません!」

磯風「この磯風の命で他の命を救えるのならば進んで受け入れよう!」

浜風「落ち着いて下さい! 今の磯風は冷静さを失っています!お願いですから落ち着いて下さい!」

磯風「無理だ! 今なら他の犠牲者は出ない! 今しか無いのだ!」

浜風「雪風も手伝って!」

雪風「磯風、上官の命令は絶対です。そして私達兵器は主に逆らってはなりません。間違ってるのは貴女です。不良品は長門さんの様に処分されます」

磯風「雪風……お前……」

浜風「涙が……」

雪風「…………」

424:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:07:15.00 ID:v0kXpseMO


磯風「どうしてお前はそうなんだ……どうしてお前は……」グイッ

雪風「…………」

磯風「雪風……本当に私は間違っているのか? あの様な仕打ちをされても許さねばならないのか? 目を瞑らねばならないのか? 私は絶対に認めない。お前の考えを否定はしなく無かった。だが、私はお前の言ったことが兵器としての在り方なのならば、私は否定せねばならない。私は兵器になど絶対にならない。それに……お前は自分でも気付いている筈だ。自分が間違っているのだと」

雪風「いえ、その様な事はありません。艦娘は兵器であるべきです。心を持ってはいけないのです」

磯風「ならばその涙は何だ。それこそ感情の証なのではないか?」

雪風「……そんなわけありません。感情などいらないのに……」

磯風「…………すまん浜風。取り乱した」

浜風「いえ……しかし、浦風が……」

浦風「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

磯風「あれは…………まずいな……」

浜風「下手をしたら雪風の様になってしまうかもしれません」

磯風「浜風。お前が浦風の側にいてやるがいい。私と大和で掃除を終わらせる」

浜風「分かりました……」

磯風「すまない。お前が一番適任とはいえ、負担をかけてしまうな」

浜風「いえ」

磯風「頼んだぞ」

………………………………。

425:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:08:17.54 ID:v0kXpseMO


ガチャッ

磯風「浜風、艦隊が帰投したそうだぞ……礼号作戦とやらに行ってた霞や大淀達だ」

浜風「そう、ですか……ゴホッ」

磯風「大丈夫か……?」

浜風「大丈夫です……昨日殴られた腹が少し痛むだけです……」

磯風「やはり……あの時殺しておけば……」

浜風「私はこの生活よりも磯風が殺される世界の方が嫌です……だから、これでいいんです……」

磯風「しかし、浦風が……」

浦風「………………」

浜風「どの道あれから壊れてしまっていたでしょう……むしろ、暴力されても何も感じていない様ですので……現状は関係無いでしょう」

磯風「何故だ……何故こんな事に……」

浜風「雪風もずっと部屋に戻って来ません……もう、十七駆逐隊は崩壊ですね……」

コンコン

大和「磯風、浜風、雪風、浦風4名に召集がかかってます。……司令室に来て下さい」

浜風「分かりました……しかし、雪風はここにはおりません。何処にいるかも……」

大和「分かりました。私が雪風を探しておきます。3人はすぐに向かって下さい」

磯風「浦風、行くぞ。立ってくれ」グイッ

浦風「…………」

磯風「自分で歩くんだ。ほら、しっかりしてくれ」

浜風「浦風……しっかりして下さい」

浦風「…………」

…………。

426:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:09:00.05 ID:v0kXpseMO


司令室

大和「お待たせしました」

大将「よく来てくれたな」

大和「私達に何の用ですか?」

大将「今度はお前達の出番だ。さっさと出撃の仕度しろ。以上だ」

霞「今度は……ですって!? あんた、この前の礼号作戦とやらに何の意味があったのか説明すらしなかったわよね!? このカス! あんたの言う事に従ってたまるか! あんたみたいなカスの所為で清霜が沈んだのよ!? 清霜が死んだことに意味はあったの!? 答えなさいよこのゴミ屑!」

大将「生意気な口だ」

大和「お待ち下さい。作戦内容等何も伝えられないのはどう考えても貴方がおかしいです」

大将「それくらい自分で考えるのがお前の仕事だろう!」バシンッ!

大和「…………軍法会議にかけられたいのですか?」

大将「フハハハハハ、軍法会議だと? 馬鹿馬鹿しい。日本軍など、もはや私の操り人形。実権は全て私が握っているのだよ? 私がルールの今、軍法会議など糞の役にも立たんよ。それに、反乱分子はもう全て消し去ったからな。私に刃向かう者もいない」

大和「…………貴方……いえ、お前が提督を殺したんですね」

大将「はて、何の事やら。あの愚か者は自ら死んだ筈だったのだがな」

大和「許さない……! 私は絶対にお前を許さない!」

大将「反乱するつもりか? ならばいいだろう。呪われた運命に踊らされて来るがいい。ここにいる大和、矢矧、雪風、磯風、浦風、浜風、霞に加え、初霜と響、朝霜を加えて沖縄へ向かえ。作戦名は天一号作戦と命名する」ニヤリ

大和「沖縄に向かう理由は?」

大将「貴様らが知る必要は無い。すぐに行け」

霞「絶対にいつか殺す……」

大将「生きて帰ってから言うんだな。死に行く者達よ」

大和「くっ……」バタンッ

…………。

427:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:09:58.20 ID:v0kXpseMO




大和「皆さん、よく聞いて下さい。これから私達は無駄死にする為に沖縄へ向かう事になります。ですが、私は貴女達が死ぬ事を良しとはしません。なので、沖に出たら全員好きな場所へ行って下さい。もう二度とこの横須賀へ戻って来てはいけません。辿り着いた地でいつまでかは分かりかねますが、生きて下さい」

矢矧「大和、貴女はどうするの?」

大和「私があいつを止める事が出来なかった故にこの自体を招いてしまいました。それにレイテで私は沢山の仲間を見捨てて来ました。私がこの運命から逃れることはあってはなりません。私が一人でこの物資を沖縄の方々へ届けに行きます」

矢矧「なら、私も付き合うわ。大和も一人で逝くのは寂しいわよね? 私も一緒に逝ってあげる」

大和「ですが……」

矢矧「それに、私も二水戦の旗艦としてケジメは付けたいもの」

大和「矢矧……」

矢矧「貴女達は? 今回ばかりは全員の意思を尊重するわ。例え逃げるとしても絶対に恨まないし、むしろ随伴しなければ良いと思ってる」

響「私は、もう置いて行かれたくない」

朝霜「アタイが逃げる訳ネェだろ!」

浜風「浜風もお供します」

磯風「私もだ。逃げるつもりなどない」

雪風「命令ですから」

霞「馬鹿ばっかね……私も付き合うわよ」

初霜「…………最期まで見届けます」

浦風「…………」

矢矧「浦風?」

浦風「…………ウチは……死にたい……」

矢矧「浦風……」

浦風「ウチの所為で……ウチの所為で……」ガタガタ

浜風「恐らく浦風は私達が居なくなったらさらに壊れてしまいます……出来る限り安全な場所に居させれば……」

矢矧「離れれば結局心が死ぬか……分かったわ。出来る限り同伴して貰います」

浜風「すみません……」

428:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:12:34.52 ID:v0kXpseMO


朝霜「なあ、みんな。最期かもしれねえし、大和みたいな菊水のマークをアタイ達の煙突に描かねえか?」

大和「菊水? ああ、これですか」

朝霜「そうそう! 決死の証としてさ! どうよ?」

霞「いいんじゃない?」

響「賛成」

磯風「いいんじゃないか」

浜風「いいですよ」

初霜「…………やはりそうなるのね……」

朝霜「なんだ? 嫌なのか?」

初霜「いえ、賛成です」

朝霜「あとは浦風は……しょうがないとして、雪風は?」

429:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/02(日) 23:29:45.69 ID:v0kXpseMO


【安価】

菊水を煙突に
1.描く
2.描かない

安価方法
明日、8/3(月)の22:00以降の解答で先に3票取った方のルートに分岐します。

・解答方法は番号でも内容でも大丈夫ですが、その他の番号や内容の場合は対象外です。
・22:00より前の解答は対象外です。あくまでも22:00の0秒以降が対象になります。
・同じIDがあった場合、最初の解答以外は対象外になります。(出来れば飛行機でのID替え等はお控え下さい)


この分岐で雪風にとってハッピーエンドになるかバッドエンドになるかが決まります。
「今回の分岐で選ばれなかった方の物語」に関しましてはアナザーストーリーとして書くつもりはございませんので、ご了承願います。

ちなみにこのエピソードに関しては、wikiのとある駆逐艦のページに載っておりました。多少は参考になるかと思います。

では、また明日!


430:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/02(日) 23:35:27.86 ID:XD22YbOoO


乙です 1

433:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/03(月) 22:04:05.69 ID:2pzJLBPnO


1

434:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/03(月) 22:05:33.09 ID:ioCAdnQC0




435:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/03(月) 22:05:34.16 ID:prG8Y+se0


1

436:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/03(月) 22:06:25.96 ID:KOUltxwt0


1

438:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/03(月) 22:12:00.00 ID:qjlJ6QyDO


すみません。締め切りです

1番のルートへ向かいます。2番を選んで下さった方、すみません……

今から1時間以内にある程度書けたら今日中に投稿します。無理だった場合はまた後日で……

また来ますね!


439:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/03(月) 23:14:55.78 ID:qjlJ6QyDO


雪風「いいですよ」

朝霜「よし! なら、一人だけ省くのは良くねぇから浦風のにも描こう! これで全員お揃いだな!」

浦風「…………」

矢矧「大和、いいのかしら?」

大和「はい。これくらいならば」

矢矧「そう」

響「いいな……みんなでこうやって何かをするのは……」

初霜「はい……」

霞「私のは描けたわ……って、朝霜。あんた何描いてるのよ!」

朝霜「何って菊水の……」

霞「信じられない! そんなんじゃないわよ!! ほら、貸しなさい!」

朝霜「おぉっ! ありがたい!」

霞「絵のセンス皆無ね。それでいてよくこんな事言い始めたわね! 出来たわよ」

朝霜「凄え!! 上手いじゃねえか!」

霞「ふん! こんなの当たり前よ! 浦風のにも描いておくわよ」

浦風「…………」

霞「…………よし」

浦風「…………」

霞「浦風……辛かったらいつでも離脱しなさいよ。それだけは心に留めておいて……」ボソッ

浦風「…………」

霞「他の子で描けない子はいるの? こんなのに時間かけるのは勿体無いから私に貸しなさい!」

磯風「では頼んだ」

霞「あんた……ほら、出来たわよ」

磯風「助かった。感謝する」

霞「もういないわね?」

440:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/03(月) 23:15:22.22 ID:qjlJ6QyDO


大淀「ちょっと待って下さい!」

矢矧「大淀!? どうしたの?」

大淀「良かった……間に合った……雪風、これを」スッ

雪風「これは?」

大淀「天津風からの手紙です。読んで下さい」

雪風「っ!?」

大淀「大和、まだ大丈夫ですか?」

大和「はい」

大淀「ならば今読んであげて下さい。今しか読む事が出来ないかもしれないのですから」

雪風「私は……」

大淀「読んで下さい」

雪風「……分かりました」

カサッ

441:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/03(月) 23:16:00.63 ID:qjlJ6QyDO


拝啓 雪風様

桜前線の待ち遠しい今日この頃、お元気でお過ごしですか。今、私が滞在しているシンガポールは日本よりも暑く、これから段々と過ごし辛い時期へと移り変わって行くところです。私が日本に戻る頃には桜が丁度満開になっているのかもしれませんね。その時が楽しみです。

少々前置きが過ぎましたね。雪風に報告したい事があります。ようやく私の艤装の修理が完了しました。貴女と離れ離れになって永い永い時間が過ぎた様な気がしますが、実際にはそれ程離れていなかったりするみたいです。時間って不思議なものね……

いけない、また話が脱線してしまったわ。あと少ししたら私は横須賀に戻ります。もしかしたら、この手紙が届く頃には出発してるかもしれません。この手紙を雪風が読む前に私が横須賀に戻ってしまったらどうしましょう。ううん、ちゃんとそれまでに着いている筈ね。大丈夫。

雪風にお願いがあります。私が横須賀の港に着いたら一番に雪風が私の事を迎えて下さい。私は最初は貴女に言いたいの、「ただいま」って。私はずっと雪風に逢いたかったんだもん。ずっと離れ離れなんて辛かった……

離れている間、雪風に色々なことがあったと思います。そして、私にも積もる話はいっぱいあります。私が帰ったら沢山沢山お話ししましょう。

じゃあ、続きは横須賀でね。再会の時を心より楽しみにしてます。

敬具

天津風

442:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/03(月) 23:16:48.96 ID:qjlJ6QyDO


雪風「天津……風……」ポロポロ

浜風「良かったですね、雪風」

雪風「私は……私は……」

磯風「また雪風と天津風が十六駆逐を結成するのか、十七駆逐に天津風が加わるのかは分からんが、良かったな」

雪風「うぁぁ……あまつ、かぜ……! あまつかぜぇ!!」ポロポロ

矢矧「大淀、ありがとう。感謝するわ」

大淀「いえ、私はただこれを持ってきただけですから」

矢矧「それでもよ。でも、もう行かなければならないわ……大和」

大和「みなさん、行きましょう……沖縄へ……」

………………………………。

448:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/08(土) 22:19:50.84 ID:tPQpj9rEO


響「初霜、顔色が良くないよ。何かあったの?」

初霜「響さん」

響「なんだい?」

初霜「……そろそろなんです」

響「そろそろ……ああ、確か朝霧が……」

初霜「はい……機関の故障を起こして艦隊から落伍します」

響「そういう事か……大体予想は出来たけど、初霜は何に迷っているのかな?」

初霜「本当ならば私は命をかけて他のみんなを救いたい。ですが……」

響「今の鎮守府の状態、かな?」

初霜「そうです。響さんは今の鎮守府はどう思いますか?」

響「……最悪だね」

初霜「私も同感です。大将やその部下は何かある度、いえ……何もなくとも私達に暴力を振るいます。そして、多くの方々が奴等に無理矢理犯されました。ずっと気丈に振舞っている大和さんや矢矧さんも犯されたと聞きます。今やあの場所は地獄です。あの惨劇を知っている人ならば、誰一人としてあの場所に帰りたいと願う方はいないでしょう」

響「そうだね」

初霜「果たして生きてあの場所に帰る事が『幸せ』なのでしょうか? それともここで死んであの地獄に戻らずに済むことが『幸せ』なのでしょうか? 私には分からないんです」

響「難しいね……生きるという事を幸せと定義する人がいる。その一方で苦しみから逃れる事を幸せと定義する人もいる」

449:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/08(土) 22:20:35.59 ID:tPQpj9rEO


初霜「響さんはどう思いますか? 生き残ってでもあの場所に帰りたいですか? あの苦しみから解放される為に死にたいですか?」

響「初霜はどっちがいい?」

初霜「私は…………分かりません……」

響「そうか……初霜には悪いけど、私はそのどちらでもないかな」

初霜「どういうことですか?」

響「そうだね……私は生きなければならないんだ。私が死んだら暁や雷、電がここに居たという証が消えてしまうかもしれない。彼女達を語り継ぎ他者の中に残す人が居なくなるかもしれない。私は一人はもう嫌だ。みんなの後を追いたい。だけど、それよりも彼女達の記憶がこの世から抹消されるのはもっと嫌なんだ。だから私は沈む訳にはいかないんだ」

初霜「響さんは他人の為に沈みたくないってことですか」

響「うん。例えその先が地獄でも」

初霜「ありがとうございます。ならば私はみんなを護った方が……」

響「ちょっと待ってくれ。あくまでも今のは私だけの考えだよ。他の人が皆そうとは限らない。ここにいる全員が日常的に理不尽な暴力に晒されて、更に強姦される毎日に耐えれるとは到底考えられない。あそこでは心を休ませる事が出来る筈がない」

初霜「では、私はどうすれば……」

響「どっちを選んでもそれはエゴの押し付け以外の何物でもないよ。仲間を護りたい、助けたいという気持ちは分かる。だけど、それを望むか望まないかは人それぞれなんだ」

初霜「私には何も出来ないの……?」

響「選択には覚悟が必要だ。例え助けた相手から怨まれ、嫌われ、蔑さまれてでも後悔しないと思う事が出来たのならば、その選択に則ればいいと思うよ」

初霜「分かりました……ありがとうございます響さん」

響「ううん。私は初霜の悩みを解決させる事が出来ないどころか、もっと混乱させた。申し訳ない」

初霜「いえ、本当にありがとうございました。現時点では分かりませんが、私は後ほど後悔しないで済むように、やりたいようにやってみようと思います。例えそれが自己満足だとしても」

響「うん。それがいいと思う」

………………。

450:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/08(土) 22:21:17.75 ID:tPQpj9rEO


朝霜「あ? あれ!? なんだよこれ!?」

初霜「!!」

響「これか……」

大和「どうかしましたか?」

朝霜「まさかこんなところでガタが来るなんてね……流石に無理し過ぎたか……」

矢矧「何があったの?」

朝霜「機関が故障した。これだと精々10ノット程度しか出せない」

霞「朝霜……あんた!」

朝霜「あたいの事は置いていってくれや。なあに、ちゃんと後ろから付いて行くから安心してくれよ」

浦風「…………」

朝霜「みんなすまねえ。あたいの事は気にしないで行ってくれよ。頼むからさ!」

大和「朝霜。貴女には戻るという選択肢があります。まだ大隅半島とそれほど離れていません。出来れば退却を」

朝霜「断る! あたいは誇り高く散りたくてこの闘いに参加しているんだ!! あんな糞野郎共の遊び道具にされる位ならあたいは今すぐここで死んでやる!」

大和「……分かりました」

朝霜「んじゃ、またな。武運を祈るよ」

初霜「朝霜」

朝霜「ん? なんだい?」

初霜「……さよなら」

朝霜「ああ。またな!」

…………。

451:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/08(土) 22:21:48.52 ID:tPQpj9rEO


坊ノ岬沖

大和「針路変更します。取り舵いっぱい、沖縄への針路に戻して下さい」

矢矧「大和」

大和「はい」

矢矧「さっき私達の上空を飛んでいた敵艦載機にもう発見されていて、情報は向こうに渡った筈。……分かってるわね?」

大和「はい。そろそろ敵艦載機群が襲来するでしょう」

矢矧「それも、波状攻撃になるでしょうね」

大和「怖くなりましたか?」

矢矧「まさか。二水戦の旗艦がそんな事を恐れる訳が無いわ」

大和「頼もしいです」

矢矧「褒めたって何も出ないわよ?」

大和「事実ですから」

矢矧「ありがと」

大和「……対空電探に感あり。敵編隊を発見しました」

矢矧「大和……」

大和「矢矧、覚悟して下さい」

矢矧「ええ。分かってる」

大和「全艦にお知らせ致します。敵の編隊が接近中です。次の命令と共に対空射撃を始めて下さい」

矢矧「二水戦全艦対空射撃準備!」

大和「対空射撃、撃ち方始め!」

452:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/08(土) 22:22:30.34 ID:tPQpj9rEO


朝霜「大和、聞こえるかい!?」

大和「聞こえますよ! ですが、こちらは対空戦闘に入ってますので、手短にお願いします!」

朝霜「あたいの方にも敵の編隊が向かって来てる。対空戦闘に入るぜ!」

大和「了解しました。そちらは頼みますよ」

朝霜「ああ、あたいに任せな! 絶対に引き付けてやっからさ!」

大和「朝霜。貴女は後悔なき様思う存分闘って下さい」

朝霜「あたぼうよ! あんがとな、大和! またな!」

大和「はい。また」

ブツッ

大和「私も後悔はしたく無いものですね。一番、二番主砲に三式弾装填! 仰角最大! 薙ぎ払え!!」ズドーン!!

大和「……戦果なしですか……良いでしょう。高角砲、全砲門一斉射!!」ズドン ズドン ズドン

453:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/08(土) 22:22:58.84 ID:tPQpj9rEO


矢矧「大和! 敵機直上!! 爆撃が来るわよ!!」

大和「取り舵一杯!」

ヒューン ズドーン!

大和「くっ……」

矢矧「被害は!?」

大和「二発爆弾の直撃を貰いましたが軽微です」

矢矧「そう? ならまだ闘えるわね」

大和「勿論です。矢矧、聞いて下さい」

矢矧「何?」

大和「私、とても幸せです。私は闘いの中で傷付き、痛みを感じ、死に逝く事が出来るのですから」

矢矧「同感よ」

大和「敵攻撃機が艦隊の左右から接近。私を狙っているのね」

矢矧「輪形陣外周に位置する駆逐艦は接近中の敵攻撃機を撃墜して」

浜風「ダメです! 敵の数が多過ぎます!」

磯風「敵の艦攻が輪形陣内部に進入! まずい、爆撃機も進入したぞ!!」

雪風「こちらも突破されました!」

矢矧「挟撃来るわよ!」

ズドーン!!

浜風「大和さん!」

矢矧「無事!?」

大和「このくらい……っ!? 矢矧、前!! 浜風も!!」

矢矧「これなら躱せるわ!! 浜風!!」

浜風「あっ……」

ヒューン ズドーン!

454:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/08(土) 22:23:38.92 ID:tPQpj9rEO


浜風「……」バシャッ

磯風「浜風! おい、浜風!!」

雪風「浜風、機関停止。 意識も無くなってます」

初霜「矢矧さん、攻撃機が接近してます!」

矢矧「これは……回避は無理ね」

ズドーン!

矢矧「くっあぁぁ!」

響「矢矧さん、大丈夫?」

矢矧「機関停止。航行不能……でも、まだ戦えるわ」

磯風「浜風! 目を覚ませ!! 浜風!!」

雪風「磯風危険です、離れて下さい」

磯風「断る! おい浜風!! 何をやってるんだ目を覚ませ!!」

初霜「磯風さん、浜風さんは爆発する可能性があります! 近寄ってはいけません!」

浜風「う……」パチッ

磯風「浜風!! 目が覚めたか!?」

雪風「ダメです!」

浜風「磯か……」

ボンッ ズドーン!!

磯風「浜風?」

雪風「……っ」

磯風「嘘だろ……浜風……」

響「事実だよ。これは事実だ」

浦風「…………」

大和「響さん、上空に爆撃機!!」

響「なんだって!? そうか、私は……」

ヒューン ズドーン!!

459:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 10:45:46.71 ID:8kAgnnYuO


初霜「響さん!? どうして!?」

響「初霜……私は……涼月の代わりらしいよ……」

大和「響、どうしますか? かなり難しいですが、撤退という選択がありますよ」

響「私はまだ死ぬ訳にはいかない。撤退するよ」

大和「分かりました。無事を祈ります」

響「うん……」

初霜「響さん……」

響「鎮守府で待ってるよ」

初霜「はい……」

響「みんな……すまない……Счастливо」

大和「航行不能の矢矧以外は輪形陣を再形成。第二波に備えて下さい! 直ぐに来ます」

矢矧「みんな、絶対に悔いは残さないようにしなさい」

磯風「駄目だ……感情的になってしまっては駄目だ……落ち着くんだ……磯風……!」

浦風「…………」

雪風「…………」

霞「この馬鹿……!」

…………。

460:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 10:46:14.65 ID:8kAgnnYuO


大和「来ました! 第二波接近中! 数は約50! 対空戦闘準備!!」

雪風「高射装置起動済みです。何時でも対空戦闘可能です」

矢矧「こちらでも確認したわ。死ぬまで戦い続けてみせる」

磯風「矢矧……」

浦風「死ぬ……」ボソッ

霞「散開し始めたわよ!! 大和、号令を!」

大和「砲撃始め!!」

……。

霞「何なのよこの量は!! ありえない!!」

ズドーン!

大和「くっ! 4番、5番機銃が大破! 今度は攻撃機……取り舵一杯!!」

ズドーン!!

大和「ああっ!! 左舷に浸水発生!! 注水開始!!」

磯風「霞! 逃げろ!!」

ズドーン!!

霞「あぁぁぁあぁあああっ!!」

磯風「霞!!」

霞「許さない……絶対に許さないんだからぁ!!」

磯風「霞! 浸水している! 応急処理を!」

霞「敵の手にかかるくらいならっ!」

磯風「駄目だ! 早まるな!!」

霞「深海棲艦も人間共も全員呪い殺してやる!! 絶対に!!」

磯風「か」

ズドーン!!

磯風「もう駄目だ……もう耐えられない……!」クルッ

雪風「何をするつもりですか?」

磯風「ずっと耐えてきた。だが、もう無理だ……見棄てるのはもう嫌だ! 私は矢矧を助けに行く!」

461:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 10:46:44.99 ID:8kAgnnYuO


雪風「無謀です」

磯風「それでも私はもう自分自身を殺したく無い」

雪風「貴女がいなくなれば戦力の低下に繋がります」

磯風「それでも最期くらいは我を通したい。こんな死に逝く為だけの作戦なんだ。大和や矢矧も言っているが、悔いを残したくない」

雪風「それが自分よがりの偽善だとしても?」

磯風「そうだ。この磯風は今まで感情に流されず合理的な判断の上で闘って来た。例え仲間を見棄てる事になろうともな。だからこそ最期くらいは好きにしたい」

雪風「止めても無駄な様ですね」

磯風「ああ」

雪風「好きにして下さい」

磯風「そうさせて貰おう」

雪風「…………」

磯風「感謝するぞ、雪風」

462:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 10:47:12.71 ID:8kAgnnYuO


ズドーン!!

矢矧「ぐっ……! この!!」ズダダダダ

矢矧「はあ……はあ……ここまで、か……」

ヒューン

磯風「矢矧!!」ズダダダダ

ズドン

矢矧「磯風?」

磯風「どうやら間に合った様だな」

矢矧「何故此処に来たの? 私は救援に来いなんて命じていない筈よ」

磯風「そうだな。だが、それでも来た」

矢矧「理由を答えなさい」

磯風「磯風がそうしたかったからだ。最期くらい好きな様にしたい」

矢矧「……そう。なら、あと少しの時間だけど付き合って頂戴」

磯風「無論だ」

…………。

463:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 10:48:15.11 ID:8kAgnnYuO


磯風「大和……聞こえるか?」

ザー

磯風「大和? おい、大和!」

ザー

磯風「初霜! 聞こえるか初霜!」

初霜「聞こえますよ」

磯風「大和と通信が通じない! 一体何が起きてる!」

初霜「大和さんは通信関連の機器が被弾し使用不可になってます」

磯風「そうか……」

初霜「磯風さんは矢矧さんの救援に向かったと雪風さんから聞きましたが何かありましたか?」

磯風「矢矧が沈んだ……壮絶な討ち死だった」

初霜「そうですか……そして、磯風さんの身にも何か起きていますね?」

磯風「……9ああ。敵機の攻撃により浸水が発生し機関が停止した。航行不能だ」

初霜「……分かりました。あと少し頑張って下さい……もう、終わる筈ですから」

磯風「……どういう事だ?」

初霜「言えません」

磯風「何故だ?」

初霜「言えません」

磯風「……どうしてもか?」

初霜「はい……」

磯風「分かった……もう詮索はやめよう」

初霜「ありがとうございます」

磯風「あとは、頼んだ」ブツッ

465:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 10:49:54.44 ID:8kAgnnYuO


雪風の眼に映った大和の姿は壮絶極まりないものであった。

もう殆ど機能していないだろう主機に鞭を振り、
破壊尽くされた対空火器の生き残りを全て使い、
一機でも多くこれから向かう世界へ送り届けようと数の暴力に抗い続けていた。

敵の戦闘機が機銃やロケット砲で彼女の武装を破壊し、
爆撃機は彼女の身体を焼き、
攻撃機は雷撃で彼女の命に深い傷を刻み続けていた。

だが彼女の顔には苦悶の表情は無く、それどころか恍惚としたそれを浮かべていた。

敵の戦闘機が彼女に近付き攻撃する度に彼女を護る針は消えた。

もう限界であった。執拗に左舷へと魚雷を叩き込まれた為、彼女の身体は左へと傾いていく。

そこへ敵機から放たれた一条の白い航跡が吸い込まれた。

空を裂く轟音と共に大和の命は奪われた。

左へと徐々に、そして確実に傾いて逝く大和の眼が彼女を見続ける雪風を捕らえる。

大和は精一杯の笑みを浮かべ、全艦撤退の一言を口にし……

消滅した

469:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 17:51:57.66 ID:403uEWNfO


磯風「修理不可能……自力での航行は無理だな……ここまでか」

雪風「……お待たせしました」

磯風「雪風? 浦風も」

雪風「曳航します」

磯風「何故だ。私はもう航行はおろか、弾切れで何一つ出来ないお荷物だ。置いて行くがいい」

雪風「いえ、曳航します。敵機の追撃が来てしまうので急いで下さい」

磯風「それならば尚更だ。行ってくれ」

雪風「これは鎮守府の戦力維持の為です。今貴女が沈んだら戦力の更なる低下に繋がります」

磯風「お前らしく無い。私の曳航によって、今健在な雪風と浦風、そして初霜が沈むリスクの方が高い。少なくとも合理的な判断をするのならば私を曳航するという選択はあり得ない」

雪風「私は鎮守府の為に!」

磯風「違うな。それは雪風の意志だ」

雪風「違います!! 私は鎮守府の為に貴女を!!」

磯風「恐いのだろう? これ以上自分の周りの者が沈むのが」

雪風「っ!? そ、そんなことありません!!」

磯風「初風、時津風、神通、矢矧、浜風、そして次は私がお前の側から消えて行った。お前は浦風の様に自分が作り出した空に籠るという選択もあった筈だ。しかし、お前は闘いから逃げ出す事は選ばなかった。その代わりにお前は、自分が傷付く事を恐れ感情や意志を抑えようとした」

雪風「違う! 違う!! 私は兵器!! 感情なんて持つべきではない!! 感情は判断を鈍らせ、その人を壊す!! そんなの要らない! 要らないんです!!」

磯風「ふふ……雪風、お前はやはり兵器になり切れなかった様だな。浦風」

浦風「…………」

磯風「雪風を頼むぞ。お前が護ってやってくれ」

470:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 17:52:23.13 ID:403uEWNfO


浦風「!?」

磯風「浦風?」

浦風「駄目……」

磯風「浦風どうした!?」

浦風「また……見殺しに……!!」

磯風「浦風一体何が!?」

浦風「雪風邪魔じゃ!!」ドンッ サッ

雪風「うっ!?」

浦風「これで、ウチ、みんなを護れるんじゃね……」

ズドーン!!

雪風「え……?」

磯風「魚雷……だと? 潜水艦!!」

雪風「嘘……嘘……嘘……嘘……」

磯風「逃げるんだ雪風!! 私を曳航なんてしていたら死ぬだけだ!! いや……雪風!」

雪風「嘘……嘘……嘘……嘘……嘘……嘘……」ガタガタ

磯風「雪風!! 今すぐ私を雷撃処分してくれ!! 死ぬなら雪風に介錯して欲しい!」

雪風「そ、そんな事出来るわけ無い!!」

磯風「頼む! 魚雷を放ったら直ぐに逃げてくれ!!」

雪風「嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! もう仲間を喪うのは嫌だ!! 私の所為で死ぬのは嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!!」

磯風「私の事は気に病むな! これは私の願いなのだ!! 頼む!! 急いでくれ!!」

雪風「嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!!」

シュー

磯風「!? 敵が魚雷を撃った!! 頼む!! 速く!!」

雪風「う、うわぁあぁぁあぁぁあああああ!!!!!!」バシュッ

磯風「ありがとう」ニコッ

ズドーン!!

471:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 17:52:54.74 ID:403uEWNfO


また仲間を!! 仲間を殺してしまった!!

仲間を殺してしまった!!

私が殺した!! 私が殺した!! 私が殺した!! 私が殺した!! 私が殺した!!

また私の所為で仲間が死んだ!!

なんで!? なんで!!? ねえ! どうして私ばかりこんな目に遭うの!!?

もう嫌だ!! 嫌だ!! 嫌だ!! 私の所為で人が死ぬのは嫌だ!!

もう一人は嫌だ!! 一人は嫌だ!!

助けてよ天津風!! 私を助けてよ天津風!!

天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風天津風

助けて!! 私を助けて!!

助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!!


天津風!!!!!!

472:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/09(日) 17:53:24.86 ID:403uEWNfO


横須賀

初霜「只今戻りました」

大淀「ゲホッ、お帰りなさい……」

初霜「大淀さん……大丈夫ですか?」

大淀「私は大丈夫……だけど……」

雪風「天津風は! 天津風はどこですか!?」

大淀「っ……」

雪風「天津風は帰って来ていますよね? 合わせて下さい! 天津風に合わせて下さい!! 早く!! 早く!!」

大淀「雪風、落ち着いて聞いて」

雪風「天津風は!? 天津風は何処!!? 何処なんですか!!? 天津風!! 天津風!!」

大淀「天津風は…………戦死したわ」

雪風「大淀さん……何、を言っている……んです……か? 冗談ですよね?」

大淀「天津風は……アモイで戦死しました。それは見事な死を……」

雪風「嘘を言うな!!」ガッ

大淀「事実です。これが真実なんですよ」

雪風「嘘だ!! 嘘だ!! そんなの嘘だ!! 天津風は、天津風は手紙に書いてたんです!! 再開の時を楽しみにしているって!! 嘘だと言って下さい大淀さん!! 嘘だって言って下さい大淀さん!! 嘘だって言ってよ!!」

大淀「やめて……もう、やめて……!!」

雪風「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」バタンッ

初霜「雪風!!」

大淀「今直ぐ自室へ!!」

初霜「医務室ではないのですか!?」

大淀「あそこに行ったらもっと悪化するから! 早く!!」

初霜「はい!!」

………………………………

………………

……

477:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 10:54:10.91 ID:BjJ+yPkkO


コンコン

初霜「雪風さん……起きてますか?」

雪風「…………」

初霜「私と雪風さんに出撃命令が下されました。陸路で舞鶴へ赴き、輸送艦と合流。そのまま大湊まで輸送艦を護衛とのことです」

雪風「私が護衛?」

初霜「はい」

雪風「あははははははは!!」

初霜「雪風さん?」

雪風「無駄です。どうせ死にます。みんな死にます。私以外全員死ぬんです。みんな死ぬんですよ」

初霜「雪風さん……」

雪風「私は死ねない。私は死ねない。私は沈みたくても沈めない! 私は死ぬことが出来ない」

初霜「…………ねえ、雪風さん……」

雪風「死ねない……死ねない……」

初霜「雪風さん!」

雪風「私は……」

初霜「雪風さん……もう苦しむのは終わりにしましょう」

雪風「え……?」

初霜「次で貴女が苦しむのは最後になる筈です。安心して下さい」

雪風「どうして……」

初霜「私、やっと分かりました。私が生まれ変わったのは貴女を救う為だったのかもしれません」

雪風「初霜……一体何を?」

初霜「行きましょう雪風。最後の任務へ……」

………………………………。

478:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 10:55:47.27 ID:BjJ+yPkkO


雪風さん

……なんですか?

これまで私も雪風さんも色々ありましたね

…………

貴女の苦しみについて私は殆ど知ってます。どれだけ貴女が苦しんだのか私は知ってます

…………

貴女が幸運であるが故に、幸運の対価を支払わねばならない。それが世の中の真理です

っ……

幸運の持ち主にとってそれは自分が殺したかの様に思えてしまうでしょうね

……はい

でもね、それは違うんですよ……

違う?

はい。だって……

それが運命だったのですから

…………

それに、みんな消えてしまった訳ではありません

消えてない?


みんなは私の、そして貴女の奥底に生きているのですから

……そんなの綺麗事です

そうかもしれません。ですが、貴女の中には今まで散っていったみんなの記憶が残っていますよね?

…………

全ての人からその記憶が消えた時にその人は死ぬ事になるんです。でも、覚えてさえいれば……

────いつか、また廻り逢う時が来るかもしれませんね────

479:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 10:57:08.42 ID:BjJ+yPkkO


舞鶴

初霜「輸送艦の皆さん、この度護衛をさせて頂く初霜と雪風です。どうかよろしくお願いします」

乗組員「おう、よろしく頼むって……ん?」

初霜「どうかしましたか?」

乗組員「雪風……どっかで聞いた気が……あ、ああ!」

初霜「雪風がどうかしましたか?」

乗組員「おい、お嬢ちゃん!! 俺だ俺! 覚えてるか!?」

雪風「…………ぁ」

乗組員「やっぱりお前さんか!! 久しぶりだな!! まさかまた会えるとは思ってなかったぞ!」

雪風「あの時の……!」

乗組員「そうだ! 覚えていてくれたか! お嬢ちゃん達に助けてもらった時の事、ずっと感謝してるんだぜ!!」

雪風「あ……あぁ……い……」

乗組員「ん? なんだ?」

雪風「い、生きてた……!! 私は殺すだけじゃなかったんだ……!!」

乗組員「お、おう? 俺らは生きてるぞ?」

雪風「良かった……! 良かったです! 本当に良かった!!」

乗組員「そうかそうか。大変だったんだな、お嬢ちゃんも」ナデナデ

雪風「うぁぁぁぁぁぁ!」

乗組員「ほら泣きやめ……今回も頼むぞ。今日護衛して貰うのはお嬢ちゃん達が護ってくれた佐渡丸だ」

雪風「グスッ……はい……はい!」

乗組員「んじゃ、頼むぞお嬢ちゃん!」

雪風「はい!」

480:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 10:57:49.22 ID:BjJ+yPkkO


宮津湾

乗組員「さーて、今回もちゃんと大湊へ辿り付く事は出来るかな」

初霜「佐渡丸の皆さん、少しお話しをして宜しいでしょうか?」

乗組員「ん、何だ?」

初霜「確証はありませんが、もうすぐここに敵の爆撃機や攻撃機が飛んでくるでしょう」

乗組員「ほう……続けてくれ」

初霜「私が囮になります。佐渡丸の皆さんは雪風と共に最大速で海域を離脱して下さい」

乗組員「お前さんはどうなる? 場合によっちゃぁ許可出来ねえぜ」

初霜「私は大丈夫です。気にしないで下さい」

乗組員「死ぬつもりか?」

初霜「いいえ、私はここで最期を迎えるんです」

乗組員「気が向かねえな。嬢ちゃんの犠牲で助けて貰うのはよぉ」

初霜「いえ、私は皆さんや佐渡丸の生死に関わらずに沈みます」

乗組員「何故そんな事が分かる?」

初霜「極秘です。口外出来ません。ですが、これだけは言わせて下さい……絶対に雪風は佐渡丸の護衛につけて下さい」

乗組員「どういう事だ?」

初霜「あの子は沢山……本当に沢山の仲間の死を見てきました。もうこれ以上は誰かの死を目の当たりにさせたく無いんです。だから……私が護衛から離れても雪風は引き止めて下さい」

乗組員「……分かった」

初霜「ありがとうございます……では、時間がありませんので行きますね」

乗組員「ああ……」

481:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 10:59:10.26 ID:BjJ+yPkkO


初霜「雪風さん、聞こえますか?」

雪風「はい」

初霜「今から私は対潜警戒の為に一時隊列から離脱します。雪風さんは佐渡丸と一緒に大湊へ向かって下さい」

雪風「分かりました」

初霜「佐渡丸の皆さんも雪風さんと共に行動をお願いします」

乗組員「……ああ」

初霜「では、行って来ます。雪風さん、お気をつけて下さいね」

雪風「はい」

初霜「では、後はお任せします」

…………。

初霜「来ましたね……」

初霜「私が敵機を少しでも長い間引きつけます。だから……無事に逃げ切って下さいね……雪風……」

初霜「対空戦闘開始!! 初春型駆逐艦4四番艦初霜、押して参ります!!」

………………。

482:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:00:02.23 ID:BjJ+yPkkO


ズドーン!!

雪風「爆発音!? 今のは!?」

乗組員「くそったれ!」

雪風「初霜! 初霜! 応答を!」

ザー

雪風「駄目、か……」

乗組員「おい、お嬢ちゃん。どうする?」

雪風「…………」

乗組員「お嬢ちゃん!」

雪風「…………必ず護りますから。必ず」ボソッ

雪風「佐渡丸の皆さん。目的地まで最短距離で、なおかつ最大速で逃げて下さい。私が何があっても貴方達を護り抜きます」

乗組員「分かった。だが、回避の為には進路を変える必要がある」

雪風「大丈夫です。私が全部引き受けますから」

乗組員「分かった。信じよう」

雪風「では、すぐに増速をして下さい」

乗組員「了解だ。嬢ちゃん……絶対に死ぬなよ」

雪風「それは無理でしょう。ただ、私は私の命を懸けて貴方達をお護りしますから」

乗組員「なっ!? 何故だ! 何故そのような事を言う! 最初から死ぬ事を考えるんじゃねえ!!」

雪風「私はもう既に死んでいる様なモノなんです」

乗組員「っ!?」

雪風「私は決死の覚悟を決めたあの戦いでみんなと一緒に死ぬべきでした。ましてや、天津風も死んでしまった今となっては生きる意味はもうありません。ただ……」

雪風「貴方達をお護り出来るのならば、今まで生きてきた意味はあったのかもしれないと思えます。ありがとうございます……私は貴方達のお陰で、少しだけ救われました。少しだけかつての私を見つける事が出来ました」

乗組員「やめろ! そんな事を言わないでくれ!」

雪風「敵が来ます。さようなら、佐渡丸の皆さん。さようなら……いつかのおじさん」

乗組員「雪風!!」

雪風「ここは絶対に通しません!! 絶対に!!」

483:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:02:53.40 ID:BjJ+yPkkO


雪風「敵爆撃機補足!! 10cm高角砲標準合わせ! 発射!!」ズドン!!

雪風「一機撃退! 全機銃は佐渡丸上空に弾幕展開!」

雪風「敵爆撃機爆弾を破棄! 次、6時の方角から来る艦爆群!!」

ヒューン バッシャーン!!

雪風「今度は雪風を狙って来る様ですね。 なら、もっと来て下さい!!」

…………

乗組員「おい、あれなんなんだよ……」

乗組員「悉く、あの子に命中した爆弾が爆発しないだと……」

乗組員「いいや、至近弾や機銃で傷ついている……」

乗組員「お嬢ちゃん……がんばってくれ……死ぬな……」

…………

ヒューン バッシャーン!

雪風「うあっ!? 右舷タービンが!」

雪風「でも、まだ闘えます!! 当たれ!!」ズドン! ズドン!

バシュッ

雪風「敵艦爆一機撃墜! あと少し!!」

ヒューン

雪風「急降下! 面舵一杯!」

バッシャーン

雪風「あっ! あぁぁ!!」

雪風「まずい!! 缶が!! あっ!!?」

ヒューン ズドーン!!

雪風「うっぁぁぁ……!」

雪風「ま、だ……まだ……たたかえま……す」ズドン!

ズダダダダ

雪風「くっ…………き、じゅうが……」チラッ

雪風「ぜったい、に……まも、る……」

ヒューン ズドーン!!

………………。

484:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:03:21.67 ID:BjJ+yPkkO


雪風(全機撤退しましたね……)

??「お…………ん!! おい、………ん!!」

雪風(良かった……空襲から護りきることが出来た……)

雪風(あの乗組員の方々に報告をしないと……ですが、もう身体が言う事を聞いてくれない……)

??「お……! ……嬢……ん! 駄目……こん……ろで死……な!!」

雪風(誰かが……叫んでる……でも……よく聞こえませんね……)

雪風(何も見えない……何も聞こえない……ああ、そうか……これが沈むって事なんだ……)

雪風(やっと私は…………だけど……みんなとの誓いが……約束が……)

485:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:04:22.22 ID:BjJ+yPkkO


??「雪風……雪風」

??「起きてよ〜雪風〜!」

??「ほら、目を開けない、雪風」

雪風「っ!?」

初風「やっと目を覚ましたわね……」

雪風「天津風……!?」

時津風「起きた起きた〜や〜っと起きたね〜ほら遊ぼうよ〜雪風〜!!」

雪風「時津風!?」

初風「私もいるわよ」

雪風「初風!!」

486:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:04:53.96 ID:BjJ+yPkkO


雪風「何で……! どうして!? だってみんな……」

時津風「え〜だってね〜」

天津風「貴女の事、ずっと見てたのよ」

雪風「でも……でも……!!」

初風「落ち着きなさい。雪風はどうだったのよ? 私達に逢いたかったの? 逢いたくなかったの?」

雪風「逢いたかったです!ずっと、ずっと逢いたかったんですよ!! いつも! いつも!! いつもっ!! すごく苦しかったです! すごく寂しかったです! 本当に逢いたかったんですよ!!」

初風「うん……ほら雪風、こっち向きなさい」

雪風「はい……わっ!?」

初風「お疲れ様、雪風……本当によく頑張ったわね……」ギュー

雪風「初風……」

初風「ごめんね、雪風を一人にしちゃって。ごめんね、雪風を苦しめてしまって……」

雪風「そんなことないです!! 初風達の所為なんかじゃありません!!」

初風「ありがと。でも、雪風が苦しむのはもう終わり。貴女の呪いはもう解けたでしょ? 私達のお墓の前で自らに枷せた呪いを」

雪風「はい……はい!!」

初風「ほら、泣かないの」

雪風「でも、どうしてこんな奇跡が……」

初風「ずっとずっと雪風は一人で苦しんで来たんだもん。最期くらいこんな奇跡があってもいいんじゃない? それに貴女は……」

三人「幸運の駆逐艦なのだから」

雪風「みんな……!!」

初風「ほら、そろそろ行くわよ。みんなが待ってるわ」

天津風「うん。私達に付いて来るのよ」

時津風「ほら、もう離れちゃダメだよ〜!」

雪風「はい! 雪風はもう絶対に離れません!! ずっと……ずっと一緒です!!」

雪風「また廻り逢う事が出来たのですから!!」

487:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:05:32.08 ID:BjJ+yPkkO


雪風「また廻り逢う時まで沈まない」



TRUE END

490:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:37:12.72 ID:BjJ+yPkkO


安価の分岐についてお話ししたいと思います

安価の意味ですが、菊水の文字を煙突に描くか描かないかには二つの意味がありました

描く→決死の覚悟と脱史実
描かない→絶対に死なない、史実通り

では、何故坊ノ岬を生き残ったのかですが、それは「天津風の存在」があったからです。

雪風はお墓のシーンで死ぬ事が出来ない「呪い」を自らにかけます。ですが、菊水の紋を描くことにより「死」を受容してしまいます。しかし、その直後に天津風の手紙を受け取る事によりまた「生」を欲求してしまいます。その為坊ノ岬は生き残ることになりました。
坊ノ岬の後、雪風は天津風の死を知らされ、死を上書きした天津風の存在が消え、そこには「死」が残る事になります。
そして最後に、雪風の幻覚ではありましたが、呪いの原因でもあった三人と再会する事により雪風は完全に解放されました。

もしも菊水の紋を描かないを選んでいた場合、雪風は心を完全に抑圧し、兵器化してしまいます。そして、どんな損傷を受けても絶対に沈む事の出来ずに、延々と闘い続けるという内容になりました。


492:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:54:23.30 ID:BjJ+yPkkO


そして、この物語における設定を少しだけ

艦娘には漠然と「昔は艦艇だった」という記憶はありますが、詳細に関しては無意識の内に抑圧しています。それは、自分の死や仲間の死などといった辛い記憶がある為であり、無理矢理思い出させられると崩壊を起こしてしまいます。
ですが、改二となる事で崩壊する事なく記憶を取り戻す事が出来ます。

次に史実をへし折る原因についてですが、それは史実の影響を受ける艦娘の強い意志と状況の二つが揃った時に史実の影響から逃れる事が出来ます。

望月や三日月に関しては自分が沈んだ史実の作戦に参加しなかった為に生き残ってましたが、
浦風は金剛が作り出した死なない状況と死なないという意志の二つが揃った為に生き残る事が出来ました。

では、何故史実の作戦を行なわされていたのか……それはまたの機会のお楽しみで


因みに、今回世界観は最悪でしたし、大将などの謎をあえて残しております。なので、「別ルート」という形でそちらは補完します。暫くしたらこのスレ内で書き始めますね


493:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/15(土) 11:59:29.71 ID:BjJ+yPkkO


そして、最後にステマというかダイレクトマーケティングになりますが……
このSSのタイトル「また廻り逢う時まで沈まない」の元ネタであり、私がこれを書こうと思った原因であるキネマ106の「ながれぼし」が入ったアルバム「雪月花」が、明日のコミケで発売されます。メロンブックスの通販や店舗でも買えるので、もしもよろしければ(笑)


終戦記念日にとりあえずこの物語を完結出来て本当に良かったです。

そして、質問、感想、問題点等がありましたら今後もお答えします。是非コメントして下さい。

では、また来ますね!


498:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:29:39.98 ID:VUBCzY0JO


お待たせしました。これより雪風「また廻り逢う時まで沈まない」のアナザールートを開始します。

本編では雪風の変化や苦悩、史実をメインとした物語となりましたが、こちらのアナザーエンドは、世界観と提督がメインの物語になります。出来る限り雪風も描きたいとは思っていますが、少々難しそうです……。御容赦下さいませ。

なお、本編>>306から分岐しますが、流れが分かり易くなる様に10レスほど前から若干修正を加えつつ投下して行きます。

今日の更新はあまり多くはありませんが、物語がどの様な方向へ動くのかを掴んで貰えればと思っております。

では、お楽しみ下さい……


499:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:30:56.31 ID:VUBCzY0JO


ブルネイ

瑞鶴「……翔鶴姉ごめんね…………私が空を見てなんて言わなければ…………」

コンコン

瑞鶴「だ、誰!?」

金剛「私ネ! 金剛デース! 入りマスよ?」

瑞鶴「うん、どうぞ」

金剛「Hey 瑞鶴! 提督からLove letterが届いてるヨー!」ガチャッ

瑞鶴「………………提督さんから?」

金剛「イエース!」

瑞鶴「どうせ、今回の責任を取って旗艦の任を略奪とかでしょ……」

金剛「それはNo〜デスよ! これを読めば分かりマース!」スッ

瑞鶴「…………え!?」

金剛「分かりマシたか、瑞鶴?」

瑞鶴「どうして提督さんがここに来るの!?」

金剛「私には分かりマセん。But、瑞鶴が都合が良いように解釈しちゃえば良いのデス。提督が瑞鶴の事を心配シテ来てくれるとかデスね」

瑞鶴「でも…………」

金剛「マリアナは瑞鶴には辛すぎる出来事デシた。瑞鶴も沢山busyでショウ? 傷を癒す為にも提督とLove nightを過ごせば良いと思いマスよ?」

瑞鶴「金剛、いいの? 貴女も提督さんの事……」

金剛「何の事デスかネー?」

瑞鶴「そういえば、貴女は改二になってから提督さんにベタベタしなくなったもんね……もしかして、私の所為なの?」

金剛「それは違いマス。瑞鶴は勘繰りすぎデスね」

瑞鶴「ごめん……」

金剛「問題nothing! では、私はこれで失礼するネ!」

瑞鶴「あ、うん……」

ガチャッ パタン

………………………………

………………

……

500:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:33:31.18 ID:VUBCzY0JO


提督「やっと着いたか。長い船旅だった」

乗組員「足元にはお気を付け下さい」

提督「大丈夫だ。流石にお前達にこの様な事で心配されるのはどうかと思うぞ」

乗組員「へぇ」

提督「まあいい。私はブルネイの司令官に挨拶をして来る。その後、宿舎で艦娘達と会議をする。もしも何かあれば遠慮なく呼び出してくれ」

乗組員「了解です。中将、お迎えが来てますよ」

提督「ふむ」

長門「久しいな、提督よ」

提督「ああ。久しぶりだな、長門」

長門「すまないな……あのような結果で終わらせてしまい……」

提督「お前達は良くやってくれた。悪かったのは、あの作戦の命を下した私だよ」

長門「それは違うのだろうに」

提督「私の所為だ。それより、瑞鶴はどうした?」

長門「ああ、あいつはまだ部屋に籠っている。翔鶴の死がよっぽど響いているのだろう」

提督「分かった。また後程瑞鶴のところに行ってみるとしよう」

長門「提督よ、頼む」

提督「ああ。だが、先にブルネイの司令官に挨拶をして来るとしよう」

長門「了解だ」

…………………………。

501:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:35:37.21 ID:VUBCzY0JO


コンコン

提督「瑞鶴、いるか?」

瑞鶴「提督さん!?」

ガチャッ

提督「ほう、わざわざ開けてくれるとは……と、泣いていたのか?」

瑞鶴「うん…………」

提督「とりあえず入ってもいいか?」

瑞鶴「うん。どうぞ」

パタン

提督「ずっと泣いていたのか?」

瑞鶴「だって…………翔鶴姉を殺したのは私だもん……」

提督「他の者から話は聞いたが、それは違うだろう。お前は当たり前の事をした。その結果としては翔鶴の轟沈に繋がったのかもしれないが、お前の所為とは言えない」

瑞鶴「でも、生きていた翔鶴姉を見捨てたのは事実だもん!!」

提督「それはお前の思い込みだ。それに翔鶴はお前が離れた後すぐに息を引き取ったらしい。それでも見捨てたと言うのか?」

瑞鶴「そうよ! 私が見捨てなければ……」

提督「どうしてそうやって一人で背負い込もうとする? それを言い始めたらあの作戦を命じたのは私だ。恨むなら私を恨め」

瑞鶴「そんなの、出来るわけないじゃない!」

提督「何故?」

瑞鶴「だって……提督さんが…………」

提督「ならば、私をお前の感情の捌け口にすればいい。傷を癒すのは無理だが、それ位ならば私でも出来る」ギュッ

瑞鶴「ありがと……提督さん…………」ギュー

瑞鶴「う、うぅ……うわぁぁぁぁぁぁん!!」

提督「……辛かったな、瑞鶴……」ナデナデ

瑞鶴「翔鶴姉!! うわぁぁぁぁ〜!! 翔鶴姉!!」

………………………………

………………

……

502:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:36:58.34 ID:VUBCzY0JO


翌日

提督「すまないな、こんな朝早くに呼び出して」

金剛「こんなアーリーモーニングに、突然どうしたんデスか提督?」

提督「金剛、榛名。お前達に言っておきたい事があってな」

榛名「お姉さまと榛名にですか?」

提督「そうだ。特に金剛、お前には本当に長い間世話になったな」

金剛「提督?」

提督「榛名にも今まで世話になりっぱなしだったが、これからも面倒を頼む事になりそうだ」

榛名「一体どうしたのですか……?」

提督「今までずっと迷惑をかけてすまなかった。それに、比叡と霧島の二人を死なせたのは全て私の所為だ。本当にすまなかった……」

榛名「提督、一体どうして今……」

金剛「提督……まさか……!」

提督「金剛、私はお前よりも少し先に逝くことになりそうだ」

金剛「提督……どういうことですか!? 私よりも先ということは…………まさかレイテに!!?」

提督「察しがいいな。流石だ」

金剛「駄目です!! 提督が行く必要はありません!!」

提督「これは命令だ。私には抗え無い」

金剛「どうして!! どうして提督が死ななければならないのですか!!?」

提督「命令に抗おうとし続けたのが仇になったな」

金剛「それは私達を護ろうとしたからなのに!」

提督「だが、護れなかった。それが現実だ」

金剛「でも!! でも!!」

提督「いいんだ金剛。それに、私は安心しているんだ」

金剛「どういうことですか?」

提督「死ぬ事が出来れば私は他の子を死なす為の命令を下さなくて済む……ハハ、司令官失格だな」

金剛「提督……」

503:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:37:41.06 ID:VUBCzY0JO


提督「榛名、今後の事でお前には話しておきたい。私の代わりに別の中将が来る事になっている。横須賀に戻ったらお前達はその中将の指示に従ってくれ」

榛名「提督がこのまま指揮を執り続けるという選択肢は無いのですか?」

提督「無い。私は瑞鶴と共に消えることになるだろう」

金剛「…………」

提督「すまないな、金剛」

金剛「いえ、何となく分かっていました。ですが、こうなるのでしたら私……」

提督「やはりそうだったか……」

金剛「やっぱり提督は気付いていましたか」

提督「何となく、だがな」

金剛「ねえ、提督」

提督「何だ?」

金剛「運命っていうのは酷くて残酷で、それでいて時には縋りたくなる本当に嫌な物ですね」

提督「全くだ」

金剛「私もすぐに後を追います。瑞鶴と一緒に待っていて下さいね」

提督「本来ならば後を追うなと言うべきなのだがな……約束だ」

金剛「よかった……」

提督「二人とも、よりにもよってこんな話で悪かったな。戻ってくれ……しかし」

榛名「他の皆さんには言わないっということで宜しいでしょうか?」

提督「ああ」

榛名「分かりました。では、失礼します……金剛お姉様、参りましょう」

金剛「グッバイ提督。また来るネ」

パタン

504:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:38:36.47 ID:VUBCzY0JO


榛名「金剛お姉様……」

金剛「シー」キョロキョロ

金剛「うん、大丈夫ネ。何デスか榛名?」

榛名「一体榛名達は誰の為に戦っているのでしょうか?」

金剛「難しい話デスね……これはヒトそれぞれだと思いマス」

榛名「それは榛名も分かっています。今までは榛名にも戦う理由はありました。ですが榛名の戦う理由を全て喪う事になりました……」

金剛「それは、私と提督デスか?」

榛名「はい。提督にならば榛名は命を預けても良いと思っておりました。提督は榛名達艦娘の事を兵器としてでは無く、一人の兵士として扱ってくれました。しかし、無理矢理榛名の大切な人達を奪って行った、榛名達を兵器やそれ以下の存在として扱う人間は……私には許せません」

金剛「それだけデスか?」

榛名「後は……榛名は前の戦いで生き残りました。金剛お姉様や比叡お姉様、そして霧島を護れませんでした……だから、だからこそこの新しい生を受けた時は、お姉様達を榛名が護ろう、お姉様達を榛名より先に逝かせ無いと榛名は榛名に誓いました。なのに……蓋を開けてみれば、前と全く同じ事になってしまいました!! 榛名が運命を、因果を変える事が出来なかった!!」

金剛「サンキュー榛名。榛名は優しいデスね……だけど、榛名の話を聞いて一つ分かったコトがありマス。榛名が私達を助けようとしてくれたのと同じヨウに、私は妹達のワガママを全て受け止めてあげようと思ってまシタ」

榛名「え?」

金剛「比叡と霧島は私が不甲斐なかった所為で命を落としてしまいまシタ。榛名には、私の轟沈で辛い思いをさせてしまったネ。デスが、榛名は私に護って貰う存在では無く私を護る存在で在ろうとしてマス。つまりこれは、お互いのエゴのぶつかり合いネ。榛名を護りたい私、私を護りたい榛名。恐らく比叡も霧島も優しいですから同じヨウなエゴを持っていたでショウ。デスが、お互いこれでは意地の張り合いになってしまいマス。だから、榛名……」

榛名「はい」

金剛「これから榛名は榛名の為に生きて下サイ。思い上がりかもしれまセンが、私が沈んだら悲しんでくれると思いマス。だけど、それを負い目に思わないで下サイ。そうしてくれるダケでも私は幸せデス」

505:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:39:11.74 ID:VUBCzY0JO


榛名「お姉様……」

金剛「OK 榛名?」

榛名「……はい」

金剛「Yes それで良いネ」ナデナデ

榛名「お姉様……」

金剛「もしも提督がいなくなった世界が最低で最悪でどうしようもない世界ならば榛名は好きにすれば良いネ。その時に榛名が戦う意味を決めれば良いのデスよ」

榛名「はい……お姉様……」

金剛「榛名は泣き虫ネ」ナデナデ

榛名「榛名は……泣き虫です……」

金剛「強くなって下さいネ、榛名」ナデナデ

榛名「はい……!」

金剛「その言葉が聞けて安心しまシタ。では、そろそろ行きまショウ」ポンポン

榛名「はい!」

………………………………。

506:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:39:50.08 ID:VUBCzY0JO


磯風「雪風は?」

浜風「さっき一人で埠頭に居ました。多分夕方まで帰って来ないでしょう」

浦風「うん。でも万が一があるから早目に話そうのぉ」

磯風「そうだな」

浜風「雪風の精神状態が危険だという事はなんと無く分かって居ましたが、こんな会議を開くなんて一体何があったのですか?」

浦風「あんじゃね、この前の戦いで翔鶴さんが亡くなった時に雪風が、こがぁな事を言ぅとったんで」

浦風「『ただ、私は”兵器”に近付いただけですよ』って」

浜風「それは一体……」

浦風「雪風は心を手離しかけておる」

浜風「しかし、それは無理……いや、雪風だからこそですか……」

浦風「そうじゃのぉ。雪風はあまりにもえっとの人の命を目の前でのぉなってきた。特に初風や時津風はかなりキツかったゆぅて思う。辛い思いをするくらいなら何も感じん方がええ、雪風は多分そう思うとるはずじゃ」

磯風「だが、雪風は心を手離しきれていない。亡くなる寸前の翔鶴さんに向かって労りの言葉をかけていた」

浜風「まだ完全には壊れていないという事ですか?」

磯風「多分だが……」

浦風「じゃが、人の死に目を見てもいっこも動揺をせんどころか、『死』に対して恐怖感の様なマイナスの感情は完全に抜け落ちとる。多分雪風自身の『死』すらも抵抗なく受け入れとるじゃろうね」

浜風「死を恐れない兵士……確かに兵器と何ら変わりはありませんね」

浦風「じゃが、それがええわけが無い。せめて雪風にゃぁ……」

コンコン

507:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:40:27.42 ID:VUBCzY0JO


磯風「だ、誰だ!?」

雪風「私です。戻りました」

磯風「ゆ、雪風か。入っていいぞ」

ガチャ

浦風「早かったのぉ。どこ行っとったん?」

雪風「訓練の後は少し散歩してました」

浜風「そうですか……」

雪風「はい」

全員「…………」

磯風「そうだ、今から夕飯を作ろうと思うのだが、雪風も食べるか?」

雪風「いえ、いいです」

磯風「そうか……」

雪風「私は寝ますが、好きにしてて下さい」

磯風「あ、あぁ……」

雪風「では」バサッ

浜風「雪風に迷惑になります。外に出ましょう」

浦風「そうじゃね」

パタン

508:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:41:05.20 ID:VUBCzY0JO


浜風「驚きましたね……夕方までは帰って来ないと思ってたのですが……」

浦風「もしかすると聞かれたかもしれんのぉ」

磯風「あまりこの話題をしない方が良さそうだな」

浦風「なら、一つだけ聞いて欲しぃんじゃ。もうわしらが沈む訳にゃぁいかん。沈んだらまた雪風を追い詰めることになるから。こればっかしゃぁ約束」スッ

磯風「ああ」スッ

浜風「はい」スッ

浦風「指切りげんまん。嘘ついたら……ついたら?」

磯風「そうだな……」

浜風「磯風の手料理を一週間食べ続けるというのは?」

磯風「ん? どうして私なんだ?」

浦風「浜風、見た目以上にエゲツないのぉ。採用じゃ。指切りげんまん。嘘ついたら磯風の手料理喰わす、指切った」

磯風「何故……」

浜風「これで絶対に死ぬわけには行かなくなりましたね」

浦風「そうじゃな」

浜風「では、夕食を作りますか」

浦風「ウチに任しとき」

浜風「雪風にも後で持って行ってあげましょう。雪風、最近まともに食べてないように思えるので」

浦風「うん」

磯風「解せぬ……」

………………………………。

509:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:42:53.16 ID:VUBCzY0JO


乗組員「中将!!」バタン

提督「どうした」

瑞鶴「わっ!? どうしたのよそんなに慌てて!」

乗組員「今闇夜に紛れてレイテ島へ深海棲艦が上陸したとの情報が入りました! その後すぐに打電をしたのですが、レイテ島守備隊との通信が繋がらなくなりました!!」

提督「通信機器をやられたか、又は全滅したか……どちらにせよ無駄な犠牲者を出してしまった事が悔やまれるな」

乗組員「あれ程中将が陸軍に撤退要請を出されたのに、それを黙殺した陸軍上層部が悪いのでは」

提督「そうなんだが、残念だ」

乗組員「中将、如何なさいますか!?」

提督「すぐに全員を集めてくれ。すぐに行動に移る」

乗組員「了解しました! 失礼します!」

提督「遂にこの時が来てしまったか……瑞鶴、前に話した作戦を開始するぞ」

瑞鶴「うん…………」

提督「すまない……」

瑞鶴「ううん、提督さんの所為じゃないもん。それに、提督さんと一緒だから、私、怖くないよ」

提督「瑞鶴……」

瑞鶴「行こ、提督さん。みんなを待たせちゃう」

…………。

510:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:44:32.68 ID:VUBCzY0JO


提督「大淀、これで全員だな?」

瑞鶴「はい! 間違いありません!!」

提督「時間が無い為要点のみを伝える。先程レイテ島に深海棲艦が上陸し、陸軍の守備隊からの連絡が途絶えた。そして近辺には多くの敵艦艇が待ち構えている事が予想される」

提督「そして、少し前より日本の基地に対して航空機による攻撃を受けており、友軍の基地航空隊はほぼ壊滅している。援護は望めないだろう」

提督「そこで我らはレイテ島の奪還作戦……捷一号作戦を発動することをここに宣言する。本作戦には日本海軍の保有戦力のほぼ全てを投入する。また、敵からも大規模な反撃が予想される。恐らくここにいる全員が無事に顔を合わせることは無いだろう。それだけは覚悟して欲しい」

長門「艦娘として生を受けた時より覚悟は出来ておる。そんな事よりも編成を発表してくれないか? もう出来ているのだろう?」

提督「分かった。編成を発表する」

511:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:45:22.68 ID:VUBCzY0JO


提督「これより出撃する艦娘について発表する。参加人数が多い為一気に読み上げるが、後ほど掲示板にリストを貼っておく。では、読み上げるぞ」

提督「第一遊撃部隊第一部隊。戦艦 大和、武蔵、長門。重巡洋艦 高雄、愛宕、摩耶、鳥海、妙高、羽黒軽巡洋艦 能代駆逐艦 長波、早霜、朝霜、島風」

提督「第一遊撃部隊第二部隊。戦艦 金剛、榛名。重巡洋艦 利根、筑摩。軽巡洋艦 鈴谷、熊野、矢矧。 駆逐艦 雪風、浜風、浦風、磯風、野分、清霜」

提督「第一遊撃部隊第三部隊。戦艦 扶桑、山城。軽巡洋艦 最上。駆逐艦 満潮、朝雲、山雲、時雨。随行油槽船として、八紘丸 萬栄丸 御室山丸 日栄丸 雄鳳丸 厳島丸 日邦丸 良栄丸も艦隊に加える」

提督「第二遊撃部隊。重巡洋艦 青葉、那智、足柄。軽巡洋艦 鬼怒、阿武隈。駆逐艦 曙、潮、霞、不知火、初春、若葉、初霜」

提督「機動部隊本隊。航空母艦 瑞鶴、瑞鳳、千歳、千代田。航空戦艦 伊勢、日向。軽巡洋艦 多摩、五十鈴、大淀。駆逐艦 秋月。そして私が乗り込む朝霧だ」

ザワザワザワザワ

提督「何か質問は…………ありそうだな」

千代田「提督! 一体この編成はどういう事ですか!? それにどうして提督まで!」

提督「順番に答えよう。編成については、この編成こそ最も適切だと私が判断した。次に私が出る理由だが、私が何時までも引っ込んでいたらお前達の士気が下がるのは目に見えている。だからこそ大将自ら出張って来たという訳だ」

千代田「それ嘘だよね! ねえ、千歳お姉もそう思うよね!?」

千歳「提督……それは本当なのですか?」

提督「ああ、勿論だ。嘘偽りなど全く無い」

千歳「そうですか……ならば私は提督を信じましょう」

千代田「千歳お姉!!」

金剛「提督はこんな事で嘘をつきまセン! 私達が提督の事を信頼出来なくてどうするのデース!」

榛名「はい。榛名も同感です」

千代田「うぅ……」

提督「納得出来たな? では、他にはいるか?」

熊野「では、私からも……先にお詫び申し上げますわ。失礼な事を言わせて頂きます。今回提督も出撃されるとの事ですが、万が一、億が一にお亡くなりになったらどうするのか教えて頂けないでしょうか?」

鈴谷「ちょ、くま」

提督「有事の際には後継者を決めている。私が死んだとしても指揮系統の壊滅的混乱には陥らない筈だ」

熊野「そうですか。この様な質問をしてしまい申し訳ありませんでした」

提督「謝る必要はない。他の者も気になっていた事だろう。他にはあるか?」

不知火「司令、発言して宜しいでしょうか?」

提督「勿論だ」

不知火「其々の艦隊の動きや作戦の概要について何も話されて無い様ですが、それについてご教授願いたく存じます」

提督「この場で話すと混乱を招く恐れがある。その為、其々の艦隊から数人を呼び出し作戦内容などを話す」

不知火「混乱ですか?」

提督「ああ。間違いなく起きるだろう」

不知火「…………そうですか、分かりました。ありがとうございます」

提督「では、解散してくれ。夜が明けたらすぐに出港する」

全員「了解!!」

512:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:46:05.97 ID:VUBCzY0JO


乗組員「お待ち下さい!!」バタンッ

提督「…………」

瑞鶴「えっと……朝霧の……」

乗組員「たった今横須賀に残した元副長から緊急の連絡が入りました!!」

提督「時間が無いと言った筈だ。その報告は後ほど別の部屋で聞こう」

乗組員「いいえ! 駄目です!! 横須賀鎮守府に大将が乗り込んで来ました!」

提督「何だと……!?」

乗組員「横須賀に着任する筈であった中将は謎の死を遂げております。そして、何より……」

乗組員「今横須賀鎮守府に残っている艦娘が暴力と性欲の捌け口にされているとの事です!!」

提督「っ!!?」

摩耶「おいっ!! 一体どういう事だ!! 提督!! 答えろよ提督!!」

鳥海「摩耶姉さん! 提督がその様な事を仕組む筈がありません! 落ち着ついて下さい!」

摩耶「クソったれが……!」

乗組員「中将、今すぐ横須賀へ戻って下さい!! このままでは鎮守府も艦娘達も壊されてしまいます!!」

提督「だが……私が戻ってしまっては…………艦娘達が……」

金剛「提督、戻るべきです」

提督「金剛!?」

金剛「提督はあの事で艦娘が壊される事を恐れていますね? だから今まで逆らう事が出来なかった。ですが、もしもこのままレイテに突入して私達も提督も死んだとしても生き残った艦娘は皆壊されてしまいます。それも、もっと酷い形でです。提督はどちらを選びたいのですか?」

提督「…………俺は……」

瑞鶴「提督さん……私には金剛が何を言っているのかが分からない。だけど私、提督さんが何を選んでも絶対に着いて行くから……提督さんがやりたいと思う事を選んで」

金剛「瑞鶴の言う通りネ。私も提督の決断に私の人生を委ねマス。他のみんなはどうですか? 提督に着いていけないと思う人はいマスか?」

全員「…………」

金剛「反対者はいないデスね」

榛名「榛名達は皆、提督が私達の為に頑張って下さっていた事を知っています。そして感謝をしています。ですから、一度くらい提督も、提督自身がやりたい事を仰って下さい。絶対に提督に着いて行きます!」

513:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:46:52.39 ID:VUBCzY0JO


提督「…………この決断により、私達全員は國を棄て、敵に回す事になるやもしれない」

金剛「そんな事はNo problemデス!」

提督「深海棲艦では無く、多くの人間、艦娘を殺める事になるやもしれない。いや、殺める事になる」

榛名「それでも榛名は大丈夫です!」

提督「ここにいる皆が壊され、そして殺されるかもしれない」

瑞鶴「提督さんと一緒なら、瑞鶴はそれでもいいよ」

提督「それでもいいのか? 全員、それでも私に着いて来てくれるというのか!?」

全員「はい!」

提督「愚か者……私もお前達も皆愚か者だ……」

瑞鶴「うん! だって、ここに居る全員は提督さんの為に闘っているんだもん!」

提督「ありがとう、瑞鶴……みんな」

瑞鶴「今度は私達が提督さんに恩を返す番だよ」

提督「先に出した命令は全て破棄! これより我等は日本本土へ攻撃を行う!! 全艦娘、乗組員は朝霧に乗り込め!」

全員「はい!!」

提督「目標、日本本土! 全艦隊出撃!!」

……………………。

514:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/08/29(土) 22:47:48.98 ID:VUBCzY0JO


朝霧

提督「大本営に打電をするんだ。内容は、『我、レイテニムケ出撃セリ』だ」

乗組員「了解!」

提督「これで奴等は私がレイテに向かったと考えるだろう」

乗組員「恐らくは。中将、横須賀に残った者に連絡はしますか?」

提督「大本営に知らせていない緊急用の回線があったな」

乗組員「はい」

提督「私達が横須賀に攻撃をする寸前に艦娘を別の場所に誘導し保護させる様に伝えてくれ」

乗組員「実行はかなり難しいかと思いますが」

提督「無茶を承知で言っている。だが、それでももしかしたら成功するかもしれない。何もせずに座して待っていれば横須賀に残る艦娘の未来はない。しかし、動きさえすれば何かが起きるやもしれない」

乗組員「そうですね。了解しました! 横須賀に伝えます」

提督「頼むぞ」

乗組員「はい!」

提督「出港後、各艦隊の旗艦となる予定の艦娘と朝霧のメインクルー全員で作戦を立てる。艦娘の方には私から招集をかける。お前に朝霧関係の方は任せる」

乗組員「了解です! 失礼します!」ガチャッ バタン

…………。

517:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/30(日) 09:54:52.66 ID:JsigSvqSO


乙です
だけど>>511
最上、鈴熊「あれ?いつの間に重巡から軽巡になったんだ?」


518:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2015/08/30(日) 10:10:36.87 ID:ECKIHlY/o


>>517
最上型は軽巡だから!!(半ギレ


520:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/14(月) 08:34:29.71 ID:S5m4sFzd0


>>517
最上型については、重巡と言っても問題ないのですが、>>518さんがおっしゃる様に一応書類上は軽巡なのです。

本当に細やかな拘りですので、あまり気にしないで下さい。
(題材が史実重視だったので、あえて『軽巡』と表現しました)


521:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/14(月) 22:32:51.82 ID:r+6fJpuSO


大本営

コンコン コンコン

元帥「入れ」

構成員「元帥様!! 緊急の御報告です!」

元帥「ふむ、内容は?」

構成員「佐世保に引き続き、呉、舞鶴との連絡が途絶えました!!」

元帥「佐世保のそれは通信機器の故障だと報告されたはずだが」

構成員「はい。ですが、呉、舞鶴も同時期に故障を起こすとなると話は変わって参ります!」

元帥「そうだな……確認の為に何人か私の側近を派遣しよう」

構成員「ありがとうございます!」

元帥「横須賀に漸く送り込む事が出来た大将には連絡をしたか?」

構成員「いえ、先ずは元帥様にお伝えすべきだと判断した為、まだ連絡はしておりません!」

元帥「そうか。ならば直ぐに伝えなさい。大将が上手くやればあと少しでこの計画も完了するだろう。ここで失敗があってはならない」

構成員「はっ! 了解致しました!!」

元帥「うむ……ん?」

構成員「如何なさいましたか?」

元帥「何やら、エンジン音が……」

構成員「エンジン音ですか?」

元帥「段々大きく……」

522:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/14(月) 22:33:30.77 ID:r+6fJpuSO


ズドーン!!

元帥「なんだ!!? なんの音だ!!? 一体何が!!?」

バタンッ!

少尉「元帥!! 逃げて下さい!!」

元帥「何が起きている!!?」

少尉「爆撃です!! 通信基地がやられました! そしてこの大本営に向かって多数の爆撃機が押し寄せて来ています!!」

元帥「何故だ!!? 深海棲艦は艦娘がいない陸地を攻撃しないのでは無いのか!?」

少尉「そうではありません!! 日帝の彗星です!」

元帥「何だと!!? 所属は!!? 」

少尉「不明です! 元帥、このままでは!」

元帥「逃げるぞ! この國を潰すまでは死ぬ訳にいかない!!」

少尉「はい! 絶対に我々が死ぬ訳には……」

ヒューン

元帥「何だ……この笛の様な音は……」

少尉「はっ!? 元帥、逃げて下」

ズドーン!!

523:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/14(月) 22:34:21.97 ID:r+6fJpuSO


横須賀

瑞鶴「爆撃隊より連絡。大本営の破壊完了。全壊との事です!」

瑞鳳「同じく艦戦対より連絡。大本営の人間はほぼ全員爆撃と機銃掃射で排除完了したとの事です!」

提督「了解。すまないな、この様な事をさせてしまって」

瑞鶴「大丈夫よ」

提督「……機は熟した。全艦娘、全隊員、配置についたな?」

大和「はい」

乗組員「はい!」

摩耶「横須賀の包囲はすぐに完了させてやるよ!」

矢矧「大丈夫よ」

磯風「ああ、いつでも行けるぞ」

提督「内部にいる友軍に作戦開始を伝えろ」

乗組員「完了しました!」

提督「現時刻を持って作戦を開始する。横須賀砲撃部隊、砲撃開始!! 同時に外部工作部隊は鎮守府の防壁や敵の逃走ルートを破壊! 私や矢矧率いる鎮守府襲撃部隊の突入のフォローと敵の逃走妨害を行え!」

大和「全艦、三式弾装填! 味方の逃走ルートには絶対に砲撃しないように厳命致します!」

武蔵「それ如き、この武蔵にとって容易いものだ」

金剛「やっと、私も誰かを救う事が出来るのですね……」

榛名「金剛お姉様、如何なさいましたか?」

金剛「何でも無いデスよ」

長門「大和、三式弾の装填が完了した。いつでも行けるぞ」

大和「提督、宜しいですか?」

提督「ああ」

大和「全艦、砲撃開始!! 薙ぎ払え!!」

ズドーン!!

524:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/14(月) 22:35:03.41 ID:r+6fJpuSO


磯風「始まったな。扉と壁を爆破する」

浦風「まさかウチが鎮守府をめぐ立場になるなんて思うてもいなかったんじゃ」

浜風「同感です」

浦風「雪風は?」

雪風「そうですね」

磯風「火薬の設置を完了した。いくぞ」

浜風「爆破します!」

ズドーン!

浦風「おお!」

磯風「司令、矢矧、大穴が開いた。突入してくれ」

提督「ああ。摩耶」

摩耶「言わなくても分かってる。包囲を開始するぜ!」

提督「頼むぞ」

摩耶「摩耶様に任せろ!」

提督「襲撃部隊全員に告ぐ。打ち合わせ通り、行動は二人一組で必ず行え。もしも片方が戦闘不能となった場合は別の班と合流し退却だ。絶対にこれだけは守るんだ」

全員「了解!」

提督「襲撃部隊突入せよ!」

…………。

528:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/25(金) 23:32:49.84 ID:5Q4Qfz5n0


少尉「全艦娘の収容が完了しました。部屋を厳重にロックしている為反乱可能な者は皆無であります」

大将「うむ。御苦労」

少尉「いえ。以上で報告を終わります」

大将「ん?」

少尉「今の音は……?」

大将「聞こえたか?」

少尉「はい」

ズバンッ!

大将「何だ!?」

少尉「大将! 通信基地が!!」

大将「何だと!? 一体!!」

ズバンッ! ズバンッ! ズバンッ! ズドーン!

少尉「っ!? これは三式弾による砲撃です!!」

大将「誰だ!? 誰がこんな!」

少尉「大将、ここは危険です!! 今すぐ地下へ退避して下さい!! さあ!」

大将「くそっ!! 何故私が!!」

少尉「私が先行しま」

ズバン!! ガッシャーン!

大将「ぐあっ!!」バタン

大将「このままでは殺される……少尉、早く行くぞ!! おい少尉!」グイッ

少尉「」

大将「うっ!?」ビクッ

大将「こ、この私がこんな所で死んでたまるか!!」ガチャ

大将「!!?」

529:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/25(金) 23:34:02.66 ID:4W7lAZJhO


部下「たす、けて……はら、がいたい……だれ、か……」

部下「がぁぁぉぁぁぁぁぁ!!」

部下「祖国に帰りたい……こんな小日本なんかで死にたくない……!!」

部下「嫌だ!! 嫌だ!! 死にたくない!! どうして猿どもよりも先に俺らが死なないといけないんだ!!」

部下「おい! 死ぬなよ!! おい!!」

部下「さ、きに……い……」

部下「おい!! おい!! 何でだよ!! 約束しただろ! 一緒にこの国を潰すって!! おい!! 」ブンブン

大将「…………」

部下「大将……逃げ、て下……」

ズダダダダダダ

乗組員「こちら赤小隊! 最上階の要制圧区域に到着!」

乗組員「生き残りがいるぞ!! こっちだ!!」

乗組員「識別は?」

乗組員「指定箇所にマーキング無し。的です!」

乗組員「排除だ。殺せ」

乗組員「了解」

部下「嫌だ……殺さないで……」

部下「俺を見逃せばお前達の為に働」

乗組員「黙れ、この『非国民共』め!!」

ズダダ ズダダ ズダダダダ

部下「」

部下「」

乗組員「確認」

乗組員「…………」スッ

乗組員「瞳孔の収束及び脈の動作無し。敵兵の死亡を確認」

乗組員「了解。内部に潜伏していた仲間の情報によるとここの近くに大将が居る筈だ。見つけ次第捕獲し中将に連絡を」

ズドン

乗組員「!?」パッ

乗組員「おい、どうした!?」

乗組員「」

乗組員「!!?」

ズドン

乗組員「」パタン

大将「あいつがやったのか……あいつが!!」

大将「フハハハハハハハハ」

大将「ならば……あのゴミ虫の大切なモノを殺してやろう……」スタスタスタスタ

530:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/25(金) 23:35:05.77 ID:4W7lAZJhO


乗組員「中将、赤小隊との連絡が途絶えました!」

提督「敵も反撃に回り始めたか」

乗組員「いかがなさいますか?」

提督「そうだな……内部に居た艦娘と友軍の退避の状況は?」

乗組員「もう既に全員指定のポイントに退去しております」

提督「陸上から鎮守府を包囲している艦娘達に合流する様に指示を」

乗組員「了解!」

提督「矢矧。お前達は二階の残党を狩れ。殺生は判断に任せるが、確実に全員戦闘能力を奪え」

矢矧「了解!」

提督「私と朝霧乗組員は分散して一階と三階を抑える。一階は残党狩りである為三分の一の戦力とする」

乗組員「了解! では、私が指揮を」

提督「頼む。私は赤小隊との連絡が途絶えた三階攻略の指揮を執る。ついて来い!」

…………。

531:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/09/25(金) 23:36:59.20 ID:4W7lAZJhO


提督「…………」スッ

乗組員「…………」コクリ

カチャッ キー

提督「っ!」バッ

提督「…………クリア」

提督「どういう事だ……?」

乗組員「中将。こちらも全て確認しましたが、敵の確認出来ずです」

提督「そっちは?」

乗組員「赤小隊の亡骸と敵の死骸以外誰一人として確認出来ませんでした」

乗組員「大将は……もう既に逃走した……?」

提督「いや、これを見てくれ」

乗組員「煙草の消しカスですか?」

提督「そうだ。まだ熱を持っている。ここは元々私が使っていた部屋だ。今は奴がここを使っていると考えるのが自然だろう」

乗組員「ならばまだこの鎮守府内にいる可能性が高いですね」

提督「ああ。そういう事だ」

乗組員「一階の班から連絡。一階にも敵はいないとの事です」

提督「あとは……二階か」

乗組員「中将! 二階の艦娘より連絡! 敵を捜索していた二名の艦娘が消息が不明になったとの事です!!」

提督「今すぐ二階へ向かう。三階には警備の為に四人残し、それ以外は二階へ向かえ!」

乗組員「了解!」

…………。

536:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/10(土) 23:04:04.10 ID:RMkoCh74O


矢矧「提督!」

提督「矢矧、概要は聞いたが一体何があった?」

矢矧「申し訳ありません……私の失態で……」

提督「今はお前の責任を追求している暇は無い。何があったのかだけを伝えろ」

矢矧「はい……提督が3階に攻め込んだのと同時刻にで2階に攻め込みました。2階に居た敵はほぼ皆無だった為、比較的短時間で大体の制圧が完了しました」

提督「残りの区画を制圧している間に事が起きたのだな?」

矢矧「はい。これまで通り、2階の踊り場に筑摩と利根を残し、その他の人員で各部屋の確認をしていました。途中二手に別れ、部屋の数が多い左側の区画には私と能代、多摩、鬼怒、阿武隈、五十鈴で確認に回り、数部屋しかない右側に鈴谷と熊野を向かわせました。ですが……」

提督「姿を消したのだな」

矢矧「本当に申し訳ありません」

提督「今は気にするなと言った筈だ。それよりも、右側の区画はどうなっている?」

矢矧「提督の判断を仰いだ方が良いと判断し、部屋の前に五十鈴と鬼怒、阿武隈を配置しています」

提督「分かった。ならば私の手勢で突入する。三人は退かせてくれ」

矢矧「了解」

提督「私がドアを開けて部屋の左側を警戒する。お前は前方と右側を頼む」

乗組員「了解!」

提督「いくぞ……GO!」

ガチャ バタンッ

537:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/10(土) 23:04:50.65 ID:RMkoCh74O


鈴谷「」

提督「!!?」

乗組員「前方及び右側敵影無し! 中将?」パッ

乗組員「なっ!!?」

提督「先ずは安全の確認からだ! 部屋を全て確認しろ! 彼女にはまだ息がある!」

乗組員「はっ!」

乗組員「敵影、トラップ共に確認出来ず!」

提督「こちらもその形跡は無い。クリアだ」

乗組員「直ぐに医療班に連絡を入れます!」

提督「頼む。急いでくれ」

乗組員「はっ!!」

鈴谷「」

提督「鈴谷。聞こえるか、鈴谷」

鈴谷「うぅ…………うぁぁ……」

提督「鈴谷、私の声は聞こえるか? 私が誰だか分かるか?」

鈴谷「ていと、あぁぁぁぁぁ!! 痛い! 痛いよ!! く、くま、熊野! 熊野が!!」

提督「動くな鈴谷!! 腹部に刺さったナイフが動く! 死ぬぞ!!」

鈴谷「でも!! でも!! く、熊野が死んじゃう!! あいつ、に連れて行かれ、た! こ殺されちゃう!!」

提督「私が殺させはしない。」

乗組員「医療班到着しました!!」

提督「鈴谷の治療は任せる。直ぐに手当をしてくれ」

乗組員「はっ!!」

提督「鈴谷、必ずお前は助かる。大丈夫だ、安心して待っていろ」

鈴谷「提督、お願い……熊野を、熊野を助けて……!!」

提督「ああ、約束だ。もしも果たせなければその時は私の命で償おう」

鈴谷「やくそ、く……だ、よ……」パタン

提督「約束だ」

提督「医療班はこの子を連れて行ってくれ。絶対に死なせてはならない」

乗組員「了解! 可能な限り動かすなよ! お前は上半身、お前が背中、俺が下半身を持ち上げて担架に乗せる。123で行くぞ! 1、2、3、ソレッ!!」

提督「……」

538:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/10(土) 23:05:22.09 ID:RMkoCh74O


提督「強襲部隊全員に告ぐ。これより2階の制圧地点をもう一度洗う。各階の要所に残した者以外は全員2階に来てくれ」

能代「あの、一つ宜しいでしょうか?」

提督「なんだ?」

能代「それは、私達の確認が甘いという事ですか?」

提督「いや、そうではない」

能代「では、何故でしょうか?」

提督「能代、お前は確実に敵を殲滅し制圧した場所をもう一度制圧に向かうか?」

能代「いえ、その様な事は致しません」

提督「何故だ?」

能代「それは……そこに敵がいる筈が無いからです」

提督「そうだな。では、能代。お前が敵に追われる立場に立ったとしたらお前は何処に逃げる?」

能代「それは、勿論外に……」

提督「多くの敵が待ち構えているとしてもか?」

能代「そうですね……すると…………あっ!」

提督「気付いたか」

能代「はい。敵が来る可能性が低く、来たとしてもさほど警戒していない可能性が高い場所……敵に制圧された地点ですね」

提督「そういう事だ。奴も馬鹿では無い。恐らくは2階の何処かの部屋に潜伏し、警戒が解けてから逃亡を図るだろう」

能代「そうですね。分かりました!」

提督「ならば行動に移れ」

能代「はい! 私達も行動に移ります」

…………。

539:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/10(土) 23:05:59.47 ID:RMkoCh74O


提督「GO!」

ガチャ バタンッ

乗組員「……ここにもいませんね」

提督「まだクリアリング出来ていない。気を緩めるな」

乗組員「すみません」

提督「右の壁沿いに部屋を回れ。上や床にも気を付けろ。それと、この部屋には小部屋がある。まだ開けるなよ」

乗組員「了解」

提督「なんだ……この臭いは…………血か……?」

乗組員「中将。この大部屋には誰もいません」

提督「その様だな」

乗組員「では、小部屋への扉を開けます。カバーをお願いします」

提督「ああ」

カチャッ バタンッ

乗組員「……」バッ

提督(血の臭いが強くなった……!?」

乗組員「パーテーションの奥をを確認して来ます」スタスタ

提督「待て!」

ズドンッ!

乗組員「グアッ!!?」バタン

542:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/14(水) 23:44:02.29 ID:srRT4ZuTO


提督「少尉!!」

大将「残念だよ。邪魔者が現れてしまって」

提督「貴様……!!」

乗組員「」

大将「折角の愉しみを邪魔しに来るとは何たる無礼。この罪は大きいぞ」

提督「愉しみだと?」

大将「もうこのパーテーションは必要ないな」バタン

熊野「……!」

提督「熊野……!」

熊野「んんー!! んんんー!! んー!!」ジタバタ

大将「手足を縛られていて身動きも取れずに隠す所も隠せない。好いている男に自分がこの様な一糸纏わぬ淫らな姿を曝け出す事しか出来ぬ絶望。ふはは、何たる愉悦! そうだ、その泣き顔を私にもっと見せるのだ!」

熊野「んんんー!! んん!」ポロポロ

大将「素晴らしい、その羞恥と悲痛に歪む顔が実に素晴らしい」

提督「貴様! 何をするつもりだ! 何故脱がす必要があった!」

大将「当たり前の事を聞くで無い。この小娘を犯す為に決まっているではないか」

提督「下衆が……!」

熊野「ん……んん……」ポロポロ

大将「小娘よ、本番はお預けだ。それまでは私の指の感触を味わうがいい」ズブッ グチュッ

熊野「んんんー!! んんんー!!」ジタバタ

提督「貴様ぁ!!」チャッ

大将「おっと、撃つなよ。私の手元を見ろ。撃った時にはこの小娘の頸動脈は真っ二つだ」

熊野「んんっ!! んんん!」ピタッ

提督「くっ……」

543:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/14(水) 23:45:07.92 ID:srRT4ZuTO


大将「一応聞いておこう。何故この様な事をした。この小娘共に情でも湧いたか? 己の命が惜しくなったか?」

提督「貴様の事は調べさせて貰った」

大将「ほう」

提督「この国が大東亜戦争に敗れ、満州や朝鮮を始めとしたかつての領土からは大量の日本人が引き返して来た」

提督「だが、それら中には数多の日本人以外の者が混じっていたと言う。そして原爆や本土への無差別爆撃によって多くの民間人が犠牲になっていた当時ならば戸籍を欺く事も可能だった」

提督「敗戦から1年もしない間に帝國海軍は再軍備する事になった。米国側資本主義とソ連側共産主義の対立によって日本は共産主義の脅威に晒される事となった」

提督「米国は自国を護る為に日本を共産主義の防波堤に仕立て上げたかったのだろう。米国は日本の再軍備化の為に莫大な資金を提供し、日本は軍隊や完全に壊滅させられた重工業の復活を遂げることが出来た」

提督「だが、軍隊や政府の要職に就く人間は大幅な変更を余儀なくされた。米国としては、再軍備化が整えた途端復讐心で歯向かわれるのは避けねばならなかった。まあこれは仕方ない事だったのだろう」

提督「その為、米国主導により選抜が行われた。米国に従順であり、能力的にも遜色無い人物。その選抜で選ばれた人物には元軍人等はいたが、何故か一般人が多く選ばれた。それも、軍隊経験が皆無な人物ばかりだ」

提督「まず間違いなく、その大半は引き上げ時に紛れ込んだ他国のスパイだったのだろう。その元一般人は凄まじい勢いで出世して行き、また元軍人等はほぼ全員が公職を追放されたり謎の死を遂げたりした」

提督「佐世保や呉、舞鶴を制圧してお前達の経歴等を洗わせて貰った。お前達が其々の鎮守府に着任する度に一般人が側近として雇われた。そしてその一般人はすぐに出世する。逆らう者は全員死んだ」

提督「本来ならば私の後釜としてここにいる筈だった中将も殺され、私も弱みを握られて殺されかけた。貴様等はこの国をどうするつもりだ? 我が物として乗取りたいのか、それとも祖国とやらの領土にしたいのか?」

大将「そこまで調べていたか。ならば分かっているだろう。私を殺したところで大本営には私の同胞がいくらでも……」

提督「大本営は既に壊滅した。皆殺しだ」

大将「なっ!?」

提督「もう既に大本営に対して空襲を行った。日本を破滅させようとする害虫の巣窟は真っ先に潰さねばならない拠点であったからな」

大将「まさか私への復讐よりも優先していたとはな……ふ、ふふふ……」

提督「貴様もここで死ぬがいい」

大将「死ぬのは貴様だ! 銃を床に置け。さもなくばこの小娘を殺すぞ!」

提督「…………」ジャキッ

544:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/14(水) 23:45:51.93 ID:srRT4ZuTO


大将「このナイフが見えていないのか!」

提督「私はこの手であまりにも多くの艦娘の命を奪ってしまった。一人余分に命を奪う事になったとしても何ら変わりは無い」

大将「嘘を言うな! 先程は動きを止めたではないか!」

提督「貴様には念の為に確認を取らねばならなかったからな。貴様等の野望や行動理念について等だ」

提督「熊野、私がお前の命を奪う事を許してくれ」

熊野「んん……」コクン

提督「お前を一人では逝かせない。私もすぐに後を追う」チャッ

大将「少しでも動いてみろ! 指一本動いたしゅ」

ズドン! カランカラン

大将「なぜ……きさ、ま…………が……」

バタン

提督「良くやってくれたな。助かった」

乗組員「いえ、中将があいつの注意を引いてくれていたお陰で気付かれずに撃つことが出来ました」

提督「被弾した部分は大丈夫か?」

乗組員「何とか防弾チョッキで防ぐ事が出来ました。まあ、若干骨が逝ったかもしれませんがね」

提督「戻ったらすぐに医療班に診てもらってくれ」トン

乗組員「痛たいですよ。了解です」

提督「一応奴の生死の確認を……」スッ

提督「確実に死んでるな。終わったな」

545:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/14(水) 23:46:28.39 ID:srRT4ZuTO


熊野「んん! んんんー!!」

提督「分かっている。恥ずかしいかも知れないが脚と腕の縄を斬る。後ろを向いてくれ」

熊野「んん……」クルッ
乗組員「よろしければ私は出ていましょうか?」

提督「ああ。そうしてくれ」

乗組員「では、失礼します」

提督「絶対に動くなよ」ザク ザク

提督「よし、斬れたぞ。その猿ぐつわも外した」

熊野「ゲホッ……提督…………」ポロポロ

提督「私の軍服で申し訳ないがこれを着なさい」パサッ

熊野「ありがとうございます……」

提督「こんなに殴られて……辛かっただろう」

熊野「身体の傷は大丈夫ですわ……ただ…………男性器は挿れられなかったとはいえ……私は穢されて……うっ……」

提督「……慰めにはならないかも知れないが、熊野は穢されてなどいない。少なくとも私はそう思っているよ」

熊野「なら……なら、私を抱いては頂けませんか? 提督に抱いて頂ければ悪夢のようなアレも上書き……いえ忘れる事が出来ると思うのですわ」

提督「それは出来ない。私には瑞鶴がいる。ここでそれを許してしまったら私は瑞鶴を裏切る事になってしまう」

熊野「じょ、冗談ですわ。今のは聞かなかった事に……」

瑞鶴「良いよ提督さん。熊野を抱いてあげて」

提督「瑞鶴!? 何故ここに」

瑞鶴「最後の攻撃隊の回収が完了したからよ。それよりも、熊野の願いを叶えてあげて」

提督「本当にいいのか?」

瑞鶴「もちろん今回に限ってだからね! 浮気は許さないから!」

提督「分かった……ありがとうと言うのも変だが、ありがとう瑞鶴」

瑞鶴「うん」

546:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/14(水) 23:52:35.99 ID:srRT4ZuTO


提督「熊野はそれでいいか? 私にとって熊野は大切な部下であり、間違いなく好意は抱いている。だが、私にとっての一番は瑞鶴だ。それだけはあらかじめ言わせて確認しておきたい」

熊野「ええ、大丈夫ですわ。まあ、悔しいと言えば悔しいですわ。だけど、私の初めては穢らわしい男ではなく、命を救ってくれた人になります。それだけで私は救われますわ。ただ……」

提督「何だ?」

熊野「私と交わる時だけで良いので……その時だけは私の事だけを考えて愛して下さいな」

提督「約束しよう」

熊野「ありがとうございます。では、私は0時を回ったら提督の元に参ります。それでよろしいですわね?」

提督「ああ」

瑞鶴「自分から言っといてあれだけど、何か複雑な気分……」

提督「必ず穴埋めをするから、今日だけは耐えてくれ」

瑞鶴「うん。楽しみにしてるね」

提督「過度な期待はするなよ?」

瑞鶴「はいはい」

提督「では、二人ともとりあえず外に出よう」

瑞鶴「うん!」

熊野「了解ですわ」

………………………………。

548:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/15(木) 00:12:05.92 ID:ohMtxAJjO


一つ言い忘れていました。
今回大将などは日本人ではなく、別の国からのスパイと設定していますが、決して何処か特定の国を想定している訳ではありません。

架空戦記に近いものにはなってしまいますが、あくまでも「もしかしたらこのような事が起きたかもしれない」という内容を世界観に盛り込んでいます。

繰り返しますが、何処か特定の国や人種が憎しで書いているわけではありません。それだけはご了承下さい


551:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/20(火) 17:58:50.79 ID:n7IQ9D/rO


翌日

提督「さて……」

熊野「…………」スウスウ

コンコン

提督「誰だ。まだ就寝時間の筈だが」

瑞鶴「私よ」

提督「熊野が寝ている。起こすのは可哀想だ。私がそっちに行こう」

瑞鶴「うん」

カチャッ

提督「どうしたんだ? こんな時間に」

瑞鶴「私も行くよ」

提督「何の話だ?」

瑞鶴「惚けても無駄よ。提督さん、誰も起きて来ない内にクーデターの責任を取りに行くつもりだったんでしょ?」

提督「……………………」

瑞鶴「やっぱりね」

提督「そんな素振りを見せた覚えも話した覚えも無いが何故分かった?」

瑞鶴「提督さんの事だもん。私には手に取るように分かるよ」

提督「……流石だな、瑞鶴」

瑞鶴「どういたしまして。でも、私以外にもう一人いるわよ」

提督「……全く、私は部下に恵まれ過ぎている様だな」

552:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/20(火) 17:59:41.15 ID:n7IQ9D/rO


乗組員「中将、何も言わないなんて水臭いではありませんか。私もお供します」

提督「……撃たれた箇所は大丈夫なのか?」

乗組員「ええ。あんなのは鳩に豆鉄砲ですよ」

提督「その用法は間違っているぞ」

乗組員「……冗談です。話を戻しますが、私も中将のお供をさせて下さい」

提督「駄目だ」

乗組員「何故ですか!?」

提督「私がここから去ってしまったら誰がこの鎮守府の指揮を執る?」

乗組員「それは……ブルネイの提督等が……」

提督「あの方は確かに向こう側の人間ではない。それに加え信用も置ける。だが、一つ忘れていないか?」

乗組員「分かりません。何をでしょうか?」

提督「ブルネイは前線基地だ。ブルネイに限らずラバウル、タウイタウイ、マカオ、ビルマ、トラック等生き残っている、又は壊滅してしまったものの再建せねばならない泊地や基地は沢山ある。その様な重要な拠点から優秀な人材を引き抜いてはならぬ」

乗組員「……ですが、しかし……」

提督「せめて今度こそは、私自身の手で全面的に信用出来る者にこの鎮守府を委ねたい」

乗組員「中将……」

提督「必ずお前達は私が護り抜いてみせる。それ位の事をしてみせないと、愚かな私所為で犠牲となったみんなに顔向けすら出来ない」

乗組員「私ではその様な大任を全う出来るとは思えません」

提督「お前なら出来る。私が能力の無い者を私の片腕として扱う筈が無いだろう。こんな滅茶苦茶な状態で受け渡すのは本当に悪いが、私の願いを聞き入れてくれないか?」

乗組員「…………分かりました。中将の意思は私が受継ぎましょう」

提督「ありがとう」

乗組員「もう二度とあの様な歴史の繰り返しはさせません。必ず私が平和な海を艦娘や貴方の仲間達と共に取り戻します」

提督「頼む。だがその言葉で己を『呪う』なよ」

乗組員「はっ!」

提督「では、私は行くよ。また廻り逢う時を楽しみにしている」ビシッ

乗組員「はっ! 中将! 今まで本当に……本当にありがとうございました!!」ビシッ

提督「ああ。後は頼んだ」ポン

提督「瑞鶴、行こう」

瑞鶴「うん」

………………………………

……………

……

553:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/20(火) 18:01:34.12 ID:n7IQ9D/rO


提督さん

なんだ?

私達、これからも生きる事が出来るのかな?

難しいだろうな。何せ私一人でクーデターの責任を負うのだからな。瑞鶴は生きたいのか?

ううん、提督さんと一緒ならどっちでもいい

そうか

ねぇ、提督さん。もしもだよ? もしも私達が生き残る事が出来たらさ……

ん?

ううん。やっぱりなんでも無い

そうか?

あ、でももう一つ言いたい事があったよ

これからは何があってもずっと、ず〜っと瑞鶴と提督さんは一緒だからね!

554:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/20(火) 18:02:04.78 ID:n7IQ9D/rO


数ヶ月後

大和「提督からの伝言です! 皆さん聞いてください」

武蔵「これより鎮守府の総力を挙げて破壊され尽くされた戦線と艦隊を整える事となった」

摩耶「やっと上のゴタゴタが収まったのかい?」

長門「ああ、漸くな。長かった」

鈴谷「鈴谷は病院暮らしの所為であっという間だったよ〜」

熊野「鈴谷の背中の傷が治って本当に良かったですわ」

鈴谷「まあね〜」

武蔵「私語は慎め」

鈴谷「ちえっ、は〜い」

大和「艦隊編成の辞令等は後ほど追って知らせます。ですが、長い間本国の外にいた艦娘が一人戻って来ました。雪風」

雪風「はい」

大和「正式な辞令はまた後ほどになりますが、先に通達します。陽炎型駆逐艦八番艦雪風、貴方は本日付けで第十八駆逐隊から除籍とします」

浜風「!?」

雪風「はい」

大和「その代わり、貴女には第十七駆逐隊に所属して貰います……いえ、復帰と言った方が良いかもしれませんね……さあ、入って来て下さい」

カチャッ

雪風「あ……」

555:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/20(火) 18:02:41.43 ID:n7IQ9D/rO


天津風「皆さんお久しぶりです。陽炎型駆逐艦九番艦天津風、帰還しました」

武蔵「天津風は今朝方シンガポールより帰投した。配属先は第十七駆逐隊となる。雪風、頼んだぞ」

雪風「…………」

スタスタスタスタ

天津風「雪風」

雪風「あまつ……風」

天津風「やっとこの言葉が言えるわね。ずっと言いたかったわ」

雪風「…………」

天津風「ただいま、雪風!!」

雪風「おかえりなさい、天津風」

556:ずいずい ◆9eWjFae4dI2015/10/20(火) 18:03:13.07 ID:n7IQ9D/rO
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